訪問看護の特別管理加算とは?種別ごとの算定要件、注意点を解説

2024.05.16

訪問看護ステーションなどを運営するうえで、基本報酬にプラスして加算を取得することは重要です。
加算種別のなかでも、特別管理加算とは、医療的なケアを必要とする利用者へ計画的な管理とサービスの提供をした場合に算定されるものです。

特別管理加算の要件を把握して、適切な介護保険・医療保険請求を行いたいと考える事業所様も多いでしょう。
しかし、特別管理加算は種別ごとに要件が異なっているため、なかなか把握しにくいという方もいるかもしれません。

本記事では、訪問看護の特別管理加算について、種別や要件を紹介します。

【基礎知識】訪問看護の特別管理加算とは

訪問看護における特別管理加算とは、医療的な処置が必要で、訪問看護師による特別な管理が必要とされる利用者に対して、計画的な管理、ケアを実施した場合に限り加算できる制度です。

介護保険と医療保険のどちらかで加算できますが、それぞれの要件は異なります。
また、どちらも(Ⅰ)と(Ⅱ)の種別に分かれており、加算額も違います。

算定については、月に1回、基本報酬にプラスする形で介護保険請求もしくは医療保険請求が可能です。

特別管理加算の対象

特別管理加算の対象となる事業所・サービスは以下の3つです。

  • 訪問看護(ステーション)
  • 看護小規模多機能型居宅介護
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護

また、医療保険での特別管理加算の算定対象となる事業所には、下記の体制を整備することも求められます。

  • 24時間対応できる体制や連絡体制が整っていること
  • 加算要件に該当する患者の適切な処置が可能な職員体制と勤務体制になっていること
  • 患者の病状の変化に対応し、必要に応じて医療機関等と密接に連携を図れる体制が確保されていること

医療保険での特別管理加算を受ける場合には、上記の項目について「緊急時訪問看護加算・特別管理体制・ターミナルケア体制に関わる届出書」内で記載する必要があります。
また、これらの書類を管轄する地方の厚生局(厚生支局)に提出しなければいけません。

特別管理加算の種類と加算額

特別管理加算は介護保険と医療保険に分かれています。

また、利用者の状態(処置の難易度)に応じてそれぞれ「特別管理加算(Ⅰ)」と「特別管理加算(Ⅱ)」に分類されます。
それぞれの加算種別と加算単位数は以下のとおりです。

加算の種類単位数および加算額
【介護保険】特別管理加算(Ⅰ)500単位/月
【介護保険】特別管理加算(Ⅱ)250単位/月
【医療保険】特別管理加算(Ⅰ)
(特別な管理のうち重症度等の高い場合)
5,000円/月
【医療保険】特別管理加算(Ⅱ)
(特別な管理を要する場合)
2,500円/月

介護保険、医療保険のどちらにおいても、(Ⅰ)と(Ⅱ)を比較すると、(Ⅰ)の方がより重症度が高い患者が該当します。
そのため、加算額も(Ⅰ)の方が加算単位が多い、もしくは加算額が高くなっています。

介護保険における特別管理加算の要件と注意点

ここからは介護保険と医療保険それぞれの種別ごとに特別管理加算の要件や注意点を解説します。
特別管理加算(Ⅰ)と特別管理加算(Ⅱ)で要件が異なるため、それぞれの要件を把握しておきましょう。

【介護保険】特別管理加算(Ⅰ)の加算要件

特別管理加算(Ⅰ)の加算要件は下記のとおりです。

  • 在宅悪性腫瘍等患者指導管理
  • 在宅気管切開患者指導管理
  • 気管カニューレの使用
  • 留置カテーテルの使用

上記の要件のいずれかに該当する利用者がいる場合に加算可能です。

なお、「在宅悪性腫瘍等患者指導管理」については、末期がん患者に、注射によって鎮痛剤を投与する場合に当てはまります。
座薬や貼付剤によるがん治療は該当しない点に注意しましょう。

また、留置カテーテルについては、要件の内容が別途、詳細に定められています。
留置カテーテルとは膀胱留置カテーテルや腎ろう、膀胱ろう、胃ろう、経鼻経管栄養チューブ、腹膜透析のカテーテルを指し、廃液の性状や量の観察、薬剤の注入、バランスの計測といった計画的な管理を行っている場合に、特別管理加算に該当します。

【介護保険】特別管理加算(Ⅱ)の加算要件

特別管理加算(Ⅱ)では、下記のいずれかに当てはまる利用者がいる場合に加算できます。

  • 在宅自己腹膜灌流指導管理
  • 在宅血液透析指導管理
  • 在宅酸素療法指導管理
  • 在宅中心静脈栄養法指導管理
  • 在宅成分栄養経管栄養法指導管理
  • 在宅自己導尿指導管理
  • 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理
  • 在宅自己疼痛管理指導管理
  • 在宅肺高血圧症患者指導管理
  • 人工肛門、人工膀胱の設置
  • 真皮を越える褥瘡
  • 週3日以上の点滴注射

「真皮を越える褥瘡」については、1週間に1回以上、褥瘡の状態の観察やアセスメント、評価を行わなければいけません。また、実施した処置内容を訪問看護記録書に記載しておきましょう。

「週3日以上の点滴注射」については、点滴注射が終了した場合に主治医に利用者の状態を報告し、実施内容を訪問看護記録書に記録しなければいけません。
点滴注射の回数も、週3日以上という要件が定められています。

介護保険における特別管理加算の注意点

介護保険の特別管理加算を算定する場合には、下記の注意点に気をつけましょう。

  • 1人の利用者に対して申請できるのは1ヶ所の事業所のみ
  • 医療保険の特別管理加算と同月に申請はできない
  • 算定できるのは特別管理加算(Ⅰ)または(Ⅱ)のいずれかにのみ

1人の利用者が2ヶ所以上の訪問看護を利用している場合、加算算定できるのは1ヶ所のみです。
算定の分配については、事業所同士で合議しましょう。

また、算定できるのは特別管理加算(Ⅰ)または(Ⅱ)のいずれかです。
月内で保険の切り替えが起きた場合にも、医療保険と介護保険のどちらか一方での算定となります。

参照:「訪問看護」|厚生労働省

医療保険における特別管理加算の要件と注意点

医療保険における特別管理加算では、訪問看護ステーションなどが、看護師による管理や処置を必要とする利用者に対して、計画的な管理体制を構築する必要があります。

なお、医療保険での特別管理加算は「特別管理加算(Ⅰ)」を「特別管理加算(特別な管理のうち重症度等の高い場合)」、「特別管理加算(Ⅱ)」を「特別管理加算(特別な管理を要する場合)」と表記する場合もあります。

【医療保険】特別管理加算(Ⅰ)の加算要件

特別管理加算(Ⅰ)(特別な管理のうち重症度等の高い場合)の加算要件は、下記のとおりです。

  • 在宅悪性腫瘍等患者指導管理を受けている状態
  • 在宅気管切開患者指導管理を受けている状態
  • 気管カニューレを使用している状態
  • 留置カテーテルを使用している状態

「在宅悪性腫瘍等患者指導管理」は、医療機関から在宅で鎮痛療法や化学療法を受けている末期の患者に提供し、その治療に関する管理を行うことを指します。
単に「末期」だけでなく、計画的な指導管理を必要とする点に注意しましょう。

【医療保険】特別管理加算(Ⅱ)の加算要件

特別管理加算(Ⅱ)の加算要件は以下のとおりです。

  • 在宅自己腹膜灌流指導管理
  • 在宅血液透析指導管理
  • 在宅酸素療法指導管理
  • 在宅中心静脈栄養法指導管理
  • 在宅成分栄養経管栄養指導管理
  • 在宅自己導尿指導管理
  • 在宅人工呼吸指導管理
  • 在宅持続陽圧呼吸療法指導管理
  • 在宅自己疼痛管理指導管理
  • 在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている状態
  • 人工肛門又は人工膀胱を留置している状態
  • 真皮を越える褥瘡の状態(MPUAP分類Ⅲ度またはⅣ度、DESIGN分類D3、D4、D5)
  • 在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している
  • 新型コロナウイルス感染症のご利用者(感染が疑われる者を含む)に対する訪問看護を実施する場合

いずれも、医療的ケアなど頻回に医療職の関与が必要な状態を指しています。

参照:「訪問看護」|厚生労働省

医療保険における特別管理加算の注意点

医療保険における特別管理加算では以下の点に注意しましょう。

  • 「在宅血液透析指導管理」は、通院して透析を受けている場合には該当しない。
  • 「在宅自己疼痛管理指導管理」は、内服薬でのコントロールは含まれない。

「在宅自己疼痛管理指導管理」に該当するのは、埋込型脳・脊髄電気刺激装置を使用した、在宅での難治性慢性疼痛管理を行っている場合です。

利用者の状態によって特別管理加算の要件に該当すると思っていても、計画的な管理と医療的なケアの提供がない限り、算定できない点に注意してください。
算定要件を満たすには、すべての要件に該当する利用者に対して、計画的な管理、ケアの提供が必要です。

