【介護業界動向コラム】第7回 VUCAの時代の介護経営 介護事業者の事業拡大の近年の潮流について⑦「M&Aが介護業界にもたらすもの(2)」
2023.02.27
介護業界におけるM&Aという視点から業界再編の流れを追っています。大きく分けると、M&Aには譲渡側と譲受側の2者がいますが、今回は、「M&Aの譲渡側(売り手側)」の立場から見た価値や戦略、ロジック等を見ていきたいと思います。今回は譲渡側にとっての「目的」を見ていきたいと思います。
譲渡の目的は大きく分けると3種類ある。
M&Aというと、企業自体の合併や吸収をイメージされがちですが、広義には企業内の一部事業のみを切り離し企業体は存続する「分割譲渡」といった形や、企業体や事業自体は存続しつつ「資本提携」という形で統合していくようなものも含まれます。こうしたM&Aのスキーム(枠組み)は、多岐に渡っており本論には直接影響しないため詳説はしませんが、M&Aの目的により様々な方法論があるという事をご理解いただければと思います。
さて、では、本論に戻り「譲渡側(売り手側)にとってのM&Aの目的」にはどのようなものがあるかを見ていきましょう。主には以下の3種があるとされます。
①事業を承継するため
②事業の再生や救済(持続)のため
③投資を回収するため
譲渡側経営者の平均年齢は60歳以上が70%
まずは「事業の承継」から見てますと、これは例えば経営を引き継ぐ後継者がいないケース等がこれに該当します。経営者の高齢化や急な不在(例えば急逝したなど)の理由により、事業の舵取りをしていく人物が不在となり、その際に従業員の雇用を守ったり、あるいは利用者のサービス提供を継続するために新たなオーナーに経営を引き継ぐようなケースです。
介護保険サービスの事業者は、2000年以降に急増していますが、仮にその当時に事業を開設していたとすると23年が経過しています。総務省の小規模企業白書によると起業する平均年齢は2000年当時46.2歳(男性)、40.0歳(女性)とされていますので、単純計算でその当時起業された方は、63~70歳に差し掛かっているものと推察されます。経営者としてはまだまだ現役とも考えられますが、次の世代にバトンを渡していくタイミングとも言え、実際にM&Aの譲渡側の経営者の年齢は60歳以上というケースが70%を占めています。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2017年調査より)介護サービスにも該当してくる傾向と言え、これからケースが更に増えてくる可能性が高いと言えます。
再生・救済型も増加しつつあるが、成長「事業」なのかがキーポイント
次に、「②事業の再生や救済」という目的ですが、言葉を変えるならば「不採算事業の整理」とも言い換えられます。業績不振に陥った中で、企業の全体あるいは不採算になっている事業のみを切り出して事業の存続を図るものです。他企業のノウハウや運営方法を適用したり、他企業が有する経営視点とのシナジーを活かせば事業が継続できるといったケースで適用されます。ただしこうしたパターンが成立し易いのは、当たり前ではありますが「譲受側(買い手側)企業」にとっても、成長が見込めるビジネスです。経営状況の悪化理由が運営手法によるもの以外にも、環境要因(介護であればサービスの飽和や介護報酬上の評価)に起因する事も少なくありませんので、実態としては買い手が見つかりにくい事業形態があるのも事実です。
また③投資を回収するためといった目的は、介護業界では比較的当てはまりにくいケースではありますが、例えばアメリカのテクノロジー型のベンチャー企業でよくある様に、起業した事業を売却し、その売却利益で次の事業に投資していくといったようなケースが該当します。事業そのものの継続というよりも投資回収や、売却益等 財務面にフォーカスした目的であるとも言えるでしょう。介護の業界ですと、この目的単独で行われるケースは稀で、上記②の再生/救済目的と複合的であるケースが多く、建物等を伴う投資をした事業について、早期の回収を図る目的から実施されるようなケースが見られるようです。
以上、譲渡側にとってのM&Aの目的を見てきました。次回は、M&Aにより実際に現場レベルではどのような変化があるのか?を見ていきたいと思います。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。