看護過程の全体像とは?活用できる理論4選と書き方のコツを徹底解説

2024.11.16

看護記録は、患者の容態や状態を把握するのに用いられるため、正確に情報を記載する必要があります。
看護過程の全体像を把握するには、アセスメントを含む5つの構成要素を理解しておくことが大切です。

しかし、看護過程の全体像を書く際に「どのように作成すればいいのかわからない」と悩んでしまう方もいるでしょう。
そこで本記事では、看護記録の全体像とは何か、書き方やコツを交えて解説します。
看護記録に活用できる4つの看護理論もあわせて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。

看護過程の全体像とは

看護過程の全体像とは、患者の看護に関する全体像を把握するための情報のことです。
全体の構成要素は、主に次の5つです。

  • アセスメント:情報の収集、分析をする
  • 問題の明確化(診断):アセスメントの情報や分析結果から、問題点を明確化する
  • 計画:明確化した問題に対しての目標や到達期限を設定し、計画を策定する
  • 介入:策定した計画に基づいて看護ケアを実施する
  • 評価:実施した看護ケアから得られた効果を評価し、評価内容に基づいて看護内容を見直す

それぞれの要素が、独立しているのではなく、重なり合う相互関係にあります。
評価に基づいてアセスメントへつなげるため、上記のステップを繰り返して、看護サービスの最適化を図ります。

看護過程の全体像を把握し、それぞれのステップで患者の容態や看護内容を見直すことが大切です。

看護過程の全体像で重要なアセスメントとは

看護過程の全体像では、まずアセスメントの実施が必要です。
アセスメントは、患者の情報を収集し、分析することを指します

アセスメントで収集する情報は、主に下記の2種類です。

  • 主観的情報
  • 客観的情報

それぞれの情報の違いを確認して、アセスメントを実施する際の参考にしてください。

主観的情報

主観的情報とは、患者本人が感じている痛みや違和感などの症状です。
「頭が痛い」「動悸がする」など、患者の訴えや言動から主観的情報を収集します。

主観的情報は、患者が発する言葉の中に含まれているため、些細な会話から情報を収集できます。
また、利用者の家族の訴えや言動も主観的情報に該当するため、内容を記録しておきましょう。

客観的情報

客観的情報は、バイタルサインや検査データ、表情、皮膚、排液の状態などを客観視して得られる情報です。
例えば、患者が「動悸がする」と訴えた場合は、体温や脈拍を計測して容態を数値化する必要があります。

主観的情報が、患者本人の主張や言動から得られる情報であるのに対して、客観的情報は、観測や測定から得られる客観的な事実に基づいた情報です。
客観的情報は、バイタルサインや検査データから「誰が見ても同じ情報を得られる」ため、公平性を確保した情報を収集できます

看護のアセスメントを書く際の4つのコツ

看護のアセスメントを書く際の4つのコツは、次のとおりです。

  • 前提の情報収集をする
  • 着目するポイントを整理する
  • S情報とO情報を整理する
  • 推測は記入しない

それぞれのコツを押さえることで、アセスメントをスムーズに作成できます。
分かりやすく的確なアセスメントを作成するために、それぞれのコツを実践してください。

前提の情報収集をする

アセスメントの作成は、前提となる情報収集の徹底が大切です。
前提の情報とは、次のようなものが該当します。

  • 患者の基本的な情報
  • 診断名
  • 入院までの経過
  • 患者の主訴
  • 入院する目的

患者の基本的な情報や診断名は、カルテから収集できます。
しかし、他の情報はカルテだけでは収集できないため、患者から直接聞き出しましょう

例えば、「入院までの経過」に関する情報を収集したい場合は「いつ頃から現在の症状に気づきましたか」などの質問が効果的です。

患者の主訴は、主観的情報に該当するため、アセスメント作成に必要な情報です。
まずは前提の情報を収集し、現状を把握しましょう。

着目するポイントを整理する

前提の情報を収集した後は、アセスメントとして着目するポイントを整理する必要があります
情報のポイントを整理すれば、優先して取り掛かるべき問題や着目するべきポイントを可視化できます。

前提の情報を整理する際には、看護理論に基づいた枠組みを活用しましょう。
看護理論とは、看護における知識やノウハウを体系化し、現象や課題を明確に説明するための枠組みです。

