訪問看護ステーションを立ち上げるには?開業までにやることや流れ、必要な資格を解説

2023.07.03

訪問看護ステーションは、利用者の居宅を訪問して状態観察や医療的ケアサービスを提供する際、その重要な拠点となる事業所です。少子高齢化の流れの中、今後も利用者の増加が見込まれており、新たに訪問看護ステーションの立ち上げを検討している事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、訪問看護ステーションの立ち上げを考えている経営者の方に向け、開業までにやるべきことや開業までの流れ、必要な資格、注意点などについて解説します。

訪問看護ステーションを開業するまでの流れ

まず、訪問看護ステーションを開業するまでの流れをご紹介します。

開業の方針を決める

訪問看護ステーションを開業するにあたっては、以下のポイントを念頭におきながら、開設する目的や方針を明確にしましょう。

  • 経営理念
  • 開設予定の地域の特性
  • 既存の訪問看護ステーションと医療機関の数
  • 介護福祉サービスの供給量
  • 訪問看護サービスのニーズ
  • 利用者の見込み数
  • 対象者像

事業所として活動するための基本指針の作成においては、理念が非常に重要です。訪問看護ステーションを運営していくうえでは、単に利益の追求だけでなく、利用者目線、職員目線、地域目線など、さまざまな視点で考えることが求められるからです。

法人を設立する

訪問看護ステーションは個人では開業できないため、法人を設立する必要があります。法人設立のためには、商業・法人登記申請を法務局で行わなければいけません。法人設立のために必要となる主な書類は、以下のとおりです。

  • 定款
  • 登記申請書
  • 登録免許税の収入印紙を貼付した台紙
  • 取締役の就任承諾書
  • 設立時取締役の印鑑証明書
  • 資本金の払込みを証する書面
  • 印鑑届出書
  • 「登記すべき事項」を記載した書面

定款とは、発起人全員の同意によって定める根本的な原則が書かれた書類です。法人名や住所、事業内容、法人のさまざまな規則などを記載しますが、定款の事業目的欄には「介護保険法に基づく訪問看護事業」と記載する必要があります。

そのうえで、所轄官庁から介護保険・医療保険の指定を受けることで、訪問介護の事業に携われるようになります。

事業計画を立てる

事業計画書とは、事業をどのように運営していくのかを記した書類のことです。経営者の事業に関するビジョンを「計画書」に落とし込むことによって、第三者が「この事業は実現可能かどうか」の判断ができるようになります。

また、事業計画書は、資金調達ができるかどうかにも大きくかかわってきます。金融機関や投資家は、事業計画書を見たうえで融資をすべきかどうかを判断するからです。

事業計画は、主に以下のような要素で構成されます。

  • 資金計画
  • 人員計画
  • サービス計画
  • 設備整備計画

これらの計画について、単年度だけでなく3~5年程度の中長期的な経営計画を立てることが重要です。
また、事業計画を立てる際には以下のポイントを意識しましょう。

  • 具体的に書く
  • 整合性が取れるようにする
  • 数値で説明する

例えば、従業員を3名雇用しているのに損益計画に3名分の人件費が計上されていなかったとしたら、計画の整合性が取れません。また、数値で説明する際には、その数値を説明するための根拠が必要です。契約書や発注書などの根拠書類に基づいて記載しましょう。

開業資金を確保する

訪問看護ステーションを立ち上げても、すぐに収入が入ってくるわけではありません。現行の介護保険制度のもとでは、国民健康保険団体連合会から介護報酬が支払われるまでには、約2ヵ月かかります。そのため、事業が軌道に乗る前の資金とこの2ヵ月間のつなぎの資金を用意する必要があります。その間に必要となる資金は以下の2つです。

  • 運転資金
  • 設備資金

運転資金には、事業所の家賃や人件費などが当てはまります。家賃や雇用する従業員の人数を考慮し、あらかじめ準備しておくことが必要です。また、設備資金としては、事務所契約にかかる費用、自動車にかかる費用、事務用品など備品にかかる費用などが挙げられます。

なお、訪問看護ステーションの立ち上げには1,000万円程度が必要であるといわれていますが、この金額は事業規模によっても変わってきます。開業資金としていくら必要なのかをしっかりシミュレーションすることが大切です。

人員基準を満たす

訪問看護ステーションの人員に関する基準は決まっており、これを満たす必要があります。人員基準は以下のとおりです。

看護師等の員数・保健師、看護師または准看護師が常勤換算で2.5名以上となり、そのうち1名が常勤であること

・理学療法士、作業療法士または言語聴覚士が指定訪問看護ステーションの実情に合った適当数であること
管理者・専従かつ常勤の保健師または看護師であり、指定訪問看護を適切に行うために必要な知識・技能を有する者

(※)参照:訪問看護ステーションにおける人員基準に関する地方分権改革提案について

人員基準に違反すると、指定の取り消しや効力の停止が行われるリスクがあります。職員の急な退職や体調不良などで人員基準を満たさなくなってしまう事態は、どこでも起こりうることです。

とりわけ訪問看護ステーションでは訪問看護師の確保が難しいという課題があり、日頃から従業員としっかりコミュニケーションを取ったり、看護師の求人募集を適切な時期にかけたりといった対策が必要です。

設備基準を満たす

訪問看護ステーションの設備には、以下のような基準が設けられています。

  • 事業運営を行うための必要な広さの専用事務室があること
  • 指定訪問看護を提供するのに必要な設備および備品等を備えていること

これらの基準は、立ち上げ当初だけでなく事業開始後も継続して満たす必要があります。しかし、事業所が軌道に乗っていくにつれて事務所の人員も増え、手狭になるという事態も考えられるでしょう。そのため、単に設備基準を満たすことだけを考えるのではなく、人員増員の見通しを立てながら事務所選びをすることが大切です。

また、開業前から介護ソフトを準備しておくと、業務効率化を図ることができるため、急な人員不足に悩まされることもないでしょう。

運営基準を満たす

介護保険法では、訪問看護の運営基準に関して以下のことが定められています。訪問看護ステーションの運営にあたっても、これらの基準を満たす必要があります。

  • 内容・手続きの説明と同意
  • サービス提供拒否の禁止
  • サービス提供困難時の対応
  • 受給資格等の確認
  • 要介護認定申請の援助
  • 心身の状況等の把握
  • 居宅介護支援事業者等との連携
  • 法定代理受領サービスの提供を受けるための援助
  • 居宅サービス計画に沿ったサービス提供
  • 居宅サービス計画等の変更の援助
  • 身分を証する書類の携行
  • サービス提供の記録
  • 利用料等の受領
  • 保険給付請求のための証明書交付
  • 訪問看護の基本取り扱い方針
  • 訪問看護の具体的取り扱い方針
  • 主治医との関係
  • 訪問看護計画書及び訪問看護報告書の作成
  • 同居家族に対する訪問看護の禁止
  • 利用者に関する市町村への通知
  • 緊急時等の対応
  • 管理者の責務
  • 運営規程
  • 勤務体制の確保等
  • 業務継続計画の策定等
  • 衛生管理等
  • 掲示
  • 秘密保持等
  • 広告
  • 居宅介護支援事業者に対する利益供与の禁止
  • 苦情処理
  • 地域との連携等
  • 事故発生時の対応
  • 虐待の防止
  • 会計の区分
  • 記録の整備

上記はどれも、利用者やご家族に適切なサービスを提供するために重要なことです。運営指導などで運営基準に違反していることが分かると、指定取り消しや効力停止などの処分が下される可能性があるので注意しましょう。

運営基準に違反しないためには、以下のポイントを意識することが大切です。

  • 運営基準を従業員に周知徹底する
  • 作成が必要な書類の保管のチェック体制を整備する
  • 利用者やご家族に対して抜け漏れがなく十分な説明ができるよう、マニュアルを整備する
  • 別事業を展開する際には税理士などの専門家に相談して会計の区分を分ける

書類を準備する

書類は大きく分けて、訪問看護サービス提供のための書類と事業運営に必要な規程等の書類があります。

訪問看護サービス提供のための書類

訪問看護サービス提供にあたって必要な書類は以下のとおりです。

  • 市区町村との連絡調整の記録
  • 訪問看護記録
  • 訪問看護指示書
  • 訪問看護計画書
  • 訪問看護報告書
  • 利用者との契約書
  • 重要事項説明書
  • 個人情報の使用に関する同意書
  • サービス利用料金表
  • 業務日誌
  • 月間・年間の事業計画表
  • 事業の実施状況
  • 研修に関する記録

