【医療業界動向コラム】第73回 令和5年中の診療報酬改定にまつわる議論の振り返り

2023.12.26

※このコラムは2023年12月26日時点の情報をもとにしております。

診療報酬の改定率を読み解く

令和6年度診療報酬改定の改定率が確定し、年明けからの詳細な要件や点数設定に向けた議論へと進むこととなる。具体的には、基本診療料の引き上げを通じて、すべての医療機関に対して幅広く物価高や処遇改善へ対応し、その一方で加算など医療機関個別の経営努力をより高く評価するような内容となっていくことが考えられる。しかしながら、財務省による秋の建議や医療経済実態調査からの報告を踏まえると、診療所・グループ薬局に対してはやや厳しい見方もある。その見方を反映したことなのか、「うち、生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」という文言、すなわち軽症者及び病状が安定している患者の受診頻度を下げる取組が盛り込まれている点に注目しておきたい。中小病院及び診療所における外来診療・外来患者数に影響が出てくることを意識しておこう。

診療報酬改定3つのポイントを確認する

診療報酬改定率が確定したところで、いよいよ診療報酬項目の見直し、要件及び点数の設定へ話が進められ、2月上旬にも答申が行われて、確定する。なお、今回の令和6年度診療報酬改定は6月からの実施となる(薬価改定は4月より)。

ここまでの令和6年度診療報酬改定の議論を振り返ると、大きく3つのキーワードが挙げられる。「高齢患者の急性期(救急)入院」「軽症者・病状が安定している患者の受診頻度の引下げ」「医療DXの推進(働き方改革含む)」がそれだ。それぞれのキーワードについて、確認してみたい。

高齢患者の急性期入院

図1_高齢患者の入院医療に関するポイント

人口に占める高齢者割合の増加に伴い、高度急性期・急性期でも高齢患者の入院割合が高まってきている。その結果、病床稼働率の低下や看護師等の負担が重くなってきていること、また、入院に伴いADLが低下するなど高齢患者にも影響が出てきている。そこで、病状等に応じ、他の急性期病床や回復期病床に速やかに転院(救急外来や急性期病床からの下り搬送)することを評価するものが検討されているところ。さらに、搬送先となる医療機関については、当初は地域包括ケア病棟での手厚い看護職員を配置するようなサブアキュート機能を強化した病院に対する加算評価などを検討するとともに、新たに急性期一般入院料2−6の病棟で栄養管理体制・休日リハビリテーションの充実化や入退院支援機能を強化する新たな病棟機能を評価することが検討されている。その一方で、急性期一般入院料1については重症度、医療・看護必要度における「救急搬送からの入院」の見直し等を進め、より急性期機能の純化を進めていくこととなる。

軽症者・病状が安定している患者の受診頻度の引下げ

図2_受診頻度の引下げに関するポイント

医療費抑制の観点から、生活習慣病管理料でのリフィル処方箋の推進や特定疾患処方管理加算でのさらなる長期処方に関する評価区分の新設など注目される。すなわち、軽症患者や医師の判断で病状が安定していると考えられる患者の受診間隔を広げる、ということだ。

毎月内閣府から公表されている景気ウォッチャー調査では、令和5年9月を境に、景気の先行きに対する見方がネガティブに転じている。世間の経済状況も踏まえると、医療費の抑制の動き、すなわち受診抑制など、患者のメリットも考えて提案していくことと同時に、薬局との連携を通じた受診勧奨など進めていく視点が必要になるだろう。そうした視点を持って取り組みを進めていくことが、令和7年度からのかかりつけ医機能報告制度への対応となる。

医療DXの推進

図3_医療DXに関するポイント

これまで医療情報システムの導入は、医療機関にとってはリターン(診療報酬収入)のないコストであった。そのため、医療機関ではICTサービスの恩恵を受ける機会が少なく、結果として負担軽減・働き方改革が思うように進んでこなかったと言える。そこで、医療DXを推進するべく、内閣総理大臣が旗振り役となって、2030年をゴールと設定した総合対策が推進され、先の総合経済対策においても令和6年度診療報酬改定での3文書6情報をはじめとする文書情報等の電磁的対応を診療報酬上でも評価を推進することが明記されている。医療DXがコストから投資へと変わることを意味する。令和6年度診療報酬改定での医療DXの推進では、TeleーICUに関する評価や、適正なオンライン診療の推進のほか、情報共有が推進されることで、専従要件やカンファレンス要件の緩和なども期待されている。また、患者の同意のもと診療情報の共有を推進するための鍵となるマイナ保険証について、医療機関からの患者への周知・広報を強化し、利用割合を高めていく取り組みの推進も重要になる。

今回の診療報酬改定は、介護報酬及び障害サービス報酬とのトリプル改定でもある。医療・介護・福祉の横の連携の視点も注目をしていきたいポイントだ。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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