訪問介護サービスの緊急時加算とは|単位数や算定要件を徹底解説
2024.05.16
緊急時加算は、緊急性のある訪問介護サービスを提供した際に加算される制度です。
急なケアが必要になった際に、訪問介護サービスを受けられる環境は、利用者や家族に安心を与えられます。
訪問介護サービスの質を向上し利用者の満足度を高めるためにも、緊急時加算が算定される条件を確認しておきましょう。
この記事では、訪問介護サービスにおける緊急時加算について、単位数や算定要件を詳しく解説します。
緊急時加算に関する注意点やよくある質問も併せて解説しますので、介護報酬を算定する際の参考にしてみてください。
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目次
緊急時訪問介護加算とは
緊急時訪問介護加算とは、訪問介護サービスの24時間対応が求められるようになったことから制定された算定項目です。
もともと訪問する予定がない利用者に、サービスを提供した際に算定できます。
緊急時訪問介護加算の単位数は、「100単位/1回」です。
緊急訪問の前後に通常の訪問介護サービスをしていた場合でも、1回の緊急訪問ごとに100単位が加算されます。
そのため、同日に緊急事態が連続して発生した場合は、実施した緊急訪問の回数ごとに加算されます。
また訪問介護サービスを提供した時間が短い場合は、「身体介護20分未満」の単位で加算します。
緊急時訪問介護加算の算定要件
緊急時訪問介護加算を算定する際には、次の要件を満たす必要があります。
- 居宅サービス計画に位置づけられていない
- 身体介護中心型の訪問介護サービスである
- ケアマネジャーが緊急性のあるサービスだと判断している
- 利用者やその家族から同意を得ている
- 要請後24時間以内に訪問介護サービスを提供した
- サービス提供記録に詳細を記録している
それぞれの算定要件を確認して、介護報酬を正確に算定しましょう。
居宅サービス計画に位置づけられていない
緊急時訪問介護加算を適用するためには、居宅サービス計画に位置づけられていないケアサービスを提供する必要があります。
なお、本来定められていた時間外に依頼を受けた場合は、緊急時訪問介護ではなく時間変更で処理します。
緊急時訪問介護加算は、あくまで訪問介護サービスを緊急時に行った場合のみ適用される加算項目になるため、居宅サービス計画に位置づけられケアサービスを提供した場合は算定されません。
身体介護中心型の訪問介護サービスである
緊急時訪問介護加算を適用する条件として、身体介護中心型の訪問介護サービスである必要があります。
生活援助のみを行なった場合は、緊急時加算の算定対象外です。
入浴・排泄・更衣などの介助や移動のサポートのように、身体介護を中心とした訪問介護サービスを、緊急時に実施した場合に介護報酬が加算されます。
身体介護以外の次のサービスを中心に提供している場合は、緊急時訪問介護の対象外です。
- 生活援助(掃除・洗濯・食事の用意・買い出しなど)
- 乗車・降車など介助(通院時の車両への乗車・降車をサポート・屋内外における移動の介助・受診手続き・薬の受け取りなど)
身体介護以外のケアサービスは、緊急性が低い傾向にあるため、緊急時訪問介護の算定対象からは除外されます。
ケアマネジャーが緊急性のあるサービスだと判断している
緊急時訪問介護加算を適用する際には、ケアマネジャーが緊急性のあるサービスだと判断していなければなりません。
訪問介護士が独断で緊急性のあるサービスだと判断しても、ケアマネジャーの承認を得られなければ、緊急時加算の算定対象外です。
万が一、ケアマネジャーと連携している時間がない場合や、連絡が難しい状態では、訪問介護サービスを実施してから事後承認を得ましょう。
利用者やその家族から同意を得ている
緊急時訪問介護加算は、利用者やその家族から同意を得てはじめて算定されます。
あらかじめ利用者やその家族には、書面で緊急時訪問介護加算に関する情報を説明し、同意を得ておく必要があります。
対面での説明の機会を設けるのが難しい場合は、ビデオ面談などを活用しましょう。
要請後24時間以内に訪問介護サービスを提供した
要請を受けてから24時間以内に緊急訪問介護サービスを提供した場合のみ、加算算定の対象です。
なお、要件上は24時間以内となっていますが、実際には、緊急要請へいち早く対応できる体制を整えておくことが大切です。
サービス提供記録に詳細を記録している
緊急時訪問介護加算を適用させるためには、サービス提供記録に詳細を記録している必要があります。
サービス提供記録には実施したサービス内容や提供した日時・利用者の容態や身辺の状態などを詳細に記さなければなりません。
介護報酬の算定においては、緊急時訪問介護加算だけに限らず、記録を残しておかなければ加算・減算の対象にできません。
訪問介護サービスを提供する際は、サービス提供記録に詳細を記録するよう徹底してください。
緊急時訪問介護加算の注意点
緊急時訪問介護加算を適用させるために、次の注意点を把握しておきましょう。
- 算定に必要な書類の用意する
- 不適切に加算算定を利用しない
- 関係機関との連携の整備
算定に必要な書類の用意する
緊急時訪問介護加算を適用させるためには、算定に必要な書類を用意しておかなければなりません。
加算算定をスムーズに行うためには、訪問介護サービスの実施内容を詳細に記したサービス提供記録や、算定要件を満たしていることを証明する書類を用意しておく必要があります。
緊急時訪問介護の算定を行うための必要書類は、次のとおりです。
- 緊急時訪問介護加算に係る届出書
- 勤務体制・勤務形態一覧表(算定日から4週間分・従業者全員分)
- 資格者証の写し
勤務体制・勤務形態一覧表には、各日の緊急時連絡担当者がわかるよう印をつけておく必要があります。
必要書類や算定要件を満たした証明が不足している場合、加算算定が適用されない可能性があるので注意しましょう。
不適切に加算算定を利用しない
加算算定のために不適切に緊急訪問介護を実施していれば、事業所へ処罰が下る可能性があります。
介護報酬の不正請求が発覚した場合は、次のような処罰が下るため注意してください。
- 介護報酬の返還
- 加算金の支払い
- 指定の取消し
なお、最悪の場合は、介護保険法22条3項に基づき返還額の40%を加算金として徴収されます。
ケアマネジャーが承認した緊急性がある訪問介護サービスのみを、緊急時訪問介護加算として算定してください。
関係機関との連携の整備
緊急時訪問介護加算を適用させるには、各関係機関の連携が必要です。
利用者やその家族から要請を受けて、事業所にいる事務スタッフや訪問介護士・関係機関が連携して、24時間以内に訪問介護を実施しなければなりません。
訪問介護と連携する機関としては、次のような職種が挙げられます。
- 訪問介護師
- 訪問看護師
- サービス提供責任者
- ケアマネジャー
- 福祉用具専門相談員
- 移動介護従事者
- 医師(主治医)
各関連機関とスムーズに連携できる体制を整えておくことで、緊急時に迅速な対応を実現できます。
緊急時の対応や連絡先・連絡方法をあらかじめ取り決めて、緊急時にスムーズな訪問介護を実施しましょう。
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【具体例】緊急時訪問介護加算の算定可否
緊急時訪問介護加算が算定されるか否かについて、以下の具体例を用いて紹介します。
- 具体例①夜間に排泄解除が必要な利用者からの依頼
- 具体例②いつ発生するかわからない排泄介助の依頼
- 具体例③事前に関係者間で確認した排泄介助の依頼
- 具体例④排泄介助の要請で生活援助の依頼
- 具体例⑤契約外の利用者から緊急介助の依頼
緊急時訪問介護加算を算定できる事態を把握しておいてください。
具体例①夜間に排泄解除が必要な利用者からの依頼
- 夜間に排泄介助が必要な利用者に対して、ケアサービスを実施する時間・回数が定まっていない。 さらに居宅サービス計画への位置付けされておらず、利用者から依頼されて訪問するたびに毎回加算を行っている場合は、算定の対象になるか。
緊急時訪問介護加算は算定されません。
当初から排泄介助の必要性が認められる場合は、居宅サービス計画に位置づけを行うべきです。
サービス提供の必要性が想定されているにもかかわらず、居宅サービス計画に位置付けていない場合には加算を算定できません。
引用元|兵庫県「訪問介護における緊急時訪問介護加算の取扱いについて」
具体例②いつ発生するかわからない排泄介助の依頼
- いつ発生するかわからない排泄介助が必要な利用者が、居宅サービス計画には具体的な日時を記載せず、「依頼があればその都度対応する」こととして位置付けている。 利用者から要請があり、これに応じて排泄介助を行った場合、加算の算定は可能か。
緊急時訪問介護加算は算定されません。
排泄介助が日常的な通常のサービス提供として必要と判断されており、利用者からの要請が緊急性に欠けるため、加算の算定はできません。
引用元|兵庫県「訪問介護における緊急時訪問介護加算の取扱いについて」
具体例③事前に関係者間で確認した排泄介助の依頼
- 通常は必要とされない利用者から排泄介助を要請する可能性がある旨を、サービス担当者会議において関係者間で確認し、ケアマネジャーが居宅サービス計画の第2表に記載した。 後日、利用者から排泄介助の依頼があり、訪問介護によって対応した。なお該当するサービスに関しては、ケアマネジャーが緊急だと判断している場合、加算の算定対象になるのか。
緊急時訪問介護加算が算定されます。
居宅サービス計画への位置付けがあるものの、日常的なサービス提供の必要性について想定したものではなく、発生した場合に対応する必要があることを確認・記載しています。
実際に要請があり、ケアマネジャーが緊急と判断したサービスを提供した場合は、加算算定ができます。
引用元|兵庫県「訪問介護における緊急時訪問介護加算の取扱いについて」
