【医療業界動向コラム】第33回 第8次医療計画策定に向けた世論調査より 地域住民の保健医療に関する問題意識はどこに?

2023.02.28

令和6年度は診療報酬・介護報酬・福祉サービス報酬のトリプル改定であると共に、医療計画が第8次として新たに始まる。医療計画は6年が一つの周期になっているが、この6年間で新型コロナ感染拡大による医療提供体制の課題が明らかになったり、地域医療構想の推進による医療機関の統廃合や役割分担が急速に進んだ。そのため、令和6年から始まる医療計画は、これまでとは異なり、新たに新興感染症対策を加え、また2030年にも発生すると言われる心不全パンデミックへの備えとしての循環器病対策の視点を、また個別化医療や緩和ケア医療などがん医療の質の向上をキーワードに大きな見直しが図られ、各都道府県でこれから計画策定に向けた取り組みが始まる。

令和4年9月の1か月間にわたって、東京都の保健医療に関する意識調査が行われ、このほどその調査結果が取りまとめられた。医療計画の策定に向けた世論調査だ。4,000人に対してのアプローチで、有効回答数は1,846という結果。興味深く見た回答結果を確認してみよう。

  • 医療機関の情報収集について

 医療に関する情報の入手について、テレビがやはり多い(図1、2)。

図1:医療情報の入手先
図2:世代別に医療情報の入手先に関する回答者の傾向

ただ、よく見ると、前回調査よりもポイントは下がり、SNS・インターネットによる入手が増えているのが分かる。SNSについては、インターネットというよりも、家族・友人・知人からの情報に近しいと思うが、この2つを合わせると50%をやや上回る結果になる。また、薬局も選択肢にあり、10%程度だが選択されているところに注意したい。オンライン診療やリフィル処方箋など、患者が医療機関に足を運ぶ回数が減る世の中になっていくことを考えると、医療機関としては薬局との連携を通じた受診勧奨は重要だ。

欲しい医療情報についてでは「どこに・どのような医療機関があるか」という項目が2位となっている(図3)。

図3:欲しい医療情報の種類

実際にどうやって調べているかという項目を続けてみると、東京消防庁が最も多く、次いで医療情報ネットという結果になっている(図4)。

図4:医療機関に関する情報をどこから入手するか?

かかりつけ医となる医療機関を探す、という目的で調べることは少なく、危機的状況での対応策としての検索になるのはある意味当然ともいえるが、今後のことを考えると、かかりつけ医探しの必要性を喚起することも大事だと思う。何より、利用したことがあるものはない、という意見が多いことから、まだまだ広報・利用促進の余地はある。

  • かかりつけ医の有無

 実際にかかりつけ医がいる、という回答は前回調査と横ばいの状況。ただ、かかりつけ医というものをどう考えているかが課題だ。続いての項目ではかかりつけ医を選んだ理由に関する結果が掲載されているが、自宅から近い、というのが圧倒的に多い(図5)。

図5:受診先を選ぶ理由

かかりつけ医とは、住まいの近くの医療機関、という認識かもしれない。24時間対応や介護事業所との連携などをかかりつけ医機能としているが、地域住民にとってはそうしたことよりも身近である、ということの方が優先順位が高いとも考えられるが、身近だからこそ、すぐに対応してくれるという安心感もあるのだろう。今年は医療法改正でかかりつけ医機能の明確化と医療機能情報提供制度(医療情報ネット)を利用した周知について盛り込まれる見通しだが、地域住民にかかりつけ医機能について理解を深めていただき、選んでもらうことを考えると、身近な「行きつけ」の医療機関をHUBにして、近隣医療機関で24時間対応などの相互補完をしていくというのが現実的なようにも思える。開業医の負担軽減にもなる。

ホスピス・在宅緩和ケアに関する関心が下がっていることにも注目しておきたい(図6)。

図6:東京都民の感じる保健医療問題

在宅においては同居者への負担と遠慮もあるだろうし、急変時の対応の不安もあってのことだろうか。そう考えると、医療機関だけではなく、訪問看護・薬局のかかわりが在宅緩和ケアでは今後ますます重要になると思われる。今回の地域住民の声を踏まえて地域医療構想を考えると、退院後も病を持ちながらも安心して生活し続けることができる在宅/通院環境の整備を軸に地域医療構想を進めていく視点が重要になってくると言える。それは、在宅医療/外来だけの整備というわけではなく、地域包括ケア病床を有する医療機関との連携の深化ではないだろうか。

  • 末期心不全の緩和ケア

最後に、COPDと心不全の緩和ケアについての項目もあった。特に後者、緩和ケアといえばがんのイメージが強いが、2020年の世界保健機関の報告では、成人において緩和ケアを必要とする疾患別割合の第1位は循環器疾患であり、悪性新生物(がん)は第2位という結果であった。診療報酬でも緩和ケアの末期心不全が追加されたところ。東京都医療計画では、COPD及び心不全の緩和ケアに関する取組に注目が必要かもしれない。

今回の世論調査は東京都に関するもの。医療資源が充足している地域であるということを踏まえておく必要がある。今後、各地域で医療計画策定に向けた取組が行われるので、注視しておきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

連載記事に関連するコラム

資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら
検討に役立つ資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら