【介護業界動向コラム】第3回 VUCAの時代の介護経営(3) 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について②「既存顧客に新たなサービスを提供するには」
2022.09.26
介護報酬改定や介護保険制度改定のみならず、様々な経営環境が目まぐるしく変化する中で、介護事業者にとっても次の打ち手を模索されているところかと思います。
前回の記事では以下の図を元にして、新たなサービスを展開していく際の視点をお示しした所です。(図01)今回は、以下の事例のうち(A)について取り上げ内容を確認していきたいと思います。
既存利用者 | 新規利用者 | |
新規サービス | (A)既存顧客に新たなサービス | (B)新規顧客に新規サービス |
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既存サービス | (C)既存顧客に既存サービス(維持) | (D)既存サービスを新規顧客 |
(A)既存顧客に新たなサービスを提供する事例
既存顧客の定義を「介護保険サービスの利用者」とした場合に以下のような分類ができます
①介護(保険) |
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②医療(保険) |
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③保険外 |
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医療系サービスは増加傾向、中重度対応が焦点
既存顧客に新たな介護サービスを提供するのが最もポピュラーなモデルであり、現在も主流ではあります。しかし、いずれの介護保険サービスも経営環境上、有利な状況とは言えないことから、近年では②医療系サービスを付加していくタイプや、③保険外サービスを付加していくタイプが増加傾向にあります。
中でも多いのが医療系サービスとして訪問看護を新たに開設されるケースです。また事業承継等や新設によりクリニックをグループ化していく事業者も徐々に現れ始めており、法人やグループに一定数の利用者数がおり、資金力がある事業者にとっては有効な展開であると言えるでしょう。
特徴的な事例としては、既存の介護サービスと合わせ「ナーシングホーム型住宅(住宅系サービス+訪問介護+訪問看護)」等により、看取りや医療必要度の高い利用者の受入サービスへ展開していく例が挙げられ、近年急速な勢いで増加傾向にあります。
保険外サービスはコスト計算と値決めがキモ
一方の保険外サービスについては、様々なサービスが展開されているものの、保険外単体での収益化に苦慮されているケースが見られます。主因は事業実施にあたっての追加コスト(特に人的リソース)と収入(利用単価の設定)のバランスが取れていないことにあるようです。この点は、投下コスト計算や「適正な値決め(安くし過ぎない)」をして、検証をした上で展開していくことが重要です。
特徴的な事例としては、自費リハビリ等が挙げられます。医療保険でのリハビリが算定日数上限を超え、通所リハビリや通所介護の機能訓練・リハビリだけでは回復が見込めない利用者に向けて、理学療法士等による毎日3-4時間の保険外のリハビリサービスを提供するモデルです。
こうした既存顧客に新たなサービスを提供するモデルの最大のメリットは既に利用者との信頼関係が構築され、新たな営業コスト(マーケティングや周知活動)が発生しない面です。比較的リスクの低い事業拡大と言えるかも知れません。次回は、(B)新規顧客へ新規サービスを展開するモデルを確認していきます。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。