【医療業界動向コラム】第102回 院内から地域へ拡大するポリファーマシー対策、その手順を解説
2024.08.06
令和6年7月22日、厚生労働省のホームページ上で、「「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」及び「地域における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」について」の通知発出について、が公表された。ポリファーマシーとは多剤投与それ自体を意味するのではなく「それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランスの低下等の問題につながる状態」をいう。これまで、厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会にて、病院及びその種類に応じた対策の指針や手順が作成され、公表されてきた。今回は、病院内から地域へと対策を拡大していく取組方について紹介されている。
〇薬剤総合評価調整加算の参考に
令和6年度診療報酬改定では、ポリファーマシーへの取り組みを評価する「薬剤総合評価調整加算」の要件が緩和された。これまで必須とされていたカンファレンスを必須としないこととなった。そこで、院内での手順書等を整備することが要件に加えられ、多職種連携の強化の徹底が重要となる。
今回公表された資料は、この薬剤総合評価調整加算の算定に向けた手引きのようになっている。ポイントは、「病棟横断的な専門医療チームのほか、入院前支援チーム、退院支援チームなどの活動に、各医療チームに関連したポリファーマシー対策の視点を加えると、チーム活動とポリファーマシー対策の成果が有機的に結びつき、ポリファーマシー対策を効率的かつ効果的に行うことができる」ということだ。また、「既存の病院内の会議での検討事項にポリファーマシーの視点を加える方法」についても言及している。
なお、「各医療チームに関連したポリファーマシー対策の視点を加える」ということについて、資料ではNST(栄養サポートチーム)との連携を事例に「ポリファーマシーによって食欲低下や嚥下障害が起きている場合、ポリファーマシーの解消によりこれらの問題点が解消されることで栄養状態の改善につながる」と紹介している。
また、退院後のフォローアップについても地域医療連携室を活用した地域を挙げたポリファーマシー対策を実現していくために、地域医療連携室に担当の薬剤師を配置する又は助言することを勧めている。
とはいえ、病院でよく聞かれるのは院内の薬剤師不足の問題だ。そうした問題に対して、次のような3つの対応策を提案している。
- 全ての薬剤師が対応するのではなく、対応可能な薬剤師が取り組む。
- 対応可能な薬剤師が増えるよう、業務効率化に資するテンプレートを作成・活用する。
- 対象とする年齢や薬剤数を限定して対象患者数が多くなりすぎないようにする。
また、オンライン資格確認の基盤を活用した電子処方箋の処方・調剤情報の運用が開始されていることから、「電子処方箋やマイナポータルと連携した電子版お薬手帳などにより薬剤情報を電子的・一元的に管理する方法も活用しながら、患者の処方状況を正確に把握する」といったDXの活用もポイントとして挙げている。
〇地域で取り組むポリファーマシー対策
退院後もポリファーマシー対策を継続していくための仕組みを構築することで、再発・再入院を予防し、間接的に医師をはじめとする医療従事者の負担軽減につながる。そこで、入院中に行われて聞いたポリファーマシーの取組を、退院後も継続して行っていく仕組みが必要になる。薬局との連携が重要な視点になってくるだろう。
今回公表された資料では、地域を挙げて取り組む手順ばかりではなく、モニタリングについてまで記載されているのが特徴だ。その中で注目されるキーワードが「地域ポリファーマシーコーディネーター 」と「薬剤調整支援者」という、いわば地域におけるポリファーマシー対策の推進者を定めることを推奨している点だ。なお、制度化しているものでも資格でもない。ただ、今後の診療報酬改定・調剤報酬改定において、ポリファーマシー対策の評価に何らかの影響や可能性を感じさせる。なお、「地域ポリファーマシーコーディネーター」とは、地域全体を俯瞰してみて対策を進める担当者(地域の中核病院の連携室の医療従事者や薬剤師会に所属する薬剤師)、「薬剤調整支援者」は患者個別に対応する実務者(かかりつけ医やかかりつけ薬剤師など)という位置づけだ。
病院内で行ったことを、地域でも継続して行える、まさに病棟・外来・在宅の一元化のような取組の推進が特に中核病院には期待され、その実行役となる、かかりつけ医とかかりつけ薬局・薬剤師の役割が期待される。令和7年度から施行される、かかりつけ医機能報告制度とも関連してくるだろう。患者の自宅までを病床と見立てる地域を挙げた取り組みが求められるとともに、診療報酬上における評価なども期待されるところだ。
山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。
https://www.hckn.work