精神科訪問看護事業所は儲かる?安定の理由と報酬制度、経営の注意点を解説

2024.05.16

社会の変化にともない、精神疾患を抱える患者数が増加傾向にあります。
一方で精神科への入院患者数は減少傾向にあり、自宅での療養、社会復帰を目指す患者が増えてきました。

こうした変化のなかで、精神科訪問看護へのニーズも高まっています。
しかし、「精神科訪問看護事業所は本当に儲かるのか?と不安を持つこともあるでしょう。

本記事では、精神科訪問看護事業所の動向と収益構造を解説します。
精神科訪問看護事業所の立ち上げを考えている方は、ぜひ参考にしてください。

精神科訪問看護とは?

精神科訪問看護とは、精神疾患を抱える患者の自宅を訪問し、身の回りのサポートを行うサービスのことです。
患者とその家族からヒアリングした要望をもとに、訪問看護ステーションや主治医などが連携してサポート内容を決定し、実施します。

精神科訪問看護は、症状の改善のために健康状態を観察するだけでなく、対人関係・家族関係の調整といった支援もする点が特徴です。

精神科訪問看護事業所の利用者の推移

厚生労働省の調査によると、精神疾患を抱える患者数は年々増加傾向にあります。

参照:地域で安心して暮らせる精神保険医療福祉体制の実現に向けた検討会|厚生労働省

平成14年の患者数が258.4万人なのに対し、平成29年には419.3万人にまで増加しています。
15年間のうちに、約1.6倍にまで増加した計算です。

ただし、入院患者数は平成14年が34.5万人だったのに対し、平成29年には30,2万人へ減少しています。
このことから、精神疾患を抱えている方の療養方法が、入院から外来での療養へ移行していることがわかります。

以下は、精神病症における平均在院日数の推移を示したグラフです。

平成1年の496日から急速に減少し、平成27年には274.7日にまで短縮されました。
参照:最近の精神保健医療福祉施策の動向について

精神科訪問看護の事業所数は増加傾向

精神科訪問看護の事業所数は、増加傾向にあります。

年度20172021
事業所数2,569カ所4,915カ所

参照:訪問看護療養費実態調査|e-Stat

入院治療でなく、在宅や外来での治療を中心に切り替えているなかで、精神科訪問看護の事業所数も増加しました。
ただし、一概にすべての地域で事業所数が増加しているわけではありません。

なかには閉業している事業所もあるため、精神科訪問看護事業所の開業には地域のニーズを把握することが先決です。

精神科訪問看護事業所の経営は儲かる?

すべての精神科訪問看護事業所が、黒字化しているわけではありません。
しかし、「精神科訪問看護の事業所は儲かりやすい」、「経営が安定している」といったイメージを持たれることも多くあります。

こうしたイメージが定着した背景には、看護サービスの提供期間が長期化したことがあげられます。
一般訪問看護サービスと精神科訪問看護サービスの看護指示期間は、下記のとおりです。

種別総数30日以内31~60日61~90日91日以上
一般訪問看護サービス74,6284,52422,8645,90742,143
(56.5%)
精神科訪問看護サービス51,42083710,3502,80837,425
(72.8%)
参照:訪問看護療養費実態調査|e-Stat

一般訪問看護サービスでは、看護指示のうち56.5%に91日以上の看護指示が出ています。
一方で、精神科訪問看護サービスは総数のうち72.8%が91日以上と、長期的な利用が大半を占めていることがわかります。

また、1事業所が担当する訪問看護指示書の件数は、以下のとおり。

一般訪問看護サービス精神科訪問看護サービス
1事業所の担当する看護指示書の数※8.1件10,5件
※看護指示書総数/事業所数より独自に算出

精神科訪問看護サービスの方が、1事業所あたりの担当件数が多いという結果です。
このように、看護サービスの提供期間が長期化したこと、1事業者あたりの担当件数が多いことから、精神科訪問看護の事業所が儲かると言われています。

