訪問介護事業所でICT導入を成功させるには?ポイントや導入の手順などを解説

2024.05.16

近年は、多くの介護事業所でICTの導入が進められています。
ICTの導入は業務の効率化や残業の削減など、さまざまな効果が期待できるため、厚生労働省も推進している取り組みです。
他方で、どのようにICTを導入すべきかわからない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、訪問介護事業所でICT導入を成功させるためのポイントを解説します。
導入の手順やデバイス・ソフトの選び方なども解説するので、ぜひ参考にしてください。

【基礎知識】訪問介護事業所におけるICT導入の現状

本章では、訪問介護事業所におけるICTの概要や、各事業所での導入率について解説します。

訪問介護業界で活用されるICTとは?

ICTは「情報通信技術」を意味する用語であり、ネットワークを活用した情報共有に関する技術を指します。
昨今では、あらゆる事業分野でICTが活用されるようになりました。

ソフトウェア・AI・ロボットなど、ICTに該当する技術は多岐に渡りますが、介護業界において多用されるツールは介護ソフトです。

介護ソフトとは、介護事業所向けの業務用ソフトウェアであり、利用者情報の記録や管理・ケアプランの作成・スケジュール管理など、さまざまな業務を効率化できます。
事務作業から、スタッフのマネジメントまでカバーできるため、訪問介護事業所にとって不可欠なツールと言えます。

関連記事:訪問介護システムの搭載機能とは?注目される理由と正しい選び方を解説

訪問介護事業所におけるICT導入の現状

介護ソフトの導入は、多くの訪問介護事業所で実践されています。
以下の表を見てましょう。

【介護現場における介護ソフトの導入率】

訪問介護事業所85%
訪問入浴介護事業所83.6%
訪問看護事業所82.1%
参照:介護現場におけるICT環境の整備状況等に関する実態調査|厚生労働所

いずれの事業所においても、介護ソフトの導入率は過半数を超えていることがわかります。

関連記事:介護現場のICT化とは?得られる効果と導入例、補助金について解説

介護報酬改定によるICTへの注目

近年、ICTへの注目が集まっている背景には、介護報酬改定も大きく影響しています。

2024年度の介護報酬改定では、以下のような取り組みが議論されています。

介護ロボットやICT等の導入後の継続的なテクノロジー活用を支援するため、見守り機器等のテクノロジーを導入し、生産性向上ガイドラインに基づいた業務改善を継続的に行うとともに、効果に関するデータ提出を行うことを評価する新たな加算を設ける

引用:令和6年度介護報酬改定に関する審議報告の概要|厚生労働省

厚生労働省は令和6年度の介護報酬改定において、介護業界でのICT導入を積極的に推進する姿勢を見せました。
加えて、ICTの導入に関連した新たな加算項目が設けられる可能性も示唆されています。

訪問介護事業所にとって、加算は収益に大きく関わる要素です。
今やICTの導入は事業所の業務効率や生産性の向上だけでなく、収益に影響するものになりつつあると言えるでしょう。

関連記事:介護現場のICT化とは?得られる効果と導入例、補助金について解説

訪問介護事業所でICTを導入する4つのメリット

訪問介護事業所でICTを導入するメリットには、以下のようなものがあります。

  • 業務効率化による業務負担や残業の削減
  • ペーパーレスによるミスの防止や円滑な情報共有
  • より高品質なサービスの提供
  • 働きやすい環境の実現

ICT導入のメリットを把握すれば、導入する意義を理解しやすくなるでしょう。

業務効率化による業務負担や残業の削減

ICTの導入による業務の効率化では、スタッフの業務負担や残業を削減する効果が期待できます。

利用者の記録や介護報酬の請求など、訪問介護事業所で発生する事務作業は多種多様です。
また、作業量も多いためスタッフの負担になりがちです。

とりわけ、アナログな方法で事務作業を行っている場合、いっそう負担が大きくなるでしょう。

ICTの導入によって各事務作業を効率化すれば、事務作業にかかる労力や時間を削減できます。
さらに、事務作業の量を削減できれば、残業の抑制につながり、人件費の削減も実現できるでしょう。

