【介護業界動向コラム】第6回 VUCAの時代の介護経営 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について⑥「M&Aが介護業界にもたらすもの(1)」

2023.01.30

  2020年代に入ってから、加速度的に介護業界のM&Aが増加してきていますが、これらのM&Aの潮流は介護業界にどのような変革をもたらしていくのでしょうか?今回からは、M&Aという視点から業界再編の流れを追っていきたいと思います。

 介護業界でのM&Aや事業譲渡というと、特に記憶に鮮明なのは、2007年のコムスン社の分割譲渡、また2015年のSOMPOケア社による、メッセージ社、ワタミの介護社のM&A等が挙げられる方も少なくないと思います。業界のトップランクの上場企業が関わった事象であった事から報道でも大きく取り上げられ事も影響し、広く知られている事例ではありますが、それぞれM&Aに至る特殊な経緯もあった事から、2020年代に増加しつつあるM&Aについて、状況を整理していきたいと思います。

何を目的としたM&Aなのか?(買い手側のロジック)

  M&Aの形式をとっての事業拡大には様々な特徴がありますが、特に大きなメリットとしては、新たに同事業をイチから創造するのに比べ、投資回収の財務的・時間的・人的コストを圧縮出来る可能性が高いことが挙げられます。

  近年、隆盛しているM&Aも同様の効果を狙ったものと推察されますが、戦略については異なった側面もあります。

 以下はアンゾフの成長マトリクスというチャートですが、M&Aの目的を整理する上でも有用です。(縦軸)サービスの種別と(横軸)対象利用者の軸を掛け合わせ、それぞれの箇所に該当する戦略が例示されています。

図01アンゾフの成長マトリクス 

 若干、乱暴ではありますがM&Aの戦略は大別すると上記の4つに整理することが出来るでしょう。例えば以下のような形です。

(A)多角化戦略:居宅サービス→施設、障害等へ

(B)新製品開発:他業種→介護等へ

(C)新市場開拓:介護→他業種、隣接領域

(D)市場浸透 :施設→施設、居住系拡大

市場浸透戦略と多角化戦略としてのM&A

 2020年代に増加傾向にあるM&Aの戦略も上記の4つの種別に分けて理解してみると、以下の2つが特徴的であるように思います。

①大手企業を中心とした(D)「市場浸透戦略」型のM&A

②中小事業者を中心とした(A)「多角化戦略」型のM&A

 ①の市場浸透戦略については、特に大手企業を中心として不動産を媒介とした居住系サービス(有老ホーム、グループホーム等)を中心としたケースが目立ちます。一定の形式(規模、構造、人員配置、サービス内容等)を揃える事が出来ること、居宅サービスと比較してビジネスモデルとして安定していること等から「効率化された運営/品質の標準化」が進めやすいことも背景に挙げられるでしょう。一定の資本と、運営における確立されたモデルを有している事が重要と見られます。

 一方②多角化戦略については、中小の事業者を中心に、介護事業者が医療系サービスや障害福祉サービスに展開したり、居宅系事業者が居住系サービスに展開するなど事業のポートフォリオを拡大するようなケースとして見られます。こちらは、「地域密着型」の戦略として、幅広く地域の需要を押さえる視点から展開されているケースが多いように見えます。

 さて、今回は「買い手側」の戦略・ロジックとしてM&Aの状況を概観してきましたが、それでは「売り手側」にとってのM&Aの価値・戦略・ロジックとは何なのでしょうか?

 「売り手側にとっての戦略的M&A」について次回以降、内容を見ていきたいと思います。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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