グループホームのBCP作成の流れを解説!義務化や作成のポイントも紹介

2025.01.18

「2024年4月からBCPの策定が義務化されたけど、具体的に何をすれば良いの?」
「グループホームのBCPって、普通の防災マニュアルと何が違うの?」

上記のように頭を悩ませている担当者の方は多いのではないでしょうか。

近年、災害や感染症の流行など、予期せぬ事態への備えがますます重要になっています。グループホームにおいても、入居者の安全・安心を守るためには、事業継続計画(BCP)の策定が不可欠です。

この記事では、グループホームのBCP作成の流れを解説します。BCPの基本的な内容から、具体的な作成手順、押さえておきたいポイントまで、わかりやすく解説していきます。

BCP策定の基本を理解したい方や具体的な策定ポイントで悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

BCPとは?【事業継続計画】

BCPとは事業継続計画(Business Continuity Plan)の略称であり、システム障害や感染症の拡大、自然災害などの危機的状況でも、業務を継続できる体制を整えるための計画書です。

特にグループホームなどの介護施設では、入居者の生命と安全に直結するサービスを提供しているため、どのような状況下でも業務を継続しなければなりません。

BCPが必要とされる主な理由は、以下の3つです。

  • 入居者の安全とケアの質を確保できる
  • 職員の安全と業務環境を守れる
  • 施設の社会的信頼を維持できる

新型コロナウイルス感染症の流行時には、多くの介護施設が人員不足や感染対策に苦慮しました。しかし、BCPを整備していた施設では、感染者発生時の対応手順や業務継続の優先順位が明確だったため、比較的スムーズに危機を乗り越えることができました。

BCPは単なる災害対策マニュアルではなく、あらゆる危機的状況下でも事業を継続するための包括的な計画として機能します。

2024年4月に完全義務化された介護事業所のBCP策定

介護施設における事業継続計画(BCP)の策定が2024年4月から完全義務化となりました。対応を怠ると、介護報酬の減算対象となる可能性があるため、早急な対応が必要です。

BCP策定義務化の背景には、新型コロナウイルス感染症の流行や大規模災害の頻発があります。これまでの経験から、介護サービスの継続には平時からの備えが不可欠だと認識されるようになったからです。

厚生労働省は令和3年度の介護報酬改定で、全ての介護事業所にBCP策定を義務付けました。ただし、事業所の準備期間を考慮して、2024年3月31日までの3年間の経過措置が設けられていました。

参照:令和3年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

BCPと防災マニュアルの違い

防災マニュアルは災害への具体的な対応を記したものですが、BCPはより包括的で、自然災害を含む幅広いリスクへの対策や業務継続のための計画を策定するためのものです。

2つの主な違いをまとめると以下のとおりです。

防災マニュアルBCP
目的人命保護と被害の最小化事業の継続と早期復旧
対象範囲災害発生時の初動対応あらゆるリスクへの対策
時間軸発生直後の緊急対応発生前の準備から復旧まで

グループホームでは、入居者の安全確保と生活支援の継続を両立させなければなりません。そのためには、防災マニュアルとBCPの両方を整備し、緊急時から復旧までの一貫した対応体制を構築する必要があります。

グループホームで求められるBCP対応の役割

グループホームには、入居者の生命と健康を守りながら、必要不可欠なケアサービスを継続して提供する責務があります。

グループホームのBCP対応で求められる役割は、以下のとおりです。

  • 24時間365日の生活支援維持、医療機関との連携体制確保
  • 感染防止対策の徹底、避難計画の整備、健康管理の強化
  • 適切な労働環境の確保、メンタルヘルスケア、感染防止策

入居者は高齢者であり、感染症に対する抵抗力が弱く、重症化リスクも高いため、感染防止対策には万全を期す必要があります。定期的な健康観察の実施や早期発見・早期対応の体制構築が必要となるでしょう。

職員の安全確保も忘れてはいけません。労働契約法第5条に定められた使用者の安全配慮義務に基づき、適切な勤務シフトの編成や休憩の確保、精神的ストレスへのケアなど、職員保護の体制を整えましょう。

グループホームで押さえておきたいBCP作成のポイント

BCPは、ただ作成すれば良いというわけではありません 。作成したBCPが実際に機能するよう、以下のポイントを意識しましょう。

情報共有と役割分担の体制づくり

緊急時に迅速な対応を取るためには、平時からの情報共有体制の構築と明確な役割分担が不可欠です。特に感染症や災害が発生した際には、混乱を防ぎ、適切な対応を取るための体制づくりが必要です。

具体的には、以下のような役割分担表を作成し、誰が、いつ、何をするのかを明確にしておきましょう。

役割担当者具体的な業務内容
指揮命令施設長全体指揮、外部連絡、情報収集
入居者支援介護職員A, B安否確認、避難誘導、生活支援
情報伝達事務職員C家族への連絡、関係機関への報告

役割分担は、文書化して終わりではありません。定期的なミーティングや研修を通じて内容を周知徹底し、必要に応じて見直しを行うことで、実効性のある体制を構築できます。

感染症発生時の迅速な対応策

グループホームでは、高齢者が共同生活を送る環境であるため、感染症発生時の迅速な対応が不可欠です。

そのため、BCPには、感染症発生時の対応手順を具体的に記載しておく必要があります。例えば、以下のような項目を盛り込むと良いでしょう。

  • 感染症の疑いがある場合の対応手順
  • 入居者、職員の健康管理の方法
  • 感染拡大防止のための対策(マスク着用、消毒、換気など)
  • 外部機関との連携方法(保健所、医療機関など)

このような対応を確実に実行するためには、平時からの準備とシミュレーションが大切です。具体的な対応手順を文書化するだけではなく、定期的な訓練を通じて、職員一人ひとりが自分の役割を理解し、実践できるように準備しておきましょう。

業務の優先順位を明確化

感染症の流行により職員が不足した場合でも、入居者への必要不可欠なサービスは継続しなければなりません。そのためには、あらかじめ業務の優先順位を明確にし、限られた人員で対応できる体制を整えておく必要があります。

具体的には、以下のように優先度を決め対応するように決めておきましょう。

最優先食事介助、服薬管理、排泄介助など生命維持に関わる業務
要調整入浴介助、レクリエーションなど状況に応じて実施を判断
延期可定例会議、研修など緊急性の低い業務

施設内や法人内での職員確保体制を事前に検討し、必要に応じて関係団体や都道府県への応援要請も視野に入れておくことも大切です。

訓練と周知で実効性を高める取り組み

BCPは作成して終わりではなく、定期的な訓練と周知を通じて実効性を高めていく必要があります。実際の災害や感染症発生を想定したシミュレーションを行うことで、現場レベルでの課題や改善点を洗い出すことができます。

また、定期的な研修や説明会を通じて全職員への周知を徹底することで、緊急時の迅速な対応が可能となるでしょう。

厚生労働省のBCP雛形を活用

BCPの作成に不慣れな場合は、厚生労働省が提供しているBCP雛形を活用すれば、効率的に計画を策定できます。この雛形には必要な項目が網羅的に記載されていますが、そのまま使用するのではなく、各グループホームの実情に合わせて内容を加筆・修正していくことが大切です。

実態に即した実用的な計画とすることで、より効果的なBCPを作成できます。

参照:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修|厚生労働省

グループホームでBCPを策定するための4つのステップ

BCP策定は複雑なプロセスに思えるかもしれませんが、以下の4つのステップに沿って進めることで、スムーズに作成できます。

ステップ1. BCP策定の目的を明確にする

まず、なぜBCPを策定するのか、その目的を明確にしましょう。

グループホームにおけるBCPの主な目的は、災害や感染症の発生時など、緊急事態でも入居者の安全を確保し、可能な限り質の高い介護サービスを継続的に提供することです。

この目的を念頭に置いて、BCP策定を進めることが大切です。

ステップ2. 重要な業務とリスクを洗い出す

グループホームでは、入居者の生命と健康に直結する業務を最優先で維持する必要があります。そのため、まずは重要な業務とそれに伴うリスクを具体的に洗い出し、どのような影響が出るかを想定しておくことが大切です。