精神科訪問看護サービスの基本療養費の種類と要件

精神科訪問看護サービスの基本療養費は、(Ⅰ)(Ⅲ)(Ⅳ)の3類型です。
訪問者数や利用者の状況、訪問時間などによって療養費は異なります。

基本療養費の類型
イ:保健師、看護師、作業療法士
ロ:准看護師
週3日目まで週4日目以降
30分未満30分以上30分未満30分以上
(Ⅰ)イ4,250円5,550円5,100円6,550円
(Ⅰ)ロ3,870円5,050円4,720円6,050円
(Ⅲ)イ
(同一建物に2人以下)
4,250円5,550円5,100円6,550円
(Ⅲ)イ
(同一建物に3人以上
2,130円2,780円2,550円3,280円
(Ⅲ)ロ
(同一建物に2人以下)
3,870円5,050円4,720円6,050円
(Ⅲ)ロ
(同一建物に3人以上)
1,940円2,530円2,360円3,030円
(Ⅳ)8,500円
参照:訪問看護療養費の取扱いの理解のために|厚生労働省近畿厚生局

精神科訪問看護サービスの基本療養費では「精神疾患を有する者に対する看護について、相当の経験を有する者」がサービスを提供しなければいけません。
これは以下のいずれかに該当する看護職員を指します。

  • 精神科を標ぼうする保険医療機関において、精神病棟または精神科外来に勤務した経験を1年以上有する者
  • 精神疾患を有する者に対する訪問看護の経験を1年以上有する者
  • 精神保健福祉センターまたは保健所等における精神保健に関する業務の経験を1年以上有する者
  • 国、都道府県または医療関係機関団体等が主催する精神保健に関する研修を修了している者

上記の要件を満たしたうえで、精神科訪問看護基本療養費の種別を把握しましょう。

以下でそれぞれの算定内容について解説します。

精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)イ・ロ

精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)は、同一建物居住者以外の者に対して精神科訪問看護サービスを提供した場合に算定可能です。
「イ」と「ロ」の分類は、サービスを提供する職種によって異なります。

看護師、保健師、作業療法士がサービスを提供した場合には「イ」、准看護師がサービスを提供した場合には「ロ」が適用されます。

それぞれの療養費については以下のとおりです。

職種(イ)(ロ)訪問頻度訪問時間療養費
(イ)週3日目まで30分未満4,250円
30分以上5,550円
週4日目以降30分未満5,100円
30分以上6,550円
(ロ)週3日目まで30分未満3,870円
30分以上5,050円
週4日目以降30分未満4,720円
30分以上6,050円

精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)イ・ロ

精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)は、同一日に同一建物居住者以外の者に対して精神科訪問看護サービスを提供した場合に算定できます。
精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)とは、同一日のサービス提供であるという点で異なります。

「イ」と「ロ」の違いはサービス提供者の職種の違いで、精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)での規定と同様です。

精神科訪問看護基本療養費(Ⅲ)の算定療養費は下記のとおりです。
該当する利用者数が「2人まで」か「3人以上」かによって、算定金額に違いがあります。

職種(イ)(ロ)訪問頻度訪問時間療養費
(同一の建物に1人または2人)
療養費
(同一の建物に3人以上)
(イ)週3日目まで30分未満4,250円2,130円
30分以上5,550円2,780円
週4日目以降30分未満5,100円2,550円
30分以上6,550円3,280円
(ロ)週3日目まで30分未満3,870円1,940円
30分以上5,050円2,530円
週4日目以降30分未満4,720円2,360円
30分以上6.050円3,030円

精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)

精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)は、在宅療養に向けて外泊する患者のうち、一部対象者に対するサービスが算定の対象です。

対象者は下記の3通りで、それぞれ入院期間中に算定可能な回数が定められています。

  • 特掲診察料の施設基準等別表第七に掲げる疾病等の者:入院中に2回
  • 特掲診察料の施設基準等別表第八に掲げる者:入院中に2回
  • その他在宅療養に備えた一時的な外泊に当たり、訪問看護が必要であると認められた者:入院1回

