介護施設で発生しがちなトラブルの事例|原因と防止に向けた取り組み方

2023.12.06

介護施設では、誤薬・転倒などさまざまなトラブルが発生します
こうしたトラブルは最悪の場合、利用者の命にも関わるため、発生原因を突き止めて防止策を講じる必要があります。

この記事では、介護施設の管理職の方に向けて、発生率の高いトラブルの原因・防止方法について解説します。
ぜひ参考にしてみてください。

介護施設で発生率の高い2つのトラブル

介護施設でのトラブルは、誤薬と転倒転落による怪我の発生率が高い傾向にあります。
今回は、介護事故の件数に対してのトラブルの割合を、データを用いて解説します。

誤薬トラブル

1つ目は誤薬トラブルです。
誤薬とは、服薬の時間・量を間違えて、起きるトラブルの総称を指します。

『令和元年度保健福祉部福祉局施設運営指導課 集計・分析結果 老人福祉施設等における事故報告』によると、誤薬トラブルの割合は、事故報告全体の34.9%を占めます。

参照:令和元年度保健福祉部福祉局施設運営指導課 集計・分析結果 老人福祉施設等における事故報告

転倒・転落による怪我

2つ目のトラブルは、転倒・転落による怪我です。
転倒・転落すると、弱っている部分の打撲・骨折が起きます。

骨折の割合は全体の30%、打撲の割合は全体の20.7%、合計すると、50.7%とこちらも過半数を占めるトラブルです。
トラブルでけがをする部位としては、大腿部がもっとも多い結果となっています。

続いて、頭部・顔面、脊椎と続いていきます。

参照:令和元年度保健福祉部福祉局施設運営指導課 集計・分析結果 老人福祉施設等における事故報告

介護施設で実際にあったトラブルの発生事例

介護施設では、環境由来のトラブル職員由来のトラブルがあります。
管理者の立場だと、これらの介護トラブルはできるだけ防ぎたいもの。

トラブルの実例を知ると、今後のトラブルを防ぐ対策を考えられます。
今回は、誤薬・怪我のトラブルの実例を紹介していきます。

誤薬トラブルの発生事例

誤薬トラブルは、不注意、飲み忘れ、利用者間違い、服薬量の間違いがあります。
実際のトラブルは、職員の間違いから由来しているものが多い印象です。


具体例を施設の種類に分けて紹介します。

介護施設の種類トラブルの事例
介護老人福祉施設夜勤看護師が翌日の内服薬を用意していたところ、朝食薬のカゴの中から薬が入ったままの袋を発見する。
訪問介護施設薬受け渡し時、薬包が2袋重なっていたが投薬前の薬包印字確認不足に より二人分飲ませてしまった。

引用:令和元年度保健福祉部福祉局施設運営指導課 集計・分析結果 老人福祉施設等における事故報告

職員由来のトラブルであるため、後で紹介する対応方法を使うと、事前防止は可能です。

転倒・転落の発生事例

転倒・転落は、介助の際に転倒、ADL(日常生活動作)の失敗などがあります。
転倒・転落の事故は、利用者由来のトラブルが多くなっているため、環境設定が重要です。

転倒・転落の発生事例を施設の種類ごと紹介します。

介護施設の種類トラブルの実例
介護老人福祉施設介助する職員の到着が待てず、自力でベッドから車いすに移乗しようとして 転倒。右大腿部近位部位骨折。
特定施設(有料老人ホーム)歩行時、通路に置かれていた掃除機をよけようとして転倒。左橈骨・骨遠 位端不全骨折、左第4中手根部骨折、左頚部骨折、骨盤ヒビ。

引用:令和元年度保健福祉部福祉局施設運営指導課 集計・分析結果 老人福祉施設等における事故報告

利用者由来のトラブルも、施設管理者側で対策をすれば、事前防止は可能です。

介護施設での誤薬トラブルを防ぐ3つのアイデア

誤薬トラブルを防ぐには、以下3つの対応策が効果的です。

  • 研修を行い介護スタッフの意識を改革
  • 業務の見直しとマニュアルの整備
  • ICTを活用

本章では、誤薬トラブルの発生原因と照らし合わせながら、上記の対応策について紹介します。

1.研修を行い介護スタッフの意識を改革

誤薬トラブルを防ぐには、スタッフ一人一人の意識を高めることが大切です。
スタッフが緊張感を持ち服薬支援にあたることで、ヒューマンエラーの防止につながるためです。

具体的には、実際に起きた誤薬トラブルの事例を使い、原因や対策について話し合うと良いでしょう。
お互いに意見の交換をし合うと、スタッフ全員がリスクマネジメントや対処方法、改善方法を理解できます。

