訪問看護のエンゼルケアとは?目的や手順、ケアにおいて大切にしたいことを解説

2023.05.18

訪問看護の業務において、エンゼルケアは切っても切れない業務といえます。ベテラン看護師の方も初めてのエンゼルケアは、緊張と不安でいっぱいだったのではないでしょうか。

故人をお見送りするために、エンゼルケアは最優先で取り組む必要があります。ここでは訪問看護のエンゼルケアの目的や方法、大切な考え方について解説します。

エンゼルケアとは?

エンゼルケアとは日本語に直すと死後処置のことで、利用者の死後に医療機器抜去後の手当てや保清、更衣、メイクを行って身だしなみを整えることです。

誰がエンゼルケアを担当するかは、ご家族の意向や利用者が亡くなった場所によって異なります。葬儀会社の職員や納棺師が行うこともありますが、病院や介護施設で亡くなった場合は、看護師が担当することが多いです。

なお、医療機関でエンゼルケアを行う場合の料金は、1万円~2万円が相場となっています。

エンゼルケアの目的

エンゼルケアを行う目的は、大きく分けて3つあります。

  • 故人の尊厳を守る
  • 感染を予防する
  • 家族の精神的ケアを行う

それぞれについて解説します。

故人の尊厳を守る

目的の一つにセルフケアを介助することが挙げられます。終末期においては、利用者の負担を軽減するために更衣を行わなかったり、入浴の代わりに清拭に切り替えたりする傾向にあります。そのため、十分な清潔保持を行うことができません。

利用者の死後、身体を清潔にして身だしなみを整えることで、生前と変わらずに最期まで故人の尊厳を守ることを目的としています。

感染を予防する

エンゼルケアは遺体を搬送する葬儀社の職員や、納棺後にともに過ごされるご家族への感染を防ぐ目的もあります。

遺体に触れる可能性がある葬儀社の方やご家族には、感染症に関する知識が備わっていない可能性が高いです。感染症に関する専門知識を備えた看護師がケアに関わることにより、感染リスクを軽減させることができます。

家族の精神的ケアを行う

長きにわたって闘病生活を続けられてきた利用者の方の場合、元気だった頃の面影が失われたことに、ご家族は深い悲しみを感じていると考えられます。

エンゼルケアは故人に対してだけでなく、遺されたご家族が死を受け入れて前向きに生活を再開できるようにサポートする役割があります。身だしなみを整えてお見送りをすることは、ご家族の精神的ケアにつながります。

ターミナルケアとの違い

エンゼルケアとターミナルケアの一番大きな違いは、終末期を迎えた利用者の緩和ケアと利用者が亡くなったあとのケアとの違いです。

ほかにはエンゼルケアが全額自己負担となるのに対し、ターミナルケアは保険請求が可能で加算対象となります。

加算対象となるには、以下の算定要件を満たす必要があります。

  • 24時間対応できる体制を整えていること
  • 利用者本人および家族の合意を得てターミナルケアを実施すること
  • ターミナルケアの提供について必要事項を記録すること
  • 死亡日、死亡日前14日以内に2日(特定の利用者は1日)以上ターミナルケアを行っていること

訪問看護のエンゼルケアとは?

ここからは、訪問看護が行うエンゼルケアについて解説します。エンゼルケアは亡くなった方を対象とするケアのため、医療保険や介護保険の対象外となり、全額自己負担となります。

ご家族に対し、エンゼルケアについて話を切り出すタイミングには注意が必要です。利用者の体調が著しく悪化した時などに話をするのが望ましいです。

利用者の生前に死後の話をするのは気が引けるかもしれませんが、料金やケア内容について、ご家族の要望を確認するのは非常に重要です。

訪問看護のエンゼルケアで行うこと

訪問看護のエンゼルケアでの手順について解説します。エンゼルケアを始める前に、ご家族に参加を希望されるか確認しておいてください。

  1. 感染予防のため、マスク・ガウン・手袋を装着する
  2. 歯ブラシやスポンジブラシ、ガーゼを使って口腔ケアを行う
  3. 全身清拭・陰部洗浄を行う
  4. 新しいオムツを着用していただく
  5. 汚れが目立つ場合に洗髪を行う(男性は髭剃りも行う)
  6. 更衣を行う(希望があれば準備していただく)
  7. メイクを施す前にクレンジングとマッサージを行う
  8. 顔に化粧水や乳液を塗布する
  9. 生前の顔に近づけるようにメイクを施す
  10. 両手を組んでもらう
  11. 室温を下げる
  12. 白い布を顔に被せ、シーツをかける

上記はあくまで一例ですので、昔ながらの慣習やご家族・故人の要望が優先されます。

亡くなられた利用者の方の顔や表情が穏やかであることは、家族の方にとって大切なことです。しかし、思うようにいかない場合もあります。そういった時の対処法を紹介します。

