訪問介護の介護報酬|2024年度介護報酬改定を踏まえて解説

2024.10.20

介護報酬は介護サービス事業所にとって、収益を左右する要素です。
そのため、介護報酬が改定されると、業務体制や経営戦略の見直しを迫られる場合があります。

直近では、2024年度に介護報酬改定が実施されました。
基本報酬の変更に加え、新たな特定事業所加算が設けられるなど、さまざまな内容が変更されています。

本記事では、訪問介護に関連する介護報酬について解説します。
2024年度の改定を踏まえて説明するので、ぜひ参考にしてください。

2024年度介護報酬改定の概要

2024年度に実施された介護報酬改定において、厚生労働省は以下のテーマで改定を行いました。

  1. 地域包括ケアシステムの深化・推進
  2. 自立支援・重度化防止に向けた対応
  3. 良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり
  4. 制度の安定性・持続可能性の確保
  5. その他

引用:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

昨今は少子高齢化の進行によって、介護ニーズのさらなる高まりや、訪問介護をはじめとする介護業界全体の人手不足が懸念されています。
そのため、2024年度の介護報酬改定では、従来の報酬体系を見直すだけでなく、介護事業所の経営改善を目的とした加算・減算が新たに設けられました。

利用者に提供する介護サービスの質はもちろん、事業所の運営体制についても、経営者は注視する必要があります。

2024年度に改定された訪問介護の介護報酬

2024年度に改定された訪問介護に関連する介護報酬は、大きく分けると以下の5つです。

  1. 報酬体系の変更
  2. サービス品質向上のための施策
  3. 利用者の安全と権利擁護
  4. 人材確保や労働環境の改善に関する施策
  5. 事務所運営の適正化

それぞれについて以下で順番に解説します。

参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

1. 報酬体系の変更

本章では、報酬体系の変更に関する改定事項について解説します。

基本報酬の変更

2024年の介護報酬改定によって、訪問介護の基本報酬は以下のように変更されました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

画像のとおり、訪問介護の基本報酬は全体的に単位数が削減されました。
その結果、基本報酬による収益が減少するため、訪問介護事業所の経営状態に影響するリスクが懸念されます。

特定事業所加算の見直し

訪問介護の特定事業所加算においても、以下のような見直しが実施されました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

2024年度の介護報酬改定では、看取り期の利用者や中山間地域などへの介護サービス提供に対する評価が重視されています。
そのため、特定事業所加算の一部が変更されました。

変更された特定事業所加算の詳細については後述します。

特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算および中山間地域に居住する者へのサービス提供加算の対象地域の明確化

特別地域加算・中山間地域などの小規模事業所加算・中山間地域の居住者へのサービス提供加算については、対象地域が以下のように明確化されました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

当該事項の改定は、特別地域や過疎化が進んでいる地域へのサービス提供に対し、厚生労働省が奨励していく意図が垣間見えます。

該当する地域に訪問介護サービスを提供している事業所にとって、後述する対象地域の見直しと合わせて重要性が高い改定です。

特別地域加算の対象地域の見直し

先述した特別地域加算の対象となる地域の見直しに関する改定です。
以前より、特別地域加算の対象となる特別地域は以下のように定められていました。

離島振興対策実施地域・奄美群島・振興山村・小笠原諸島・沖縄の離島・豪雪地帯・特別豪雪地帯・辺地・過疎地域等であって、人口密度が希薄、交通が不便等の理由によりサービスの確保が著しく困難な地域

引用:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

特別地域には過疎地も含まれていますが、従来の法令ではみなし過疎地に対する扱いが不明確でした。
そのため、2024年度の介護報酬改定を通じ、みなし過疎地を対象に含める形で定義が変更されています。

訪問介護における同一建物等居住者にサービス提供する場合の報酬の見直し

近年は同じ建物にいる利用者に訪問介護サービスを提供するケースが増加しています。
移動距離の短縮化を鑑み、厚生労働省は同一建物等居住者にサービスを提供する際の報酬を以下のように見直しました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

見直しの結果、新たに減算が追加されています。
昨今は訪問介護以外の介護事業を手掛ける併設型の介護施設が増加していますが、同じ敷地内の利用者に偏ったサービスを提供していると、収益が削減される恐れがあります。

2. サービス品質向上のための施策

サービス品質向上のための施策として、新たな加算が追加されました。

本章では、サービス品質向上に関わる加算について解説します。

口腔連携強化加算の追加

口腔連携強化加算とは、介護事業所と歯科専門職の連携によって、適切な口腔ケアを実施した際に発生する加算です。
単位数や算定要件は以下のように設定されています。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

口腔連携強化加算は1カ月に1回しか算定できませんが、利用者の口腔ケアは健康維持においても重要な取り組みです。
サービスの質を向上させるきっかけにもなるので、積極的に実践しましょう。

訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算の見直し

高齢化が進む昨今、認知症ケアがますます重視されるようになりました。
しかし、適切な認知症ケアを実施するためにも、厚生労働省は以下のように認知症専門ケア加算の算定要件を改定しています。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

認知症専門ケア加算(Ⅰ)の日常生活自立度が変更されたうえに、新たに算定要件が設けられていることがわかります。
取得を目指す際は注意しましょう。

3. 利用者の安全と権利擁護

本章では、利用者の安全と権利擁護に関連する介護報酬改定について解説します。
いずれも、利用者の安全を守るうえで重要な施策です。

高齢者虐待防止の推進

近年は介護事業所での高齢者虐待が度々報じられるようになりました。
そのため、介護報酬改定でも、高齢者虐待防止が念頭に置かれた変更がなされています。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

上記のように、高齢者虐待を防止する施策を実施していない介護事業所には、介護報酬の減算措置が課せられます。
虐待防止のための対策委員会の開催・指針の整備・研修の実施など、必要な対策を講じましょう。

身体的拘束等の適正化の推進

介護の現場では、介護事故の予防などのためにやむを得ず身体的拘束を実施する場面もあります。
しかし、身体的拘束は利用者の権利擁護の観点から、慎重に実施しなければなりません。

2024年度の介護報酬改定に際し、厚生労働省は身体的拘束などを適正化するために、以下の基準を設けました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

訪問介護の場合、やむを得ない場合を除き、身体的拘束などを実施してはならないと定められています。
また、実施する際は理由を記録するなど、正当性を示す明確な証拠を残さなければなりません。

4. 人材確保や労働環境の改善に関する施策

2024年度の介護報酬改定では、人材確保や労働環境の改善などを目指す施策も実施されている点が特徴です。
本章では関連する改定箇所について解説します。

人員配置基準における両立支援の配慮

昨今は多様な働き方を導入する事業所が増加していますが、介護業界においても例外ではありません。
厚生労働省は社会情勢の変化を鑑み、以下のような施策を実施しています。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

厚生労働省は人材保護の観点から、育児や介護休業などの理由で短時間勤務をしている介護職員でも週30時間以上の勤務実態があれば、常勤として扱うことを認めました。
これにより、時短勤務の介護職員が増加しても、人員配置基準に違反するリスクを回避できます。

なお、短時間勤務制度は「治療と仕事の両立ガイドライン」に則って作成する必要があります。
あらかじめガイドラインを確認したうえで、制度を構築しましょう。

介護職員の待遇改善

人材確保をするうえで、介護職員の待遇改善は不可欠です。
厚生労働省は、待遇改善を推進するために、以下のように加算率の引き上げを決定しました。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

ベースアップなどの待遇改善のために、厚生労働省は介護サービスの種類別に加算率や算定要件を変更しています。
さらに職場環境の変更などに関連する要件の見直しも行っています。

テレワークの取り扱い

コロナ禍以降、介護業界でもテレワークは普及しました。
それに伴い、厚生労働省は利用者へのサービス提供の支障がないこと・個人情報の扱い方が適切であることを前提にテレワークの実施を認めています。

