居宅介護支援事業所の経営戦略|介護報酬改定や経営実態を解説
2024.09.19
居宅介護支援事業所を運営するには、長期的に黒字化できるよう経営戦略を策定する必要があります。
居宅介護支援事業所は、他の開業事業所に比べて赤字が続きやすい職種です。
事業を黒字化させて経営を安定させるために、経営戦略を立案しましょう。
本記事では、居宅介護支援事業所を黒字化させるための経営戦略について詳しく解説します。
居宅介護支援事業所の介護報酬改定や経営実態についても解説するため、ぜひ最後までご覧ください。
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目次
居宅介護支援事業所の経営実態
居宅介護支援事業所の経営戦略を立てる際には、他の事業所がどの程度収益を得ているのかを確認しておきましょう。
居宅介護支援事業所の経営実態を確認するために、次の数値をご紹介します
- 収支差率
- 給与費割合
- 事業所あたりの収支額
居宅介護支援事業所の経営実態を確認して、経営戦略を策定する際の参考にしましょう。
収支差率
厚生労働省が公表している「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、令和3年と令和4年度の居宅介護支援における収支差率は、次のとおりでした。
介護事業の種類 | 令和3年度の収支差率 | 令和4年度の収支差率 |
居宅介護支援 | 3.7% | 4.9% |
訪問介護 | 5.8% | 7.8% |
介護老人福祉施設 | 1.2% | 1.0% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 8.1% | 11.0% |
全サービス平均 | 2.8% | 2.4% |
収支差率とは、介護サービスの収入額から支出額を引いて、収入額で割った比率です。
他の介護事業における収支差率と比較してみると、訪問介護事業などよりは少ないですが、全サービスの平均値よりは高い数値を記録しています。
給与費割合
厚生労働省が公表している「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、居宅介護支援の収入に対する給与費の割合は、次のとおりでした。
介護事業の種類 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
居宅介護支援 | 80.1% | 78.2% | 76.9% |
訪問介護 | 72.3% | 73.9% | 72.2% |
介護老人福祉施設 | 64.1% | 64.3% | 65.2% |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 78.4% | 78.5% | 73.4% |
居宅介護支援事業は、訪問介護や介護老人福祉施設など他の介護事業に比べて、収入に対する給与費の割合が高いです。
事業所あたりの収支額
居宅介護支援事業所における事業所あたり収支額は、次のとおりでした。
収支項目 | 令和元年度(千円/月) | 令和2年度(千円/月) | 令和3年度(千円/月) | 令和4年度(千円/月) |
収入 | 1,126 | 1,192 | 1,256 | 1,352 |
支出 | 1,144 | 1,170 | 1,209 | 1,286 |
差引 | -18 | 22 | 46 | 66 |
事業所あたりの収入から支出を差し引いた差引額は、月額10万円以下です。
居宅介護支援事業所を運営する際には、収支額が黒字になるよう支出を抑えて、収入を増やす経営戦略を立てましょう。
居宅介護支援事業所を経営するメリットとデメリット
居宅介護支援事業所の経営を検討している場合は、事業を立ち上げるメリットとデメリットを確認しておくべきです。
メリットとデメリットを確認したうえで、居宅介護支援事業所の経営を始めるべきか検討しましょう。
メリット
居宅介護支援事業所を経営するメリットは、次のとおりです。
- 自宅で始められる
- 低コストで始められる
- 自由な働き方を実現できる
- 主任ケアマネージャーの資格があれば1人で始められる
居宅介護支援事業所は、事務所を借りなくても自宅で始められるため、起業しやすい特長があります。
また他の介護事業所のように場所や介護用具を準備する必要がないため、費用を抑えて起業できます。
自分で起業する場合は、「いつ働くか」「収支のどの程度を自分の報酬とするか」など、働き方や給与を自由に決められる点もメリットの1つです。
さらに居宅介護支援事業所を経営するには、主任ケアマネージャーを1人配置すれば良いため、従業員を雇わずに1人でも起業できます。
起業の始めやすさとフリーランスのように自分で働き方を決められる点が、居宅介護支援事業所を経営するメリットです。
デメリット
居宅介護支援事業所を経営するデメリットは、次のとおりです。
- 営業能力がなければ顧客を獲得できない
- 一定以上の知識とノウハウが必要
- 起業手続きに準備が必要
まず居宅介護支援事業所を経営するには、顧客を獲得するための営業力が求められます。
起業しても顧客獲得に難航した場合、収支を黒字化できず経営が傾いてしまいます。
また介護知識だけでなく、経理や社会保険料などの経営に関する知識とノウハウも必要になるため、事前に勉強しておく必要があります。
居宅介護支援事業所を立ち上げるにも、必要書類を提出したり広報戦略を実施したりと、事前準備が必要です。
煩雑な起業準備を自分で行わなければならない点も、居宅介護支援事業所を経営するデメリットに含まれます。
居宅介護支援事業所の経営が黒字化しにくい理由
先ほどご紹介した「令和5年度介護事業経営実態調査結果」でも、一般的な業種に比べて収支額が少なく、居宅介護支援事業所は黒字化しにくい特性があります。
居宅介護支援事業所の経営が黒字化しにくい理由は、次のとおりです。
- 利益が少ない
- 黒字化には一定の利用者数が必要
- 介護報酬改定の影響を受けやすい
各理由を確認して、居宅介護支援事業所の経営を黒字化させるための戦略を立てましょう。
利益が少ない
居宅介護支援事業所は、得られる利益が少ないため、経営を黒字化させにくいです。
「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、居宅介護支援事業所の利用者1人あたりの月額収入と支出は次のとおりでした。
年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
利用者1人当たりの収入(補助金収入を含む) | 12,747円/月 | 12,944円/月 |
利用者1人当たりの支出 | 12,241円/月 | 12,287円/月 |
利用者1人あたりの差額 | 506/月 | 657/月 |
利用者1人あたりから月々に得られる収支を見ると、収入から差額を引いた数百円程度しかありません。
居宅介護支援事業所は、ケアプランを作成することで得られる介護報酬が収入の大半を占めていますが、そもそも利用者1人あたりの利益が少ないため経営を黒字化させにくいです。
黒字化には一定の利用者数が必要
利用者1人あたりの収益が少ないため、居宅介護支援事業所の経営を黒字化させるには、一定の利用者数が求められます。
「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、利用者数ごとの居宅介護支援事業所の収支は次のとおりでした。
利用者数 | 事業所あたりの収支額(千円/月) | 事業所あたりの支出額(千円/月) | 事業所あたりの差額(千円/月) |
40人以下 | 339 | 355 | -16 |
41~60人 | 538 | 547 | -9 |
61~80人 | 824 | 865 | -41 |
80人~100人 | 1,116 | 1,104 | 13 |
101~150人 | 1,583 | 1,588 | -5 |
151~200人 | 2,330 | 2,127 | 203 |
201人以上 | 4,199 | 3,683 | 515 |
利用者数が80人以下の事業所は赤字経営に陥っており、80〜100人の利用者数を確保してようやく黒字化できています。
しかし利用者数100〜150人の事業所でも赤字化しているため、安定的に黒字経営を続けるには150人以上の利用者数が必要です。
ただし利用者を過度に増やしすぎると、従業員の負担が大きくなり業務を円滑に進められない可能性があります。
従業員数と利用者数のバランスを図りながら、黒字化するために経営戦略を練ることが大切です。
介護報酬改定の影響を受けやすい
居宅介護支援事業所は他の介護事業所と同じく、介護報酬改定の影響を受けやすい特性があります。
介護報酬は3年に1度見直され、直近では令和6年に改定が実行されました。
令和6年の介護報酬改定では、居宅介護支援事業所の単位数や加算要件が改定されています。
介護報酬改定が、事業所にとってプラスになれば問題ありません。
しかし、マイナスになる改定が実施された場合は経営に悪影響をもたらします。
近年は介護支援事業所全体の黒字化が進んでおり、報酬の引き上げが不要だと厚生労働省が判断する可能性があります。
収入の大半を介護報酬に依存する居宅介護支援事業所において、報酬制度が3年に1度見直される介護報酬改定は、経営を不安定にさせる要素の1つです。
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居宅介護支援事業所をの介護報酬改定について
令和6年に介護報酬改定が行われましたが、介護業界で経営するなら、具体的にどのような改善策が実施されたか知っておくべきです。
厚生労働省の「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」をもとに、令和6年4月1日に施行された介護報酬改定を解説します。
加算単位数の見直し
令和6年の介護報酬改定によって、加算単位数が次のように見直されました。
特定事業所加算 | 改定前(単位/月) | 改定後(単位/月) |
(Ⅰ) | 505 | 519 |
(Ⅱ) | 407 | 421 |
(Ⅲ) | 309 | 323 |
(A) | 100 | 114 |
介護報酬改定によって、すべての特定事業所加算における加算単位数が増えています。
算定要件の見直し
令和6年の介護報酬改定によって、指定居宅介護支援事業所における算定要件が次のように見直されました。
改定前 | 改定後 | |
① | 専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の主任介護支援専門員を配置していること | 専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の主任介護支援専門員を配置していること ※利用者に対する指定居宅介護支援の提供に支障がない場合は、当該指定居宅介護支援事業所の他の職務と兼務をし、または同一敷地内にある他の事業所の職務と兼務をしても差し支えない |
② | 専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の介護支援専門員を配置していること | 専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の介護支援専門員を配置していること ※利用者に対する指定居宅介護支援の提供に支障がない場合は、当該指定居宅介護支援事業所の他の職務と兼務をし、または同一敷地内にある指定介護予防支援事業所の職務と兼務をしても差し支えない |
③ | 利用者に関する情報またはサービス提供に当たっての留意事項に係る伝達などを目的とした会議を定期的に開催すること | |
④ | 24時間連絡体制を確保し、かつ、必要に応じて利用者などの相談に対応する体制を確保していること | |
⑤ | 算定日が属する月の利用者の総数のうち、要介護状態区分が要介護3・要介護4または要介護5である者の占める割合が100分の40以上であること | |
⑥ | 当該指定居宅介護支援事業所における介護支援専門員に対し、計画的に研修を実施していること | |
⑦ | 地域包括支援センターから支援が困難な事例を紹介された場合においても、当該支援が困難な事例に係る者に指定居宅介護支援を提供していること | |
⑧ | 地域包括支援センターなどが実施する事例検討会などに参加していること | 家族に対する介護などを日常的に行っている児童や、障がい者、生活困窮者、難病患者など、高齢者以外の対象者への支援に関する知識などに関する事例検討会、研修などに参加していること |
⑨ | 居宅介護支援費に係る運営基準減算または特定事業所集中減算の適用を受けていないこと | 居宅介護支援費に係る |
⑩ | 指定居宅介護支援事業所において指定居宅介護支援の提供を受ける利用者数が当該指定居宅介護支援事業所の介護支援専門員1人当たり40名未満(居宅介護支援費(Ⅱ)を算定している場合は45名未満)であること | 指定居宅介護支援事業所において指定居宅介護支援の提供を受ける利用者数が当該指定居宅介護支援事業所の介護支援専門員1人当たり45名未満(居宅介護支援費(Ⅱ)を算定している場合は50名未満)であること |
⑪ | 介護支援専門員実務研修における科目「ケアマネジメントの基礎技術に関する実習」などに協力または協力体制を確保していること(平成28年度の介護支援専門員実務研修受講試験の合格発表の日から適用) | |
⑫ | 他の法人が運営する指定居宅介護支援事業者と共同で事例検討会、研修会などを実施していること | |
⑬ | 必要に応じて、多様な主体などが提供する生活支援のサービス(インフォーマルサービスを含む)が包括的に提供されるような居宅サービス計画を作成していること |
参照元:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
13項目ある算定要件のうち、4項目が介護報酬改定によって改善されています。
居宅介護支援事業所の経営を黒字化させるための戦略
居宅介護支援事業所の経営を黒字化させるための戦略は、次のとおりです
- 利用者数の目標を定める
- 介護ソフトを導入する
- 特定事業所加算を取得する
各戦略を確認して、黒字化を目指して経営戦略を立案しましょう。
利用者数の目標を定める
居宅介護支援事業所の経営を黒字化させるコツは、利用者数の目標を定めることです。
居宅介護支援事業所は利用者1人あたりの収益が少ないため、一定の利用者数を確保しなければ、経営を黒字化させられません。
従業員数や諸経費、事業所の賃貸料など、さまざまな支出を計算して「利用者が何人いれば経営が黒字化するか」獲得するべき利用者数を算出しましょう。
利用者数の目標が定まれば、十分な利用者を得るために広報活動や営業活動を実施してください。
介護ソフトを導入する
介護ソフトを導入して、業務を効率化すれば生産性が向上します。
生産性が低い事業所では、十分なサービスを提供するために従業員を多く雇わなければなりません。
従業員数が多いと人件費も高くなるため、支出が増えて赤字経営に陥りやすいです。
介護ソフトを導入して、必要最低限の従業員数で仕事を回せれば人件費の削減につながります。
また介護ソフトを導入すれば、リソースを削減して高品質なサービスを利用者に提供することが可能です。
そのため顧客満足度が向上し、口コミや評判から新規顧客を獲得できる可能性があります。
介護ソフトを導入して、生産性を向上させ従業員の削減と顧客満足度向上につなげて、経営を黒字化させましょう。
特定事業所加算を取得する
特定事業所加算とは、質の高いサービスを提供している事業所に対して、加算算定を行う介護報酬制度です。
種類によって算定要件と単位数が異なりますが、特定事業所加算を取得すれば介護報酬を増やせます。
居宅介護支援事業所は、介護報酬を増やすことで黒字化できるため、特定事業所加算の取得が重要です。
従来居宅経営は、デイサービスや訪問介護など併設サービスありきで設計されていました。居宅自体は赤字でも、併設サービスの売上で補填するようなモデルがスタンダードという異常な状況でした。また、併設サービスへ誘導するには少人数のケアマネでも可能なので、こうした居宅の事業規模は自ずと小規模となっています。サ高住や住宅型有料併設施設などを中心に、こうした利用者の『囲い込み』が問題視されていきました。小規模居宅の経営が更に厳しくなるよう政策誘導された結果、現状のようにケアマネを多数配置し大規模化していくことで経営が安定する建付けになっているのです。つまりは大規模化することで居宅単独でも十分収益化することが可能となり。逆に小規模居宅の経営難易度は上がり続けています。居宅経営は規模の設計が非常に重要なのです。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
居宅介護支援事業所向けの記録支援ソフトなら「すぐろくケアマネ」がおすすめ
居宅介護支援事業所向けの記録支援ソフトなら「すぐろくケアマネ」がおすすめです。
「すぐろくケアマネ」を導入すれば、記録入力から情報参照までをタブレットひとつで完結できます。
介護支援経過などを出先やスキマ時間に記録できるため、手書きのメモを転記する手間を削減し、業務を効率化できます。
煩雑化しやすい事務業務をシステム上で行えるため、生産性を向上させてより高品質なサービスを利用者に提供できます。
利用者満足度が向上すれば、事業所の評判が高まり経営の黒字化にもつながるためおすすめです。
居宅介護支援事業所の経営戦略を見直して黒字化を目指そう
居宅介護支援事業所の経営戦略を見直して黒字化を目指すには、利用者数の目標を定めることが大切です。
居宅介護支援事業所は、介護報酬が低く一定の利用者数を確保しなければ黒字化できないため、経営を安定させられる利用者数の確保が先決です。
経営を黒字化させるには、起業してから1~2年ほどかかりますが、事前に目標を定めて営業活動、広報活動を行えば黒字化の目安が見えてきます。
経営戦略を立案する際には、経営を安定、向上させるための目標数値が必要です。
介護ソフトを導入して業務効率を向上させることで、従業員の負担を減らして定着率・生産性を向上できます。
居宅介護支援事業所の経営戦略として、まずは介護ソフトを導入して円滑に事業を運営できる体制を整えましょう。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。