目が閉じられないとき

無理にまぶたを引っ張ると、内出血跡が残る場合があります。

お湯に浸けたタオルで目を温めて、まぶたを下げるとスムーズに目を閉じることができます。

口が閉じられないとき

枕の高さを調節して後頭部を上げ、頸部にタオルを挟むと自然に口を閉じることができます。

ただし、死後2時間くらい経つと死後硬直が始まるため、対処はそれまでに行うようにしましょう。

訪問看護のエンゼルケアで大切にしたいこと

訪問看護のエンゼルケアを行うにあたり、大切にしたいことが2つあります。

訪問看護のエンゼルケアで大切にしたいこと

柔軟に対応する意識をもつ

訪問看護でエンゼルケアを行う際に大切なのは、ご家族の要望に柔軟に対応する姿勢です。

冒頭で述べた通り、故人のエンゼルケアを誰にお願いするかはご家族の意思に沿うことが前提となります。まずは訪問介護でケアをさせていただけるかご家族の意思を確認しましょう。

身内の死に直面することで、時には理不尽と思えるような要望をご家族から受けるかもしれません。死を現実としてまだ受け入れられないショック期には、正常な判断ができずにパニック状態に陥ることがあるためです。

たとえば遺体の腐敗を防ぐために保冷剤で冷却する際、「冷たそうだからやめてあげて」と拒否があった場合には、衣服の上から保冷剤を当てるなどしてご家族の心情を汲む必要があります。

またエンゼルケアの範囲や料金について、利用者の生前にご家族の意向を確認していたとしても、死後に意向が変わることは十分起こり得ます。そのため、訪問看護としては柔軟に対応する意識を持つことが大切です。

ご家族への声掛けを積極的に行う

在宅の場合、ご家族を前にしてエンゼルケアを行うことになります。

故人を前にして、ご家族に対してどんな言葉掛けをすれば良いか分からないことがあるかもしれません。そんな時は在宅で介護を続けてこられたご家族に労いの言葉をかけたり、利用者の思い出話を伺ったりすると良いでしょう。

また、無理強いする必要はありませんが、ご家族にエンゼルケアに参加を促してみることを強くおすすめします。エンゼルケアはグリーフケアの意味合いもあり、ご家族が後々に死を受け入れて前向きになれるように最後まで関わりを持つことが大切です。

【基本】エンゼルケアの手順

エンゼルケアに決まった教育やマニュアルは存在しません。病院や施設ごとに独自のやり方やマニュアルが使用されているのが現状です。ここでは、基本的なエンゼルケアの流れについて時系列順に解説します。

1.終末期

可能であれば、お亡くなりになる前とお亡くなりになったあとのご本人・ご家族のケアに関する要望を聞き取ります。

お亡くなりになった後に着る衣服の希望があれば、ご家族に準備のお声掛けをしておきます。

2.臨終期

施設によってご家族とともに職員が立ち会う場合や、管理者のみが立ち会う場合があります。

いずれにせよ医師の死亡確認を冷静に受け止め、ご家族へのお声掛けや見守りなどの対応を行います。

3.お別れの時間

エンゼルケアを始める前に、故人とご家族だけで過ごしていただく時間を取ります。

退室する前にエンゼルケアの実施や葬儀社の手配の説明を行い、ご家族が不安を感じないように疑問点がないか確認します。

4.退所時文書のお渡し

エンゼルケアが終了したら、死亡診断書や退所に必要な書類をお渡しします。

死亡診断書の内容に間違いがないか、ご家族に確認していただきます。

ご家族には、死亡診断書のコピーを手元に保管しておくことを勧めてください。理由は生命保険や銀行口座、遺族年金の手続きの際に死亡事実が確認できる書類の提出が必要となるためです。

5.葬儀社お迎え

葬儀社のお迎えが到着したら、ベッドからストレッチャーへの移乗の手伝いを行います。

車が発進してしばらくの間、お辞儀をしてお見送りします。

訪問看護でエンゼルケアを行う際の注意点

訪問看護でエンゼルケアを行ううえで大事なことは、繰り返しになりますがご家族の意思を尊重することに尽きます。

ご家族がエンゼルケアに参加を希望される場合、心情に配慮して創傷部の手当てや陰部洗浄が済んでからお声掛けを行ってください。

身体を拭く際は身体を傷つけないように十分注意し、生前と同じようにお声掛けをしながら行います。あくまで故人の尊厳を守ることを意識しましょう。

死後硬直が1~2時間後に始まるため、エンゼルケアは手際よく進めることが重要です。

まとめ

訪問看護でエンゼルケアを行うということは、医療保険適用のサービスの終了を意味します。すなわち、利用者基本情報やサービス提供状況の修正を行うと同時に請求書の内容も修正が必要になるということです。

訪問看護事業所の請求には膨大な書類の作成が必要なため、書類をデータ化して業務効率化を図る必要があります。
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