【医療業界動向コラム】第111回 新たな地域医療構想では、外来医療の適正化も重要なキーワード

2024.10.15

令和6年9月30日、第9回新たな地域医療構想等に関する検討会が開催された。テーマは大きく3つ。病床機能及び医療機能の考え方・精神科領域の位置づけ・医師偏在対策。前回は病床機能及び医療機能の考え方と精神科領域の位置づけについて解説した(【医療業界動向コラム】第110回 新たな地域医療構想では「回復期」の定義等を見直す方針)。今回は、医師偏在対策について解説する。

〇新たな地域医療構想でなぜ医師偏在対策を?

現行の地域医療構想は入院医療の役割分担・適正化が主な目的だが、令和9年度から始まる新たな地域医療構想は外来・在宅・介護サービスまでをひっくるめた、いわば地域を一つの総合病院と考えるような内容となる。これまで実際に地域医療構想が推進されていくことで病床機能の転換・適正化は推進され、患者の療養する場所は病床から、在宅や施設のベッドへと広がり、診療報酬・介護報酬においても慢性疾患の通院治療と在宅医療等に関する評価は見直され、過度な訪問に対する適正化も進められており、外来・在宅における医療提供体制と質の維持が整備されつつある。

その一方で、勤務医の働き方改革の影響が今後地域に影響を与えることが懸念されるところでもある。2030年から本格的な人口減少が始まるが、それは患者だけではなく、医療従事者・介護従事者も同様のこと。また、人口減少にも地域差があり、へき地と人口密集地とで医療サービス等に差があってはいけない。そこで、新たな地域医療構想では、入院機能の適正化を図るためにも、外来・在宅の機能強化と連携強化を重要な視点とすると共に、医療の地域差に起因する課題の解決として、医師偏在対策総合パッケージを年内に取りまとめ、新たな地域医療構想との連動を図ることとしている。

〇重点医師偏在対策支援区域(案)の設定、経済的インセンティブや地域別診療報酬を検討へ

へき地でなくても、人口規模、地理的条件、今後の人口動態等から、医療機関の維持が困難な地域もあり、まず早急に取り組む地域の対策として、優先的かつ重点的に対策を進める区域として「重点医師偏在対策支援区域(案)」を設定し、その区域内の対象医療機関、必要医師数を具体的に示すことが検討されている。また、こうした区域に対する経済的なインセンティブの検討に入る考えが示された(図1)。

図1_重点医師偏在対策支援区域(案)(※画像クリックで拡大表示)

経済的インセンティブについては、国や自治体だけではなく、保険者からの協力も得ることが考えられている。地域別診療報酬の設定などもこの中で検討されることも考えられる。

〇新規開業に対する規制的手法

医師偏在対策総合パッケージで気がかりなのが、いわゆる新規開業に対する規制的手法についてだろう。今回の検討会で、外来医師多数区域に診療所数の上限を設定する考えが厚生労働省から示された。その上で、新規開業にあたっては従来の外来医療計画においてもすでにある「地域に必要な医療機能をカバーするよう求める」ことを強化すべく、許可制の導入を提案している。ただし、憲法で保障されている職業選択や営業の自由との関係のほか、すでに開業している診療所との公平性の確保や、新規参入の抑制が医療の質に及ぼす影響などに注意することも併記している(図2)。

図2_規制的手法(※画像クリックで拡大表示)

なお、あくまでも外来医師多数区域に限定してのことで、過度に都心部に診療所が集中しないようにし、医療資源が限られた地域での開業を促すことが目的と言える。

他にも、医師少数区域での勤務経験を求める管理者要件が地域医療支援病院のみとなっているが、その他の医療機関にも拡大することや全国的なマッチング機能などについても考えが示された。

これまでの地域医療構想は入院医療に関するものであったが、令和9年度からの新たな地域医療構想は、患者の自宅・入所する施設も病床と考えた新たな医療提供体制を目指すものとなる。医師偏在対策も含めた地域医療提供体制の在り方は、今後、新たな地域医療構想の考え方に収斂し、今後各地で開催される地域医療構想調整会議は、地域版中医協のようになっていくように思われる。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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