利用者に対して、いつどのようなサービスを提供したかといったことを記録するのはもちろん、サービス提供前の契約書や重要事項の説明に用いた書類も大切です。

また、行政とのやりとりの記録や研修の参加記録なども保管することで、サービスの質向上を担保できるでしょう。

事業運営に必要な規程等の書類

訪問看護ステーションの事業運営に必要な規定などの書類は以下のとおりです。

  • 就業規則
  • 育児介護休業規定
  • 再雇用規定
  • 給与規定
  • 退職金規定
  • 旅費規定
  • 研修会参加規定
  • 福利厚生に関する規定
  • 個人情報保護に関する規定
  • 慶弔見舞金規定
  • 車両管理規定
  • 防災・防火に関する規定
  • クレーム対応マニュアル

事業運営に必要な書類には、従業員の給与や福利厚生といった就業上の条件、また職場環境の整備を目的としたものなどがあります。これらは、従業員がやりがいをもって仕事をするうえで重要な書類です。しっかりと整備すれば、従業員の離職率低下にもつなげられるでしょう。

賠償責任保険に加入する

賠償責任保険は、訪問看護ステーションの従業員が仕事中に事故を起こしたり、損害賠償責任を負ったりしたときに賠償責任を保障してくれる保険です。

訪問看護業務は、利用者の居宅でサービス提供を行います。そのため、施設や病院と違って設備の安全面には不安がつきものです。その点、賠償責任保険に加入しておけば、利用者やそのご家族だけでなく、従業員の安全も守ることにもつながります。賠償責任保険に加入することは、事業運営者にとって義務ともいえるものでしょう。

指定申請を行う

指定申請とは、訪問看護ステーションの事業を行うにあたって開業予定地の都道府県知事または市町村長に届け出を行い、指定居宅サービス事業所と指定介護予防サービス事業所の指定を受けることです。申請に際しては、人員基準や施設基準、運営基準などの条件を満たしているかがチェックされます。

申請に際して必要となる主な書類は以下のとおりです。

  • 指定(許可)申請書
  • 誓約書
  • 事業計画書
  • 就業規則
  • 有資格者の資格証の写し
  • 管理者名簿
  • 管理者の経歴書
  • 従事員の勤務体制・勤務形態一覧表
  • 人員基準確認表
  • 事業所の外観と内部の写真
  • 事業所の平面図
  • 備品一覧

指定申請は一度行えば終わりではありません、ただし有効期限は6年と定められており、更新申請を6年に一度行う必要があります。また、指定を受けるためには法人格を有することが必要です。

加算体制等・業務管理体制の届け出を行う

この届け出は、訪問看護ステーションが各種加算に関する届け出をする際に必要なものです。届出書類には以下の2つがあります。

  • 体制状況一覧表
  • 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書(定期巡回・随時対応サービス連携を選択する場合)
  • 訪問看護ステーションにおける定期巡回・随時対応型訪問介護看護連携に係る届出書
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所との連携契約に係る契約書面等の写し

算定時期は、届出がされたタイミングによって以下のように異なります。

届出が毎月15日以前になされた場合翌月から
届出が毎月16日以降になされた場合翌々月から

また、事業主には業務管理体制の整備が義務付けられており、届出書を関係行政機関に提出する必要があります。業務管理体制整備の内容は、事業所等の数によって以下のように異なります。

事業所の数業務管理体制整備の内容
1以上20未満・法令遵守のための体制確保にかかる責任者の選任
20以上100未満・法令遵守のための体制確保にかかる責任者の選任
・業務が法令に適合することを確保するための規程の整備
100以上・法令遵守のための体制確保にかかる責任者の選任
・業務が法令に適合することを確保するための規程の整備
・定期的な業務執行状況の監査の実施

届出書に記載すべき事項についても、事業所等の数によって異なります。

届出書に記載すべき事項対象となる事業者
事業者の
・名称又は氏名
・主たる事務所の所在地
・代表者の氏名、生年月日、住所、職名
全ての事業者
「法令遵守責任者」の氏名、生年月日全ての事業者
「業務が法令に適合することを確保するための規程」の概要事業所等の数が20以上の事業者
「業務執行の状況の監査」の方法の概要事業所等の数が100以上の事業者

事業所などの数が多い事業者ほど、業務管理体制整備の内容と届出書に記載すべき内容が多くなります。

開業

開業予定日が確定したら、利用者に開業初日から利用してもらえるよう、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所、医療機関などに営業をかけます。開業日までに従業員の研修などを実施し、訪問看護の質を高めておくことも大切です。利用者と契約を結んだら、実際にサービス提供を開始します。

訪問看護ステーションの立ち上げに必要な資格はある?

