【介護業界動向コラム】第22回 VUCAの時代の介護経営 「改定のその先を見据えた事業戦略の立て方④」
2024.05.27
※このコラムは2024年5月22日時点の情報をもとにしております。
2024年度の介護報酬改定における特徴的な項目から、先を読んだ戦略策定の必要性を確認しています。これまでLIFE、生産性向上、中重度対応等といったテーマを取り上げてきました。今回は、近年垣根が薄れつつある隣接領域のサービス、すなわち医療系サービスや障害福祉サービスとの関係性において、どのような変化が起きつつあるのかについて、目を向けてみたいと思います。
2024年度の同時改定にみる相互に行き交う領域
2024年度の改定は、6年に一度の診療報酬、介護報酬、障害福祉報酬の改定時期が重複するトリプル改定だったので、それぞれの領域が交わる場面や、類似した事項の調整・連動が図られる場面も見受けられました。
例えば介護事業者にとって、最も分かりやすいポイントは恐らく居住系サービス事業者向けの「協力医療機関の定義の明確化、設定義務化」などであったと思います。(※この点に関しては、2024年4月の本連載で触れていますので良ければご参照下さい。)その他にも、医療分野では退院時共同指導の要件や、口腔機能の評価等の面で医療機関との連携などが求められてきています。
また障害福祉の領域では、共生型サービスの対象領域の拡大(障害福祉サービスの自立訓練(機能訓練)と通所介護が共生型サービスとして連結されたこと)等が挙げられます。
それぞれのサービスは制度の成り立ちや財源・仕組みの問題から便宜的に分けられたもののため、実際の利用シーンにおいて、制度上の枠から漏れてしまう状況は当然起こりうることです。全ての場面を想定した制度設計は実質不可能ですから、ある程度のパターン化や、運用でのカバー、都度の改定による調整などを繰り返していく中でチューニングしていかざるを得ないものです。
さて、そのような前提ではありますが、こうした制度の中の「マージナル(境界線上)」な領域については、発生状況・発生頻度が多い場合等については、再編統合が促されていく可能性が高いもの、とも言えます。例えば、その象徴的な事例は療養病床の再編であり、「介護療養病床」の廃止と「介護医療院」の設置だったと言えるでしょう。介護を行う病床、という医療・介護のどちらにもなり得る病床が、完全に介護のベッドに統合されたとも見ることができます。
医療・介護・障害福祉・・あるいは生活支援サービスはどのように交わっていくのか
そこで気になるのは、医療・介護・障害福祉、あるいは生活支援サービス等のマージナルな領域で、今後どのような変化が起きそうなのか?という事かと思います。非常に広範に渡る話題ですので、本論では全体像をなぞる形に留まってしまいますが、ポイントを絞ってみていきたいと思います。
在宅医療、遠隔医療と介護サービス
まず、医療の領域と介護の領域が横断する領域では「在宅医療」の領域をみていきましょう。在宅医療と言われる言葉には、一般的には、医師による訪問診療、薬剤師による調剤、看護師による訪問看護等が含まれており、管理栄養士等による訪問栄養指導なども近年ではこの中に含まれてきています。在宅医療を担う在宅療養支援診療所数は、過去10年で1.2倍弱増加していますが、15年前の増加スピードに比べると、増加数は鈍化し、横ばい傾向にあります。これは実績要件が厳しくなったことや、集合住宅向けの訪問診療の点数が大幅に引き下がったこと、また医師にとって24時間対応の継続が負担であることなども影響していると言われます。2024年改定においても同様の傾向は続いており、事業者としても運用方法についての戦略を熟考しなければなりません。
この中でも、特に軽度者かつ施設在宅であるようなケースは、オンライン診療と訪問診療を組み合わせたハイブリッド型の方法も導入されてきています。医療資源にも限りがあるなかで、こうした遠隔医療が重要な取組の一つになると想定され、既にアメリカや中国等では、遠隔診断が可能な医療機器とオンライン問診を合わせた遠隔医療が広まりつつあります。
次の時代の医療・介護領域は、正にこうした遠隔医療と訪問型医療を合わせたハイブリッド型の在宅医療を想定しておく必要があると考えます。またそれが、医師単体で実施されるのではなく、例えば、医師×訪問看護、医師×訪問看護×介護福祉士等といった多職種の連携のもと提供されるスタイルが予期されます。
訪問看護の領域で、「遠隔死亡診断加算」や「専門管理加算(このうち特定行為研修を受けた看護師)」等が近年新設されている事は、着目点といえるでしょう。医師が遠隔、訪問看護師が現場判断・処置を担う遠隔医療スタイル(いわゆるD to P with N型)が企図されているとも読み取れます。
空想的な話かもしれませんが、そう遠くない将来に、在宅医療の領域においては医師が直接的に関わる場面は重度者対応や看取りの領域にフォーカスされ、その他多くの場面が訪問看護師や施設看護師の関わり、また部分的に介護職員による関わり(吸引や経鼻経管栄養等)などにより補完される形に変化していく可能性もあるのではないでしょうか。
現実の必要や時代の要請に応じて、法令は柔軟に変化します。これまで制限されていた職域や業務が、規制の緩和やルール変更により、役割を変えていく事も十分に想定されますので、今後、各職種がそれぞれどのような役割を担い、どのような働き方をしていくのか?という観点からも事業のあり方を検討して行くことも有効です。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。