精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)の算定金額は下記のとおりです。

種別療養費
精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)8,500円

なお、精神科訪問看護基本療養費(Ⅳ)では、特別地域訪問看護加算以外の加算は算定できない点に留意しましょう。

精神科訪問看護基本療養費の加算の種類

精神科訪問看護サービスでは、基本療養費以外に7種類の加算が設けられています。

  • 特別地域訪問看護加算
  • 精神科緊急訪問看護加算
  • 長時間精神訪問看護加算
  • 複数名精神科訪問看護加算
  • 夜間・早朝訪問看護加算
  • 深夜訪問看護加算
  • 精神科複数回訪問看護加算

ここではそれぞれの加算要件や加算数を紹介します。

特別地域訪問看護加算

特別地域訪問看護加算とは、訪問系サービスの確保が著しく困難であると認められた地域において、訪問系サービスの提供に貢献していることを評価する加算制度です。

算定要件には、「訪問看護ステーションの所在地から利用者の自宅まで、もっとも合理的な経路・方法で片道1時間以上要すること」などが定められています。
算定料は所定額(基本療養費)の50%です。

精神科緊急訪問看護加算

精神科緊急訪問看護加算とは、主治医からの指示のもと、計画外の訪問サービスを提供した場合に算定できます。
精神科緊急訪問看護加算の取得において特筆すべき要件は、下記の2点です。

  • 診療所または在宅療養支援病院が、24時間往診及び指定訪問看護により対応できる体制を確保している
  • 24時間連絡を受ける連絡担当者の氏名、連絡先電話番号等、担当日、緊急時の注意事項、往診担当医、訪問看護担当者の氏名等を利用者に文書で提供している

このほか、主治医が診療所または在宅療養支援病院の保険医であることや、24時間対応体制加算の届出をしていることなども加算要件に含まれます。
緊急の訪問を行った場合には、主治医への報告とともに、必要に応じて訪問看護計画の見直しも行いましょう。

精神科緊急訪問看護加算の算定料は1日あたり2,650円です。

複数名精神科訪問看護加算

複数名精神科訪問看護加算は、精神科訪問看護指示書に複数名での訪問を必要と記載されている利用者に対して、複数名で訪問する場合に算定できます。

利用者やその家族から複数名での訪問について同意を得ていることが要件です。
30分未満の訪問看護サービスは算定対象になりません。

保健師もしくは看護師と、保健師、看護師作業療法士、准看護師、看護補助者、精神保健福祉士の訪問が対象です。
同行者の組み合わせや同一建物の利用者数によって算定料が異なります。

複数名精神科訪問看護加算の算定料は下記のとおりです。

種類同一建物の利用者数算定料(1日あたり)
保健師、看護師、作業療法士が同行
(1日1回の訪問)
2人以下4,500円
3人以上4,000円
保健師、看護師、作業療法士が同行
(1日2回の訪問)
2人以下9,000円
3人以上8,100円
保健師、看護師、作業療法士が同行
(1日3回の訪問)
2人以下14,500円
3人以上13,000円
准看護師が同行
(1日1回の訪問)
2人以下3,800円
3人以上3,400円
准看護師が同行
(1日2回の訪問)
2人以下7,600円
3人以上6,800円
准看護師が同行
(1日3回の訪問)
2人以下12,400円
3人以上11,200円
看護補助者、精神保健福祉士が同行2人以下3,000円
3人以上2,700円

一般訪問看護の複数名訪問看護加算では、週1回までの上限が設けられています。
一方で、複数名精神科訪問看護加算は、週ごとの算定日数に上限がなく、柔軟な対応が可能です。

精神科訪問看護事業所の経営課題と対応策

ここでは、精神科訪問看護事業所の経営においてよくある課題とその対応策を解説します。

多様化したニーズへの対応

精神科訪問看護サービスの利用者数の増加にともなって、多様化したニーズへの対応も求められるようになりました。
しかし、ニーズへの対応は時として、スタッフへの負担になる恐れがあります。

スタッフが疲弊しないための体制づくりのためには、ICTを活用して業務を効率化することが効果的です。
また、ニーズを把握し、需要と報酬の高い利用者を積極的に獲得することも、経営の黒字化にプラスになるでしょう。

看護師・准看護師の採用難

精神科訪問看護事業所に限らず、看護業界では人手不足が深刻化しています。
2020年度における、訪問看護ステーションの求人倍率は、3.26倍と高水準です。
参照:2020年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」結果

