居宅介護支援事業所の運営指導に必要な書類と対策するポイント、監査との違いを分かりやすく解説

2023.07.11

運営指導の実施に関する通知が届き、「どのような項目が確認されるのか?」「どのような対策が必要なのか?」と不安に思っている事業所の方も少なくないでしょう。

この記事では、居宅介護支援事業所における運営指導に向けて、必要な書類と対策するポイントをまとめました。

介護施設における運営指導とは?

運営指導は、何を目的に、どのような施設を対象にして行われる指導なのでしょうか。まずは運営指導の概要を説明します。

運営指導の目的

運営指導とは、サービスの質の確保と保険給付の適正化を目的として行われる指導のことです。以前は実地指導と呼ばれていました。介護保険施設等の指定権者である市町村が、指定の有効期間中(原則6年間)に少なくとも1回以上、事業所を訪問して、法令の遵守のもとに適切な運営がなされているか確認・指導を行います(実施頻度は市町村が別に定めるケースもあります)。

居住系サービス、施設サービスについては実施頻度を3年に1回以上と定められていますが、この記事で取り上げる居宅介護支援事業所に対する運営指導は、おおむね6年に1回の頻度で実施されるケースが多くなっています。

運営指導の対象となる施設

運営指導の対象となるのは、都道府県または市町村が指定・許可を行っている介護保険施設等です。具体的には次の施設を指します。

施設の種類種別等
居宅介護支援事業所
地域密着型サービス事業所認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護など
地域密着型介護予防サービス事業所介護予防認知症対応型通所介護、介護予防小規模多機能型居宅介護など
介護予防支援事業所
居宅サービス事業所訪問介護、訪問入浴介護、通所介護など
介護予防サービス事業所介護予防訪問介護、介護予防通所介護など
介護保険施設介護老人福祉施設、介護老人保健施設など

これら介護保険施設等には運営基準や報酬基準を遵守する責任があり、かつ、適正な業務が行えるように管理体制を構築する義務があります。一方、行政機関には、介護保険施設等が法令を遵守し適正にサービスを提供できるよう、指導や検査などを通じて支援する役割があります。

なお、この記事では居宅介護支援事業所における運営指導にスポットを当て、その内容や対策について詳しく解説していきます。

運営指導と監査の違い

運営指導と監査の大きな違いは、その目的です。

運営指導は、サービスの質の確保と保険給付の適正化を目的とする指導で、事業者の任意の協力のもと行われる確認・指導です。一方の監査とは、人員基準違反や運営基準違反、不正請求などが疑われる場合に、事実関係を確認する目的で行われる立ち入り検査等です。そのため、監査は運営指導と比べてより多くの事項(報告、帳簿書類等の物件の提示、関係者の出頭、立ち入り検査等)を事業者に求めます。

なお、運営指導において不正の疑いが発見され、監査を行った結果、不正の事実が確認された場合には、行政指導・行政処分を受けることとなります。

居宅介護支援事業所の運営指導項目

居宅介護支援事業所に対して行われる運営指導では、多くの項目において確認・指導が行われます。厚生労働省は「介護保険施設等運営指導マニュアルについて 確認項目及び確認文書」で確認する各項目を明らかにしています。ここではこの一部を抜粋して説明します。

①個別サービスの質に関する事項

  • 利用申込書又はそのご家族への説明と同意の手続きを行っているか
  • 利用者の希望やアセスメントに基づき、介護保険サービス以外のサービス、支援を含めた総合的な居宅サービス計画を立てているか
  • 定期的にモニタリングを行っているか
  • 担当者から個別サービス計画の提供を受けているか(整合性の確認)

(※)参考:介護保険施設等運営指導マニュアルについて 確認項目及び確認文書

②個別サービスの質を確保するための体制に関する事項

  • 利用者に対し従業員の数は適切であるか
  • 必要な資格を有しているか
  • 専門員証の有効期限は切れていないか
  • 個人情報の利用に当たり、利用者及びご家族から同意を得ているか

