障がい福祉におけるリスクマネジメント|具体的な対策などを解説

2024.10.17

障がい福祉の現場では、さまざまなリスクが想定されます。
特に、介護事故やカスタマーハラスメントは、利用者・職員双方の安全に配慮して対策を講じなければなりません。

そのため、障がい福祉施設は適切なリスクマネジメントを行う必要があります。
効果的なリスクマネジメントを実施するなら、いくつかのポイントを意識しましょう。

本記事では、障がい福祉におけるリスクマネジメントについて解説します。
効果的な対策などについてもお伝えするので、ぜひ参考にしてください。

【基礎知識】リスクマネジメントの概要

本章では、リスクマネジメントの概要について解説します。
まずはリスクマネジメントの定義などを確認しましょう。

リスクマネジメントとは

一般的に、リスクマネジメントは「不確実性が高いリスクを適切に管理すること」を意味します。

業界・業種を問わず、業務上で不確実性が高いリスクはつきものです。
業務や経営に致命的な損害を与えるケースもあるため、経営者は日常的にリスクを回避できるよう、適切な予防策を講じなければなりません。

また、リスクマネジメントは問題が発生した際の対応や事後処理についても網羅していなければなりません。
迅速な対応によって、問題による影響を最小化することもリスクマネジメントの重要な役割です。

リスクマネジメントの重要性

不確実性が高い現場ほど、リスクマネジメントの重要性はより高まります。

特に介護の現場では、利用者の健康状態の変化や想定外の行動によって、介護事故が発生するリスクがつきものです。
リスクへの予防はもちろん、マニュアルなどで職員が対策を把握しておかなければ、甚大な損害を招きかねません。

そのため、経営者が主導し、職員とともにリスクマネジメントを実施する必要があります。
リスクマネジメントが適切に行われていない状況では、トラブルが発生するだけで経営が不安定になる恐れがあります。

最悪の場合、施設の存続を左右する事態になるので、注意が必要です。

障がい福祉におけるリスクマネジメント

障がい福祉の現場は、介護事故が発生するリスクが高い現場です。

障がいの種類は多種多様であり、個々の利用者によって特性は異なります。
そのため、さまざまなパターンの介護事故を想定する必要があります。

安全を確保するためにも、施設は利用者ごとのリスクを適切に評価し、適切な予防策を講じなければなりません。

また、利用者によっては、意思疎通が難しく、職員との間でトラブルやハラスメントが発生するケースも想定されます。
利用者による暴力・暴言によって職員が消耗する事態を避けるためにも、職員の安全確保を踏まえたリスクマネジメントも不可欠です。

リスクマネジメントにおける4つの視点

障がい福祉のリスクマネジメントでは、以下4つの視点が重要です。

  • 法的責任の回避
  • 利用者の尊厳重視
  • 職員の安全確保
  • 手段と目的の区別

それぞれの視点について、順番に解説します。

法的責任の回避

一般的な民間企業と同様に、障がい福祉施設も法的責任の回避は必要な視点です。

障がい福祉施設も事業体である以上、法的責任によって存続が危ぶまれる事態は回避しなければなりません。
特に各法令の遵守や介護事故における損害賠償は、障がい福祉施設の社会的信頼を損なう重大なリスクです。

リスクマネジメントにおいては、リスクを予防するための体制作り・職員の教育を徹底しましょう。

もちろん、介護事故やトラブルが発生した事態に備えて、対応マニュアルの作成や保険の加入も欠かせません。
また、介護福祉に関する各種法令が改定した際は必ずチェックし、現体制に不足がないか確認しましょう。

利用者の尊厳重視

障がい福祉をはじめとする介護サービスは、ただサービスを提供するだけでなく、利用者の人権を尊重する必要があります。

そのため、リスクマネジメントにおいても、利用者の尊厳を重視することを念頭に置く必要があります。
介護サービスにおいて、利用者の尊厳を重視することは基本的な理念であり、無視できないものです。

リスクマネジメントの過程で利用者の尊厳を軽視するようなことになれば、施設の信頼を損なうことになりかねません。

利用者の安全確保はもちろん、習慣や価値観を尊重し、自立支援に影響がないように対策を検討しましょう。

職員の安全確保

職員の安全確保も、リスクマネジメントにおいては無視できない視点です。
障がいを持つ利用者に限らず、介護現場では利用者による暴力・暴言など、さまざまなハラスメントが発生するリスクがあります。

