【医療業界動向コラム】第7回 医師の働き方改革に向けた準備状況から見えること
2022.08.23
令和6年度からの医師の時間外労働上限規制、いわゆる働き方改革。その施行に向けた準備状況の調査報告が社会保障審議会医療部会にて6月と8月に公表されている。
医師の働き方改革について改めて整理すると、時間外労働の上限規制は、「年960時間以内」(A水準)を原則とするが、医師の診療業務の特殊性を踏まえ、「年1,860時間」まで上限を緩和する特例水準が設けられている。年1860時間を時間外労働上限とするB水準、他の医療機関への派遣機能を担う医療機関で派遣先での労働時間も通算しての年1860時間を時間外労働上限とする連携B水準、臨床研修病院などで研修医を対象にした年1860時間を時間外労働上限とするC水準、この3つが特例水準と呼ばれるもの。なお、これからの特例水準に該当する医療機関に所属する医師全員が時間外労働上限が引き上げられるわけではなく、指定される事由となった業務の医師のみが対象となる。そして、これら特例水準の適用を受けるには都道府県の指定が必要になる。指定を申請する医療機関は「医師労働時間短縮計画」を作成し、その内容について「医療機関勤務環境評価センター」(日本医師会)の第三者評価を受審。それらを判断材料に都道府県が指定を行うのだが、その指定を受けるためには、「令和5年度中」に「令和6度以降」の「医師労働時間短縮計画」を作成し、医療機関勤務環境評価センターの審査を受けなければならない。すなわち、これまでの実績を来年度中に審査を受けるために勤務状況の把握と改善などの計画を早く作らなければならないこととなっている(図1)。
そうした状況で注目されているのが「宿日直許可基準の取得」だ(図2)。
医局派遣や副業など、常勤している医療機関以外での勤務をしている医師は多いが、今後は派遣先や副業先での勤務時間も含めた勤務時間の管理が医療機関では必要となる。特に、医師の派遣機能を担う特定機能病院や地域医療支援病院など、いわゆる連携B水準に該当するであろう医療機関では大きな問題になる。そこで、派遣先等で「宿日直許可基準」が取得されていれば、時間外労働時間の問題をクリアしやすくる。しかしながら、その「宿日直許可基準」の取得が低迷している。
その理由は様々あるが、よく指摘されているのが、許可基準が統一されていない点。例えば、同じ2次救急病院でも取得している病院と取得できない病院があるなどよく聞く話だ。そこで、令和4年4月には申請に当たってのWEB相談窓口が厚生労働省に開設されたところだ。そして、申請にあたってのFAQなども適宜更新されている(直近では令和4年7月29日)。
また、8月17日に開催された社会保障審議会医療部会では、大学病院における準備状況について調査した結果が公表され、副業・兼業先も含めて勤務実態を把握している、と回答した病院が9割を超えていることが確認されている(図3)。勤務医個人の意識の変化も当然ながら、経営者による働きかけや周知も大きく貢献してのことだといえる。
感染拡大で医療機関にも大きな負担が押し寄せている中にあっても、期日が決められている働き方改革に向けた取組は急を要する重要なもの。医師などの人材も含めた限られた地域医療の貴重な資源を有効に活用するためにも、改めて必要な取り組みを確認し、対応をしていくことが望まれる。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員