【介護業界動向コラム】第6回 通信環境(モバイル端末、ネットワーク環境設備)について
2024.12.25
本コラムの第3回~第5回では、介護記録ソフト、見守り支援機器、インカム等のICTツールをご紹介してきましたが、各ツールの機能面にばかりに注目していると、導入後に「ネットワークが繋がりにくい、センサーのアラートが鳴らなかった、インカムを使っての会話が途切れる」等の問題が発生しがちです。今回はこのようなICT機器が通信を行う為の要となるスマートフォン・タブレット等の「モバイル端末」と「ネットワーク環境整備」の注意点について解説していきます。
【モバイル端末の運用】
前述の3つのICTを活用していく際に、施設系の事業所においては切っても切れない存在としてナースコールが挙げられます。従来はPHS端末で受信することが一般的ですが、ICT機器導入が進むにつれ、PHS端末の他に、スマートフォン、タブレット、インカム専用端末等、複数のモバイル端末を携行することが求められることになります。「今何のアラートが鳴ったのか?」「誰から呼ばれたのか?」等、端末を特定し、確認後、操作することとなり、職員の負担増につながりかねません。
そこで、次のステップとして「スマートフォン1台で運用したい」と考えるのは自然な発想ですが、その際には以下のような点に注意してください。
①複数の機能を一画面で処理する問題
何も考慮しないまま1つのスマートフォン上でナースコール、インカム、見守り支援機器のアプリを動作させようとすると、複数のアプリの画面処理の連携が上手くいかず、一番上に表示されている画面しか見ていなかったことから「通知が来ていたのに見落としてしまう」等の問題が発生する可能性があります。
導入の際は、アプリの連携や同時稼働が可能な製品を選定し、通知先をまとめる、通知時に自動的にアプリが起動し入れ替わるなど、安定して各アプリが動作する設計にしましょう。
②バッテリーの充電問題
モバイル端末の殆どは使用していない時間に充電をしながら運用していくことになります。バッテリーは常時、複数のアプリを起動すれば、その分消費が早くなりますが、①のように複数のアプリを同時に利用すると、バッテリーも当然多く消費されます。
「肝心な時に充電切れで使えない」とならないよう、誰がどのタイミングで充電するかなど予め運用ルールを決めておきましょう。
重要なのは、どうなっていれば職員が業務を効率的に行えるか、複数のICTツールを使った現場のオペレーションをイメージしながら製品の選定をすることです。
【ネットワーク環境整備】
第4回でも解説していますが、複数のICTを施設内で安定的に運用していくには盤石なネットワーク環境が必要です。
具体的には今回解説しているモバイル端末を始め、見守り支援機器、更にはパソコンも含めたICTツールが全て安定的に通信できるWi-Fi環境の整備が必要不可欠となります。既にWi-Fi環境があっても、ICTを新たに追加導入する場合には、設備の追加や更新の必要性が高くなるということも念頭に置いておきましょう。
加えて、複数のICTが常時稼働する状況においては、水道ガス電気と同様にネットワークも止まってはならないライフラインとなりますので、その保守も重要です。導入するICTのメーカーや販売店、工事業者とはよく相談し、予め保守契約の有無や対応範囲についても必ず確認してください。
機器故障などの障害発生時に保守に入っていない場合は、復旧までの時間が読めず、場合によっては長期間、業務をアナログ運用に切り替えるといった対応が必要になりますので、BCPとして想定して備えておきましょう。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。