医療スタッフ教育のポイントとは?成長につながる指導を解説

2024.10.20

医療現場において、医療スタッフの教育は重要な取り組みです。
新人の医療スタッフを即戦力にできれば、より質の高いケアを提供できます。

しかし、ほかの業界と同様、新人の教育は容易なことではありません。
特に医療現場においては、医療スタッフの質は患者の命を左右するため、適切なプロセスで教育する必要があります。

本記事では、医療スタッフの教育について解説します。
さらなる成長につながるポイントも解説するので、ぜひ参考にしてください。

医療スタッフ教育の重要性

医療スタッフの教育は、病院やクリニックにおいて不可欠な取り組みです。

医療の現場において、重要な部署に経験が少ない医療スタッフが配置されるケースは珍しくありません。
昨今は少子高齢化による人手不足で、熟練の医療スタッフを確保できる余裕がない病院やクリニックが増えているためです。

しかし、適切な教育を受けられていない医療スタッフは患者とトラブルを起こすだけでなく、治療や診察の過程で重大なミスを起こすリスクがあります。
医療スタッフによるミスは患者の生命を左右しかねません。

また、医療スタッフによる不適切な対応やミスが頻発すると、施設の評判を低下させます。
そのため、病院やクリニックは医療スタッフを適切に教育し、ケアの質を継続的に向上させる必要があります。

医療スタッフ教育において重要な7つのポイント

医療スタッフを教育する際は、以下のようなポイントに留意しましょう。

  • 医療スタッフと経営理念を共有する
  • チームワークの重要性を伝える
  • 院内のルールを徹底的に周知する
  • 知識やスキルをアップデートさせる
  • 自身の役割を認識させる
  • 業務オペレーションを透明化する
  • 患者との接し方を指導する

それぞれのポイントについて、順番に解説します。

医療スタッフと経営理念を共有する

病院やクリニックの経営理念を共有することは、医療スタッフの教育において最初に意識する必要がある取り組みです。

病院やクリニックの経営理念は、医療スタッフの振る舞い方や行動の規範となるものであり、現場において求められる人物像を示しています。
あらかじめ医療スタッフに経営理念を共有すれば、求められる人物像が明確になるため、目指すべき目標を定めやすくなります。

通常、経営理念の共有は、医療スタッフの採用時点で行うべきことです。
ただし、教育する前にあらためて行えば、目標の再確認ができます。

チームワークの重要性を伝える

医療現場において、チームワークは欠かせない要素です。

複数の患者に適切なケアを提供し、緊急事態に対処するためにも、医療スタッフは常にチームワークを意識して行動する必要があります。
チームワークが欠如している状態では、患者の情報が正確に共有されないだけでなく、重大な事故につながるリスクが高まります。

医療スタッフを教育する際は、常にチームワークの重要性を意識させましょう。
チームワークを意識できるようになれば、サービスの質だけでなく組織力の向上にもつながります。

院内のルールを徹底的に周知する

病院やクリニックのルールは徹底的に周知しましょう。

病院やクリニックは患者の傾向・症状によって、さまざまなルールが設けられていることが一般的です。
しかし医療スタッフがルールを理解していなければ、適切なケアを提供できないうえに、ミスが発生するリスクが高まります。

また、コンプライアンスや就業規則などについても周知すれば、適切な働き方を学べます。

知識やスキルをアップデートさせる

医療スタッフの教育において、知識やスキルのアップデートは必ず意識すべきポイントです。

医療の現場では、常に知識やスキルのアップデートが求められます。
医療技術や治療方法、各種法制度などの最新の知識・スキルを把握しておかなければ、適切なケアを提供できません。

新人に限らず、既存の医療スタッフにも定期的な研修を実施し、知識やスキルのアップデートを継続できる体制を構築しましょう。

自身の役割を認識させる

チームで治療にあたる医療現場において、医療スタッフは自身の役割を理解し、適切に行動しなければなりません。
そのためにも、医療スタッフには、最初に自身の役割を意識させましょう。

自身の役割について教育する際は、あえて異なる立場の医療スタッフ同士でミーティングさせる方法が効果的です。
異なる立場だからこそわかる問題点や、それぞれの考え方を共有することで、自身の業務を客観視できます。