最悪なケースでは、ハラスメントによって職員が怪我をしたり、退職に追い込まれたりする事態に発展します。

利用者と同様に、職員の安全に最大限の注意を払うことも、経営者の義務です。
職員がトラブルを抱え込まないように相談窓口を設置するなど、効果的な施策を実践しましょう。

手段と目的の区別

法的責任の回避・利用者の尊厳重視・職員の安全確保は、いずれもリスクマネジメントにおいて不可欠な視点です。
ただし、施策を実施する際は、手段と目的の区別を明確にしましょう。

例えば、職員の安全確保としてハラスメントを予防するために、リスクが高い利用者の身体拘束を強化したとします。
しかし、身体拘束を強化し過ぎると、かえって利用者の尊厳を害する事態になりかねません。

リスクマネジメントの施策は複数の視点を考慮しつつ、バランスを考えて実践する必要があります。
特定の視点に固執するあまり、ほかの視点をないがしろにしては意味がありません。

上記の例の場合、ハラスメントの予防はあくまで職員の安全確保の手段です。
手段と目的を区別し、逆転することがないように注意しましょう。

障がい福祉におけるリスクマネジメントの対策

障がい福祉でリスクマネジメントを実施する場合、以下のような対策があります。

  • ヒヤリハット報告の徹底
  • 適切なリスクアセスメントの実施
  • 苦情解決体制の構築
  • 職員の教育体制の整備

それぞれの対策について、順番に解説します。

ヒヤリハット報告の徹底

日常的な業務で発見したヒヤリハットをミーティングや日誌で報告し、職員間で共有することは効果的な対策です。
ヒヤリハットとは、重大な事故の予兆となる、あるいはリスクを感じさせる出来事を意味します。

ヒヤリハットは介護事故の前兆であり、放置すれば重大なリスクを招く恐れがあります。
あらかじめヒヤリハットを把握しておくことで、的確な予防が可能です。

ヒヤリハット報告はただ業務として実行するだけでなく、職員を評価する基準として扱うと、より効果的です。
多くのヒヤリハットを発見した職員は表彰するなど、積極的に評価しましょう。

適切なリスクアセスメントの実施

発見したリスクに対し、適切なリスクアセスメントを実施することも欠かせません。
リスクをただ曖昧に評価するのではなく、カテゴリー別に分けて評価すれば、より効果的な対策を考案できます。

アセスメントは客観的な視点を交えながら実施しましょう。
多角的に分析すれば、より精密な評価が可能です。

リスクアセスメントの結果は、随時職員に共有しましょう。
職員の認識を均質化すれば、リスクへの対応がよりスムーズになります。

苦情解決体制の構築

苦情は「利用者の声」であり、潜在的なリスクを発見するきっかけになるものです。
そのため、利用者から届いた苦情は精査し、施設側で見落としているリスクがないか丁寧にチェックしましょう。

場合によっては、苦情をきっかけに重大なリスクに対処できる場合があります。
また、サービスの質をより向上させる機会も得られます。

ただし、あまりに理不尽な苦情には注意が必要です。

理不尽な苦情はハラスメントに該当する可能性があり、要求に応え続けるとエスカレートするリスクがあります。
あらゆる苦情をただ受け入れるのではなく、内容を精査しつつ、リスクマネジメントの対象となるものだけを選定しましょう。

職員の教育体制の整備

リスクに適切な対応ができるようにするためにも、職員の教育体制を整備しましょう。

ケース別の対応について記載したマニュアルの配布や、リスクの対応方法を指導すれば、より適切なリスクの予防や事後処理ができます。
また、教育や研修に参加することで職員の意識が高まるため、リスクの抑制にもつながります。

教育体制を整備する際は、一過性のものにならないように注意しましょう。
限定的な教育は効果が薄いだけでなく、職員のリスクに対する意識を低下させる恐れがあります。

職員の意識を高め、着実にスキルの向上を目指すなら、定期的に研修を実施できる体制が不可欠です。
日常的な業務に必要なスキルを学ぶ教育はもちろん、法令や制度の改定があった際は、内容を共有できる研修を臨時で開催しましょう。

