居宅介護支援における業務継続計画(BCP)の考え方や策定例、義務化について解説
2023.05.18
令和3年度の介護報酬によって、全介護サービス事業所に業務継続計画(以下「BCP」と称する)の策定が義務化されました。
今回は居宅介護支援事業者にスポットを当て、BCP策定時の検討すべきポイントや作成例を紹介しながら解説します。居宅支援事業におけるBCPの策定に役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
業務継続計画(BCP)とは?
BCPとは、自然災害や感染症の拡大など不測の事態が発生した場合でも事業を中断させない、または中断したとしてもできる限り短時間で復旧させるためにあらかじめ検討した方針や体制・手順などを示した計画を指します。
介護事業所には日常的に介助を必要とする高齢者が生活されており、サービスの中断によって生命や身体に著しい影響を及ぼすことが予想されます。
また事業の中断による影響は、利用者だけでなく事業所の従業員にまで及びます。
復旧が遅れれば資金繰りの悪化により、事業継続ができなくなり廃業に追い込まれかねません。
BCPは防災計画とは異なり、災害発生後に迅速に業務を再開・継続させることを目的としています。
介護事業所におけるBCP義務化
令和3年度の介護報酬改定で、すべての介護事業所に対して令和6年3月までにBCPの策定及び研修・訓練の実施が義務づけられました。義務を果たさない介護事業者は、最悪の場合指定取り消し処分を受ける可能性があります。
ここからは介護事業所におけるBCP義務化について、詳しく解説します。
BCP義務化の背景
自然災害や感染症流行の発生によって、日常生活に支援を必要とする高齢者が受ける被害は計り知れません。高齢者の中には介護サービスが受けられなくなることで、生命の危険にさらされる方も含まれるためです。
介護サービスを継続するためには、緊急時に備えて飲料水や食料、マスク等の衛生用品の備蓄、人員の確保策などをあらかじめ定めておく必要があります。
いつ発生するか分からない自然災害に加えて、感染症のクラスターが発生した場合でも、介護サービスの提供を継続するためにBCPは不可欠であると考えられます。
BCP義務化の現状
3年の経過措置期間があるため完全義務化は令和6年4月からですが、令和4年3月の報告書(※)を見ると感染症BCPの策定目処が立っていない事業所・施設は、策定済みの事業所・施設と比べ、感染症対策の実施割合が低い項目が多いことが分かりました。
また、自然災害BCPの策定目処が立っていない事業所・施設は、策定済みの事業所・施設と比べ、自然災害対策の全ての項目で実施割合が低かったことが分かりました。
(※)参考:感染症対策や業務継続に向けた事業者の取組等に係る調査研究事業報告書
BCP義務化の時期
経過措置期間は令和6年3月までとなっていることから、介護事業所はそれまでにBCPの策定を済ませる必要があります。
ただしBCP策定はあくまで最低条件であり、研修や非常訓練を通じてBCPの内容を理解し、緊急時にすべての職員が計画に沿って対応できることが求められます。
研修や訓練には1年ほどかかるため、遅くても令和5年3月までに策定を済ませておくことが必要です。
BCP義務化の対象となるのは?
BCPの義務化はすべての介護事業所が対象となるため、居宅介護支援も含まれます。
居宅介護支援事業におけるBCPの策定において、検討すべき項目については次章で解説します。
居宅介護支援におけるBCPの考え方
居宅介護支援のBCPを考える際には、平常時の対応と災害発生時の対応に分けることが必要です。
平常時の対応
優先的に安否確認が必要な利用者を把握したうえで、複数の緊急連絡先と連絡手段(固定電話・携帯電話・メール等)を確認しておきます。利用者やご家族の情報については、提携している介護・看護サービス事業者との共有が必要です。
日頃から地域の避難所や避難方法に関して情報収集しておき、行政や自治会など地域の関係機関との関係性を良好に保つことを心がけましょう。
また、他の居宅介護支援事業所、居宅サービス事業所と安否確認やサービス調整について検討しておくことも平常時に実施しておくべきです。
加えて介護サービスに必要な資源を確保しておくことも必要です。確保が必要な資源として、建物や設備、電気・水道などのライフライン、職員が挙げられます。
災害発生時の対応
事業が継続できる場合は、可能な範囲で早期の利用者の状態把握を通じて居宅サービスの実施状況を把握します。
被災生活による状態悪化の利用者に対して、必要な支援が提供できるように平常時にサービス調整を行った居宅介護支援事業所、居宅サービス事業所と連絡調整を行います。
避難先でサービス提供が必要な場合、居宅介護支援事業所や居宅サービス事業所と連携して必要なサービスが提供できるように調整を行うことが必要です。
なお、事業が継続できない場合には、重要なサービスを優先して提供する必要があります。
重要なサービスとは、以下に挙げるサービスです。
- 食事
- 排泄
- 服薬
- 医療サービス
- 清拭 など
上記に対して、以下のサービスについては一時停止させることを検討します。
- リハビリ、機能訓練
- 入浴
- レクリエーション
- 訪問理美容 など