(※)参考:介護保険施設等運営指導マニュアルについて 確認項目及び確認文書

③介護報酬請求に関する事項

  • 基本報酬について確認
  • 加算時の請求に当たっての基本的な考え方を確認
  • 加算時の請求に関する書類、状況を確認
  • 各種加算時の請求を行っているものについて、関係書類等により事業所の説明を求める

(※)参考:介護保険施設等運営指導マニュアルについて 確認項目及び確認文書

④最低基準等運営体制指導

最低基準等運営体制指導は、介護サービスの質を確保するための体制に関する指導です。よって、前述の①~③に記載されている運営体制(人員や運営に関する事項)について確認が行われ、必要な指導を受けます。

居宅支援事業所の運営指導に必要な書類

居宅介護支援事業所の運営指導に際して、事業所ではどのような書類を準備しなければならないのかを解説します。

自治体や運営指導の内容によって詳細は異なりますので注意が必要です。ここでは東京都大田区と岡山県岡山市を例に挙げてご紹介します。

事業運営に関する書類

事業運営に関する事項(基本方針、人員基準、運営基準等)で必要となる書類の一例を示します。

書類内容
運営に関する基本資料指定申請・変更届の控え、運営規約、重要事項説明書、契約書、指定居宅介護支援提供証明書の控え、就業規則、平面図、設備・備品台帳など
パンフレット事業所のパンフレット、チラシなど
従業者に関する書類雇用契約書、出勤簿、タイムカード、業務日誌、職務分担表、健康診断記録など
資格証など介護支援専門員証、主任介護支援専門員の登録証など
会計・算定に関する書類会計書類、給付管理票の控え、介護給付費明細書、各加算・減算に係る書類など
その他の資料衛生管理マニュアル、感染症に関する委員会の資料など

3.2. 利用者および介護サービスに関する書類

次に、利用者および介護サービスに関する事項で必要となる書類の一例を示します。

書類内容
利用者に関する資料利用申込受付簿、利用者の同意書、介護保険番号・有効期限を確認している記録、被保険者証の写し、個人情報使用に関わる同意書など
介護認定に関する資料要介護認定申請書の控え、要介護認定更新申請書の控えなど
介護サービスに関する書類居宅介護支援給付費用明細書、領収証控え、指定介護予防事業者との連絡記録等、給付管理票の控え、サービス利用票、苦情の受付簿・対応記録、事故発生時の対応マニュアル、虐待防止マニュアルなど
ケアマネジメントに関する書類居宅サービス計画、居宅介護支援経過、主治医との連絡記録、アセスメントシート、評価を実施した記録、サービス担当者に対する照会内容の記録、サービス担当者会議の要点など

(※)参考:居宅サービス事業所等指導検査基準(介護)|東京都福祉局

自己点検票

自己点検票とは、事業所が自己点検を行うための様式で、介護保険法によって規定されている基準(人員基準や運営基準)を満たしているかどうか、適正に報酬算定が行われているかどうかを、あらかじめ点検するものです。

自己点検票は、運営指導の通知が届いたあと、実施日の約7日前までに事業者自らが事業運営に関する項目を点検したうえで作成し、提出しなければなりません。

書式やチェック項目、内容は自治体によって多少異なりますが、岡山県岡山市の定める居宅介護支援事業所の自己点検票は次のような内容です。

【人員に関する基準】

  • 介護支援専門員は、1人以上は常勤となっているか
  • 利用者35人に対して又はその端数を増すごとに1以上の配置に努めているか
  • 常勤の管理者を置いているか
  • 管理者は専らその職務に従事しているか ほか

【運営に関する基準】

  • 居宅介護支援の提供の開始に際して、重要事項を記した文書を交付して説明を行い、当該事業所から居宅介護支援を受けることについて同意を得ているか
  • 重要事項を記した文書に不適切な事項や漏れはないか
  • 指定居宅介護支援の提供の開始に際し、あらかじめ次のことについて、文書の交付に加えて口頭での説明を懇切丁寧に行い、理解したことについて、必ず利用申込者から署名を得ているか
  • 正当な理由なくサービスの提供を拒んでいないか。対応が困難と考えられる事例について、理由を付けて断っていないか ほか