重要な業務とは、入居者の生命や健康に関わる業務、例えば、食事提供や排泄介助、服薬管理などです。これらの業務が停止した場合、入居者にどのような影響が出るのかを具体的に想定しましょう。

重要業務想定されるリスク利用者への影響
食事提供停電による調理不可必要な栄養が摂取できない
排泄介助断水でのトイレ使用不可衛生状態の悪化
服薬管理医薬品の備蓄不足健康状態の悪化

このように業務とリスクを整理することで、事前の対策や代替手段の検討が可能です。また、自然災害や感染症の流行など、複数のリスクが同時に発生することも想定し、包括的な対策を立てることが求められます。

ステップ3. リスクに優先順位をつける

全てのリスクに同時に対応することは現実的ではありません。そのため、リスクの発生頻度と影響度を評価し、優先的に対応すべき課題を明確にする必要があります。

リスク発生頻度影響度優先順位
地震による建物倒壊
インフルエンザの流行
停電

優先順位を設定しておけば、限られた資源を効果的に活用した対策が可能です。特に影響度の高いリスクについては、発生頻度が低くても優先的な対応を検討する必要があります。

ステップ4. 実現可能な具体策を計画する

優先順位の高いリスクに対しては、確実に実行できる具体的な対策を計画する必要があります。理想的な対策を掲げるのではなく、施設の実情に合わせた実現可能な対策を立案していきましょう。

具体的な例を確認してみましょう。

対策項目具体的な実施内容準備事項
停電対策自家発電設備の導入設置場所の確保、定期点検計画
安否確認SNSグループの活用連絡網の整備、通信手段の確認
避難経路複数の避難ルート確保経路図の作成、定期的な確認

計画した対策は必ず文書化し、定期的な見直しと更新を行いましょう。また、関係者全員で内容を共有し、必要に応じて改善を重ねることで、より実効性の高いBCPとなっていきます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

深刻な被害をもたらし、未だ復旧していない令和6年能登半島地震が記憶に新しいように、日本が地震大国であることを自覚していない日本人はいないでしょう。令和6年能登半島地震では、被災した介護施設や事業所に対して、厚生労働省が県外施設等から介護職員等の派遣を行うなど、支援が行われています。また、被災した方の介護保険サービス利用料の自己負担分は免除となり、令和7年6月30日まで延長されました。地震だけではなく、集中豪雨など自然災害による被害や、コロナ禍による大混乱などが相次いだことにより、介護施設へのBCP策定が2024年4月より義務化されました。介護事業でBCPが義務付けられる理由は『有事であっても継続が求められる事業』だからです。特にGHはその性質上普段からの備えがよりいっそう重要でしょう。

まとめ|グループホームのBCP策定で入居者の安全・安心を守りましょう

この記事では、グループホームにおけるBCP策定の重要性や作成の流れ、具体的なポイントについて解説しました。2024年4月からの完全義務化を受け、BCP策定はグループホーム運営において不可欠な要素となっています。

自然災害や感染症の発生時など、不突発な事態においても入居者の安全と生活を守るためには、事前の準備と適切な対応が不可欠です。

BCPは単なる防災マニュアルとは異なり、事業継続を目的とした包括的な計画です。重要な業務の特定、リスク評価、具体的な対策の策定を通して、あらゆる事態に備える必要があります。

情報共有の体制づくり、感染症対策、定期的な訓練の実施など、多岐にわたる視点が求められます。厚生労働省が提供するBCP雛形を活用することも、策定をスムーズに進める上で有効な手段となるでしょう。

BCP策定のステップは、目的の明確化やリスクの洗い出しと優先順位付け、実現可能な対策の計画という流れで進めます。

各ステップでは、職員間での協力と理解が不可欠です。BCPは作成して終わりではなく、定期的な見直しと改善を繰り返すことで、実効性を高めていくことが大切です。

入居者の安全・安心を確保するためにも、グループホームにおけるBCP策定に真剣に取り組み、有事の際にも適切な対応が取れるよう準備を進めましょう。

BCP策定は、入居者とそのご家族からの信頼獲得にもつながる重要な取り組みです。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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