訪問看護ステーションの立ち上げに必要な資格はある?

訪問看護ステーションの立ち上げるために必要な資格は特にはありません。ただし、訪問看護ステーションを継続的に運営していくために有資格者の確保は必須です。訪問看護ステーションには人員の基準があり、看護師などの有資格者を最低限配置する義務があります。

また、管理者にはサービスを適切に行うための知識や管理スキルなどが求められます。

訪問看護ステーションを立ち上げた際の利益はどれくらい?

厚生労働省が発表した「令和2年度介護事業経営実態調査結果」によると、訪問看護(予防を含む)の1施設・事業所あたりの収支額、収支等の科目は以下のとおりです。

令和元年度決算(千円)平成30年度決算(千円)平成29年度決算(千円)
①収入2,7192,5002,371
②支出2,5992,3952,263
利益(①-②)120105108

令和元年度決算でみると、収入が約272万円であるのに対して支出が約260万円で、利益は12万円ほど出ています。収入の大部分が介護料収入で、支出の大部分が給与です。訪問看護ステーションでは専門職の従業員を集める必要があるため、人材採用のコストが特に大きくかかっています。そのため、人材採用がうまくいかないと、さらにコストがかかってしまい赤字になる可能性もあります。

赤字を防ぐための方法として、国や財団法人などが行っている助成金制度の活用があります。なかでも、「令和5年度次世代介護機器導入促進支援事業」がおすすめです。これは、介護スタッフの身体的負担の軽減や業務の効率化にあたり、次世代介護機器の導入などの導入に伴う環境整備に必要な経費の一部を補助する制度です。

(※)参考:令和5年度次世代介護機器導入促進支援事業|公益財団法人東京都福祉保健財団
(※)参考:令和2年度介護事業経営実態調査結果|厚生労働省

訪問看護ステーションを立ち上げる際の注意点

最後に、訪問看護ステーションを立ち上げる際の注意点について見ていきます。

介護・診療報酬の改定に注意する

介護報酬は3年ごと、診療報酬は2年ごとに、報酬体系や単位数などの見直しが行われます。訪問看護ステーションにおける収入の大部分が介護報酬と診療報酬であるため、改定によって利益が大きく変わる可能性があります。報酬改定など業界の動向や最新情報を常に把握し、適切な事業計画を立てることが大切です。

資金不足に注意する

綿密な事業計画や収支計画を立てたとしても、計画通りに運営できないことはあるでしょう。しかし、計画が大きく狂い運転資金が尽きてしまうと、廃業に追い込まれる可能性もあります。健全な運営をするためには、運転資金に余裕を持たせておくことが大切です。

人材不足に注意する

看護業界は慢性的な人材不足といわれていますが、人員基準を満たせなければ運営自体ができません。また、せっかく採用したのに早期に辞めてしまうことのないような工夫も必要です。例えば、労働環境改善のために介護福祉器具を新しく導入するなどの取り組みで従業員の負担を軽減すれば、離職を減らすことにつながるでしょう。

まとめ

訪問看護ステーションを立ち上げるまでには、事業計画を立てたり、法人を設立したりと、やるべきことが多くあります。また、金銭面だけでなく人員基準を満たす必要があり、開業までの道のりは平坦ではありません。事業運営にあたっては多くの書類を必要とするため、本来業務を行いながら書類を作成・管理することに負担を感じる経営者の方も少なくないでしょう。

このような負担軽減には介護ソフトの導入がおすすめです。日常のさまざまな業務がスムーズになると、従業員の負担軽減だけでなく、利用者の満足度向上にもつながります。利用者の満足度が上がれば、別の契約にも結びつきやすくなります。

利用者数を増やしつつ訪問看護ステーションの持続的な運営を実現するために、ぜひワイズマンの「訪問看護事業所向けソフト」のご利用をご検討ください。製品の詳細は以下からご覧いただけます。
>>「訪問看護事業所向けソフト

訪問看護に関連するコラム

資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら
検討に役立つ資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら