【医療業界動向コラム】第56回 療養病棟入院基本料に関する診療報酬改定の論点整理
2023.08.22
※このコラムは2023年8月22日時点の情報をもとにしております。
令和5年8月10日、第5回 入院・外来医療等の調査・評価分科会が開催された。主なテーマは、「重症度、医療・看護必要度の見直し」「地域包括ケア病床における救急対応及び在宅からの受入れの評価の検討」「療養病棟における医療依存度の高い患者に対する評価の適正化とEN(経腸栄養)・TPN(中心静脈栄養)評価に関するものといえる。ここでは、療養病棟に関する論点について焦点をあてて紹介する。
〇医療区分毎に医療資源の投入量を分析し、疾患・状態軸の評価、処置等に関する軸の評価を
医療区分と一口に言っても、その中には疾患・状態で該当するものと処置及び処置に伴い管理が必要な状態で該当するものがある。そこで、データ提出加算のデータを用いた医療区分毎の詳細な分析が行われている(図1)。
急性期病院における平均在院日数短縮化の傾向が続き、療養病棟でも医療依存度の高い患者は増えてきている。そこで、今後もデータを詳細に見ながら、医療依存度の高い患者の状態にあった精度の高い評価を検討していく方針だ。今後の調査結果に合わせる形で、疾患・状態軸の評価、処置等に関する軸の評価と細分化されることなど考えられる。。
〇消化管が機能していれば経腸栄養を優先的に選択、中心静脈栄養の長期利用の是正を
前回の診療報酬改定では、中心静脈栄養から経口摂取へ移行するための取組を推進するための見直しが行われたところだが、その効果は高かったとは言い難い状況だ。中心静脈栄養については、転院前から挿入されている(挿入を依頼している)ケースや患者・家族から胃ろうを避けるケースなどもあり、連携元医療機関や患者・家族の協力が求められるところ。
今回の議論の中では、内視鏡嚥下機能検査あるいは嚥下造影検査の実施がある施設は経口摂取に移行する割合が高い、という分析結果が公表されていることから、対象となる患者に対しては内視鏡嚥下機能検査あるいは嚥下造影検査の実施を必須化することなども考えられるかもしれない。
また、中心静脈栄養を選択する前に、消化管の機能が使えるのであれば経腸栄養を優先的に選択することを今回の議論の中で伝えている(図2)。
医療区分3に中心静脈栄養の患者数が増えているように見えること、経管栄養の患者の方が抗菌薬の使用が少なくなるなども伝えている。
その他にも、200床未満病院と200床以上におけるMRSAに罹患した患者割合を比較すると、200床未満病院の方が高い割合を示していることが知られている(図3 )。
中心静脈栄養の長期利用者が多いとCRBSIなどの原因ともなることを考える(図4)と、感染対策はもとより、経腸栄養が可能であればそちらを優先することを徹底していくことが必要だ。
そのためにも、摂食嚥下機能回復体制加算3のように、療養病棟の環境・状況に合わせた栄養サポートチームと内視鏡嚥下機能検査あるいは嚥下造影検査の実施を合わせた内容の項目なども考えられる。
最終的に在宅等に戻ることを意識して、ADL向上・自立支援という観点が療養病棟においても今後はより重要になってくる。栄養管理は、骨太方針2023にも明記されているように、健康づくり、予防・重度化予防のキーワードだ。療養病棟に限らず、近年の診療報酬改定では年々栄養管理に関する評価の拡充も行われてきていることからも注目しておきたい。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。