居宅介護支援事業所における人員基準とは?運営基準と合わせて解説
2024.04.30
居宅介護支援事業所は、介護サービスの要として、ケアマネジャーが活躍できる場であり、「1人ケアマネ」とも称されるように、比較的少ない人員で運営できる介護事業です。
しかし、居宅介護事業所の運営にあたっては、守らなければならない人員数や運営基準が定められています。
本記事では、居宅介護支援事業所の人員基準や運営基準について解説します。
遵守していない場合には、指定取り消し処分を科せられることもあるため、最後まで読んで基準を理解して運営しましょう。
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目次
居宅介護支援事業所の人員基準とは?
居宅介護支援事業所を運営するには、人員と運営において一定の基準が設けられています。
ここでは、居宅介護支援事業所の人員基準について解説します。
主任介護支援専門員(管理者)の人員基準
居宅介護支援事業所では、事業所ごとに常勤の管理者を置かなければいけません。
2018年度(平成30年度)の介護報酬改定において、管理者は主任介護支援専門員であることが規定されました。
この改定は、ケアマネジメントのサービスの品質向上と介護支援専門員の育成を主な目的としています。
しかし、主任介護支援専門員の確保がどうしても困難な場合には、介護支援専門員を管理者とすることも認められています。
介護支援専門員(ケアマネジャー)の人員基準
居宅介護支援事業所での介護支援専門員(ケアマネジャー)の人員基準は、常勤で1人とされています。
1人の介護支援専門員が担当できるのは35人までで、利用者がそれ以上になる場合には増員しなければいけません。
36人から70人までで2人、71人から105人までで3人配置するという計算です。
増員する介護支援専門員については常勤である必要はありません。
また、管理者が居宅介護支援事業所の介護支援専門員として従事することも可能です。
居宅介護支援事業所の特定事業所加算を満たす人員基準
特定事業所加算とは、事業所に上乗せされる介護報酬です。
専門性の高い人材を充実させていることなど、質の高いケアマネジメントを実施している事業所が評価されます。
2021年度(令和3年度)に算定単位や区分が改定されました。
現行の特定事業所加算は、以下の4区分に分かれます。
区分 | 加算単位数(最新) |
特定事業所加算(Ⅰ) | 505単位 |
特定事業所加算(Ⅱ) | 407単位 |
特定事業所加算(Ⅲ) | 309単位 |
特定事業所加算(A) | 100単位 |
事業所の経営の安定化や、より質の高いサービス提供のためにも、特定事業所加算の取得を目指すことがプラスとなるでしょう。
しかしながら、加算取得については人員の充実が不可欠です。
また、すべての加算要件において研修の実施や、他事業所との連携も必要です。
ここからは、それぞれの算定要件について解説します。
特定事業所加算(Ⅰ)
4つの区分のなかで、もっとも厳しい要件を設けているのが特定事業所加算(Ⅰ)です。
全部で13の要件が設けられています。
なかでも、以下の2つは特定事業所加算(Ⅰ)のみに設けられた加算要件です。
- 専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の主任介護支援専門員を2名以上配置していること
- 算定日が属する月の利用者の総数のうち、要介護3、4、5である者の割合が40%以上であること
人材の充実だけでなく、介護度の高い利用者への介護サービスも提供するといったケアマネジメントの公正中立性も重視されていることがわかります。
参考:令和3年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省
特定事業所加算(Ⅱ)
特定事業所加算(Ⅱ)では、407単位が加算されます。
特定事業所加算(Ⅰ)との大きな違いは「専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の主任介護支援専門員」の人員数が2名から1名になっていることがあげられます。
このほか、1人当たりの介護支援専門員が担当する利用者数は45名未満となっていることも大きな違いです。
しかし、介護支援専門員の配置人員数は、特定事業所加算(Ⅰ)と同様に3名以上です。
下記のような研修制度や連携体制についても、特定事業所加算(Ⅰ)と同様の要件が定められています。
- 利用者に関する情報又はサービス提供に当たっての留意事項に係る伝達等を目的とした会議を定期的に開催すること
- 24時間連絡体制を確保し、かつ、必要に応じて利用者等の相談に対応する体制を確保していること
- 当該指定居宅介護支援事業所における介護支援専門員に対し、計画的に研修を実施していること
特定事業所加算(Ⅲ)
特定事業所加算(Ⅲ)では、1ヶ月あたりの加算単位数が309単位となっています。