台風などによる甚大な被害が予想される場合には、サービスの休止や縮小が必要となることも想定し、事業所ごとにサービスの実施基準を定めておくことが重要です。
居宅介護支援におけるBCPの例
次に居宅介護支援のBCPの例を紹介します。自然災害と感染症では、記入項目は多少異なりますが基本構成は同じです。
BCP基本構成 | 自然災害BCP | 感染症BCP |
---|---|---|
1.総則(基本方針) | 1.総論 | 1.総則 |
2.事前準備 | 2.平常時の対応 3.緊急時の対応(前) | 2.平常時の対応 |
3.初動対応 | 3.緊急時の対応(中) | 3.初動対応 |
4.業務継続 | 4.緊急時の対応(後) 5.他施設との連携 6.地域との連携 | 4.感染拡大防止体制の確立 |
自然災害BCPの目次
1. | 総論 |
1.1 | 基本方針・全体像 |
1.2 | 推進体制 |
1.3 | リスクの把握 |
1.4 | 優先事業の選定 |
1.5 | 研修・訓練の実施 |
2. | 平常時の対応 |
2.1 | 建物・設備の安全対策 |
2.2 | 電気が止まった場合の対策 |
2.3 | ガスが止まった場合の対策 |
2.4 | 水道が止まった場合の対策 |
2.5 | 通信が麻痺した場合の対策 |
2.6 | 情報システムが停止した場合の対策 |
2.7 | 衛生面(トイレなど)の対策 |
2.8 | 必要品の備蓄 |
2.9 | 資金の手当て |
3. | 緊急時の対応 |
3.1 | BCPの発動基準 |
3.2 | 行動基準 |
3.3 | 対応体制 |
3.4 | 対応拠点 |
3.5 | 安否確認 |
3.6 | 職員の参集基準 |
3.7 | 施設内外での避難場所・避難方法 |
3.8 | 重要業務の継続 |
3.9 | 職員の管理 |
3.10 | 復旧対応 |
4. | 他施設との連携 |
4.1 | 連携体制の構築 |
4.2 | 連携対応 |
5. | 地域との連携 |
5.1 | 被災時の職員の派遣 |
5.2 | 福祉避難所の運営 |
感染症BCPの目次
1. | 総則 |
1.1 | 目的 |
1.2 | 基本方針 |
1.3 | 主管部門 |
1.4 | 全体像 |
2. | 平常時の対応 |
2.1 | (1)体制構築・整備 |
2.2 | (2)感染防止に向けた取組みの実施 |
2.3 | (3) 防護具、消毒液など備品の確保 |
2.4 | (4) 研修・訓練の実施 |
2.5 | (5)BCPの検証・見直し |
3. | 初動対応 |
3.1 | 感染疑い者の発生 |
3.2 | (1)第一報 |
3.3 | (2)感染疑い者への対応 |
3.4 | (3)消毒・清掃などの実施 |
3.5 | (4)検査 |
4. | 感染拡大防止対策の確立 |
4.1 | (1)保健所との連携 |
4.2 | (2)濃厚接触者への対応 |
4.3 | (3)職員の確保 |
4.4 | (4)防護具、消毒液などの確保 |
4.5 | (5)情報共有 |
4.6 | (6)業務内容の調整 |
4.7 | (7)過重労働・メンタルヘルス対応 |
4.8 | (8)情報発信 |
5. | 休業の検討 |
5.1 | (1)都道府県、保健所等との連携 |
5.2 | (2)訪問サービス等との実施検討 |
5.3 | (3)居宅介護支援事業所との調整 |
5.4 | (4)利用者・ご家族への説明 |
5.5 | (5)再開基準の明確化 |
BCPの詳細な記入内容については、以下のひな形をご参考になさってください。
(※)参考:介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画|厚生労働省
BCP策定ができたらやっておくべきこと
BCP策定が終わってまず行う必要があるのは、研修・訓練を通じた情報共有です。いくらBCPを策定していても、いざという時に活用できなければ意味がありません。
自然災害時に職員の安否確認を取るために、電話以外の連絡手段を準備しておくことも重要です。2011年の東日本大震災では、電話回線が混雑で不通の際にSNSを活用して情報入手・情報交換を行った事例があります。実際にBCPの一環として、部署ごとの安否確認を目的としたLINEグループを作成している介護事業所もあります。
まとめ
BCP策定には取り扱う情報が膨大であるため、相当な手間と工数を要します。前述した「記入例」を参考に、ご自身の事業所に合わせてカスタマイズされることをおすすめします。
さらに介護ソフトを使うことで、BCP策定に要する手間と工数を削減できます。
ワイズマンの「介護・福祉向け製品」を使うことで、利用者の情報や医療情報、スタッフの出勤状況などのデータで保管・共有でき、職員の負担軽減が見込めます。
また、スタッフの配置や利用者の状況など、迅速かつ正確な情報が必要となるため、データの共有がスムーズに行われることで業務の効率化にもつながります。介護ソフトを使用することにより、定期的にデータのバックアップを取れるため、災害の発生時にデータの復旧を迅速に行うことも可能です。
もし、今働いている事業所に介護ソフトが導入されていないなら、BCP策定時の業務効率化を図れるように担当者に導入を相談してみてください。
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