業務オペレーションを透明化する

医療スタッフを教育する際は、業務オペレーションを透明化しましょう。

医療現場では、スタッフ同士の円滑な連携が不可欠です。
新人の医療スタッフがスムーズに連携するためにも、業務オペレーションを透明化し、全体のプロセスを可視化しましょう。

業務オペレーションの透明化は教育する側にとっても重要です。
属人性が高くノウハウが共有されにくいプロセスは、医療スタッフの教育だけでなく、日々の連携にも影響を与える恐れがあります。

患者との接し方を指導する

医療現場において、患者との接し方は重点的に学ばなければならないもののひとつです。
患者と適切なコミュニケーションが取れなければ、リスクの兆候を見落とすだけでなく、トラブルの原因にもなります。

医療スタッフにはアセスメントの方法だけでなく、基本的な言葉遣いやマナーなども指導しましょう。
患者との接し方を改善するだけでも、ケアの質向上につながります。

医療スタッフ教育で行うべき5つの取り組み

医療スタッフを教育する際に実施すべき取り組みには、以下のようなものがあります。

  • マニュアルやカリキュラムの作成
  • 教育体制の構築
  • 目標の設定
  • 業務フローの洗い出し
  • スケジュールの作成

いずれの取り組みもより良い教育には不可欠です。
それぞれのプロセスを正確に把握しましょう。

マニュアルやカリキュラムの作成

医療スタッフ教育をするなら、最初にマニュアルやカリキュラムを作成しましょう。

ノウハウや業務フローについて記載したマニュアルは、医療スタッフの技量を均質化するうえで効果的です。
また、医療スタッフが自身の業務や知識をチェックする際にも役立ちます。

カリキュラムの作成は教育する内容や評価基準の整理につながります。
並行してスキルマップも作成すれば、医療スタッフに目標を提示しやすくなり、より効率的な教育が可能です。

教育体制の構築

医療スタッフ教育において、教育体制の構築は不可欠な取り組みです。

指導役のスタッフの選任・勉強会や研修の日程・評価基準の設定など、体制を具体的に構築すれば、それだけ教育の質は向上します。
教育体制が整っていない状態では、定期的な勉強会や研修ができなくなるため、教育の効果が薄くなります。

なお、教育体制の構築は新人だけでなく、既存の医療スタッフへの教育においても重要です。
忙しい業務の合間に知識をアップデートできる機会を作れば、スタッフのスキルが向上するだけでなく、ケアの質も高められます。

目標の設定

医療スタッフ教育を行う際は、明確な目標を設定しましょう。

明確な目標を設定すると、医療スタッフのモチベーションを維持しやすくなるうえに、教育の方向性を定められます。
目標は複数に分けて設定する方法が効果的です。

日々の業務やカリキュラムの過程など、さまざまな場面で複数の目標を定めれば、自身の状況を客観視できます。
ミーティングや朝礼を行う際に進捗を確認すれば、自身に不足している知識やノウハウをチェックできるため、より効率的な教育が可能です。

業務フローの洗い出し

医療スタッフ教育を実施する前に、必ず業務フローを洗い出しましょう。

業務フローの洗い出しによって、個々の業務を可視化すれば、新人の医療スタッフでも内容を理解できます。
指導する側にとっても、身に付けるべきノウハウの優先順位を決めやすくなります。

また、業務フローの洗い出しは、従来の業務プロセスの見直しにもつながる取り組みです。
フローが停滞しやすい箇所や非効率的な作業を発見し改善すれば、業務効率化が実現できます。

スケジュールの作成

医療スタッフの教育スケジュールは、年単位で作成しましょう。

1年を通じて実施して行う勉強会や研修のスケジュールを明確化すれば、医療スタッフの教育がスムーズに進みます。
スケジュールの作成は必要な人材の採用や設備投資の確認もできるため、コストの算出をするうえでも役立ちます。

なお、医療スタッフ教育のスケジュールは、教育担当だけでなく、病院やクリニックの経営者・経営幹部も交えて作成しましょう。
病院・クリニックの経営方針を踏まえながらスケジュールを作成すると、より充実した教育を実践できます。

医療スタッフを教育する際の4つの注意点

医療スタッフを教育する際は、以下のような点に注意しましょう。

  • 相手に対して先入観を持たない
  • コミュニケーションに注意する
  • 具体的にほめるようにする
  • 指摘と叱責を混同しない

いずれの注意点も、軽視すると教育の質を低下させる恐れがあります。
事前に必ずチェックしましょう。

相手に対して先入観を持たない

教育を受ける医療スタッフに対し、先入観は持たないように心がけましょう。

「この世代はできない」「この人は考え方が独特だ」など、偏った先入観を持っているとスタッフを適切に評価できません。
実態に合わない先入観は、かえって医療スタッフのポテンシャルの発揮を妨げる恐れがあります。

特に新人の教育では、価値観のギャップが顕著になるものです。
不適切な認識は修正すべきですが、個々の価値観に対しては余計な先入観を持たず、尊重するように心がけましょう。

コミュニケーションに注意する

教育担当は医療スタッフとのコミュニケーションに注意が必要です。
「言わなくてもわかるだろう」「見ていれば理解できる」など、相手が察することを当たり前にしていると、教育担当と医療スタッフの間にすれ違いが生じる恐れがあります。

しかし、経験値が高いベテランならともかく、新人の医療スタッフに過度な期待を寄せてコミュニケーションをおろそかにすることは禁物です。

具体的な指示がない教育は、かえって医療スタッフの成長を阻害します。
最悪の場合、重大なミスの発生を招きます。

医療スタッフを教育する際は、コミュニケーションを入念に行い、具体的な指示を出すように心がけましょう。
丁寧なコミュニケーションは医療スタッフが失敗するリスクを避けられるだけなく、業務への理解を促進します。

具体的にほめるようにする

医療スタッフをほめる際は、なるべく具体的な内容で伝えましょう。
具体的に良かった点を伝えることは、スタッフのモチベーションを上げるだけでなく、業務がうまくいくポイントを認識するきっかけにもなります。

医療スタッフの教育は、教育担当が厳しく指摘する場面も多いものです。
しかし、厳しくするだけでなく具体的にほめることで、医療スタッフが前向きに業務に取り組み、さらにポテンシャルを発揮する可能性を高められます。

また、第三者を通じてほめる方法も効果的です。
「〇〇さんがほめていたよ」と、ほめていたことを第三者が伝えれば、医療スタッフは自分の取り組みが周りに評価されていると感じられます。

指摘と叱責を混同しない

医療スタッフのミスを指摘する際は、叱責と混同しないように気を付けましょう。
過度な叱責は、医療スタッフを萎縮させ、自主性を損なう結果を招きます。

また、あまりに厳しい叱責を繰り返すと、パワハラと捉えられるリスクがあります。
ミスを指摘する際は、感情的にならず、冷静に問題点を明示しましょう。

加えて、一方的に指摘するだけでなく、医療スタッフが自分で原因を考えるように促せば、成長につながります。

なお、教育担当が陰口のような形でミスを叱責することは避けましょう。
陰口は医療スタッフとの信頼関係を壊すだけでなく、トラブルを招くリスクを高めます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

人口が減少フェーズとなった日本において、人員不足は全産業で問題となっています。その中でも高齢化社会となっている背景もあり、高齢者のニーズが高い医療・介護業界の人員不足は非常に深刻なものになっています。その結果多くの病院や施設が採用に力を入れ、SNSを活用するなど工夫を凝らしています。一方でこうした採用に対するエネルギーと比較して、採用後の教育に関してはどうしても低い企業が多いのが現状です。しかし、穴が開いた鍋に水を貯めようとしても漏れてしまうように、どんなに採用戦略を練り採用者を増やしても、離職者の数が増えてしまったら一向に自体は改善しません。また、人員不足に伴い、ひと昔前なら不採用な方を採用するケースも増えています。こういった方を一人前の人員にするためにも教育の仕組みづくりは重要なのです。

医療スタッフ教育はポイントを押さえて実施しよう

医療スタッフの教育は、医療現場のパフォーマンスに大きく影響する取り組みです。

マニュアルやカリキュラムも用意したり、業務フローを前もって洗い出したりするなど、指導する側が適切な準備をしなければ、教育の効果は大きく低下します。
また、医療スタッフがモチベーションを維持できるように、コミュニケーションにも注意する必要があります。

本記事の内容を踏まえて効果的な教育を実施し、医療スタッフの成長を実現させましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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