主な看護理論として、次のようなものがあります。

  • ヘンダーソンの「基本的看護の構成要素14項目」
  • オレムの「セルフケア理論」
  • ロイの「適応理論」
  • ゴードンの「11の機能的健康パターン」

上記の看護理論は、後ほどの章で解説しますが、いずれもアセスメント作成に活用できます。
看護理論に基づいた情報の整理により、取り掛かるべき問題や着目するポイントを明確化しましょう。

S情報とO情報を整理する

アセスメントを作成する際は、S情報とO情報の整理が大切です。
S情報とO情報は、次のような情報を指します。

  • S情報:主観的情報(患者の主訴や言動など主観的な情報)
  • O情報:客観的情報(バイタルサインや検査データなど観測した客観的な事実)

S情報とO情報を整理すれば、患者の容態や症状を明確化できるため、アセスメントをスムーズに作成しやすいです。
例えば、「頭が痛い」と患者が発した言葉は、S情報(客観的情報)に該当します。

対して、「頭を抱えながら、苦しそうな表情で頭痛を訴えている」「体温を測定すると38.5度の熱があった」などは、O情報(客観的情報)です。
アセスメントを、誰が読んでも分かりやすい適切な内容にまとめるため、S情報とO情報を正しく整理しましょう。

推測は記入しない

アセスメントを書く際に、推測は記入しないよう注意してください
S情報やO情報にはない「推測した情報」からアセスメントを書くと、事実とは異なる結果を生む可能性があります。

アセスメントに推測を記入すると、誤った看護ケアの提供へとつながるため、事実のみをまとめるようにしてください。
S情報やO情報から近しい疾患と結びつけてしまうと、誤診や医療ミスへと発展するリスクがあります。

アセスメントは、S情報とO情報を解釈するためにまとめる必要があり、「現状が明らかな事実」を記入するだけで十分です。

看護の関連図の書き方・コツ

看護の全体像を把握する上で、アセスメントの他に関連図が役立ちます。
関連図とは、患者の情報と関連する情報をまとめた図です。

患者の容態や病状、看護問題を可視化し、情報を整理する際に関連図を活用します。
関連図の種類は、大きく分けて次の2種類です。

  • 病態関連図
  • 全体関連図

病態関連図とは、患者の病気に関する情報がまとめられた図です。
例えば、病気の原因や治療方法、治療により発生する作用、副作用が書き出されます。

副作用による生活への影響や看護問題も図にまとめられ、患者の病気に関する情報を網羅的に把握できます。
対して、全体関連図とは、病気関連図に生活習慣や家族背景、入院による影響など病気以外の情報も網羅的にまとめた図です。

患者に関するすべての情報を把握できるため、看護の全体像を把握したいときに効果的です。
それぞれの書き方とコツを押さえて、関連図を作成しましょう。

病態関連図の書き方・コツ

病態関連図を書く際は、次の情報を図にまとめます。

  1. 患者の基本情報
  2. 病名(診断名)
  3. 発症の原因
  4. 症状
  5. 治療方法
  6. 治療による作用や副作用
  7. 看護問題
  8. 問題に対する看護ケア

まずは、患者の基本情報から病態の原因を探り、診断名を記入します。
次に診断名から症状や実施する治療方法、治療によって生じる作用、副作用を図に展開しましょう。

生活への影響や患者の負担を考慮し、看護問題と問題に対する対処を記入すれば、病態関連図の作成が完了します。
コツとしては、病態関連図は情報量が多くなるため「症状」や「治療方法」など、項目ごとにグループ分けしましょう

S情報やO情報など、細かな情報であってもすべて書き出し、情報を図にまとめていくと病態関連図を作成できます。

全体関連図の書き方・コツ

全体関連図では、病態関連図に加えて次の情報を記載する必要があります。

  • 患者の家族背景
  • 患者の生活習慣
  • 入院による身体や環境の変化
  • 仕事や学業など社会的な影響

全体関連図を作成する際は、患者の家族構成や入院前の生活、患者に関わるすべての情報を書き出し、図にまとめましょう
入院による身体や周辺環境の変化、仕事や学業への支障など病気により想定される影響をまとめます

