訪問介護サービスにおける同一建物減算とは?2024年の改定点も併せて徹底解説
2024.05.16
訪問介護サービスの介護報酬を計算する際には、算定要件と単位数を把握しておく必要があります。
中でも同一建物減算は、2024年の介護報酬改定に伴い新たな算定要件が加わったため、変更点を確認しておかなければなりません。
訪問介護ステーションを運営している方は、同一建物減算について正しい知識を身につけましょう。
この記事では、訪問介護サービスにおける同一建物減算について詳しく解説します。
2024年の改定点や質問例を併せて解説しますので、同一建物減算の算定要件と単位数を正確に把握してください。
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目次
同一建物減算とは
同一建物減算とは、事業所と同じ建物に住んでいる利用者に対して、ケアサービスを提供する場合に単位数が減算される評価項目です。
一般的な訪問介護サービスでは、事業所から訪問介護員が利用者の自宅を訪ねるため、移動時間や労力がかかります。
一方、事業所と利用者が住んでいる建物が同じであれば、訪問介護員が移動に費やす時間や労力を削減することが可能です。
そのため同一建物で行う訪問介護サービスは、介護報酬が減算されます。
関連記事:介護サービスの「同一建物減算」とは?適用要件・単位数・注意点を解説
同一建物の定義
訪問介護サービスにおける同一建物減算が適用される状態は、次の定義に当てはまるときです。
- 同一の敷地内に居住
- 20人以上が居住
同一建物減算を算定するためには「同一建物」の定義を確認しておきましょう。
同一の敷地内に居住
同一建物とは、同一の敷地内に事業所と利用者の居住スペースがある状態を指します。
なお、同じ建物内に事業所と利用者の居住スペースがなくとも、次のようなケースは同一建物に該当します。
- 事業所と構造上・外形上、同じ建物に利用者の居住スペースがある
- 同一の敷地内でなくても、隣接する敷地内で訪問介護サービスを提供できる
参照元|厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
例えば、事業所と利用者の居住スペースが渡り廊下でつながっている場合や、同じ敷地内の本棟と別棟に分かれている場合は同一建物です。
また、幅の狭い道路を挟んで事業所と利用者スペースが隣接している場合も同一建物に該当します。
20人以上が居住
同一建物減算では「当該建物に居住する利用者の人数が1月あたり20人以上の場合」に10%減算されます。
この項目で意味する「20人以上が居住している建物」とは、事業所と隣接・同一の建物だけでなく、利用者が20人以上居住している集合住宅のことです。
つまり同じマンション内に訪問介護サービスを受ける利用者が20人以上住んでいれば、事業所から離れた建物であっても同一建物減算の対象です。
参照元|厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
同一建物減算の対象になる介護サービス
同一建物減算の対象になる介護サービスは、次のとおりです。
- 訪問介護サービス
- 訪問入浴介護サービス
- 訪問看護サービス
- 訪問リハビリテーションサービス
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービス
- 夜間対応型訪問介護サービス
- 通所介護サービス
- 通所リハビリテーションサービス
- 地域密着型通所介護サービス
- 認知症対応型通所介護サービス
訪問介護サービスをはじめ、通所介護や介護予防サービスも同一建物減算が適用されます。
【2024年】介護報酬改定における同一建物減算の見直し
団塊世代の全員が後期高齢者となる2025年には、さらなる介護需要の高まりが予測されています。
しかし同一建物減算が適用されている事業所と、算定がない事業所では業務負担に差があり、公平性が問題視されています。
実際、厚生労働省が実施した「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、同一建物減算が適用されている事業所と、そうでない事業所では、次のように収支率が変わりました。
同一建物減算の算定有無 | 平均収支率 |
有りの事業所 | 9.9% |
無しの事業所 | 6.7% |
さらに訪問介護サービスにおける、同一建物減算を算定する利用者の割合を調査したところ、多くの事業所が同一建物でケアサービスを提供していました。
同一建物減算を算定する利用者割合 | 事業所数 | 全体の割合(%) |
1割未満 | 470 | 5.0 |
1割以上3割未満 | 721 | 7.7 |
3割以上5割未満 | 791 | 8.4 |
5割以上7割未満 | 723 | 7.7 |
7割以上8割未満 | 406 | 4.3 |
8割以上9割未満 | 451 | 4.8 |
10割 | 4,950 | 52.7 |
算定なし | 25,381 | ー |
事業所ごとの公平性を担保するために、同一建物減算について介護報酬の改定がされています。
介護報酬を正しく算定するために、2024年から改定された同一建物減算の算定要件と単位数を確認しておきましょう。
算定要件・単位数の見直し
訪問介護サービスの同一建物減算は、2024年の法改正により算定要件が次のように見直されました。
減算の内容 | 算定要件 |
①10%減算 | 事業所と同じ敷地内や隣接する敷地内にある建物に住んでいる利用者 (②および④に該当する場合を除く) |
②15%減算 | 同一建物に住んでいる利用者数が1カ月につき50人以上いる |
③10%減算 | 上記①以外の範囲にある建物内に利用者が20人以上住んでいる場合 |
④12%減算 | 正当な理由なく、6カ月間に提供した訪問介護サービスのうち、 90%以上が同一建物でサービス提供が行われていた場合(②に該当する場合を除く) |
※上記の算定要件は2024年4月1日施行のものです。新たに変更されたカ所は赤字で示しています。
2024年の法改正によって「④12%減算」が新設されています。
事業所が提供するサービスのうち90%以上が同一建物で行われている場合は、同一建物減算で介護報酬が12%減算されるよう改正されました。
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同一建物減算における質問例
同一建物減算における質問例として、「さいたま市保健福祉局長寿応援部介護保険課 」が公表している問いを3つ紹介します。
- 同一敷地内建物等に居住する利用者の定義
- 当日に複数回サービスを受けた者の計算方法について
- 当該月における利用者の判断例について
それぞれの質問に対する解答を確認して、介護報酬を正確に算定できるよう対策しましょう。
同一建物に居住する利用者の定義
「同一建物に居住する利用者が1月あたり20人以上である場合の利用者数」とは、どのような者の数を指すのか。
この場合の利用者数とは、当該指定訪問介護事業所とサービス提供契約のある利用者のうち、該当する建物に居住する者の数をいう。
引用元|厚生労働省「平成27年度介護報酬改定に関する Q&A 」
(サービス提供契約はあるが、当該月において、訪問介護費の算定がなかった者を除く。)
当日に複数回サービスを受けた者の計算方法について
利用者数の計算方法が「当日に指定訪問介護サービスの提供を受けた者」の場合、同一の利用者が同じ日に複数回の訪問介護サービスを受けた場合の計算方法について、以下のように質問がありました。
その利用者数の計算は「延べ人数」または「利用者実数」のどちらか
参照元|同一敷地内建物等減算に関するQ&A|さいたま市
解答としては、「利用者実数」が利用者数の計算対象です。
例えば、同一の利用者が同じ日に3回訪問介護サービスの提供を受けた場合は、利用者数を1名として計算します。
当該月における利用者の判断例について
利用者の計算方法を「利用登録者数」で計算する場合、以下の計算方法が正しいのか質問がありました。
例)利用者Aが同一事業所で毎週月・水・金で訪問介護サービスを受けていた場合 ①月・水・金曜日を1名、サービス提供を受けていない曜日は0名で計算する ②サービスを受けた曜日や日数に関係なく、同月にサービスを受けた場合はその月の利用者数としては1名として計算する |
正しい計算は、該当月の利用者全員を1日ごとに合計し、暦月の日数で割って利用数を求める方法です。
そのため、月半ばで契約・解約した利用者も、利用者数として計算に含めます。
訪問介護の同一建物減算における留意点
訪問介護の同一建物減算における留意点は、次のとおりです。
- 月の途中で契約・解約した減算対象となる利用者がいた場合、契約した日から解約した日までの間に受けたサービスのみが減算の対象になる
- 建物の管理と運営が訪問介護サービスを提供している法人格と異なる場合でも、同一建物として取り扱う
- 支給限度基準額の算定を行う場合、同一建物減算を算定する前の単位数を算入する
留意点1.
同一建物減算の対象になる利用者が月の途中からサービスを利用・解約した場合は、利用者が契約〜解約した日までにサービスを受けた期間が減算の対象です。
そのため、1週間だけサービスを受けた利用者が同一建物減算対象の場合は、1週間分の介護報酬を対象に減算されます。
留意点2.
なお、訪問介護ステーションがある建物を別の法人格が管理・運営している場合も、同一建物の対象条件に当てはまれば、同一建物減算が適用されます。
留意点3.
1人の利用者が介護保険で負担してもらえる1カ月の限度額「支給限度基準額」を算定する場合は、同一建物減算によって減算される前の単位数で算入する必要があります。
それぞれのポイントに注意して、訪問介護の介護請求を適切に算定しましょう。
2024年介護報酬改定に於いて、訪問介護だけは基本報酬がマイナスとなり逆風の改定となってしまいました。加えて、同一建物減算も拡充されました。この動きは財務省主導で提言されたもので、今回居宅のケアマネジメントにも同一建物減算が適用されることになっています。サ高住などで暮らす利用者に対するサービスの適正化(囲い込み防止)という観点で、今後の同一建物減算は拡大・拡充されていくことはほぼ間違いない状況です。居宅の同一建物減算適用も、サ高住併設の居宅は同サ高住入所者のプランしか持たないケースが多いため、そこに対する締め付けという性質があります。サ高住併設事業所は、施設入所者のみにサービス提供するだけでは早晩経営が厳しくなる可能性が高いため、入所者以外へのサービス提供が必要となってくるでしょう。
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事業所内で利用者情報をスムーズに共有できる
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さらにクラウド上で利用者情報を管理できるため、事業所内で情報を共有しタイムリーな記録をもとに適切なケアサービスを提供可能です。
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訪問介護サービスの同一建物減算を理解して正しく介護請求を算定しよう
訪問介護ステーションでは、同一建物に居住している利用者へケアサービスを提供する場合、介護報酬が減算されます。
同一建物減算は2024年の法改正に伴い、算定要件・単位数が新たに追加されているため、正しい要件を把握しておかなければなりません。
同一建物減算の定義と留意点を把握して、正しく介護報酬を計算しましょう。
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監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。