具体例④排泄介助の要請で生活援助の依頼
- 居宅サービス計画に排泄介助が位置付けられていない利用者から排泄介助の要請を受けて訪問したところ、生活援助(トイレ掃除)の必要もあったため、身体1+生活1で算定を行った。 この算定は妥当か。
緊急時訪問介護加算が算定されます。
掃除については排泄介助に付随して行ったものとみなされるため、身体介護を中心としたサービス提供に該当します。
引用元|兵庫県「訪問介護における緊急時訪問介護加算の取扱いについて」
具体例⑤契約外の利用者から緊急介助の依頼
- 通所介護のみ利用している利用者から、体調が悪化したため病院への介助をお願いしたいとケアマネジャーにヘルパー派遣の要請があった。 訪問介護ステーションと契約はしていなかったが、通所介護事業所と同一法人の訪問介護事業所があったため、当該訪問介護ステーションが対応した場合に緊急時訪問介護加算は算定されるのか。
緊急時訪問介護加算は算定されません。
居宅サービス計画に基づき訪問介護事業所との契約を事前に締結しておく必要があります。契約未締結の状況では訪問介護サービスを利用できません。
引用元|兵庫県「訪問介護における緊急時訪問介護加算の取扱いについて」
緊急時訪問介護加算に関するよくある質問
緊急時訪問介護加算に関するよくある質問として、次の問いの解答を確認しておきましょう。
- 緊急時訪問介護加算の算定には利用者の同意は必須か
- 利用者が複数の事業所から訪問介護サービスを受けている場合の算定は
- 医療保険の24時間対応体制加算と併用できるのか
それぞれの問いに対する解答を確認しておくことで、介護報酬の加算算定を正確に行えます。
介護報酬を正確に請求するために、各問いに対する解答を確認しておきましょう。
緊急時訪問介護加算の算定には利用者の同意は必須か
緊急時訪問介護加算の算定には、利用者の同意が必要不可欠です。
利用者やその家族には、事前に緊急時訪問介護加算に関する事項について書面で説明しておかなければなりません。
利用者が複数の事業所から訪問介護サービスを受けている場合の算定は
利用者が複数の事業所から訪問介護サービスを受けている場合、緊急時訪問介護加算が算定されるのは1事業所のみです。
そもそも緊急時訪問介護加算の性質上、複数の事業所から緊急時に訪問介護サービスを依頼する可能性は低く、対応した1つの事業所にて加算算定されます。
医療保険の24時間対応体制加算と併用できるのか
緊急時訪問介護加算は、介護保険の算定項目です。
介護保険と医療保険は併用できないため、緊急時訪問介護加算と24時間対応体制加算は併用できません。
緊急時加算の算定率はわずか4.16%とかなり低い数値に留まっています。本加算は文字どおり、予定外の緊急時に算定可能な加算であるため、算定が難しいのも理解できます。では、こうした利用者緊急時の対応を訪問介護事業所がまったくおこなっていないのか?といえば、そんなことはなく、さまざまなイレギュラー対応をおこなっているはずです。つまりは、本来算定可能な状況にありながら、「算定していない」ケースが多い加算と言えるでしょう。算定には「利用者(家族)より要請があった時間・内容やケアマネとのやり取りの記録」が必要であり、この辺りの手間と加算単価を比較して割に合わないと算定しないケースが多い加算なのです。しかし、基本報酬が減算となってしまった訪問介護業界では、加算を確実に算定する必要があることはいうまでもないでしょう。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
訪問介護の加算算定を正確にしたいならワイズマンの「すぐろくHome」がおすすめ
訪問介護の加算算定を正確に実施したいなら、ワイズマンの「すぐろくHome」がおすすめです。
「すぐろくHome」では、タブレットを使ってタイムリーに情報共有ができます。
訪問予定や利用者情報・訪問記録などの情報記載・管理をスムーズに行えるため、訪問介護の加算算定を正確に実施できます。
さらにシステム上で訪問介護の記録を記帳・管理できるため、記録忘れを防いで介護報酬の請求業務を適切に実施できます。
訪問介護ステーションを運営する際には緊急時加算の算定要件を把握しよう
緊急時に利用者やその家族から要請を受けて訪問介護サービスを提供した場合は、緊急時訪問介護加算が算定されます。
算定要件を満たせば介護報酬に加算されますが、適切な申請や不適切な利用の防止など、いくつか注意点があります。
この記事で紹介した緊急時訪問介護加算の算定可否の具体例を参考に、どのような状況で加算算定できるのか、把握しておいてください。
ワイズマンの「すぐろくHome」を利用すれば、サービス提供記録や訪問予定などの記録業務をタブレット上で完結できます。
移動時間やスキマ時間に事務作業を完了できるため、業務効率の向上が可能です。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。