介護における口腔ケアのやり方!利用者が嫌がる理由と意識すべきポイント
2024.07.16
介護現場であれば、利用者の口腔ケアを行う場面は珍しくありません。
利用者の健康を維持するためにも、口腔ケアは欠かせない取り組みです。
しかし、利用者への口腔ケアは簡単な作業ではありません。
利用者の感情や体調に合わせて、負担をかけないように実施する必要があります。
本記事では、介護における口腔ケアのやり方について解説します。
利用者が嫌がる理由や、実践する際に意識すべきポイントについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
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目次
口腔ケアとは
口腔ケアとは、歯磨きやうがいなど、口腔を清潔にするためのケアです。
口腔ケアには、大きく分けて以下の2種類があります。
- 器質的口腔ケア:口内を清潔に保つためのケア
- 機能的口腔ケア:口腔機能の維持や回復のために行うケア
歯磨きのように、歯や歯茎を洗浄するためのケアは器質的口腔ケアに該当します。
うがいや入れ歯の洗浄なども器質的口腔ケアの一種です。
対して、機能的口腔ケアはリハビリの一環として行われるものであり、トレーニングやマッサージによって口腔機能の低下を防ぐことを目的としています。
利用者が歯磨きを嫌がる4つの理由
利用者が歯磨きを嫌がる理由には、以下のようなものがあります。
- 歯磨きに必要性を感じていない
- 歯磨きに不快感を覚えている
- 歯磨きのやり方を忘れている
- 口内に傷がある
口腔ケアをスムーズに完了させるには、利用者への配慮が欠かせません。
歯磨きを嫌がる理由を学び、利用者の気持ちに寄り添いましょう。
歯磨きに必要性を感じていない
当然ながら、利用者が歯磨きに必要性を感じていなければ協力的になってくれません。
実際、要介護者・健常者を問わず、歯磨きを面倒だと感じる人は珍しくありません。
しかし、利用者にとって歯磨きは重要な口腔ケアです。
口内で細菌が増殖すれば、虫歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎のリスクを高めます。
利用者には、歯磨きが健康を維持するうえで欠かせないケアであることを丁寧に説明しましょう。
歯磨きに不快感を覚えている
歯磨きに不快感を覚える利用者もいます。
年齢を重ねた利用者は、口内に異物が入る感覚を嫌がる傾向があります。
そのため、歯磨きを嫌がる利用者は少なくありません。
利用者によっては、他人に歯磨きをされる状況に抵抗感を覚えるケースもあります。
特に、過去に介護スタッフが強引に歯磨きをしようとして嫌な思いをした利用者であれば、いっそう拒否反応を示すでしょう。
歯磨きのやり方を忘れている
利用者によっては、認知症の進行によって歯磨きのやり方を忘れていているケースがあります。
認知症を患っている利用者は、歯磨きを「口の中に異物を突っ込まれる行為」と捉えている場合があります。
このような利用者に強引に歯磨きをしようとすれば、激しく抵抗されかねません。
認知症を抱えている利用者に対しては、歯磨きの意味を毎回説明する必要があります。
口内に傷がある
口内に傷がある状態であれば、歯磨きをすると痛みで拒否反応を示す場合があります。
特に高齢の利用者は、乾燥によって口内に傷ができていたり、歯茎が下がってしみやすくなっていたりします。
その状態で歯磨きをすると、利用者が痛みを感じ、口腔ケアを拒否しかねません。
歯磨きを行う際は、利用者の口内の状況を確認しましょう。
口腔ケアのやり方
口腔ケアのやり方は、利用者の状態によって異なります。
本章では半介助・全介助のケースに分け、それぞれの口腔ケアのやり方について解説します。
半介助の場合
ある程度自身で歯磨きができる半介助の利用者の場合、歯磨きは以下の手順で実施しましょう。
- 1.入れ歯があればあらかじめ外す
