看護現場でのリスクマネジメントとは?患者と医療者を守る効果的な手法

2024.10.20

患者の命を守る看護の現場では、転倒や感染症などさまざまなリスクが潜んでいます。
看護の現場において小さなミスは重大な事故につながる可能性があるため、適切なリスクマネジメントが不可欠です。

そこで本記事では、看護現場でのリスクマネジメントについて解説します。
すぐに実践できる5つのリスクマネジメント手法や業務改善につながるシステムなども紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

潜在的なリスクを予測し、対策を立て、継続的に業務を改善するためのプロセスを学ぶことで、患者の安全確保や医療の質の向上も期待できます。

看護現場で直面する主なリスクと対策

日本医療機能評価機構によれば、2023年の医療ミスは約6,000件と報告されています。
看護現場ではさまざまなリスクに直面しますが、考えられるリスクを適切に管理するのは、患者の安全と医療の質を確保する上で不可欠です。

ここでは、主要な5つのリスクとその対策を紹介します。
効果的なリスクマネジメントの重要性を理解し、実践していきましょう。

参照:医療事故情報収集等事業2023年度|日本医療機能評価機構

1. 投与ミス

最初に紹介するのは薬剤の投与ミスです。日本医療機能評価機構による2024年1月から3月にかけての調査では、約5,000件のヒヤリ・ハット事例が報告され、そのうち約35%が薬剤投与に関連するものでした。

なお、ヒヤリ・ハットとは、事故やエラーには至らなかったものの、あやうく事故になりそうだった例を指します。
ヒヤリ・ハットの確認は潜在的なリスクを把握し、再発防止策を講じることにつながります。

投与ミスを防ぐための対策としては、以下のような例が挙げられます。

  • 投与指示の標準化
  • 複数の医療従事者によるダブルチェック
  • バーコード認証システムの導入
  • 定期的な研修とシミュレーション訓練

これらの対策を適切に実施することで、投与ミスを回避できます。

参照:医療事故情報収集等事業第77回報告書|日本医療機能評価機構

2. 患者誤認

次に挙げるのは横浜市立大学医学部附属病院で発生した事例です。 平成11年1月11日に発生した事故では、2人の患者が取り違えられて手術が行われました

具体的には、病棟から手術室への引き継ぎ時に患者が取り違えられ、誤った手術室へ搬送されてしまいました。手術後、集中治療室で医師が誤認に気づき、事故が発覚しました。

対策として、横浜市立大学医学部附属病院では 患者識別バンドの使用や手術の際に足底に患者の氏名を記載するなどの対策をしています。

参照:横浜市立大学医学部附属病院の医療事故に関する中間とりまとめ|横浜市立大学医学部附属病院

3. 転倒・転落事故

公益社団法人全日本病院協会のデータによると、2018年の転倒・転落事故の発生率は1,000人に約2人と報告されています。

転倒や転落は、患者の安全に重大な影響を及ぼす可能性があり、医療現場ではこれらの事故を防ぐための対策が必要です。
特に高齢者や身体の不自由な患者が多い病院では、転倒・転落事故のリスクが高く、適切な対策を講じることが重要です。

例えば、移動をサポートするための安全対策や、転倒予防の環境整備が求められます。
医療機関は、これらのリスクを軽減するために、継続的な教育と改善策の実施を通じて、安全な治療環境を提供する必要があります。

参照:旧・診療アウトカム評価事業|公益社団法人全日本病院協会

4. 院内感染

院内感染は、病院内で病原体に触れて起こる感染症です。
病院は免疫力が低い患者が多く、感染しやすい環境です。

院内感染の原因となる病原体には、インフルエンザウイルス、耐性菌(MRSA、緑膿菌)、真菌(カンジダ、アスペルギルス)などがあります。

感染症には肺炎、尿路感染、手術部位感染が含まれます。
感染予防のために手袋やガウンを使い、手洗いを徹底する標準予防対策が行われます。

すぐに実践できる5つのリスクマネジメント手法


医療におけるミスは些細な行いが重大な事故につながりかねません。

事故を防ぐには事前に対策を立てる必要があります。
ここでは、実践できる5つの基本的な手法を紹介し、リスクを最小限に抑えるための具体的なアプローチを解説します。

1. インシデントレポートの活用

医療現場で発生した事故やエラーに関する詳細な報告書をインシデントレポートと呼び、リスクマネジメントに活用します。
日本医療機能評価機構には、医療現場で共有を推奨する報告書や各週の分析が豊富に掲載されており、最新の情報に基づいたリスクマネジメントを確認できます。

