【医療業界動向コラム】第42回 同時改定に向けた意見交換会、ポリファーマシー対策と医療DX
2023.05.09
令和5年4月19日、来年度の診療報酬・介護報酬同時改定に向けた意見交換会の第2回目が開催された。今回のテーマは、高齢者施設・障害者施設等における医療と認知症について。なお、本意見交換会は全3回を予定。次回は5月に開催される。本稿では、高齢者施設・障害者施設等における医療の薬剤管理に焦点をあて、次回改定の方向性と医療DX推進との関連性について解説をする。
〇介護施設と医療機関の連携、薬剤管理の在り方が次回改定で注目される
新型コロナの5類移行に合わせて、新型コロナに感染した高齢患者の入院先については、急性期一般病棟から地域包括ケア病棟へと流れを変えようという方針だ。前回、そして今回の意見交換会においても、改めて高齢患者の入院先として地域に身近な地域包括ケア病棟を優先することが望ましいとされる考えが示されている。ここ最近の診療報酬改定を見ればわかるが、地域包括ケア病棟の評価については院内転棟割合に対する減算規定や二次救急対応や訪問看護の取組など急性期病棟よりも地域に接近した対応を求める内容となっている。次回改定は地域医療構想の仕上げとなる時期でもあり、地域包括ケア病棟のあり方についても仕上げを迎える時期になるのではないだろうか。
今回の意見交換会では高齢者施設等における医療、医療機関の連携も大きなテーマとなった。特に注目したいのが高齢者施設等におけるポリファーマシー対策についてだ。ポリファーマシーとは、多種類の医療用医薬品が処方されることに伴う副作用などの有害事象の発生や、服薬過誤などの問題を起こしやすくなること。注意しておきたいのは、何も多種類処方されることそのものに問題があるというわけではなく、2018年に公表されている「高齢者の医薬品適正使用の指針」を活用するなどして有害事象が起きないように適切な対応をすることにある。診療報酬ではこうしたポリファーマシー対策に関する薬局との連携や院内でのチーム医療などの評価がある(図1)。
また介護老人保健施設においては、令和3年度介護報酬改定でかかりつけ医と連携したポリファーマシー対策をすることで評価されている(図2)。
なお、意見交換会で公表された特別養護老人ホームでの調査によると、施設の看護職員が服薬支援に多くの時間を割いていることが分かっていることから、ポリファーマシーに関する対策は施設職員の負担軽減の観点からも重要だといえるだろう。
これまでの診療報酬改定でも入院中の処方内容の変更に関する情報連携や、調剤報酬改定における服薬フォローや薬局における持参薬確認などの、連携を軸にした薬剤管理に関する評価はあるが、次回は介護報酬との同時改定ということもあり、より地域に視野を広げた服薬管理・ポリファーマシー対策となる評価が新設されることになることが考えられる。以前お伝えしたように、地域全体で使用する地域フォーミュラリの策定・運用などもテーマに上がってくることが考えられる。今回の意見交換会では感染対策向上加算1を算定する医療機関とのカンファレンスに介護施設も参加することを検討することなどが挙げられている。フォーミュラリはDPC対象病院など比較的規模の大きな急性期病院を中心に導入が進んでいることから、地域フォーミュラリへの参画も含めて地域を挙げた薬剤管理への対応に注目が集まる。
〇電子処方箋と電子版お薬手帳の今後
本年1月から開始されている電子処方箋だが、出足は低調だ。しかしながら、処方段階や服薬指導時の多剤投与等の検知に大きな成果が出ていることが確認されている。また、来年度からの医療費適正化計画では、ポリファーマシー対策の一環としての電子処方箋の導入促進がうたわれていることから、診療報酬・調剤報酬上での評価が期待されるところだ。ポリファーマシー対策の実施や実績を要件に加算を設けるなど可能性としては十分考えられる。また、令和5年4月26日に開催された中医協総会での令和6年度診療報酬改定に向けた議論の中で、電子処方箋と合わせて電子版お薬手帳についても話合われている。多くの薬局で独自に提供されている電子版お薬手帳だが、マイナ保険証に紐づけられている処方の情報や医薬品の安全性情報へのアクセスできる仕組みなどを実装できるようにするための今後の計画など示されている(図3)。
次回改定からすぐに、ということは難しいだろうが、電子処方箋がある程度普及したところで、電子版お薬手帳に関する評価や電子処方箋やポリファーマシー対策関連項目での要件化の可能性は意識しておきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。