【小濱道博の介護戦略塾】介護保険部会意見の検証その2【第1回】財務諸表の公表の義務化で考えられる影響
【第1回】財務諸表の公表の義務化で考えられる影響
2024年度から、介護事業においても財務諸表の公表が義務化されます。介護サービス事業者にも財務状況を公表させる方向は、すでに骨太の方針2022や財務省の財制度分科会においても示されていました。今後は、社会福祉法人と同様に、情報提供のための全国的な財務諸表等電子開示システムが整備され、データベースが整備されるでしょう。これまで厚生労働省は、介護事業所の決算データ収集については、3年毎に実施される経営実態調査の中で行ってきました。しかし、一部の事業所へのサンプル調査であるため、介護業界全体の財務状況を的確に示しているとは言いがたいのが現実です。介護職員の処遇改善加算等の検証も同様です。介護事業者の財務データをデータベース化することで、介護報酬改定や処遇改善の実施に於いてのエビデンスが高まり、より的確な政策をとることが出来ます。
介護事業者は、決算が終了すると、財務諸表等の経営に係る情報を定期的に都道府県知事に届け出ることとなります。この公表については、介護事業者が提出した個別の事業所情報を公表するのではなく、属性等に応じてグルーピングした分析結果を公表するとされました。このため、一部で懸念されています、自事業所の経営状態や役員報酬の金額などが利用者・家族に把握されてしまうという懸念は杞憂です。
この時、提出する財務諸表データは、単に税務署に提出した決算書そのものでは無いと思われます。介護保険の運営規程に於いては、複数の拠点や併設サービスがある場合、拠点毎、サービス毎の損益計算書を、「会計の区分」に従って個別に作成して提出しなければならないとされています。「会計の区分」とは、厚生省令37号などの解釈通知に規定された運営基準の一つです。同一法人で複数のサービス拠点を運営している場合は、その拠点毎に会計を分けなければなりません。これを会計用語では「本支店会計」と言います。同一の拠点で複数のサービスを営んでいる場合は、それぞれを分けて会計処理を行います。これを「部門別会計」と言います。会計を分けるとは、少なくても損益計算書をそれぞれの拠点毎、介護サービス毎に別々に作成するということです。このとき、収入だけではなく、給与や電気代、ガソリン代などすべての経費を分けなければなりません。税務署に提出する決算書には求められていない作業が必要となります。この作業は運営基準での規定であるため、すべての介護事業所において、毎期継続して実施している必要があります。厚生労働省の側から見ると、当初からの制度上の義務化であるため、負担増にはならないとの判断です。しかし、現実には実施している事業者は少なく、特に小規模法人での事務負担の増加が懸念されます。
では、この財務情報の公表の目的はというと、介護サービス事業者の経営状況を適正に把握したうえで、国民に対して介護が置かれている現状・実態の理解の促進。経営状況の実態を踏まえた上での政策の検討。物価上昇や災害、新興感染症等への的確な支援策の検討。実態を踏まえた介護従事者等の処遇の適正化に向けた検討。介護事業実態調査の補完資料などが上げられています。また、介護事業者も、マクロデータを自事業所の経営指標と比較することで、経営課題の分析にも活用できるとされました。介護事業経営の指標は、3年に一度実施される経営実態調査結果が最も充実しています。しかし、この数値は、介護報酬改定前の数値であるため、改定後の経営状態の把握のための指標が存在しないという状況が続いていました。もちろん民間ベースの経営指標はありますが、事業規模別のデータまでは補完されていなません。そのため、過年度との比較分析は可能ですが、同業他社との規模別比較や項目別に渡る詳細な経営分析が難しい状況が続いていました。公表される情報は、M&A等の実務に於いても重要な評価指標となる期待があります。
小濱 道博氏
小濱介護経営事務所 代表
株式会社ベストワン 取締役
一般社団法人医療介護経営研究会(C-SR) 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
日本全国でBCP、LIFE、実地指導対策などの介護経営コンサルティングを手がける。
介護事業経営セミナーの講師実績は、北海道から沖縄まで全国で年間250件以上。
全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター、一般企業等の主催講演会での講師実績は多数。
介護経営の支援実績は全国に多数。