少子高齢化社会における介護問題とは?原因や解決策などを解説

2024.06.12

少子高齢化社会が進行している昨今、さまざまな介護問題が議論されるようになりました。
今後も高齢化が増加する状況において、介護問題の解決は喫緊の課題です。

現在議論されている介護問題は多種多様なうえに、いずれも重要なものです。

そのため、「現在注目されている介護問題は何か」「議論されている介護問題に解決策はあるのか」と感じている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、少子高齢化社会における介護問題の原因や解決策などについて解説します。

介護の観点から見た少子高齢化社会

最初に、介護の視点から見た少子高齢化社会について解説します。

昨今の日本の介護問題を議論するうえで、少子高齢化の影響は無視できません。
少子高齢化が介護にどのような影響を及ぼしているのかを、あらためて確認しましょう。

高齢者の増加と人口減少

高齢者の増加と人口減少は、介護に多大な影響を与えている事象です。
以下の表を見てみましょう。

出典:我が国の人口について|厚生労働省

日本は2000年代から人口が減少し続けており、2020年以降は1億人を切ると推定されています。
また、年代別の人口比率の変化も顕著です。

日本は2020年時点で65歳以上の人口が3,000万人を超えており、今後も増加すると予測されています。
対して、14歳以下の人口は減少の一途をたどり、将来的には1,000万人を切ると推測されています。

介護ニーズの高まり

高齢化が進行している昨今、介護ニーズの高まりが顕著となりました。
以下の表を見てみましょう。

出典:令和3年度介護保険事業状況報告(年報)|厚生労働省

過去20年間で要介護者の数は増加の一途をたどっています。
要介護者の増加は、介護サービスの対象者が増加していることを意味するものです。

今後も高齢者の増加に伴い、要介護者も増え続けると推測されています。

代表的な7つの介護問題

現在日本で議論されている介護問題のなかでも、代表的なものは以下のとおりです。

  • 介護業界の人手不足
  • 介護費用の増加
  • 介護難民
  • 老老介護と認認介護
  • 高齢者の効率化
  • 高齢者の虐待
  • 成年後見人トラブル

いずれの介護問題も深刻なものです。
なかには政府や自治体はもちろん、介護事業所も積極的に対策を講じなければ解決が難しい問題もあります。

次章からは上記の7つの介護問題について、それぞれ原因や問題点を解説します。
加えて、現在実行されている解決・対応策についても解説するので、参考にしてください。

1.「介護業界の人手不足」の問題点と原因

介護業界の人手不足は、少子高齢化社会の現在だからこそ、深刻化している問題です。

少子化によって労働人口が減少している昨今、介護の担い手も減少しています。
そのため、介護の需要が高まっていても、人手不足によって供給ができない状況が発生しています。

以下のグラフを見てみましょう。

出典:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の将来推計について|厚生労働省

介護職員の必要数は年々上昇していますが、実際の人数が追いついていないことがわかります。
介護職員の必要数と実際の人数の差は、2023年時点で約20万人を超えており、2040年時点で約69万人に達すると見込まれています。

人手不足の状況が続けば、高まる介護ニーズに応えられなくなり、介護難民や老老介護が発生する原因にもなりかねません。
提供しているサービスの品質低下のみならず、運営している介護施設の維持が困難になる恐れもあります。

解決・対応策

人手不足が深刻化する現状に対し、国は解決・対応策として介護人材の参入の促進や、働き方改革の推進を実施するようになりました。

厚生労働省は未経験者が参入しやすいように、入門的研修を開催しています。
これにより、未経験者でも介護現場の基礎知識を学べるうえに、介護現場のネガティブなイメージを払拭する機会を設けています。

また、働き方改革の一環として、介護事業所にICTの活用を推進している点も重要です。

一部の介護事業所では、依然としてアナログな業務から脱却できていません。
そのため、ICTによって業務を効率化し、より働きやすい環境を構築することで、人材の定着率向上を目指す試みが積極的に実践されています。

なお、ICTの導入は煩雑な業務の効率化に加え、介護に関するビッグデータを蓄積する効果が期待できる取り組みです。
厚生労働省は2024年度の介護報酬改定に際して、新たに生産性向上推進体制加算を設けるなど、介護事業所のICT導入を後押ししています。