例えばインシデントレポートを基に、実際の出来事を教育プログラムに組み込みます。
薬剤投与ミスや転倒・転落などの事故例を教材に使うことで、リスクの認識や対応方法を学べます。さまざまな事例を通じて、スタッフは現場で直面し得る問題をより深く理解し、適切な対策を把握できるのです。

プログラムを活用し、定期的なトレーニングを実施することで、スタッフのリスクマネジメントスキルの向上が期待できます。

また、最新のデータや改善策を常に取り入れることで、実際の状況に即した対応力が養われ、結果として医療の質の向上につながります。

加えてインシデントレポートを定期的に組織全体で共有し、スタッフ全員でレビューするのも効果的です。
例えば、月次の安全ミーティングや研修セッションでレポートを取り上げ、その原因や対策を話し合うことで、全体の安全意識の向上にもつながります。

2. 5S活動による作業環境の改善

5S活動(整理、整頓、清掃、清潔、習慣)は、医療現場でのリスクマネジメントにも効果的です。
例えば、5Sに沿って不要物を排除したり、医療器具や薬剤を効率的に配置したりします。

事例として、神奈川県医療安全推進ネットワーク交流会5Sワーキンググループの「楽しく行う病院5S」では、組織的に5Sを導入し、各部署に5Sチェックシートを作成して低予算で質の高いリスクマネジメントを実現しています。

予算を必要とせず、従業員同士がコミュニケーションを取りやすい環境にもつながります。

3. KYT(危険予知トレーニング)の実践

KYTとは、潜在的な危険を予測し、事前に対策を講じるためのトレーニングです。
医療スタッフが危険な状況を想定し、適切な対策を考えることを目的としています。

医療現場では手術中の器具の取り扱いや投薬ミスなど、さまざまなリスクが予想されるため、これらのリスクを洗い出し、シミュレーションを通じて対応策を検討します。

シミュレーションでは実際の状況を模した仮想のシナリオで、スタッフがどのように対応するかを訓練します。
その後、具体的な対策を立案します。

全スタッフが定期的なトレーニングに参加することで、より安全な医療環境の実現につながります。
KYTは医療現場のリスクマネジメントにおいて重要な役割を果たし、患者の安全と医療の質の向上に貢献します。

4. タイムアウト制度の導入

タイムアウト制度は、医療現場におけるリスクマネジメントの重要な手法であり、国際的に推奨される安全対策の一つです。WHO(世界保健機関)もこの制度を強く支持しており、誤認手術やミスを防ぐことが目的です。
タイムアウト制度の実施にあたっては、手術室や処置室に入る前に、医療チーム全員が集まり、以下の項目を確認します。

  • 患者の確認:患者の名前、診断、手術内容を確認
  • 手術部位の確認:手術を行う部位が正しいかどうかを確認
  • 使用する器具の確認:必要な器具や材料が揃っているかを確認

これにより、チーム全員が同じ認識で手術に臨むことができ、ミスや事故を大幅に減少させることにつながります。
タイムアウト制度は、医療ミスを減少させるために有効であり、WHOのチェックリストにも含まれていることから、その重要性が分かるでしょう。

