【医療業界動向コラム】第86回 「地域医療構想のこれまで」と「外来・在宅を意識したこれからの地域医療構想」の議論が始まる

2024.04.09

※このコラムは2024年4月5日時点の情報をもとにしております。

2025年のあるべき姿をイメージして取り組まれてきた地域医療構想が間もなく一つの区切りを迎える(図1、図2)。令和6年度診療報酬改定では、その一区切りに向けた複数の手が尽くされると同時に、かかりつけ医機能報告制度も含めて考えるべきポスト地域医療構想の環境整備が行われようとしている。

図1_2022年度病床機能報告(※画像クリックで拡大表示)
図2_必要病床数との差(※画像クリックで拡大表示)

具体的には、高齢患者の急性期入院医療に焦点を当てて、高度急性期と急性期の整理(下り搬送、看護必要度の厳格化、DPCにおける退出基準や効率性係数の見直し、地域包括医療病棟の新設、遠隔ICUモニタリングの評価)が行われた。地域医療構想において、総病床数については国が掲げる目標を達成できる見通しだが、その内訳(病床機能)についてはいまだ途上にある。令和6年度診療報酬改定は、とりわけ高度急性期・急性期における役割分担を図るような、言い方をかえれば、地域医療構想の進展によって集約化が進む高度急性期入院医療という資源を有効活用するための整備が行われているといえる。令和6年度診療報酬改定の後押しを受け、これから地域医療構想調整会議にてどういった議論が始まるのか、注目される。

地域医療構想については、令和6年3月13日に第14回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループにて、2025年のゴールに向けた議論が行われている。そこで話し合われたのは、各都道府県で1-2か所の「推進区域」を国が設定し、それら全国の推進区域の中から「モデル推進区域」を指定した上で国が伴走支援していくなどの取組だ(図3)。

図3_2025年に向けた地域医療構想の推進(※画像クリックで拡大表示)

そして、令和6年3月21日の第107回社会保障審議会医療部会にて、ポスト地域医療構想の議論がはじまった。6年ごとに見直される医療計画に足並みをそろえるべく、第8次医療計画の中間見直しとなる令和9年度(2027年度)からの開始を目指す設定だ。

これから本格的な議論が始まる地域医療構想では、入院医療の量的適正化によって患者の療養する場が、病床から在宅や施設等へと拡大していったことへの対応が重要な視点となる(図4)。

図4_ポスト地域医療構想の検討事項(※画像クリックで拡大表示)

地域全体が一つの総合病院、患者自宅のベッドが病床、という発想であり、令和7年度から始まるかかりつけ医機能報告制度との連動が必要となる。かかりつけ医機能報告制度とは、地域住民が自らかかりつけ医機能を有する医療機関を決めるために、必要な情報(5つのかかりつけ医機能、図5)を整理して、医療機能情報提供制度(ナビイ)などを利用して発信するもの。令和6年度診療報酬改定では、この5つのかかりつけ医機能と診療報酬項目等との紐づけが暗に示されており、この1年が地域住民に選ばれるためのかかりつけ医を目指すための準備期間となる。

図5_かかりつけ医機能(※画像クリックで拡大表示)

令和6年度診療報酬改定では、慢性疾患、とりわけ生活習慣病の疾病管理の在り方が、新規透析導入患者を抑制するための生活習慣病重症化予防の厳格化のために、見直されることとなった。この見直しも、いわばポスト地域医療構想に向けての外来における機能分化・役割分担に向けた布石とも見て取れる。200床未満の病院及び診療所においても、地域の実状に合わせた今後の方針について本格的に検討していくことが求められる。また、慢性疾患の疾病管理では、患者本人の治療への参画なども重要になってくると共に、軽症・病状が安定している患者からの長期処方・リフィル処方箋に対する要望に応じることが求められるようになる。そして、医療DXの推進で医師の負担は軽減され、軽症者等の診療に充てていた時間を他の時間に充てられるようになる。今後は、その創出される時間をどう使っていくかも地域医療構想を実現していく上では重要なポイントになってくると思われる。地域医療構想の実現はもちろん大事だが、地域住民にとっての最善となることをゴールにした議論が期待される。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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