【医療業界動向コラム】第41回 医療DXを皮切りに、令和6年度診療報酬改定に向けた議論が始まる
2023.05.02
令和5年4月26日、中医協総会にて令和6年度診療報酬改定に向けた議論が始まった。今回のテーマは医療DX。この当日、国立社会保障・人口問題研究所より将来推計人口が公表され、これから50年間で3,000万人の人口が減ると試算された。
現政権による少子化対策が功を奏した、としても人口に影響を与えるには時間がかかる。効果が出るまでの間を、働き方改革で何とかつなぎとめると同時に、新たなビジネスチャンスを創出する、ということで様々な業界で取り組みが進んでいる。また、外国人の受入れを促進していくための施策も検討されているが、簡単な話ではないと個人的に思う。低賃金の上に円安の日本では、外国人労働者の手取りは目減りするように見えるし、近隣諸国や欧米などでも人口減少は進んでおり、同じように外国人労働者の受け入れなどに積極的で競争となってくる。果たして、今の状況のまま、しかも遅れ気味で挽回ができるか、相当な頑張りが政府と民間ともに必要だろう。
今回の中医協における医療DXに関する議論をはじめにもってきているのは、こうした労働力低下に伴う生産性向上に向けた課題に対する強い問題意識の表れだといえる。
医療DXについては、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテの推進、サイバーセキュリティ対策などこれまでの議論をまずは整理した上で、補助金・助成金と診療報酬をうまく組み合わせた推進策が今後練られていくことになる。特に電子カルテについては、医療上の情報共有をしていく上でも重要な役割を担うことから、医療情報化支援基金を用いた支援策など検討されていることが厚生労働省からも明らかにされているところ。また、医療DXの推進の一環として、診療報酬改定DXに関する議論も注目集めている。
〇診療報酬改定施行時期を後ろ倒しへ
かねてより、診療報酬改定の答申・告示から実際の施行開始までの期間が短すぎるなどの指摘はあった。そのために、システム改修の期間が短くなり、ベンダなどに大きな負担がかかっていた。そこで今回は、診療報酬改定の議論の流れやタイムラインはそのままに、改定後の施行時期を後ろ倒ししようという話になってきている(図1)。
ベンダにとっても、医療機関にとっても負担が軽減されると共に、新たな診療報酬への対応の時間的猶予ができるため、逸失利益を低減できる可能性がある。ただ一方で気になるのは、薬価改定との兼ね合いだ。現在薬価改定は毎年行われ、国の予算編成においても薬価が調整弁のように使われている。診療報酬改定時期の変更に合わせて薬価改定も後ろ倒しにすると、国としても期待してた予算や医療費抑制へのインパクトが薄れてしまう。医療機関では包括評価が拡充していることもあるので、診療報酬改定と一緒に実施するというのが自然なようにも考えられるが、薬局ではまた事情も異なってくる。なお、薬価改定を巡る議論ではクローバック制について検討されていることも合わせてお伝えしておきたい。クローバック制とは購買益が一定金額以上になった場合に薬剤費の一部を政府に強制的に返還するもの。海外などでは薬局との取引に限定して実施されているケースがあり、日本でも薬局との取引での導入可能性が検討されている。5月下旬あたりに大まかな方向性は出る予定だ。次回改定に向けては、薬価改定の動向も合わせてみておきたいところだ。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。