【医療業界動向コラム】第64回 要介護度や医療依存度の高い在宅患者への評価を拡充へ

2023.10.24

※このコラムは2023年10月24日時点の情報をもとにしております。

令和5年10月4日、中央社会保険医療協議会 総会(第557回)で在宅医療に関する診療報酬改定についての議論が行われた。訪問栄養食事指導、24時間の医療提供体制の在り方、在宅患者の要介護度や医療依存度に応じた評価の在り方などについて議論されている。

  • 訪問栄養食事指導について、周知していくことが重要

「リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理連携・推進」は在宅医療においても重要なテーマとなっている。在宅療養要介護高齢者には栄養障害・摂食嚥下障害をお持ちの方が多く、要介護度が高いほど多くなると報告されている(図1)。

図1_在宅療養要介護高齢者における栄養障害と摂食・嚥下障害

しかしながら、栄養に関する在宅医療サービスである「在宅患者訪問栄養食事指導料」及び介護保険サービスである「居宅療養管理指導(管理栄養士によるもの)」の実績は非常に低かった。そこで、前々回の診療報酬改定では栄養ケア・ステーションや管理栄養士のいる医療機関との訪問栄養食事指導や外来栄養食事指導の契約を結び、実際にサービスを提供してもらうことで評価される仕組みがスタートしているが、その実績も残念ながらまだ少ないといえる(図2)。

図2_在宅医療における報酬の算定回数比較

そもそも、栄養ケア・ステーションに関する周知等が十分ではないことや実際の契約などの事務手続きなどが煩雑になっていることなどが利用拡大の障害になっているように感じられる。診療報酬点数の問題ではなく、栄養ケア・ステーションの利用や病院の管理栄養士との連携ができること、事務手続きの簡素化につながる要件設定による後押しが重要となるだろう。

  • 病院と在宅の連携の視点

在宅における緩和ケアや看取りについて議論されている。この議論で注目したいのが「人生の最終段階の医療・ケア」に関する情報共有(図3)。

図3_人生の最終段階の医療・ケアに関する情報共有

こうした意思決定に関する情報共有をしていることで、緩和ケアが必要とされた時の入院先や容態が急変した時の入院先も変わってくる。高齢患者の救急医療・急性期医療が今回の診療報酬改定では主要なテーマになっているが、そのテーマにも関わってくることだ。終末期に限らず、ACPについてもステークホルダー間で情報共有を図っていくことがその主要テーマの問題解決にもつながってくる。

連携ということでは「退院時共同指導料」も重要だ。新型コロナ感染拡大の影響もあってか、直近では減少しているが、それまでは増加の傾向にあった(図4)。

図4_退院時共同指導料の算定状況

また、在宅における看取りに関する調査で訪問診療の提供がなく、14日以内の入院歴のある患者の情報を確認したところ、退院時共同指導料の算定割合が非常に低かったことが明らかになっている(図5)。

図5_在宅における看取りの状況

こうした患者は短期間で死亡に至るケースが多いとも明らかにされている。

訪問診療の提供がないということもあり、かかりつけ医を持たない患者であったり、地域特有の事情もあったこともあるだろう。来年度からは内閣も力を入れる「孤独・孤立対策推進法」がスタートする。自治体から医療機関に対しても協力を求めることも出てくるだろう。退院時共同指導料と入退院支援加算にも関連することになるだろうが、孤独・孤立対策の観点からも医療機関・行政と連携をしたアプローチを支援するような要件・評価となっていくことも考えられるのではないだろうか。

  • 要介護度や医療依存度に応じた訪問診療・往診の評価の見直し

訪問診療については一貫して算定回数は伸びているが、その内容に着目してみると、患者の状態、例えば要介護度が高かったり、認知症高齢者の日常生活自立度が悪化しているなど時間がかかっている傾向が見えること(図6)、また難病を有する患者と医療依存度の高い患者を対象とする包括的支援支援加算を算定する患者では往診頻度・看取り対応が多いことが明らかにされている。

図6_訪問診療を行っている患者の要介護度・認知症高齢者の日常生活自立度

月に2回以上の施設入居時医学総合管理料が増加していることや医師1人当たりの訪問診療料の算定回数が多いほど高齢者施設等に訪問している割合が高いことが示されている。あわせて、訪問診療を行っていない医療機関による往診についても資料が提示され、往診翌日に受診をしている割合を見ると訪問診療をしている医療機関の割合が高いことが明らかになっている。

入院医療での重症度、医療・看護必要度や療養病棟での医療区分で評価がかわるように、訪問診療においても対象患者の医療依存度に応じた点数設定など考えられそうだ。頻回訪問加算もあわせて、要介護度・認知症高齢者の日常生活自立度・主たる疾患などを軸に検討されるのではないだろうか。

地域医療構想の推進で、療養の場としての在宅の割合が高まり、病院としても近隣のかかりつけ医との連携を通じたフォローアップがこれからの経営においても重要になってくる。地域の限られた医療資源をどのように有効活用していくか、特定の医療機関だけに負担が生じないように、地域でのひざを突き合わせた話し合いが必要だ。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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