WHOが提唱する安全手術のためのチェックリストは、手術の各ステージで確認する項目をリスト化し、タイムアウトのプロセスを含めています。

手術の安全性を高め、患者の安全を守るための重要なステップとなるタイムアウト制度は、医療現場でのリスクを軽減し、質の高い医療サービスの提供につながります。

参照:世界保健機構|患者安全

5. 医療安全ラウンドの導入

安全ラウンドは、医療現場での安全性を高めるための効果的な手法で、リスクマネジメントに活用できます。
特徴は 患者とのコミュニケーションに焦点が当てられている点です。

具体的な実践方法としては、チェックリストを用いて現場の状況を評価します。
例えば、手術室での器具管理や患者の安全確認が適切に行われているかなどが挙げられます。

安全ラウンドは、リスクの早期発見やスタッフの安全意識の向上が期待できるのです。
定期的なラウンドを通じて問題点が明確になり、より安全な医療環境が整うため、患者の安全が確保され医療の質の向上が期待できます。

先進的なリスクマネジメント技術

先進的なリスクマネジメント技術は医療現場でのリスクを効果的に管理し、患者の安全を向上させるために欠かせません。
近年、AIやビッグデータ分析、IoTなどの技術が急速に発展し、これらを活用したリスク予測や評価システムが注目を集めています。

例えば、AIを用いた画像診断支援システムは、医師の見落としを防ぎ、より正確な診断を可能にします。
また、ビッグデータ分析を活用することで、院内感染のパターンを早期に検出し、予防策を講じることができるのです。
IoTデバイスを活用したウェアラブル機器は、患者のバイタルサインを常時モニタリングし、異常を即座に検知することが可能です。

人間である以上、完全にヒューマンエラーを防ぐのは困難ですが、最新システムの導入により、ミスのリスクを大幅に軽減できます。
医療現場では些細なミスが重大な事故につながる可能性があるため、こうした技術の活用は非常に重要です。

さらに、先進的な技術の導入は、医療機関の信頼性が高まり、患者の受診意欲を引き出すことにもつながります。
患者は最新の安全管理体制に安心感を覚え、より積極的な医療サービスの利用につながるでしょう。

電子カルテシステムの活用

電子カルテシステムは、医療業界におけるデジタル化の一環として、紙のカルテを電子データに置き換える重要なツールです。
情報への迅速なアクセスやデータの一元管理、医療ミスの削減が期待できます。
電子カルテは患者の情報がリアルタイムで共有されるため、診療の効率が期待できるほか、 患者誤認や薬剤の投与ミスの防止につながります。

また、医療機関の運営をスムーズにし、データの整合性を保つためにも役立ちます。
診療履歴や検査結果を一元管理し、迅速な情報共有を可能にしてくれるのです。
結果として、医師や看護師は最新の患者情報に基づいた適切な診療を行うことができ、全体的な医療の質の向上が期待できます。

ワイズマンの電子カルテシステムERは、直感的な操作性と高度なセキュリティ機能を兼ね備えたシステムです。
医療現場での効率的な情報管理を実現し、データ共有と分析を強化します。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

看護分野では、病状の管理や治療に重点が置かれ、患者の命を守ることへの強い意識が働いています。そのため、病院などではリスクマネジメントに関する徹底した指導や教育が行われていることが特徴的です。それでも医療ミスは多数起こっています。その理由を突き詰めていくと、医療ミスの多くは「ヒューマンエラー」に起因しているという結論に至ります。こうしたヒューマンエラーを減らすために、ダブルチェックなど様々な対策を実施していることでしょう。それでも人間がおこなう以上、必ずヒューマンエラーが起こります。医療ミス防止策にはAIを含めたICT機器の活用が非常に有効であるため、こうしたシステム導入を進めていきましょう。

まとめ|看護のリスクマネジメントは組織文化として根付かせることが重要

看護現場におけるリスクマネジメントは、組織文化として根付かせることが不可欠です。
スタッフ一人一人がリスク管理に対する責任を持ち、組織全体で安全性の向上に努めることが患者の安心を確保するための鍵となります。

リスクマネジメントを組織文化として根付かせて、全員が一丸となって安全な医療環境を実現しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

訪問看護に関連するコラム

資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら
検討に役立つ資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら