【介護業界動向コラム】第1回 令和6年度介護報酬改定における介護の生産性向上とICTの重要性
2024.07.31
本コラムでは、介護業界のICT活用・介護DXに関する情報や考え方についてお伝えしていきます。第1回目となる今回は、介護の生産性向上とICTの関係性、令和6年度介護報酬改定に盛り込まれたICT活用に関する内容から確認していきましょう。
さて、まず介護の生産性向上についてですが、みなさんは厚生労働省が公開する『介護分野における生産性向上ポータルサイト』(※1)をご覧になったことはあるでしょうか。このサイトには介護の生産性向上が必要となる背景やその目的、具体的な進め方やツールに関する情報が分かりやすくまとめられています。詳細についてはそちらで確認していただくとして、介護の生産性向上においてICTは「介護の質の維持・向上」に関して欠かせないツールになります。
より具体的にはICTを活用し、「間接的業務の効率化を図って時間を短縮すること」「短縮できた時間の分だけ、直接的なケアの時間を増やすこと」で生産性の向上に寄与します。間接的業務とは、記録作成や多職種間の情報共有といった事務作業のことです。間接的業務の多くは、ケアの質を維持・向上するために必要なものですが、そこに必要以上に多くの時間が割かれてしまっている現状をICTにより改善し、現場職員の負担が軽減し働きやすい環境を実現します。
こうしたことを受けて、令和6年度介護報酬改定では、介護の生産性向上、ICTの活用に関する内容が新たに盛り込まれる形になりました。特に施設系・居住系・短期入所系・多機能系のサービスを対象とした「生産性向上委員会の設置義務化」は象徴的です。3年間は経過措置、努力義務になりましたが、次回の介護報酬改定までに着実に準備を進めていく必要があります。また、同時に上記サービスを対象とした「生産性向上推進体制加算」も新設されました。同加算(Ⅱ)では、
- 利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を行っている
- 1つ以上のテクノロジー機器を導入する
- 生産性向上ガイドラインにもとづいた業務改善を継続的に行う
- 生産性向上の取組に関するデータを厚生労働省に提出する(事業年度毎に1回)
の4つが要件になっています。ここでいうテクノロジー機器とは、
- 見守り機器
- インカム
- 介護記録ソフトウェアや介護記録の作成を効率的に行うことができるICT機器
を指します。上位加算の(Ⅰ)では上記の機器を全て使用し、見守り機器は全床設置、インカムは全ての介護職員が使用するなど、要件が厳しくなりますが、最終的にはそちらを目指していく必要があるでしょう。また、ICTの利用を条件とする人員配置基準の緩和も特定施設、老健、グループホームに広がっています。
その他にも、介護保険施設や事業所の従事者に関して、テレワークを「利用者の処遇に支障が生じない範囲」で基本的に容認する考え方が示され、介護・看護職員といった職種でも書類作成などの業務についてはテレワークが可能になりましたし、居宅介護支援・介護予防支援ではテレビ電話装置等(例えばZoomやビジネスチャットなどのビデオ会議ツール)を活用してケアマネジャーがオンラインでモニタリングを実施することも認められました。
今回は以上となりますが、上述の通り介護保険制度においてICTの位置付けはますます重要になっており、今後ICT活用の流れについていけないことは事業所のサービス継続上の死活問題ともなります。是非、みなさんには今後のコラムも参考にしていただきながら、ICT活用に取り組んでいただければ幸いです。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。