この中でも、精神科訪問看護サービスを実施できるのは、精神科への勤務経験がある者や精神疾患に係る研修の経験がある者など、限定的です。

人手不足のために、適切な採用基準を維持できず、応募者をなんとか採用したいと考える事業者も多いでしょう。
ただ、無理に採用しても、自施設の方針に合わなかったり、ミスマッチがあったりで、離職につながる恐れがあります。

人手不足の解消のためには、採用基準や戦略、選考基準、評価方法をあらかじめ確立させることが第一歩です。
また、採用の際には、採用者と自施設の方針やサービス内容、雇用形態をすり合わせていくことも大切です。

明確な採用基準にあった看護師を採用できれば、長期的に勤めてくれる可能性が高まり、人手不足の解消につながります。

制度改定への対応

訪問看護事業は、国の保険制度に大きな影響を受けます。
介護報酬制度は3年に1度、診療報酬制度は2年に1度改定されます。

医療政策や人口分布、財源の確保などさまざまな要因から、社会の状況に合わせて改定されます。
改定により、これまで算定できていた加算要件が変更となり、加算の取得が困難になったり、加算数が減少したりすることもあります。

こうした改定による収入の変動も、訪問看護ステーションの経営が不安定となる一因です。

国の在宅医療・在宅介護への方向性を常に把握し、今後の改定を考慮した経営戦略を立てることが、安定した経営には不可欠です。

黒字で儲かる精神科訪問看護事業所を目指すにはシステムの活用が効果的

精神科訪問看護ステーションを経営にしていくには、システムの活用も効果的です。

精神科訪問看護サービスでは、支出の多くを人件費が占めます。
この人件費を削減するには、事務作業をシステムで効率化し、本来不要な残業を削減することが大切です。

本章では、精神科訪問看護事業所でシステムを活用するメリットを紹介します。

事務作業の効率化により訪問看護業務へ注力できる

従来は、利用者宅を訪問した後に、事業所へ戻ってから記録をつけていました。
また、主治医への情報共有などを対面・メールで行うケースもあります。

その点、システムを活用すれば、訪問先から記録作業ができ、移動中の時間を有効に活用できます。
また、記録したデータは、即座に共有されるため、別途でメールやチャットを送信する必要がありません。

こうして浮いた時間で、訪問看護業務へ注力できるため、結果的にサービスの品質向上にもつながるでしょう。

システム導入により加算の適正な算定も可能に

定期的に介護・診療報酬制度が改定されます。
これに伴い、事業所では加算の算定方法を見直したり、業務を改善したりと対応が求められてきました。

その点、クラウド型のシステムでは、法令制度の改定に合わせて機能をバージョンアップしてもらえます。
これにより、従来よりも手軽に法令制度改定へ対応できるでしょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

人口が減少フェイズに突入するなか、国は労働者人口も減少することを見越して病床再編という政策を推し進めています。その目的は大きく分けて、①労働者人口の分配、②高齢者増加に伴う医療・介護ニーズへの対応力強化、③社会保障費の抑制の3点となるでしょう。病床再編は簡単に言ってしまえば『病床数をこれ以上増やさず、病床機能を整理する』というものです。内容として、回復期病床を大幅に増やす一方で、急性期や慢性期病床を大幅に減らしていくというものになっています。精神疾患があり、慢性期病床を利用していた患者の長期入院が難しくなっていることが、精神科訪問看護のニーズが高まる一因にもなっています。一方、精神科病棟の看護師は男性が多く担っていることからもわかるとおり、ハードな業態でもあることは念頭に置いておきましょう。

儲かる精神科訪問看護ステーションを目指そう

精神科訪問看護ステーションは、地域のニーズや社会状況、国の方針に合わせ経営方針を打ち出せば、黒字化も目指せる事業です。
しかし、事業所を経営していくには、人手不足や制度改定など多くの課題もあります。
そのため、システムなどを活用し、少ない人員でも運営できる仕組みを構築することが大切です。

ぜひ本記事を参考に、安定した精神科訪問看護ステーションの経営を目指してください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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