参照:介護人材確保に向けた取組|厚生労働省

   介護保険最新情報|厚生労働省

2.「介護費用の増加」の問題点と原因

介護費用の増加は、利用者や利用者家族にとって切実な問題です。
以下の表を見ると、介護費用の負担額は年々増加していることがわかります。

出典:受給者1人当たり費用額|厚生労働省

介護費用の負担が増加する背景には、要介護者の増加があります。
要介護者の増加に伴い、日本の介護費用は急増しました。

厚生労働省は介護保険制度を維持するために、2024年度から収入に合わせた自己負担額の見直しに踏み切りました。
現在では介護利用者の収入の度合いに応じて、1〜3割の自己負担が発生します。

その結果、介護費用の負担は以前より増加したうえに、今後も介護の利用者が増加するたびに、自己負担額が見直されるリスクが高まりました。

参照:介護費用20年で4倍、伸び突出 保険料・自己負担上げへ|日本経済新聞
参照:高齢者介護サービス 利用者の自己負担の見直し議論 厚労省|NHK

解決・対応策

介護費用の負担に対し、国は介護休業給付や高額医療・高額介護合算療養費制度など、さまざまな支援制度を実施しています。
また、社会保険料控除や医療費控除などのような税金の控除も、介護負担の軽減に役立てられる制度です。

さらに厚生労働省は低所得者の負担を抑制し、収入に合わせた負担を実現する体制作りを進めています。

しかし、要介護者が増加し続ける現在、介護保険制度を維持するためにも抜本的な取り組みが必要です。
持続可能な社会保障制度の実現には、まだ時間を要すると見られています。

参照:給付と負担について(参考資料)|厚生労働省

3.「介護難民」の問題点と原因

介護難民とは、要介護状態であるにもかかわらず、介護サービスを受けられない人を指す言葉です。
介護ができる家族がいなかったり、身近に利用できる介護施設がなかったりする状況に置かれている人は少なくありません。

介護難民は、要介護者の増加に対し、介護事業所や介護スタッフの数が追いついていない状況で発生します。
そのため、人手不足が解消されない限り、介護難民は増加する可能性があります。

介護難民は、要介護者の家族が介護のために離職する「介護離職」の原因になる問題です。
適切な介護サービスが受けられない状況が続けば、介護を担う家族が経済的・精神的な負担を強いられ続ける状況になります。

また、老老介護や認認介護の原因にもなるなど、さまざまな問題を派生させる恐れがあります。

解決・対応策

介護難民の問題を解決するうえで、国が積極的に推し進めている対策が地域包括ケアシステムです。

地域包括ケアシステムとは、地域包括支援センターを中心に、介護事業所・医療機関・自治会やボランティア団体などが連携し、地域密着型でケアを実施していく取り組みです。
さまざまな専門家が連携し、包括的にサポートすることにより、必要な介護サービスや支援を提供できる体制を構築できます。

地域包括ケアシステムは高齢者の孤立化や、老老介護・認認介護の解決も期待できる施策です。

参照:地域包括ケアシステム|厚生労働省

4.「老老介護と認認介護」の問題点と原因

老老介護は高齢者が高齢者を介護する状態、認認介護は認知症患者を介護している人も認知症を発祥している状態を指します。
老老介護や認認介護が発生する背景には、要介護者の増加に加え、平均寿命が延びたことが挙げられます。

医療の進歩によって平均寿命が延び、夫婦や親子がともに高齢化するケースが増加しました。
その結果、介護サービスを受けられない状況では、高齢化した家族が要介護者のケアをする状況に陥ります。

この状況が続けば、認知症の要介護者をケアしている家族が認知症を患うと、そのまま認認介護に発展するリスクがあります。

また、核家族化の進行も老老介護や認認介護の原因です。
親子が別々で暮らす核家族世帯は、夫婦だけで生活しているケースが多く、いずれかが要介護者になれば、同居している家族が介護の負担を背負うことになります。

解決・対応策

老老介護や認認介護の解決においても、地域包括ケアシステムの存在は重要です。
介護や医療の専門家と地域のコミュニティが一体となって包括的に支援することにより、老老介護に陥る前に効果的なサービスの提供が期待できます。

また、認知症への対応においても、地域包括ケアシステムは有効です。

チームオレンジやオレンジカフェのように、専門家と地域が一体となって認知症の患者やその家族を支援する試みが、さまざまな自治体で積極的に実践されています。

参照:地域包括ケアシステム構築 へ向けた取組事例 ~埼玉県川越市の取組~|厚生労働省
参照:認知症に関する政府の取組について|厚生労働省

5.「高齢者の孤立化」の問題点と原因

昨今は男女問わず、以下の表のとおり一人暮らしの高齢者が増加傾向にあります。

参照:高齢社会白書|内閣府

近年は核家族化や少子化によって家族で過ごす世帯が減少しているうえに、地域のつながりも希薄となりつつあります。
上記のデータからもわかるとおり、一人暮らしの高齢者が増加するようになりました。