また、複数の訪問看護ステーションが関わっている場合、1人の利用者に対して、関係したすべての事業所で算定ができます。
ただし、算定できるのは「特別管理加算(Ⅰ)」か「特別管理加算(Ⅱ)」のどちらか一方のみに限定されます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

訪問看護の利用者数は約69万人(令和4年4月)となり、年々増加しています。それに伴い、訪問看護事業所も増え続けています。国が病床を増やさない政策を推し進めていることもあり、そのニーズは高まり続けています。一方で、訪問看護の収支差率は5.9%(令和4年度)と前年度と比較して1.3%減少しています。これは高騰し続けている人件費が主因となっており、訪問看護の人件費率は74.6%と居宅介護支援事業所に次いで2番目に高い数値となっています。訪問看護事業の収益性を高めるためには、①スタッフ1名あたりの担当件数を増やす、②客単価(利用者1名あたり)を上げる必要があります。特別管理加算を含め、各種加算は②と密接に関係しています。基本報酬が劇的に上がることは今後考えづらいため、加算算定が非常に重要なのです。

特別管理加算の請求にはシステムの活用がおすすめ

訪問看護の特別加算を適切に請求するには、システムの活用がおすすめです。

介護保険と医療保険の請求業務を手作業で行うとなると、算定要件を確認し加算数を計算して、とかなりの時間がかかってしまいます。
小規模の訪問看護ステーションでは、レセプト業務に特化したシステムを導入している場合もあるでしょう。

しかし、訪問看護記録から転記したり、入力し直したりしなければならず、ヒューマンエラーのリスクが高くなってしまいます。
訪問看護の特別管理加算を請求するには、訪問看護向けシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

請求業務の適正化・効率化が可能

ワイズマンの提供する「訪問看護ステーション管理システムSP」では、加算算定を効率的に行えます。

利用者情報から訪問看護記録までを一元管理しているため、普段の訪問看護時のサービス内容をレセプトに自動的に反映されます。
看護記録の内容を漏らすことなく、適切な請求業務が可能となるでしょう。


月の途中で介護保険から医療保険に切り替わった場合は、色分けで判別できるようになっているため、重複ミスを防止することも可能です。
また、利用者への請求も一括で行えるため、月次のレセプト業務の負担が大きく軽減されるでしょう。

看護計画作成~請求まで一元管理

訪問看護ステーション管理システムSPでは、訪問看護にかかわるさまざまな書類をシステム上で作成、管理することができます。

入力画面は帳票に合わせた仕様になっているため、入力に手間取ることも少ないでしょう。
また、利用者の情報を一元管理することで、担当医との連携もスムーズに図れます。

利用者に変化があった場合には、システム上で担当医へ報告できるため、電話応対の手間や状況を正確に伝えることが可能です。

ケア記録オプションも充実

訪問看護では特定のスタッフだけでなく、シフト勤務体制のために、日によって別のスタッフが訪問、ケアすることも珍しくありません。
異なるスタッフがケアするとなると、サービスの質に違いが出てしまったり、利用者の状態の把握がスタッフによって異なったりなど、連携ミスが起こりやすくなります。

訪問看護ステーション管理システムSPのケア記録オプションである「記録管理」を活用すれば、バイタル記録などをグラフ化して表示できます。
日々の体調変化に気付きやすく、スタッフが代わっても、変化を把握しやすくなるでしょう。

また、「申し送り」機能では、申し送り事項を短時間で共有することができるため、業務の効率化にもつながります。
一覧表示されるため、伝達漏れを防ぐことも可能です。

まとめ

訪問看護を運営していくうえで、加算制度を活用することはとても重要です。
特別管理加算は、対象となる施設が自ら該当する利用者を判断し、算定しなければいけないため、要件を正確に把握しなければいけません。

また、算定の際には漏れのないよう、訪問看護記録から、保険請求をするのは職員にも大きな負担となってしまうでしょう。
実際、特別管理加算を請求できている事業所数は2016年で全体の2割程度と決して高くありません。

しかしながら、これからますます需要を増すであろう訪問看護事業において、特別管理加算を正確に請求することはとても重要と言えます。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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