ペーパーレスによるミスの防止や円滑な情報共有

ICTによる事務作業の電子化は、ペーパーレスの推進にもつながる取り組みです。

事務作業のペーパーレスが進めば、転記ミスや誤字脱字など、手書きにありがちなミスを削減できるため、正確な記録が可能です。
また、記録が電子化した状態なら、資料を瞬時に閲覧できるうえに、スタッフや関係機関同士での情報共有もスムーズにできます。

より高品質なサービスの提供

ICTの導入は、より高品質なサービスの提供にも役立つ取り組みです。

情報共有がスムーズにできる体制を構築すると、利用者の容態の変化や家族の要望などをスタッフ間だけでなく、事業所全体で共有できます。
そのため、利用者のニーズをスタッフに落とし込みやすくなり、適切なケアやサービスを提供しやすくなります。

加えて、業務の効率化による負担の削減は、スタッフが訪問介護に集中できる環境を実現します。
スタッフが利用者のケアに集中できる状態になれば、自然とサービスの質も向上するでしょう。

働きやすい環境の実現

ICTの活用によって業務を効率化できれば、従業員の負担を軽減でき、働きやすい環境につながります。

元々介護業界は離職率が高く、人手不足も深刻であるため、スタッフの確保が重大な課題でした。
優秀なスタッフを定着させられなければ、サービスの品質悪化も懸念されます。

その点、ICTによって業務を効率できれば、従業員にとって働きやすい環境につながるでしょう。
なお、職場環境の改善は、スタッフの定着率を上げるだけでなく、新たな人材を採用する際のアピールポイントにもなります。

ICTを導入する手順

ICTは、適切な手順を踏めばスムーズに導入しやすくなります。
本章では、ICTを導入する手順を以下の段階に分けて解説します。

  • ICT導入計画の策定
  • 導入するソフトやシステムの検討
  • 実施体制の構築や研修の実施
  • 導入効果の検証と改善

それぞれの手順を理解し、確実な導入を実現しましょう。

ICT導入計画の策定

ICTを導入する前に、まずは導入計画を策定しましょう。
導入計画では、解決すべき課題・ICTを取り入れる業務・導入するメリット・予算などを決定します。

具体的な導入計画があれば、経営陣やスタッフがICTを導入する意義を認識しやすくなり、新たに使用するソフトでもスムーズに定着しやすくなります。
また、ICTを活用する業務をあらかじめ決定しておくと、不要な機能を実装してしまうリスクも減らせるでしょう。

導入するソフトやシステムの検討

ICT導入計画が完成したら、導入するソフトやシステムを検討しましょう。
さまざまなベンダーから資料を取り寄せたり、実際にICTを導入している事業所を見学したりすると、導入のイメージが具体的になります。

なお、導入するソフトやシステムを決めるときは、機能や料金だけでなく、実際の使用感を調べることが重要です。
どれだけ優れたツールでも、現場の従業員が使いこなせなければ、本来の効果を発揮できないためです。

ソフトやシステムの導入を検討する際は、スタッフに使用感を確認させ、時施設での運用が可能かを確認しましょう。

実施体制の構築や研修の実施

新たにソフトやシステムを導入すると、従来の業務プロセスが変更される可能性があります。
そのため、現場に混乱が生じないよう、業務フローや担当者などの変更を含めた、運用体制を構築しましょう。

あらかじめ、担当者を選任し、現場の状況を照らし合わせながら運用体制を構築すれば、ICTを導入した際に現場が混乱するリスクを抑えられます。

加えて、導入するソフトやシステムの運用に際し、スタッフへの研修も必ず実践しましょう。
特に、パソコンやタブレットなど、デバイスの操作が不慣れなスタッフがいる場合は、入念な研修が欠かせません。

導入効果の検証と改善

ICTの導入は、ソフトやシステムの導入がゴールではありません。
あくまでもゴールは、業務課題の改善や導入前に描いていたビジョンの実現です。

これを達成するには、導入後に効果を検証し、必要があれば改善するなど、PCDAサイクルを回す必要があります。

初めてICTを導入する事業所では、ソフトやシステムを導入した直後に新たな課題が見つかったり、想定した効果が得られなかったりする場合があるでしょう。
そのため、導入後も適切な改善行動を取り、目標の達成を目指してください。

