【医療業界動向コラム】第51回 医療費適正化計画の新たなスタートに向け、フォーミュラリのガイドラインが公表。
2023.07.20
※このコラムは2023年7月20日時点の情報をもとにしております。
フォーミュラリとは、患者にとって医学的妥当性・経済性をを踏まえて作成された医薬品の採用指針、とよく訳される。あくまでも指針であって、絶対ではない、処方制限にあたるものではない、ということの理解も当然必要だが、患者が主語である点に注目をしたい。医療提供者側の一方的な都合や医療費抑制という目的の実現ではなく、患者にとっての最善の選択であることが何よりも重要である点にきをつけておきたいもの。
今般公表されたフォーミュラリのガイドラインだが、医療機関内で策定する「病院フォーミュラリ」という表記ではなく、「地域フォーミュラリの運用について」と題されている。来年度からはじまる第四期医療費適正化計画の中で、後発医薬品の使用促進の一環としてフォーミュラリの周知が盛りこまれる見通しとなっていることや、数量ベースから金額ベースでの目標設定の見直しなどを後押しすることをイメージしていると考えられる。なお、そもそもフォーミュラリガイドラインは、骨太方針2021で記載されていたもの。2年を経過した今においても骨太方針に記載された事項は必ず実行されるものであることを改めて強く理解しておく必要がある。
ガイドラインの内容は、これまでもいろんなところで語られてきたところだが、あくまでも「おすすめリスト」のようなもので、処方を制限するものではないことを強調している。また、後発医薬品の他、同種同効薬が複数ある先発品なども対象としている。地域フォーミュラリの進め方の例として、地域の三師会(医師会・歯科医師会・薬剤師会)の連携、地域の中核病院と医師会・薬剤師会等との連携、地域医療連携推進法人の取り組み例についても紹介され、各地域の実状にあった進め方の参考になる。
実務面では、有効成分の一般名での記載、薬価収載のタイミングでのフォーミュラリの更新、COIの管理など実際の運用面でのポイントも記載されている(図1-1~1-6)。
やはり気になるのは、来年度診療報酬改定での評価の可能性だが、まだ見えてきていない。しかし、診療報酬改定結果検証のアンケートでは、フォーミュラリについての調査はこれまで経時的に行われており、DPC対象病院での取組が多いことやホームページへの掲載などで周知していくことを推奨するかのような質問項目がある点に注目すると、「病院フォーミュラリ」についてはDPC対象病院における保険診療係数等での評価であったり、医師の働き方改革で病棟薬剤師の貢献度が高いという結果から、病棟薬剤業務実施加算等での新たな評価の可能性は十分に考えられるように思われる。ただし地域フォーミュラリとしての評価は難しい。「二次性骨折予防継続管理料」のように、医療機関と薬局の連携をそれぞれ評価するようなものとなる可能性はありうるだろう。
前回改定で「感染対策向上加算」による地域カンファレンスの定期開催では抗菌薬の適正使用なども確認されるようになってきていることから、感染対策の連携で培った連携体制を基盤に、今後は地域支援体制加算・連携強化加算を算定する薬局との連携にまで広げながら、地域フォーミュラリを広げていくことは素地はできているようにも思われる。
ガイドラインができたことで、診療報酬にもどういった影響が出てくるのか、9月からの本格的な議論で注目したい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。