【介護業界動向コラム】第6 回 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について④ 「新規顧客に新たなサービスを提供する(3) 事業の転換」
これまで、介護事業者の新規事業展開の類型として3つの領域(障害、医療、隣接領域)に区分し、近年の展開事例を紹介してきました。
ただ、一方で事業拡大をするには一定の投資が必要であり、特に設備投資を要するものに関しては建築費単価が高騰傾向にある中、なかなか決断に踏み切れないとお考えの事業者様も多いのではないでしょうか。このような中で、一体どのような決断をしていく必要があるのか?を今回は考えていきたいと思います。
プロダクトライフサイクルと介護事業
マーケティングの用語で「プロダクトライフサイクル」という考え方があります。元々は製品が市場に投入されてから、寿命を終え衰退するまでのサイクルを体系づけたものですが、この考え方は以下のように現在の介護事業の市場構造にも一部当てはめることが出来るものと考えられます。(図01)
厳密に市場の〇〇%を超えた場合に、〇〇期の象限に入るというようなルールがある訳ではありませんが、以下のような概念図として捉えてみる事ができるでしょう。
ここで特に注目したいのは、「成熟期」~「衰退期」にある事業です。この象限に入ると、サービス自体は市場に遍く広がり、「需要≦供給」という状況になります。すると、一般的には売上や利益が減少し、代替サービスが登場したり、消費者の「選ぶ目」が厳しくなるなどの変化が起こるとされます。
これにより、サービス事業所間での競争激化と差別化の必要性、またその結果、集約と統廃合が促進され、市場撤退を余儀なくされる事業者も出てきます。実際にこの象限に入っている事業については、例年の市場動向の中で廃止・休止、あるいは倒産というような状況に至っているケースが目立つようになってきました。
さて、問題は「衰退期」の象限に入ったサービスについてはどのような対応が考えられるか、という点です。
衰退期の市場における専門性と事業転換
衰退期の象限に入った製品の取る方向性として一般的には、1)撤退 2)新たな事業への投資 3)製品の再定義等が設定されます。
1)撤退については、事業規模の縮小や事業の休止・廃止などが想定されますが、職員の雇用や既存の利用者がいる中では段階的に進めていく必要がある内容です。例えば通所介護などでは、定員数の縮小や実施日数の縮小、時間の縮小等も一つの選択肢ともなります。(局所的な撤退)
2)については、これまでも取り上げてきたところなので詳細は割愛します。その中で、3)事業の再定義については、特に考えるべきポイントであると言えます。
3)事業の再定義とは、例えばいわゆるレスパイト型の通所介護として展開してきた事業者が、機能訓練強化、自立支援強化などに転換することであったり、訪問介護事業者が定期巡回型随時対応型訪問介護事業者に転換していく事などが想定されます。改めて市場で求められているサービス形態に業態をアップデート(転換)していくという考え方です。既存の市場ニーズについては飽和していたとしても、市場で求められているニーズ、業態に転換することで、「新たなプロダクトライフサイクル」の導入期に再配置していく・・・このような発想が必要なのかもしれません。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
- 介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
- 東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。