【医療業界動向コラム】第100回 長期収載品の処方等に係る選定療養費の計算方法、疑義解釈等が公表。退院時処方は入院の場合と同様に扱う
2024.07.23
本年10月から一部の長期収載品(対象:1095品目)を希望する患者に対する選定療養(従来は認められていない混合診療について、患者本人が追加費用を負担することで医療保険適用外の治療を医療保険適用と併せて保険診療を受けることができる療養の種類の一つ)による一部自己負担を求める新たなルールが始まる。改めての確認だが、院内処方をする保険医療機関と保険薬局がその対象となる。なお院内処方については、入院中の患者は対象外となる。また、「医療上必要がある」と保険医・保険薬剤師が判断する場合は、対象となる長期収載品であっても全額保険給付となる。なお、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、当該保険医療機関・薬局において後発医薬品の提供が困難であり、長期収載品を調剤せざるを得ない場合には、患者が希望して長期収載品を選択したことにはならないため、この場合も保険給付となる。
令和6年7月12日、本年10月からの後発医薬品のある一部の長期収載品の選定療養に関する具体的な計算式とマスタ、疑義解釈としての「医療上の必要性」に関する具体的な考え方が「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」で示された。実際の費用の計算に用いるマスタも用意され、具体的な手順が示されている。
なお、15円以下の薬剤料は1点となるので、薬剤料の点数1点=10円(+消費税10%)で算出される。
疑義解釈として「医療上必要がある」ことの考え方についても、かなり具体的に示されている。診療ガイドラインとの兼ね合いや難病助成などの公費負担医療の患者のケースなどの扱いも明確にされた。以下にそのポイントを整理して紹介する。
- 長期収載品と後発医薬品で薬事上承認された効能・効果に差異がある場合
- 当該患者が後発医薬品を使用した際に、副作用や、他の医薬品との飲み合わせによる相互作用、先発医薬品との間で治療効果に差異があったと医師等が判断する場合
- 学会が作成しているガイドラインにおいて、長期収載品を使用している患者について後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合
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※上記の3つについては、保険薬局の場合は疑義照会をしたうえで判断
- 後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いがある場合
※上記については、疑義照会せずに薬局で判断。ただし、結果を処方元に報告する - 使用感や剤形の好みなどは医療上の必要性には該当(想定)しない
院内処方についてだが、院内採用品に後発医薬品がない場合の扱いについては、提供することが困難に該当し、対象となる長期収載品は保険給付で構わないとされている。ただし、そのあとに続く文章には、後発医薬品も院内処方ができるようにすることが望ましいと記載されている点に注目をしたい。2029年度末をゴールとする第4期医療費適正化計画では、引き続き後発医薬品の使用割合を数量ベースで80%以上を全都道府県で達成すること、さらに65%という金額ベースの副次目標とバイオシミラーの目標(80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上)を設定する方針だ。患者の要望に応える観点、国が掲げる目標を達成するためにも、後発医薬品を提供できる体制を整備していくことは必要だといえる。
ほか、退院時処方については入院と同様に扱うことが明確にされた。
公費負担医療の患者についてだが、選定療養の対象となることが明確にされている。自治体独自のこども医療費も同様の扱いだ。今後、患者に対する説明用資料の提供なども予定されている。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。