介護の事故報告書の書き方とは?内出血の際の記入例と作成ポイント

2024.09.18

介護事業所における事故を抑制するために、事故報告書の作成が必要です。
事故報告書は、事故の再発を防止し原因を分析するための書類であり、記録を残す役割もあります。

介護事業所における事故を防止するために、事故報告書の書き方を確認しておきましょう。
本記事では、介護の事故報告書の書き方について詳しく解説します。

内出血の際の記入例と事故報告書を書く際のポイントも併せて解説するため、ぜひ参考にしてください。

介護の事故報告書とは

介護の事故報告書とは、介護事業において事故が起きた際に、行政へ報告するための書類です。
各自治体によって書式は異なりますが、「どのような事故が起きたのか」をスムーズに確認できるよう、主に事故の内容や発生時の対応、原因などを書きます。

また介護サービスを提供している時間だけでなく、送迎中や通勤中の時間に発生した事故も報告書に記載する必要があります。
事故が起きた際には、速やかに電話で管轄の自治体に報告し、事故報告書でも再度報告しなければなりません。

介護の事故報告書を書く目的

介護の事故報告書を書く目的は、次のとおりです。

  • 事故の再発を防止する
  • 事故の原因を分析する
  • 記録を残して証拠化する

介護事業所での事故を防止するために、事故報告書を書く目的を確認しましょう。

事故の再発を防止する

事故報告書には事故が起きた原因や当時の状況、対応などを記載するため、業務の手順を見直せます。
そのため、同様の状況で事故が起きないように「どのような対策が必要か」「何に注意するべきか」など、対策を講じられます。

再発を防止するには、事業所全体に事故の概要・原因を周知することが大切です。
また、事故を防ぐための業務手順や、事故が起きてしまった際の対応方法も浸透させましょう。

事故の原因を分析する

介護の事故報告書を書く目的は、事故の原因を分析するためです。
事故報告書には、事故発生時の状況や対応の他に、事故の原因を分析する項目があります。

事故が起きてしまう原因は、事業所や施設の環境だけでなく、従業員の対応や意識に起因するものなどさまざまです。
これらの発生原因を特定し、改善するためにも事故報告書の作成は重要な作業です。

そのため、原因を分析して再発防止に努める必要があります。
事故の原因を分析し対処法を検討するために、事故報告書を作成しなければなりません。

記録を残して証拠化する

記録を残して証拠化するために、事故報告書が必要です。
事故報告書には、事故に至った経緯や原因、当時の状況や従業員の対応を記録するため、自治体や利用者家族へ提出すれば説明をスムーズに行えます。

また事故報告書で事故発生時の対応や事業所の環境を記録しておくことで、管理不足や不適切な対応を疑われた際に潔白を証明できます。
事故の被害が大きければ訴訟へ発展する可能性もあるため、事業所の評判を守る証拠としても、事故報告書を作成しておくことが大切です。

介護の事故報告書の記載項目

介護の事故報告書は、第一報で項目1〜6までを記載し、事故発生から5日以内に自治体へ提出する必要があります。
項目7〜9では、原因分析、再発防止案を策定するために記載し、第二報として利用者家族や自治体に報告します。

国が定めた別途様式に記載されている項目は、次の9つです。

  1. 事故の状況
  2. 事業所の概要
  3. 対象者の概要
  4. 事故の概要
  5. 事故発生時の対応
  6. 事故発生後の状況
  7. 事故の原因分析
  8. 再発防止案
  9. その他

各項目を確認して、事業所で使用する事故報告書の様式を検討しましょう。

出典:事故報告書 (事業者 →○○市(町村))|厚生労働省

1. 事故の状況

事故報告書には、まず事故の状況を記載する必要があります。
どのような事故が起きたのか、受診や入院の有無や死亡に至ったかなどを記載しましょう。

2. 事業所の概要

事業所の概要の項目には、次のような内容を書きます。

  • 法人名
  • 事業所(施設)名
  • 事業所番号
  • サービス種別
  • 所在地

どの事業所で発生した事故かを報告するために、事業所の概要を記載しておきましょう。

3. 対象者の概要

事故報告書には事業所の情報だけでなく、対象者の情報を記載する必要もあります。
対象者の概要の項目に記載する内容は、次のとおりです。

  • 氏名
  • 年齢
  • 性別
  • サービス提供開始日
  • 住所
  • 身体状況
  • 要介護度
  • 認知症高齢者日常生活自立度

対象者の基本的な情報や事業所でのサービス提供開始日だけでなく、身体状況や要介護度などの介護レベルも書きましょう。
認知症高齢者の場合は、日常生活の自立度も記載する必要があります。

