【医療業界動向コラム】第50回 改正障害者差別解消法が来年施行。「合理的配慮」が事業者に「義務化」されること、ご存じですか?

2023.07.11

※このコラムは2023年7月11日時点の情報をもとにしております。

令和5年6月20日、内閣府は「令和5年版障害者白書」を公表した。今回の障害者白書は、来年度から施行される改正障害者差別解消法(図1-1~図1-2)を大きく取り上げた内容となっている。

図1-1_改正障害者差別解消法について
図1-2_改正障害者差別解消法について

障害者差別解消法は平成28年に施行された。共生社会の実現を目的に、障害の有無に関係なく、当たり前の価値観を共有し、理解しあっていくためのもの。共生社会とよく並べて使われる聞きなれた「地域包括ケアシステム」という言葉は多くの方がご存じだと思うが、「地域包括ケアシステム」という言葉はどちらかと言えば高齢者福祉の領域と言え、ゴールが住み慣れた地域での看取りといえる。一方で共生社会とは、障害者福祉の領域といえるもので、ゴールは住み慣れた地域で働き生活し続けることといえる。さて、こうした地域共生社会創りを推進していくには、障害者の日常生活に支障がでないように、事業者に対して不当な差別的扱いをしないように、障害者差別解消法では努力義務としてきた。合理的配慮とは、障害のある方からの何らかの対応の要望に負担が重すぎない範囲で対応することを言う。例えば、バスや電車の乗り降りの際にスロープを使うことや筆記が困難な方の代筆をするなど。負担が重すぎない範囲で対応、とあるように負担が重いと感じる場合はその理由を説明したうえで、代替手段などの提案などをすることで理解を得るための努力が必要だ。いわば、障害者差別解消法でいう「障害」とは、障害者が持つ障害そのものだけではなく、障害者が健常者と同じ日常をおくるために「障害」となっているものを指すといえるだろう。これまで努力義務だった合理的配慮だが、令和6年度からは事業者の義務になる、というのが今回の改正の大きなポイントだ。そのため、合理的配慮を行わなかった場合は、差別をした、ということになる。これまでは努力義務であったために、違反があっても行政からの指導・勧告になっていたが、今後は罰則規定が適用となる。ただここで難しいのは、合理的配慮の範囲だ。配慮の有無については、当事者の主観もあり判断が難しい。そこで、今後国で事例集などを作ることとなっている。

なお、今回公表された障害者白書にでは、差別の受け止め方については、当事者だけではなく社会全体でも意識が変わってきていることを教えてくれている(図2)。

図2_障害に対する意識の変化

様々なテクノロジーの進化や社会の風潮の変化は、障害者の日常や社会との障害の解消にも大きく貢献し、健常者の障害に対する意識をも変えていることがよくわかる。日々の小さな変化には気づきにくいが、長い年月で見るとその変化は静かに進み、大きくなることがわかる。テクノロジーやライフスタイルに合わせて、障害に対する概念も変わってきている。

また、障害者白書では2025年度末を期限としたバリアフリー目標の現況と今後の予定など、数値目標なども明示して取り組んでいることを明らかにしている。特に医療機関では、地域医療構想の推進の一環での病院再編などと法定耐用年数の関係で建替えなど予定しているところも多いと思われるが、ユニバーサルデザインを取り入れた対応を検討することを意識しておきたい。なお、バリアフリーとは、既存の環境で障害になっているものを取り除いて障害のない環境にすること。ユニバーサルデザインとは、最初から障害となるものがないこと。また、新たな設備投資をするということだけではなく、障害のある方を待たせないように混まない時間帯やサポートスタッフが充実している日時などを設定した受診予定日時を提案するなど、業務フローの見直しをしていくことの対応も考えていきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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