【介護報酬に関する基準】

  • 費用の額は、「指定居宅介護支援介護給付費単位数表」により算定されているか
  • 居宅介護支援費は利用者の契約日の古いものから順に割り当てて算定しているか
  • 利用者は複数の指定居宅サービス事業者等を紹介するよう求めることができることについて文書を交付して説明しているか

(※)参考:居宅介護支援事業所の運営指導に係る提出書類等(自己点検シート等) | 岡山市

居宅支援事業所における運営指導の流れ

居宅支援事業所における運営指導の流れ

居宅介護支援事業所における運営指導は、次のような流れで実施されます。

流れ内容
1事業所へ通知運営指導を行う日の1ヵ月前までに通知が行われる
2事前確認事前提出資料の提出、自己点検結果の報告
3運営指導の当日・サービスの質に関する確認
・サービスの質を確保する体制に関する確認
・報酬請求に関する確認
・結果の伝達
4指導結果の通知要改善事項がある場合は文書による報告を要請

居宅介護支援事業所の運営指導で違反が見つかったら?

運営指導において違反が見つかった場合、次のような処分を受ける可能性があります。

  • 指定取消し・停止処分
  • 介護報酬の返還
  • 改善勧告・命令

厚生労働省は、「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 令和5年3月」において、指定取消等の行政処分は令和3年度に合計105件あったと報告しています。新型コロナウイルスの感染拡大によって運営指導の実施回数は少なくなったものの、依然としてこのような処分を受ける事業所は存在します。指定取消の理由としては、多い順に不正請求、虚偽申請、法令違反、人員基準違反でした。

介護事業者は、指定・認可を申請する段階で経営者の法令遵守の誓約書を提出しているため、これらの違反に対して法令に関する知識不足や知らなかったことなどを言い訳にすることはできません。このような事態にならないためにも、事業者は最新の法令や厚生労働省などが示す基準・通知を確認するだけなく、日頃から準備・対策をすることが求められます。

居宅支援事業所の運営指導対策のポイント

これまで解説してきたことをふまえ、運営指導において指摘・指導を受けないためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。

  • まめに記録を取り、日頃から書類を整理しておく。
  • 書類の不備がないか、定期的にチェックする仕組み(例:ダブルチェック、書類確認日を定期的に設けるなど)を構築する。
  • 利用者の個人情報は、その保護の観点から厳重に管理する。紙は利用者ごとに分けてファイリングし、施錠できるキャビネットに保管する。業務で使用するパソコンにはログインパスワードを設定、PDFなどの電子データに個別でパスワードをかけるなどの対策を取る。
  • 最新の法令、基準、通知の内容を理解し、加算の算定要件を満たしているかを常に確認する。
  • 他事業所とのネットワークを構築し情報交換することで、最新の法令や加算に関する通知などに抜け漏れがないか、知識をアップデートする。
  • 従業員や管理者の業務内容に変更が出た場合は、辞令を交付して記録に残す。

運営指導においては、必要となる書類がかなりの数に上ります。準備が直前になり抜けや誤りの原因になるようなことのないよう、上記のポイントの定期的な確認、および確認の習慣化に努めましょう。

まとめ

居宅介護支援事業所は、利用者一人ひとりに合ったケアプランを立てるために、さまざまな医療機関やサービス提供事業所とのやり取りを行います。結果として扱う情報量が多くなり、業務が煩雑化しがちです。運営指導で指摘や指導を受けないためには、まめに記録を取り、書類を整理しておくなど、日頃からの準備・対策が重要となります。

そのような課題を解消するには、介護ソフトが役立ちます。例えばワイズマンの「居宅介護支援ソフト」を導入すると、取り扱う情報を適切な形で整理・保存でき、業務の煩雑化が解消されます。事務処理に手間をかけず、本来の業務であるケアプラン作成に多くの時間を費やすことが可能となり、利用者に対するサービスの質的向上にもつながります。

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