患者の生活や家族背景まで可視化した関連図であれば、患者が抱える問題をより明確に把握できます。
病気へのケアだけでなく、生活面すべてに対処する看護ケアを実施しましょう。

看護過程の全体像を書く際に活用できる看護理論4選

先ほど解説したとおり、アセスメントを書く際には着目するポイントを整理する必要があります。
看護の全体像を把握し、適切なケアを実施するためには、看護理論に基づいた情報把握が効果的です。

全体像を把握する際に活用できる、主な看護理論は次の4つです。

  • ヘンダーソンの「基本的看護の構成要素14項目」
  • オレムの「セルフケア理論」
  • ロイの「適応理論」
  • ゴードンの「11の機能的健康パターン」

それぞれの理論を確認して、看護の全体像を把握する際に活用しましょう。

ヘンダーソンの「基本的看護の構成要素14項目」

アメリカの看護師、看護研究者、看護理論家の「ヴァージニア・ヘンダーソン」が提唱した「基本的看護の構成要素14項目」では、人間が持つ基本的な欲求を14種類にまとめています

「基本的看護の構成要素14項目」は、次のとおりです。

構成要素該当する情報例
正常に呼吸する呼吸数、肺雑音、呼吸機能、経皮的酸素飽和度、胸部レントゲンなど
適切に飲食する食事時間、食事回数、食事内容、食事の摂取量、水分摂取量、口腔内の状態など
あらゆる排泄経路から排泄する排泄回数、性状、量、尿意、便意、排尿困難、排尿方法、尿pHなど
身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持するADL、麻痺、骨折の有無、安静度、運動習慣、身体活動量など
睡眠と休息をとる睡眠時間、パターン、疼痛、掻痒感の有無、入眠剤の有無、熟眠感、睡眠不足の兆候など
適切な衣類を選び、着脱するAOL、運動機能、認知機能、麻痺の有無、倦怠感、脱力感など
環境の調整により体温を正常範囲に維持する体温、発熱の有無、空調状況、適切な室内環境など
身体を清潔に保ち身だしなみを整え皮膚を保護する入浴回数、方法、ADL、麻痺の有無、爪の状態、毛髪の状態など
環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする意識、見当識、瞳孔の状態、動眼神経反応、認知機能、感覚、療養環境での危険箇所など
自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションをもつ性格、自尊感情、疾患に対する認識、面会者の来訪、キーパーソンとの関係、言語障がいの有無
自分の信仰に従って礼拝する信仰、意思決定に影響する価値観、信念、目標、治療法の制限など
達成感をもたらすような仕事をする家庭内役割、社会的役割、病人役割、ボランティア活動、経済状況など
遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する趣味、休日の過ごし方、余暇活動、入院、療養中の気分転換方法など
正常な発達および健康を導くような学習をし好奇心を満足させる発達段階、疾患、治療方法の理解、学習意欲、認知機能、服薬状況など

上記の基本的欲求に沿ってアセスメントを実施します。
また次の「常在条件」と「病理的状態」を考慮して、アセスメントを実施すれば、より正確な看護過程の全体像を把握できます

基本的欲求に影響を及ぼす常在条件

  1. 年齢
  2. 気質、感情の状態、一過性の気分
  3. 社会的ないし文化的状態
  4. 身体的並びに知的能力

「基本的欲求を変容させる病理的状態」

  1. 飢餓状態、致命的嘔吐、下痢を含む水および電解質の著しい平衡障害
  2. 急性酸素欠乏状態
  3. ショック(虚脱と失血を含む)
  4. 意識障害、気絶、昏睡、せん妄
  5. 異常な体温をもたらすような温熱環境にさらされる
  6. 急性発熱状態(あらゆる原因のもの)
  7. 局所的外傷、創傷および/あるいは感染
  8. 伝染性疾患状態
  9. 手術前状態
  10. 手術後状態
  11. 疫病による、あるいは治療上指示された動けない状態
  12. 持続性ないし難治性の疼痛

オレムの「セルフケア理論」

アメリカの看護師「ドロセア・オレム」が提唱した「セルフケア理論」では、「個人が生きていく過程で必要な活動を意のままに行える能力」をセルフケアと定義付けています

セルフケア理論では、身体面だけでなく精神面や心理面で個人が不自由なく活動できる状態を維持することが目的です。
またセルフケアを実施する要件として、次の3種類を定めています。

セルフケア要件概要
普遍的セルフケアすべての人に共通するもの
発達的セルフケア要件さまざまな発達段階や発達を阻害する現象に関連するもの
健康逸脱に対するセルフケア要件疾病や障がいが原因で生じるもの

上記3つのセルフケア要件から、看護課題や治療方法を策定し、アセスメントを実施できます。

ロイの「適応理論」

アメリカの看護理論家、教授、著述家「シスター・カリスタ・ロイ」が提唱した「適応理論」は、人間の適応能力に着目した理論です。

具体的には、人間の絶えず変化する生活条件や健康状態などの環境の変化、刺激に適応し維持する能力に着目した理論です。
適応の手段として、次の4種類に様式を分類しています。

適応様式概要
生理的様式身体的に生じた変化や反応に関する様式
自己概念様式精神的な不安や自己の身体や性格、価値観など人格的な側面に関する様式
役割機能様式家族内や社会での役割の変更、経済状況の変化、反応など社会的な変化に関する様式
相互依存様式人間関係に関する変化、反応、人間の相互依存に関する様式

上記の適応様式に基づいてアセスメントを実施すれば、適応の目標に対処するプロセスを把握できます

ゴードンの「11の機能的健康パターン」

アメリカの看護学者であり看護理論家の「マージョリ・ゴードン」が提唱した「11の機能的健康パターン」は、看護の全体像を把握する枠組みとして効果的です。
ゴードンの「11の機能的健康パターン」では、次の11のパターンに基づいてアセスメントを実施します。

パターン該当する情報例
健康知覚・健康管理健康状態、受診行動、疾患や治療への理解、運動習慣、服薬状況など
栄養・代謝食事の時間、回数、内容、摂取量、嗜好品、水分摂取量、高カロリー輸液など
排泄排泄回数、量、性状、腎機能データ、排泄行動、腹部の膨満感など
活動・運動ADLの状況、運動機能、呼吸機能、職業、運動歴、安静度など
睡眠・休息休息時間、睡眠時間、サーカディアンリズム、熟眠感、睡眠導入剤使用の有無など
認知・知覚意識レベル、瞳孔の状態、動眼神経反応、認知機能、感覚、疼痛など
自己知覚・自己概念性格、社会役割、家族内役割、疾患の見通し、ボディイメージなど
役割・関係職業、社会役割、家族の面会状況、経済状況、キーパーソンなど
性・生殖年齢、家族構成、更年期症状の有無など
コーピング・ストレス耐性ストレス対処方法(コーピング方法)、ストレッサーの状況、ストレス反応、周囲のサポート状況など
価値・信念信仰、価値観、信念、目標など

上記のパターンに沿ってアセスメントを実施すれば、患者の容態や看護課題をスムーズに把握できます

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

『彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず』という言葉を見聞きされたことがある方は少なくないでしょう。中国春秋時代の兵法家孫武が記した兵法書「孫子」の一節です。その意味は「敵の実力や現状をしっかりと把握し、自分自身のことをよくわきまえて戦えば、なんど戦っても勝つことができる」というものです。なにか問題を解決するときも、その内容を吟味し、自分たちの力量を認識したうえで対処すれば、大抵うまくいくということになります。看護においても、患者の現状をしっかり把握(アセスメント)していて、自分たちの能力(スキル)もキチンと把握できていれば、患者への看護の方向性を間違うことはないということになります。本文中にもある看護理論を駆使し、アセスメントの精度を高めていくことで、看護の精度も向上していくのです。

看護の全体像を把握してアセスメントや関連図にまとめよう

看護の全体像を把握するために、アセスメントや関連図を作成しましょう。
アセスメントや関連図は、患者の容態や家族背景、治療中に生じる周囲への影響などがまとめられます

患者の基本情報だけでなく、病気や治療によって生じる影響や障がいなどの情報を収集すれば、看護の全体像を把握できます。
看護理論に基づいたアセスメントを実施すれば、スムーズに看護の全体像を関連図にまとめることが可能です。

看護の全体像をアセスメントや関連図にまとめるために、本記事で解説した看護理論を活用しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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