有益な研修を設定していくと、職員の意識向上が見られるでしょう。

2.業務の見直しとマニュアルの整備

2つ目のアイディアは、業務の見直しとマニュアルの整備です。
日々働いていると、業務分担やマニュアルを意識して働くのは困難と言えます。

振り返るために、定期的な見直しと整備の作業は必要です。
例えば、半年・1年に1度業務・マニュアルの改善やミーティングを行うのも良いでしょう。

その際は、各現場の主任クラスの人材を集めて意見をまとめると、より現場の課題を鮮明に把握できます。
管理者や施設長の立場を活かして、定期的な見直しを進めていきましょう。

3.ICTを活用

3つ目のアイディアは、誤薬防止用のICTの使用です。
ICTによる確認作業を行うことで、利用者の取り違えや薬の取り違えなどを防止できます。

服薬支援用のICTでは、配役時にQRコードを使用するものが主流です。
薬と利用者、担当スタッフのQRコードを読み取ることで、「誰が、誰に、どの薬を服薬させたのか」がデータベース上に記録される仕組みです。

なお、所定の時間にQRコードの読み取りが行われない場合は、すぐさまスタッフへ通知がいきます。
そのため、薬の飲み忘れを防止できます。

ICTの利用で、事務作業など現場の負担を減らして、大幅に介護事故のリスクを減少するでしょう。

介護施設での転倒・転落を防ぐ3つのアイデア

介護施設での転倒・転落を防ぐには、以下3つの対応策が効果的です。

  • 設備や施設環境などの改善
  • 運動やストレッチを取り入れ筋力低下を防ぐ
  • 介護スタッフの見回りを強化・人員配置の見直し

転倒・転落は介護中のみならず、利用者が一人で行動している際にも発生しやすいトラブルです。
そのため、スタッフの意識改革のみでは、改善が困難でしょう。

施設の環境や利用者の健康にも配慮し、複合的な対策を講じることが大切です。

1.設備や施設環境などの改善

1つ目は、設備や施設環境などの改善です。
例えば、段差があったり、部屋にものが散乱していたりすると、それにつまずいて転倒する恐れがあります。

事故の発生原因になりうるものを取り除き、環境を整備することで転倒・転落の発生率を抑えられるでしょう。
具体的には、以下のような場所を改善するだけでも転倒・転落の防止効果が期待できます。

  • 段差があり、つまずきやすい場所
  • 整理整頓をしていない場所
  • 水場など滑りやすい場所
  • 電球などがないため、暗くて見えづらい場所

例えば、段差がある場所には、スロープの段差をなくす手段が効果的です。
設備や施設環境の改善は、コストをかけずに実践できるため、まずは試してみるのが良いでしょう。

2.運動やストレッチを取り入れ筋力低下を防ぐ

2つ目は、運動やストレッチを取り入れ筋力を防ぐことです。
利用者の柔軟性・筋力の低下は、転倒・転落によるけがを増加させます。

そのため、リハビリで運動やストレッチを取り入れると、トラブルの発生を抑えられるでしょう。

例えば、転倒の際には足腰の踏ん張りが効かないのが原因の1つです。
そこで、大腿部や臀部の筋力強化に効果的な片足立ちは、転倒を防止するための良い運動でしょう。

ただし、あくまでも利用者本人の状態や能力に合わせる必要があるため、リハビリ計画書で実態把握をしたうえで、運動やストレッチを取り入れていきましょう。

3.介護スタッフの見回りを強化・人員配置の見直し

3つ目は、介護スタッフの見回り強化・人員配置の見直しです。
転倒・転落の事故は、スタッフの目の届かない場所で起きやすくなっています。

職員の目が届かない場所をなくしていくと、トラブルの防止につながります。
例えば、施設内で転倒が多発している場所を把握し、付近の見回り回数を増やす方法が有効です。

しかし、見回りを増やそうとしても、煩雑な業務では人員を確保しづらい問題もあるでしょう。
その場合は、業務改善をして、事務仕事をしていた時間を現場での業務時間に充てることが大切です。

職員の負担を減らしつつ、介護施設のトラブルを防いでいきましょう。

介護施設でのトラブルを防止するための流れ・手順

介護施設でのトラブルを防止するには、以下の手順で改善に取り組みましょう。

  • トラブルの内容を分解し問題点を特定
  • トラブルの発生原因を分析
  • トラブルの解決策・防止策を設定
  • 施策を実行し効果を検証

本章では、各工程の要点を紹介します。

手順1.トラブルの内容を分解し問題点を特定

まずは、トラブルの内容を分解し問題点を特定します
例えば、ひとえに誤薬といっても、さまざまなケースが考えられます。

  • 利用者の間違い
  • 量・使用時間の間違い
  • 同薬し忘れ

これらの中から、今回の事例がどれに当てはまるかを考えるようにしましょう。
抑止するためには、特に多い事例については、あらかじめ対策しておくのが良いでしょう。

手順2.トラブルの発生原因を分析

次にやるべき手順は、トラブルの発生原因の分析です。
実際に起きた事例を使い、5W1Hで状況を把握することで、どの部分を対策すれば良いかが見えてきます。

例えば、誤薬トラブルの発生原因を分析すると、以下のとおりです。

項目内容(例)
対象者(誰が:Who)介護太一
発見者介護ひかり
日時(いつ:When)令和5年10月2日(火)19時20分
発生分類・発生場所(どこで:Where)居室で薬包を2つ飲ませてしまった
原因(どうして:Why)投薬前の薬包印字確認不足

手順3.トラブルの解決策・防止策を設定

起きやすいトラブルの原因が分かれば、解決策・防止策を考えましょう。
先ほど分析した5Wを1H(どのようにしていくのか:How)で対策します。

今回の事例であれば、以下のような対策が考えられます。

原因(どうして:Why)投薬前の薬包印字確認不足
対策(どのようにしていくのか:How)・服薬支援システムによる、バーコード読み取りを追加する・利用者の本人確認手順を見直す

手順4.施策を実行し効果を検証

最後に、施策を実行し、効果を検討するようにしましょう。
実際にやってみると想定していた効果が得られない場合もあります。

改善方法を試した場合は、必ず会議で検証するようにしましょう。
例えば、先ほど紹介した誤薬トラブルでも、多種多様な原因があります。

服薬を指示する職員による見間違い。職員の慣れから起きる思い違い。
薬を準備する段階で起きる取り違いなどさまざまです。

施策は、効果があってこそ意味があるものです。
自分たちが考えた施策が適切か、振り返り次に活かしていきましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2023年11月上旬、広島地裁にて90代男性のゼリー誤嚥死に対し、施設側の過失を認め2365万円の支払いを命じる判決が出されました。判決理由は「ゼリーを配る職員は他の利用者に配膳し男性が誤嚥する様子を見ていなかった。(中略)誤嚥を防止する措置を講じる義務を怠った責任は極めて重い」」ということのようです。施設側が控訴中(2023年11月現在)なので、今後の動向を見守る必要がありますが、施設の訴訟リスクは年々高まっています。このような事態が脳裏に浮かんでしまうため、介護スタッフの記録内容は防衛的な文章にならざるを得ず、結果長文になり記録業務の負荷が増すという負の連鎖を招いています。スタッフの負荷や不安を軽減するためには、少なくともICTによる記録業務の効率化は急務です。急ぎ整備していきましょう。

トラブルの防止・対応力の強化にはICTの活用が効果的

「トラブルを未然に防ぎ、安全な施設運営がしたい」とお考えの方は、ICTの活用を考えていきましょう。
現場は、リハビリや支援計画など、利用者の対応に追われています。

業務が忙しいと、見落としや注意不足によるトラブルが発生しやすくなるため、業務効率を高め介護スタッフの負担を軽減することが重要です。
例えば、支援計画の管理・リハビリの記録を一元化できると、情報にアクセスする時間を短縮できるため、事務業務の負担が減ります。

弊社のワイズマンソリューションは、訪問から通所まで、各事業所に適した業務管理ソフトを提供しています。
施設の情報を一元的に管理し、事務作業の効率化やデータ活用を促進していくでしょう。

また、見守りシステム・誤薬システムとの連携も可能です。
バイタルやナースコールとの連携もできるため、夜間の対応もできます。

管理者の立場であれば、ICTの導入を進めることで、介護事故や労災を防げるでしょう。

まとめ

介護トラブルは、実例をもとに対応方法を考えると、クレームがない施設運営が可能です。
特に、職員由来によるトラブルは、ICTによる業務効率化により減らせます。

職員が現場の対応できる時間も増えるため、職員も施設もお互いにとってメリットが多くなっています。
介護でのトラブルを減らすために、ぜひICTを活用していき、トラブルない安全な施設運営を目指していきましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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