【名南経営の人事労務コラム】第16回 副業・兼業の注意点

2023.02.22

 本業を持ちながら他社での就労等によって収入を得る兼業や副業は、近年その運用がクローズアップされ、大企業を中心に活用を促進していこうという機運が高まっています。実際、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2022年10月に実施した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」においては、常時労働者数5000人以上の企業において実に83.9%が副業や兼業を認めており、厚生労働省からも「副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定)」が公表されるなど、ますますその活用が進められようとしていますので、この流れに乗って前向きに検討しようかと考えている施設も少なくないのではないかと思います。その検討を裏付けるかの如く、先述した経団連の調査結果においては人材確保面において効果が高いとされておりますので(※)、慢性的に人材不足に悩む医療福祉業界においては、期待を寄せるものではありますが、実務運用については様々な注意が必要となります。

 まず第一に、労働時間管理の問題です。労働基準法第38条第1項においては「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しておりますので、兼業者や副業者に対しての割増賃金の問題や過重労働の問題が必然的に発生します。むろん、それらは従業員からの申告によって管理等をすることになりますが、事務管理は増えることになる上、申告内容が事実であるのか否かという問題も発生しますので、管理する側としては面倒な業務が増えることになります。

 また、守秘義務問題の懸念もあるでしょう。特に医療福祉業界に従事する方は、他の産業で仕事を掛け持ちするよりも同業同職種で働く傾向がありますので、患者や利用者の情報が漏えいしやすい状況にはなります。もちろん、圧倒的に多くの職員は高い倫理観を持って働いていますので、そうした心配は無用かもしれませんが、患者や利用者が利用先を変えるというケースはゼロではないかと思います。更には、守秘義務問題は、患者や利用者の情報よりも経営や業務ノウハウにも目を光らせる必要があり、兼業者が「別の勤務先では○○といった仕事のやり方をしていて効率的であるため同様の方法を採り入れてはどうか」といった提案をすることによって業務ノウハウが流用されるというケースもあるようです。

そして、処遇面や働きやすさという点で人材が流出するといった懸念も看過できない問題として対策が必要です。例えば、主で勤務している勤務先よりも兼業先の方が賃金水準が高く、人間関係が良好であったり残業が少ない等といった働きやすさがあれば、兼業先を主たる勤務先へと変えるというケースが発生する可能性があり、この点は多くの経営者が器具するところではないかと思います。中には、主たる勤務先で働いている他の従業員に対しても「あちらの施設の方が働きやすいからあなたもどうか」と勧誘するケースも想定され、人材流出が相次ぐことによって体制面が整わなくなってしまうということも考えられます。

 もっとも、この点は逆の発想もでき、他の施設で主として働いている従業員を積極的に兼業先として受け入れ、他の施設よりも処遇がよかったり、働きやすさが整っていれば、人材確保の苦労が緩和されるということがありますので、働きやすさ等についてアップデートを重ねていくことも検討してもよいかもしれません。

出典/一般社団法人日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケート調査結果」)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/090.pdf

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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