関連記事:介護DXの進め方とは?直面する課題・フレームワーク・事例を紹介

訪問介護事業所で導入するソフトやデバイスの選び方

ICTを導入する際、多くのソフトやデバイスのから、事業所に合ったものを選ばなければなりません。
本章では、ソフトやデバイスの選び方について解説します。

介護ソフトの選び方

厚生労働省では、介護ソフトの判断基準として、機能面・サービス面・価格面ごとに以下のポイントを提示しています。

【機能面】

  • 介護サービスに合わせた機能を搭載しているか
  • 使用したいデバイスに対応しているか
  • ペーパーレスに必要な機能を備えているか
  • 情報セキュリティ・個人情報保護への対応ができているか
  • 画面のレイアウトがわかりやすく、操作も簡単にできるか

【サービス面】

  • デモンストレーションや試用などの対応が可能か
  • 過去に介護ソフトを使用していた場合、データの引き継ぎは可能か
  • スタッフ向けに研修・教育を実施できるか
  • 問い合わせ対応が迅速か
  • 災害等を想定したデータのバックアップや復旧は受けられるか

【価格面】

  • 介護ソフトを運用する期間の価格体系はどのようになっているか
  • 法人、あるいは事業所単位・契約単位に適した価格なのか
  • オプション機能を追加する際の料金はどれほどか
  • 介護報酬改定やグレードアップで追加料金は発生するか
  • 環境整備にかかる費用はどれほどか

参照:介護ソフトを選定・導入する際のポイント集|厚生労働省

介護ソフトを選ぶ際は価格面のみならず、機能・サービス面も検討しましょう。
もちろん料金が安いのは魅力ですが、現状の課題解決や目標の達成ができなければ本末転倒です。

より高い導入効果を得るためにも、業務要件との適合度が高い介護ソフトを選定してください。

関連記事:訪問介護システムの搭載機能とは?注目される理由と正しい選び方を解説

デバイスの選び方

昨今の介護ソフトはパソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンにも対応している製品が増えています。
そのため、業務のシチュエーションに応じて、適切なデバイスを導入するのがおすすめです。

例えば、本部にパソコンを設置し、訪問介護を行うスタッフのタブレットやスマートフォンへ情報を共有するなどです。

訪問介護サービスではスタッフの移動が頻繁に発生するため、持ち運びに適したタブレットやスマートフォンが役立ちます。
一方の本部は、多くのデータを処理・管理するため、パソコンで業務を進めるのが適しています。

このように、業務に合わせてデバイスを使い分ければ、ICTの効果を最大限発揮できるでしょう。

なお、導入する介護ソフトによっては、利用可能台数が制限されるため注意が必要です。
スタッフの人数に合わせて多数のデバイスを運用するなら、台数制限がなかったり、任意で追加できたりする介護ソフトを活用しましょう。

ICTの導入を成功させるポイント

ICTの導入を成功させるなら、いくつかのポイントを意識する必要があります。
本章では、ICTの導入を成功させる3つのポイントについて解説します。

導入を目的化しない

ICTの導入は、ゴールではありません。
ICTの導入は、あくまでも業務の効率化や生産性の向上など、訪問介護事業所の課題を解決するための手段です。

導入後は、運用体制の最適化や投資対効果の検証など、取り組むべき作業は多くあります。

ICTの効果を最大限発揮するには、導入に満足せず、効果の検証・改善行動を繰り返すことが重要です。
もし導入したツールが現場に定着しなかった場合は、ソフト・デバイスの種類や、運用する体制を見直す必要があります。

導入の優先順位を明確にする

ICTを導入する際は、解決する課題や達成目標に優先順位をつけることが大切です。

すべての課題や目標をICTの導入のみで解決するには、機能の追加・拡張などにより膨大なコストがかかります。
予算にはもちろん限りがありますし、ICTソリューションの機能にも限界があります。

そのため、ICTを導入する際は「何を優先的に解決するのか?」を明確にしなければなりません。
なお、ICTでの解決が難しい問題は、業務改善で解決できないかを検討しましょう。