しかし、テレワークの取り扱いの明確化や、業務・職種別の具体的な考え方を示さなければなりません。

5. 事業所運営の適正化

訪問介護の事業所運営を適正化するために、2024年度から新たな減算や施策などが実施されています。

それぞれの内容について、順番に確認しましょう。

業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入

コロナ禍や災害の被害が拡大している昨今、非常事態時における業務継続計画の策定は訪問介護サービスをはじめとする介護サービス事業所にとって重大な課題となりました。

厚生労働省も業務継続計画の策定を推進しており、未策定の事業所に対しては、以下のような減算措置が実施されます。

出典:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

上記は、訪問介護を含むあらゆる介護サービス事業所に課せられます。
適切な業務継続計画が策定されているか、必ず確認しましょう。

管理者の責務および兼務範囲の明確化

訪問介護に限らず、介護サービス事業所の管理者はサービスの質と効率的な運営を担う重要な役職です。
2024年度の介護報酬改定では、管理者の責務・業務範囲において、以下の点を明確化するように定められました。

  • 利用者へのサービス提供の場面等で生じる事象を適時かつ適切に把握しながら、職員および業務の一元的な管理・指揮命令を行うことである旨
  • 管理者がその責務を果たせる場合には、同一敷地内における他の事業所、施設等ではなくても差し支えない旨

引用:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

いわゆるローカルルールについて

現状、人員配置基準などのような介護に関連する法制度は自治体によって差違、いわゆるローカルルールがあります。
ローカルルールに対し、厚生労働省は省令に従う範囲内で当該地域に適した実情に応じた内容であることや、ルールを設ける必要性などを明示できるように求めています。

「書面掲示」規制の見直し

以前より、介護サービス事業所が重要事項などを伝える際は、原則として書面掲示が求められてきました。

2024年度の介護報酬改定以降は書面掲示に加え、Webサイト上でも重要事項を掲載・公表しなければならないと定められました。

改定以降の訪問介護事務所を運営するポイント

2024年度の介護報酬改定に伴い、訪問介護事業所はさまざまな点を見直さなければなりません。

まずは基本報酬削減に伴う収益構造の見直しです。
基本報酬に依存する状態では、事業所の収益が著しく低下します。

新たに増設された特定事業所加算の取得を目指すなど、新たな収益源の確保に取り組みましょう。

また、業務形態や待遇の見直しも重要なポイントです。

多様な働き方の導入や介護職員の待遇改善は、特定事業所加算につながるものもあります。
つまり、「より働きやすい職場環境の実現」が収益の向上をもたらす可能性があるわけです。

業務形態や待遇の見直しは、訪問介護事業所の運営においても重要な取り組みです。
適切に実施すれば、優れた人材を確保できるだけでなく、サービスの品質向上も実現できます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2023年の訪問介護事業者の倒産件数は60件と過去最悪を更新しました。にもかかわらず、2024年介護報酬改定において、訪問介護の報酬単価はまさかの減算となりました。国も訪問介護は、高齢者の在宅生活を支えるための根幹サービスと位置付けています。それだけにこの減算は業界全体に大きなインパクトを与えました。なぜ国はこのような減算を敢行したのでしょうか。その大きな要因の一つが、サ高住など入所施設に併設している訪問介護事業者への締め付け強化です。サ高住などに併設している訪問介護事業者全てが悪いわけではもちろんありません。しかし、一部の事業者が生活保護者を囲い込み、不当に訪問介護を運営するなど不適切な事例が後を絶ちません。一部の不正事業者のせいで、訪問介護業界全体が影響を受けてしまっているのです。

訪問介護の介護報酬改定を理解し運営状況を見直そう

2024年度の介護報酬改定では、訪問介護に関連する介護報酬が大きく変更されました。
訪問介護事業所によっては、運営方針や業務体制を見直す必要があるケースも少なくありません。

改定後の介護報酬に適応できなければ、収益の低下や行政からの指摘など、さまざまなリスクを招く恐れがあります。
2024年度に限らず、今後も介護報酬が改定された際は、内容を正確に把握し、迅速に対策を講じましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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