- 2.感染予防のために介助者はマスクや手袋を着用する
- 3.介助者は利用者と向き合う体勢を取る
- 4.利用者は両足を床につけ、安定した姿勢を取る
- 5.歯の表側は閉じた状態で磨き、歯と歯茎の間は優しく小刻みに磨く
- 6.歯の裏側は斜め45°を保ちながら根本や歯茎と歯の間を丁寧に磨く
- 7.噛み合わせ部分は汚れをかき出すように磨く
- 8.ひととおり磨いたら、うがいやスポンジブラシで残った汚れを取り除く
半介助の利用者に歯磨きをする際は、あごを上げ過ぎないようにしましょう。
あごを上げ過ぎると肺に水や唾液が入り、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れがあります。
なお、自力で歯磨きができる状態なら、なるべく本人にやらせてください。
必要以上に手を貸すと、利用者の自立を損ない、歯磨きへの意欲が低下します。
全介助の場合
全介助の利用者の場合は、以下の手順で歯磨きを行いましょう。
- 1.感染予防のために介助者はマスクや手袋を着用する
- 2.利用者は45〜60°の角度で起こす。難しければ横向きになってもらう。
- 3.あごを引いた状態にする
- 4.吸引ブラシ・吸引チューブを利用して歯磨きを行う
- 5.取り切れない汚れはうがいやスポンジブラシで取り除く
全介助の利用者は半介助より口腔機能が低下しているため、誤嚥性肺炎になるリスクが高い傾向があります。
歯磨き中は利用者にあごを引かせるだけでなく、水や唾液が入らないように配慮しなければなりません。
もし吸引ブラシ・吸引チューブがなかったら、ガーゼやウェットティッシュを指に巻いてケアしましょう。
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歯磨き以外の口腔ケアのやり方
本章では、歯磨き以外の口腔ケアのやり方を解説します。
いずれのケアも、歯磨きと合わせて行うと、より効果的な口腔ケアを実践できます。
うがいのやり方
自力でできるなら、うがいはなるべく利用者本人にやってもらいましょう。
口腔ケアでは、ブクブクうがいが基本です。
右の頬・左の頬・上唇と歯の間それぞれでブクブクうがいをした後に、口内全体を膨らませてうがいしましょう。
口内清掃のやり方
舌や口内の粘膜は歯ブラシではなく、スポンジブラシや綿棒などを使って清掃します。
舌を清掃する際は、舌苔を掃除しましょう。
舌苔とは舌の上にある白い汚れであり、奥から拭き取るように清掃すると、きれいに除去できます。
口内の粘膜は力を入れてこすらず、優しく丁寧に汚れを取りましょう。
入れ歯の洗浄方法
入れ歯も口内と同様に、清潔にしておかなければ雑菌が増殖する原因になります。
入れ歯の洗浄には、義歯用のブラシと歯磨き粉を使用しましょう。
通常の歯ブラシを利用すると、歯の表面や歯茎部分に傷がつく恐れがあります。
また、ブラシで細かいところまで磨いたら、入れ歯用の洗浄剤で洗ってから付着した洗浄剤とぬめりを取りましょう。
洗浄が終わったら、消毒液の入った容器で保管してください。
なお、入れ歯を洗浄する際は、変形を防ぐために冷たい水を使ってください。
歯茎マッサージのやり方
歯茎マッサージは利用者の口を開きやすくする効果があります。
まず、唇の上から歯を軽く押し、上下に動かします。
その後、口内の歯と歯肉の間を指で優しくこすりましょう。
歯茎マッサージをする際は、必ずビニール手袋をはめましょう。
素手でやると感染症のリスクを高めます。
歯磨きを成功させる6つのポイント
歯磨きを成功させるなら、以下のポイントを押さえましょう。
- 本人の同意を得る
- 積極的にコミュニケーションを取る
- なるべく短時間で終わらせる
- 口内を観察する
- 体調をチェックする
- 歯磨きに役立つグッズを活用する
それぞれのポイントについて順番に解説します。
本人の同意を得る
歯磨きに限らず、あらゆる口腔ケアを実施する際は、利用者本人の同意を得ましょう。
同意を得ないまま無理矢理ケアを行うと、利用者とのトラブルの原因になります。
トラブルがきっかけで利用者が拒絶反応を示すようになったら、いっそう歯磨きがやりにくくなるでしょう。
利用者の同意を得ることは、あらゆるケアを実践するうえでの基本です。
万が一利用者が歯磨きの意義を理解していないなら、丁寧に説明しましょう。
積極的にコミュニケーションを取る
歯磨きをする際に、利用者と積極的にコミュニケーションを取ることも重要です。
歯磨き中に緊張を和らげたり、励ましてあげたりすると、利用者は口腔ケアをポジティブなものとして捉えられるようになります。
また、次の工程に移るたびに一声かけるようにするだけでも、利用者は安心できます。
もちろん、歯磨きをする前にも利用者とは入念にコミュニケーションを取りましょう。
歯磨きを嫌がる利用者であれば、機嫌が良いタイミングで声をかけるなど、アプローチするタイミングをずらすだけでも効果があります。
なるべく短時間で終わらせる
歯磨きをはじめとする口腔ケアは、なるべく短時間で終わらせることが重要です。
高齢化すると唾液量が少なくなるため、長時間口腔ケアを続けると口内が乾燥し、利用者が不快感を覚える恐れがあります。
そのため、口腔ケアはなるべく短時間で終わらせ、利用者に不快感を与えないようにしましょう。
口内を観察する
口腔ケアを行う際は、口内の観察を忘れないようにしましょう。
口内に傷がある状態で歯磨きをすると、利用者が痛がります。
口内の様子に合わせて歯磨きに使う道具を切り替えれば、利用者への負担が少なくなります。
また、口内炎や口臭の有無などをチェックし、利用者の健康状態を確認することも重要です。
もし異常を発見したら、歯科医に相談しましょう。
体調をチェックする
歯磨きをする際の体調のチェックも不可欠です。
体調が悪い状態で無理に行っても、利用者の負担が増え、より歯磨きを嫌がるようになります。
歯磨きをはじめとする口腔ケアは健康維持に欠かせないものですが、利用者の体調を優先して実行しましょう。
体調不良時は歯磨きを翌日に回すなど、利用者の体調に寄り添うことが重要です。
歯磨きに役立つグッズを活用する
歯磨きに役立つグッズを活用すると、スムーズに口腔ケアを進められます。
歯ブラシ以外にもスポンジブラシ・歯磨きシート・モアブラシなど、利用者の負担を減らしながら口内をきれいにできるグッズは多くあります。
また、口内の乾燥を防ぐうるおいジェルのように利用者の負担を減らすグッズもおすすめです。
高齢者の口腔ケアは、肺炎予防と直結しています。肺炎は日本人の死因として第5位であり、肺炎で亡くなる方の98%が65歳以上の高齢者となっているのです。肺炎の原因も様々なのですが、高齢者ケアにおいては、誤嚥性肺炎の予防が重要であり、こちらが口腔ケアとの関係性が密接なものになっています。歯をよく磨く人方でも1000~2000億個、ほとんど磨かない人では1兆個もの細菌がすみ着いているといわれています。このように口腔内は細菌だらけなのですが、高齢者の場合こうした細菌混じりの唾液などを誤嚥することで、誤嚥性肺炎のリスクが一気に増してしまいます。また、不顕性誤嚥といって、むせなかったりと誤嚥の徴候が不明なまま誤嚥しているケースも高齢者の場合非常に多くなるため、就寝前の口腔ケアは特に重要なのです。
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ポイントを押さえれば介護時の歯磨きはスムーズに完了する
歯磨きをはじめとする口腔ケアは、利用者の健康を守るうえでも重要な作業です。
しかし、利用者が嫌がる理由や体調に配慮しなければ、スムーズに実行できません。
歯磨きをスムーズに終わらせるなら、利用者と積極的にコミュニケーションを取りましょう。
利用者の状態を正確に把握することは、歯磨きに限らず、あらゆる介護サービスを提供する際の基本的な取り組みです。
利用者に寄り添い、適切なケアを実践できるように努めましょう。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。