4. 事故の概要

事故の概要を記載する項目では、次のような情報を報告します。

  • 発生日時
  • 発生場所
  • 事故の種別
  • 事故の発生状況、内容の詳細
  • その他特記すべき事項

事故が起きた際には、発生日時や場所、事故の種別などを報告することが大切です。

5. 事故発生時の対応

事故報告書には、事故が起きた際の対応について記載する必要があります。
事故発生時の対応の項目には、次のような内容を書きます。

  • 発生時の対応
  • 受診方法
  • 受診先の医療機関名
  • 受診先の連絡先
  • 診断名
  • 診断内容
  • 検査・処置などの概要

事故発生時に実施した対応だけでなく、入院・受診した際には受診方法や医療機関の連絡先を記載しておきましょう。
また診断結果がわかれば、診断内容と診断名、実施した検査などの概要を書きます。

6. 事故発生後の状況

事故発生後の状況は、事故発生時の対応を実施した後の状況や対応を報告する項目です。
具体的に、次のような対応・状況について書きます。

  • 利用者の状況
  • 報告した家族の続柄
  • 事故内容の報告を実施した日(年月日)
  • 連絡した関係機関の情報
  • 本人、家族、関係先などへの追加対応予定

関係機関へ連絡した場合は、関係機関の名前や連絡先などの情報を報告しましょう。
事故にあった利用者本人や家族、関係先などへ追加対応を予定している場合は、対応内容を書きます。

なお事故が起きた5日以内に、項目1〜6までを報告する必要があるため「事故発生後の状況」までを記載し、管轄の自治体に報告します。

7. 事故の原因分析

事故報告書の7〜9の項目は、関係者による事故検証を行ってから報告しましょう。
項目7では、事故の原因を分析した結果を書きます。

事故の原因分析の項目に記載する内容は、次のとおりです。

  • 本人要因の分析
  • 職員要因の分析
  • 環境要因の分析

事故にあった本人の行動や体調、職員や事業所の環境などによる要因を分析します。

8. 再発防止案

事故報告書を書く際には、事故発生時の状況や対応、原因分析の結果に基づいて、再発防止案を作成しましょう。
再発防止案の項目には、次のような内容を書きます。

  • 業務手順の変更
  • 事業所環境の変更
  • その他の対応の変更
  • 再発防止策の評価時期
  • 再発防止案の評価結果など

再発防止案の内容だけでなく、考案した施策を評価した時期や結果を記載しましょう。

9. その他

その他特筆するべき内容があれば、項目9に記載して報告します。

介護の事故報告書の様式

介護の事故報告書は、各自治体によって異なるフォーマットを使用していました。
しかし「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」によって、事故報告書の様式が統一化されました。

参照元:令和3年度介護報酬改定に関する審議報告|厚生労働省

「介護報酬改定に関する審議報告」によって統一化された内容は、次のとおりです。

  • 報告対象
  • 報告内容(様式)
  • 報告期限
  • 対象サービス

参照元:介護保険最新情報 Vol.943令和3年3月19日|厚生労働省

介護の事故報告書を書くために、各内容を確認して統一化された様式に対応しましょう。

報告対象

国によって様式が統一化される前は、各自治体の作成基準に基づいて事故報告書を書くべきかを判断していました。
しかし「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」により様式が統一化されたことで、事故報告書を書く基準も定められました。

事故報告書の作成が求められるのは、次のケースです。

  • 死亡に至った事故
  • 医師の診断を受け投薬や処置を行い、治療が必要になった事故

上記2点は原則報告する必要があり、その他の事故についてはこれまでと変わらず、各自治体が定める基準で報告するべきかを判断します。

報告内容(様式)

報告内容の様式は、事故の報告を事業所内にとどめず、介護・福祉業界全体に共有して再発防止に取り組むために、統一化されました。
そのため、統一化された様式で情報を整理し、原因の分析や、再発防止策を講じる必要があります。

事故報告書の報告内容は、次の様式に統一されました。

  • 介護保険施設などが自治体に事故報告を行う場合は、可能な限り別紙様式を使用する(自治体への事故報告は、可能な限り電子メールで行う)
  • 自治体が定めた様式や別紙様式を改変して事故報告を行えるが、その場合は別紙様式の項目を含める

参照元:別紙様式 事故報告書|厚生労働省

厚生労働省が公表している事故報告書(別紙様式)の使用が推奨されていますが、各自治体が定めた様式や、事業所独自の報告書を使用することも可能です。
国が定めた報告書を使用しない場合は、別紙様式に記載されている項目をすべて含める必要があります。

報告期限

事故報告書は、事故が発生してから5日以内に行わなければなりません。
事故が起きた際には、次の手順で対応しましょう。

  1. 救急車を呼んだり適切な応急処置をしたり、事故への対応を行う
  2. サービス責任者に報告する
  3. 責任者から利用者家族とケアマネジャーに報告する
  4. 事故報告書の提出が必要な場合は、様式に定められた1~6の項目を記入し、5日以内に管轄の自治体へ報告する
  5. 関係者による事故検証を行い、事故報告書の7~9の項目を記入し、利用者家族や自治体に報告する
  6. 事故報告書に基づいてケアプランや業務内容・手順を見直す

事故報告書を提出する際には、国が定めた別紙様式の項目1〜6までを記載する必要があります。

その後に事故検証を行い、チームでの対応方法や利用者の状態が判明すれば、別紙様式の7〜9の項目を記載して自治体に提出しましょう。

対象サービス

国が定める事故報告書の様式は、主に施設内での事故を想定したものです。
別途様式の使用が推奨される介護サービスは、次のとおりです。

  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)(介護予防を含む)
  • 特定施設入居者生活介護事業者(地域密着型および介護予防を含む)
  • 有料老人ホーム
  • サービス付き高齢者向け住宅
  • 養護老人ホームおよび軽費老人ホーム

参照元:介護保険最新情報 Vol.943令和3年3月19日|厚生労働省

上記のサービス以外でも介護サービスを提供する場合は、別途様式の項目を含む事故報告書を使用しましょう。

介護の事故報告書を書く際のポイント

介護の事故報告書を書く際には、次のポイントを意識しましょう。

  • 5W1Hを意識する
  • 客観性を意識する
  • 誰が見てもわかるよう簡潔に書く

5W1Hを意識する

5W1Hを意識することで、誰が読んでも内容を理解しやすい事故報告書を作成できます。
5W1Hは、次の頭文字を取った略語です。

  • When(いつ)
  • Where(どこで)
  • Who(誰が)
  • What(何を)
  • Why(なぜ)
  • How(どのように)

5W1Hを意識することで、報告書を簡潔にわかりやすくまとめられます。

客観性を意識する

事故報告書は、作成者の主観で内容を記録するのではなく、客観性を意識することが大切です。
「自分がどう思った」「どのように見えた」など主観的な感想ではなく、事実として起きた事象を客観的にまとめて報告しましょう。

専門用語や事業所特有の略語は使わない

事故報告書は、長文や専門用語、事業所特有の略語は使わないよう注意する必要があります。
事故報告書は、介護・福祉業界全体に共有し、利用者やその家族にも提示するため、専門知識がない方が見ても内容を理解できるよう作成しなければなりません。

事故報告書を書く際には、誰が見ても内容を理解できるよう簡潔にまとめることが大切です。

内出血が起きた際の事故報告書記入例

事故報告書は国が定めた様式に基づいて、事故の発生状況や対応、分析結果から考案した再発防止案を報告する必要があります。
下記は、内出血が起きた際の事故報告書の記入例です。

事故の状況令和6年8月10日 午前10時10分頃
事業所の概要株式会社〇〇 ケアホーム△△事業所番号:有料サービス種別:所在地:
対象者の概要佐藤一郎さん・男性・80歳・要介護3
事故の概要ベッドに横になっている佐藤さんに、「トイレに行きませんか?」と声掛けを行うと、佐藤さんはご自身で身体を起こしてくださった。立ち上がった拍子にふらつき、前のめりの姿勢に倒れそうになったため、介護職員が支えようと対応するが、間に合わず転倒してしまった。転倒後に意識はあったが、右手首に内出血と腫れが見られる。
事故発生時の対応別の職員を呼び、2人がかりでベッドへ移乗。その後、長男の××さんに連絡し、△△さんが同行して、◎◎整形外科を受診。(午前11時00分頃・担当医:石田様)打撲傷との診断を受け、湿布を処方される。
事故発生後の状況佐藤さんは右手首に痛みを感じている様子だが、受け答えや意識はしっかりしている。長男の××さんに、詳しい事故の概要や対応、再発防止案を考案した後に報告する旨を説明。(令和6年8月10日)
事故の原因分析事前の声掛けや、介助をする際の声掛けが不十分だった。体格差のある女性従業員が1人で介助していた。
再発防止案声掛け後に、利用者様の介助に対する同意と現在の体調確認を徹底する。利用者の体格が大きい場合、2人以上で介助を行う。自立歩行ができる利用者でも、転倒の可能性には十分注意する。
その他特になし
伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

介護施設での事故はその程度によって行政への報告が必要です。大体骨折以上で報告というケースが多いのではないでしょうか。介護施設で記録されている事故報告書の殆どが、転倒や転落など軽微な怪我程度で、行政への報告が必要のない内容でしょう。敢えて事故報告書作成の目的を一言で表すと『事故予防アセスメント』です。事故内容を精査し、起こった原因を分析し、具体的な再発予防策を策定・周知するというのが、事故報告書の一般な流れですが、この内容はまさにアセスメントといえるでしょう。以前私が関わった施設では、スタッフの事故報告書作成の枚数が評価される施設がありましたが、大切なのは枚数ではありません。有名なハインリッヒの法則にあるとおり、軽微な事故は重大な事故へのサインでもあるためしっかりアセスメントしていきましょう。

内出血の事故報告書記入例を参考に適切な作成方法をマスターしよう

介護の事故報告書の様式と記載項目を確認して、適切な報告書の書き方をマスターしましょう。
国が定める様式に従って、事故の発生状況や対応などをまとめると、原因を分析し再発防止案を作成できます。

介護の事故報告書を書く際には、5W1Hを意識して、誰が見てもわかるよう簡潔に客観的な事実を記載しましょう。
事故の原因を分析し再発防止に取り組むことで、業界全体の介護事故の発生件数を抑えられるでしょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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