高齢者の一人暮らしにおいて、注意すべき問題のひとつが孤独死です。
一人暮らしの高齢者は体調の変化があっても、周囲に気付かれにくい傾向があります

また、一人暮らしでは認知症の進行に気付きにくい点も問題です。
認知症が進行すれば当人が日常生活を送れなくなるだけでなく、近隣住民とのトラブルや犯罪に発展する恐れがあります。

解決・対応策

一人暮らしの高齢者を支援するには、家族だけでなく、地域や社会全体の支援や、孤立を解消できるコミュニティ作りが不可欠です。
国は厚生労働省だけでなく、地域のコミュニティやNPO法人などが連携し、見守り支援を行ったり、交流の場を提供したりしています。

また、インターネットを活用し、オンラインでのパソコン講座やビデオ通話などを行う取り組みも実践されています。

参照:日本における社会的孤立の動向と課題・論点|厚生労働省
参照:高齢者の社会的孤立の防止対策等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告|総務省
参照:孤独・孤立対策の重点計画|厚生労働省

6.「高齢者の虐待」の問題点と原因

高齢者の虐待は、増加傾向にあります。
暴力や暴言、性的虐待など、虐待に該当する行為は多種多様です。

出典:高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業|厚生労働省

上記のグラフでわかるように、高齢者の虐待は年々増加しています。

高齢者の虐待は、介護に疲れた家族がストレスで要介護者に暴力を振るったり、介護を放棄したりするケースもあれば、介護施設で発生するケースもあります。
介護施設で発生する虐待の場合、さまざまな要因が関係している点に注意が必要です。

出典:高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業|厚生労働省

上記の表にあるとおり、ストレスや感情のコントロールだけでなく、職場の人間関係の悪化や、人員不足が虐待の原因になるケースも散見されます。
そのため、介護施設で発生する高齢者の虐待には、多角的な観点から対応しなければなりません。

解決・対応策

厚生労働省は高齢者の虐待を防止するため、虐待防止のマニュアルの公開やモデルケースを発信する調査研究事業の立ち上げなどを行っています。

また、2024年の介護報酬改定で、厚生労働省は高齢者虐待防止措置未実施減算を新設しました。
これは、介護事業所が虐待防止に係る措置を行わなかった際に発生する減算です。

さらに家庭内での高齢者虐待を防止するため、地域包括支援センターや自治体などによる、要介護者家族への支援も重要な対策に位置付けられています。

参照:高齢者虐待防止|厚生労働省
参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

7.「成年後見人トラブル」の問題点と原因

成年後見人とは、認知症や精神障がいなどによって判断力が衰えた人の代わりに、保護や援助・財産管理を行う人を指します。

本来であれば、成年後見人は高齢者や要介護者の支援を行う重要な立場です。
しかし、昨今は成年後見人が管理すべき財産を私的に利用したり、権限を乱用したりするケースが少なくありません。

成年後見人は被後見人の代理として不動産の売買や契約の解除など、財産を管理できる強力な権限を持っています。
そのため、立場への理解が低いと、不正を起こすリスクが高まります。

さらに親族が成年後見人の場合、相続トラブルに直結することで、より問題が深刻化するケースも少なくありません。

解決・対応策

成年後見人のトラブルを防ぐために、厚生労働省は家庭裁判所や法律の専門家などが連携した、地域連携ネットワークの構築を提唱しました。
この取り組みにより、法律の専門家が連携し、適切な後見人の選任や交代ができるようにする体制作りが進められています。

また、適切な報酬の算定や不正防止を徹底するために、成年後見人制度の見直しも検討されています。

参照:成年後見制度の現状|厚生労働省

介護問題に向け事業者ができることとは?