障がい福祉におけるリスクマネジメントのポイント

障がい福祉におけるリスクマネジメントをより効果的なものにするなら、以下のポイントを意識しましょう。

  • 方針を策定し組織として対応する
  • 利用者やその家族とのコミュニケーションに留意する
  • 法令や制度の変化に注意する
  • 業務の見直しを定期的に行う

リスクマネジメントの効果を高めるうえで、いずれのポイントも無視できないものです。

方針を策定し組織として対応する

リスクマネジメントを実施する際は、必ず方針を策定し、組織としてリスクに対応することを明確にしましょう。
組織としてリスクに対応することを明示しないと、有効的な施策を実施しても、職員はついていきません。

また、組織として対応することを明確にすれば、職員が個人でリスクを解決しようとする事態を防げます。

利用者とトラブルが発生した場合、職員が個人で解決しようとすると事態が悪化しかねません。
そのため、施設がいち早くリスクを発見し、組織的な対応に切り替えられるような体制を構築することで、リスクの悪化を防止できます。

利用者やその家族とのコミュニケーションに留意する

利用者やその家族とのコミュニケーションには、日ごろから留意しましょう。

利用者やその家族の不安や意見は、重大なリスクに直結しているケースがあります。
日常的にコミュニケーションを積極的に行えば、事前にリスクを把握できる可能性が高まります。

利用者によっては、健康上の問題が原因でリスクが高まるケースも珍しくありません。
コミュニケーションを通じて兆候を確実に把握できれば、有効な施策を速やかに実践できます。

もちろん、職員同士のコミュニケーションも不可欠です。
スムーズに連携したり、情報を共有したりするためにも、定期的なミーティングの開催や相談窓口の設置は必ず実施しましょう。

法令や制度の変化に注意する

障がい福祉に関連する法令や制度は、社会情勢の影響でたびたび変化することがあります。

法令や制度が変化した際は、改定箇所を確認しましょう。
もし施設の運営体制や業務のプロセスに、法令や制度に抵触するものがあった場合、新たなリスクを誘発する恐れがあります。

リスクを放置したり、対策の実施を怠ったりすると行政処分の対象になるため、早急に改善しましょう。

法令や制度は、障がい福祉に限らず、あらゆる介護サービスにおいて遵守すべきものです。
施設の信頼を守るためにも、法令や制度への対応は速やかに行いましょう。

業務の見直しを定期的に行う

障がい福祉施設の業務の見直しも定期的に行いましょう。
職員の技量や利用者の傾向が変化すると、従来の業務ではリスクへの適切な対処が難しくなる場合があります。

特に、職員の人数が減った際は、従来の業務を継続できなくなる事態になりかねません。

そのため、定期的に業務の見直しを実施し、必要があればプロセスの刷新も行いましょう。
最先端のツールやシステムを導入してプロセスを自動化したり、新たなツールを導入したりすれば、サービスの質を高めるきっかけにもなります。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

リスクマネジメントに関しては障害福祉業界に限らず、介護でも医療でも一貫して『利用者のアセスメント』という側面があります。ハインリッヒの法則にあるとおり、ひとつのヒヤリハットでもそれが積み重なっていくことで、重大な事故に繋がる恐れがあります。したがって、ヒヤリハット報告は、その報告が目的ではなく、ヒヤリハット事例を共有し、再発防止に努めることが重要なのです。そのためには、なぜそのような状況になったのか?という分析が必要です。すなわちヒヤリハット報告に関連した利用者個々のアセスメントが必要ということです。このように書いてしまうと「大変だ…」と感じてしまうかもしれません。しかしながら、こうしたアセスメントを通じて利用者への介助内容の精度が向上し結果として、ケアの質が向上する側面もあるのです。

障がい福祉のポイントを理解して適切なリスクマネジメントを実施しよう

障がい福祉施設はさまざまな障がいを持つ利用者のケアを行うため、不確実性の高いリスクが多く発生する現場です。
そのため、施設は日ごろから適切なリスクマネジメントを実施し、リスクの予防と、発生時の適切な対応に努めなければなりません。

ただし、リスクマネジメントは意識すべき視点やポイントが多くあります。
本記事を参考に、効果的な対策を検討してください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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