補助金の活用

ICTを導入する際は、補助金を積極的に活用しましょう。
訪問介護事業所がICTを導入するなら、ICT導入支援事業の補助金制度を使用できる可能性があります。

補助対象・要件などは以下のとおりです。

補助対象・介護ソフト(記録・情報共有・請求業務で転記が不要なもの、ケアプラン連携標準仕様のもの)
・情報端末(タブレット・スマートフォン・インカムなど)
・通信環境機器等(Wi-Fiルーター等)
・運用経費(クラウド利用料・研修費・サポート費など)
補助要件・LIFEによる情報収集・フィードバックに協力
・他事業所からの照会に対応
・導入計画の作成や導入効果を2年間報告する
・IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または「★★二つ星」のいずれかを宣言
補助上限額※事業所の職員人数に応じて設定
・1~10人:100万円
・11~20人:160万円
・21~30人:200万円
・31人~:260万円
補助割合以下の要件を満たす場合は3/4を下限に各都道府県の裁量で決定
・事業所間でのケアプランのデータ連携でいよって負担軽減を実現する
・LIFEの「CSV連携仕様」を実装した介護ソフトで実際にデータ登録を実施する等
・ICT導入計画で文書量を半減
・ケアプランデータ連携システムの利用

上記の要件を満たさない場合は1/2を下限に各都道府県の裁量で決定
参照:介護分野におけるICTの活用について|厚生労働省

なお、ICT導入支援事業は、社会情勢の影響を受けて、内容が拡充される場合があります。
要件が変更されたり、追加されたりすることもあるので、利用する際は必ず確認しましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2024年介護報酬改定は1.59%のプラス改定となりました。実態はさておき、みぞうの人材不足や新型コロナウィルスにより大打撃を受けている介護業界にとって、プラス改定となったことは一定の評価ができるでしょう。一方で、訪問介護に関しては、基本報酬がまさかの減算となりました。ほとんどのサービスの基本報酬が1%弱から4%程度のプラスとなるなかで、訪問介護は2%程度のマイナスとされてしまったのです。訪問介護の有効求人倍率が15%超となるなど、多くの訪問介護事業が厳しい運営を強いられているなかでのマイナス改定に驚きを隠せませんが、結審してしまった以上従うしかありません。人件費が高騰する中で、報酬が減るわけなので、ICT機器を駆使してスタッフ1名あたりの業務生産向上が急務な業態といえるでしょう。

訪問介護事業所のICT化にはホームヘルプサービス管理システムSPがおすすめ

訪問介護事業所でICT化を推進する際は、弊社のホームヘルプサービス管理システムSPがおすすめです。
ホームヘルプサービス管理システムSPには、主に以下のような効果が期待できます。

利用者の情報をスムーズに共有

ホームヘルプサービス管理システムSPは、利用者の情報を手軽な操作で登録でき、利用者ごとに細かく管理できます。
登録した情報は、関係各所へスムーズに共有できるため、状況に合った適切なケアを実現しやすくなるでしょう。

また、訪問介護時に入力した記録は日誌として出力できます。
日誌として運用することにより、サービスの提供件数や実績の集計値など、施設運営に役立つ情報をまとめて確認できるます。

訪問介護事業所において、利用者の情報をスムーズに共有できる体制はサービスの質を左右する重要な要素です。
ホームヘルプサービス管理システムSPを導入すれば、利用者のニーズに合わせたケアを提供できます。

スタッフの訪問スケジュール管理を効率化

ホームヘルプサービス管理システムSPは、自動でスタッフの訪問スケジュールを作成し、管理する機能を搭載しています。

スケジュール管理はスタッフの負担になりやすい業務ですが、ホームヘルプサービス管理システムSPなら作業を簡素化できます。

また、スタッフが体調不良等で出勤できなくなったり、利用者からキャンセルが入ったりしても、対応可能な別のスタッフを即座に把握できるため、スピーディーな対応を実現できるでしょう。

ICTを導入してより質の高い訪問介護サービスを実現しよう

近年はICTを導入し、業務の効率化に取り組む訪問介護事業所が増えています。
介護報酬改定の影響もあり、ICT導入に取り組む事業所は今後も増加するでしょう。

ICTの導入は、ただ業務を効率化するだけでなく、訪問介護サービスの質を向上させ、現場にとって働きやすい環境作りにも役立てられます。
現場に適したソフトやデバイスを活用すれば、生産性の向上や人件費の抑制が期待できます。

ただし、ICTの導入には適切なプロセスで取り組なければなりません。
また、導入を目的化せず、PCDAサイクルを回し、より良い運用が実現できるように効果を検証し続ける必要があります。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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