介護問題は国や自治体が主体となって解決に取り組むべきものです。
しかし、介護事業者にも貢献できることがあります。

介護事業者でも実行できる施策には以下のようなものがあります。

  • 多様な人材の採用
  • 働き方改革の実施
  • ITやICTによる介護業務の効率化

それぞれ順番に解説するので、参考にしてください。

多様な人材の採用

少子高齢化が進み、労働人口が減少している昨今、介護業界の人手不足を解消することは容易ではありません。
しかし、多様な人材を採用することにより、足りない人員をカバーできます。

例えば、外国人介護士の採用です。

昨今、日本政府がベトナムやフィリピンから介護に携わる人材を積極的に受け入れているうえに、EPAルートによって外国人が介護福祉士資格を取得する方法も確立されました。

優秀な外国人人材を受け入れられれば、人手不足を解消できる可能性が高まります。

また、介護専門の派遣会社を利用する方法も有効です。
短期間でも採用できる派遣スタッフを必要に応じて採用すれば、人員が変動しても柔軟に対応できます。

働き方改革の実施

人手不足を解消するなら、ただ人を採用するだけでなく、既存のスタッフが離職しないように職場環境を整備することも重要です。

施設の離職率を低下させるなら、働き方改革を実施しましょう。
長時間労働の抑制や多様な働き方の導入など、働く環境の改善は人員の定着率を向上させる効果が期待できます。

さらに煩雑な業務を整理したり、業務上の悩みに対応できる窓口を設置したりすることも働き方改革につながります。
2024年の介護報酬改定により、介護事業所の生産性向上やスタッフの処遇改善につながる施策は加算の対象になりました。

つまり、働き方改革は介護事業所の評価を向上させるきっかけにもなる取り組みです。

ITやICTによる介護業務の効率化

ITやICTによる介護業務の効率化には、さまざまなメリットがあります。

IT・ICTの導入によって申し送りや情報共有をスムーズにできるようにすれば、利用者の状況を把握しやすくなり、必要なケアを確実に提供できます。
また、最先端の設備を活用し、利用者の見守りを自動化したり、バイタルチェックを効率化したりすれば、サービスの品質向上が可能です。

少ない人員で現場を回せる体制を構築するうえでも、ITやICTの導入は有効な施策です。
業務負担の軽減は働きやすい環境作りにもつながるため、積極的に実践する介護事業所が増えています。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

数多く存在する介護にまつわる課題の中でも特に注目をしていただきたいのは、生活保護受給者の介護保険利用についてです。生活保護の財源は税金から成り立っています。介護保険もその財源の半分は税金です。生活保護受給者は介護扶助という形で自己負担なく介護サービスを利用可能です。もちろん介護が必要な方が適正に介護サービスを利用することは何も問題ありません。問題は、サ高住や住宅型有料を営む事業所が、各自治体の生活支援課との結びつきを強化し、優先的に生活保護者の入居を促進し、必要のない介護サービスを提供(週7日デイサービス利用など)している現状です。このような施設の数は年々増え続けています。このような『税金の浪費』が問題視され、介護報酬は削減されていき、真面目に運営している施設にまで影響を及ぼしているのです。

介護問題に伴うニーズに対応するならワイズマンシステムSPがおすすめ

本記事で解説した介護問題には、介護ニーズの高まりに介護事業所が応えられていないために発生しているものもあります。

そのため、介護事業所は介護ニーズに応えられる体制作りを進めなければなりません。
高まる介護ニーズに応える体制を構築するなら、ぜひ弊社「株式会社ワイズマン」のワイズマンシステムSPをご検討ください。

業務効率化により人手不足に対応

ワイズマンシステムSPは請求や申し送りなど、煩雑になりがちな事務作業を電子化することにより、業務の効率化を実現できる介護システムです。
業務の効率化を進めれば、少ない人員でも現場を回しやすくなり、業務負担を削減できます。

また、業務の効率化はスタッフが利用者へのケアに集中しやすい環境につながる取り組みです。
スタッフが利用者へのケアに集中できれば、自然とサービスの質を向上させられます。

スムーズな情報共有でトラブルを防止

ワイズマンシステムSPは、さまざまなオプションを追加できる点も魅力です。

例えば、記録支援オプションを追加すれば、利用者の情報や介護の記録をタブレットやスマートフォンで確認できます。
活用すれば、スタッフ間でスムーズに情報を共有できるため、万が一介護中にトラブルが発生してもスピーディーに対応できます。

介護事業所も介護問題の解決に貢献できる

少子高齢化による人口減少・年代別の人口の変化によって、日本はさまざまな介護問題を抱えることになりました。
さらに介護業界の人手不足も、介護問題に拍車をかけている状況です。

しかし、本記事で紹介した介護問題は、いずれも対応・解決策が講じられており、なかには介護事業所が解決に貢献できるものもあります。

加えて、介護問題をあらためて学ぶことにより、自施設に応えられるニーズも明らかになります。
ぜひ、本記事で学んだことを、介護事業所の運営に活用してください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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