特定事業所加算(Ⅱ)との違いは、「専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の介護支援専門員」が3名以上から2名以上になっていることです。
なお、介護支援専門員の担当する利用者数は特定事業所加算(Ⅰ)と同様に、40名未満とされています。
特定事業所加算(Ⅱ)と同じ45名未満ではないことに注意しましょう。
特定事業所加算(A)
2021年度の見直しで新設されたのが、特定事業所加算(A)です。
加算される単位数は1ヶ月あたり100単位と少ない分、加算要件の取得難易度が低くなっています。
特定事業所加算(A)の創設は、小規模の事業所でも取得しやすい要件にすることで、地域における小規模介護サービスの質を向上させることが目的です。
そのため、これまでの加算要件とは大きな違いがあります。
例えば「専ら指定居宅介護支援の提供に当たる常勤の介護支援専門員を配置していること」については、常勤1名、非常勤1名という要件になっています。
また、非常勤については他事業所との兼務も可能です。
このほか、下記4つの要件については、「他の事業所との連携でも要件を満たす」こととなっているのも大きな特徴です。
- 24時間の連絡体制を確保し、相談に対応できる体制になっていること
- 計画的に介護支援専門員への研修を実施していること
- 介護支援専門員実務研修のうち「ケアマネジメントの基礎技術に関する実習」等への協力または協力体制の確保
- 他の指定居宅介護支援事業者との事例検討会や研修会を実施していること
地方や小規模の居宅介護支援事業所では、人材の確保が困難なために、加算要件を満たすことが難しいことが問題でしたが、特定事業所加算(A)は、取得を目指しやすいでしょう。
居宅介護支援事業所における人員以外の基準とは?
居宅介護支援事業所の運営においては、厚生労働省の定める指定基準を満たしていなければいけません。
指定基準のうちには、先に紹介した「人員基準」のほかに「運営基準」が設けられています。
ここでは、居宅介護支援事業所の運営基準について紹介します。
ぜひ参考にしてください。
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居宅介護支援事業所の運営基準
居宅介護支援事業所の運営基準は、全29項目が定められています。
ここでは、主要な項目について、下記の表にまとめました。
基準の分類 | 運営基準 | 内容(主旨) |
サービス全般 | 内容及び手続きの説明と同意 | 利用者やその家族へ説明する運営規定や重要事項などが定められている |
提供拒否の禁止 | サービスの提供を拒んではならない | |
サービス提供困難時の対応 | 適切なサービスが提供できない場合の措置 | |
交付書類・資格など | 受給資格等の確認 | 被保険者資格や要介護認定の有無、有効期間などを確認する |
要介護認定の申請に係る援助 | 要介護認定の申請や更新の援助を行う | |
利用料等の受領 | 利用料の受領の際に、領収書を交付 | |
保険給付のための証明書の交付 | 指定居宅介護支援提供証明書を交付 | |
利用者に対する居宅サービス計画等の書類の交付 | 居宅サービス計画や実施状況についての書類を交付 | |
職員の勤務体制など | 勤務体制の確保 | 適切な勤務体制の整備、ハラスメント防止など |
業務継続計画の策定等 | 感染症や非常災害の発生時の業務継続計画を策定 | |
従業者の健康管理 | 従業者の健康状態の管理 | |
感染症の予防及びまん延防止のための措置 | 委員会の設置や研修・訓練の実施など |
このほか、「居宅介護支援の具体的取り扱い方針」においては、利用者の課題分析やサービス担当者会議を開催することなどが規定されています。
居宅サービス計画を作成するなど、居宅介護支援事業所の業務内容や介護支援専門員の責務についても詳細に定められています。
参照:指定居宅介護支援当等の事業の人員及び運営に関する基準|厚生労働省
居宅介護支援事業所に設備基準は設けられていない
「指定居宅介護支援当の事業の人員及び運営に関する基準」では、人員と運営に関する基準は定められていますが、設備についての基準は定められていません。
しかし、第3章・第20条で「設備及び備品等」として、一定の要件が設けられています。
第20条では設備基準について「指定居宅介護支援事業者は、事業を行うために必要な広さの区画を有するとともに、指定居宅介護支援の提供に必要な設備及び備品等を備えなければならない」と記載があります。
具体的には下記のような点について整備を行うことが望ましいとされているため、参考にしてください。
- 事業の運営を行うために必要な広さを有する専用の部屋(事務室)を設ける
- 相談や会議に対応できる適切なスペースを確保する
- 利用者が出入りしやすい構造である
- サービス提供に必要な設備や備品を確保している
事業を行う場所は、他の事業と兼用であっても、明確に区分できるのであれば同一施設でも差し支えありません。
なお、自治体によっては必要な広さや備品を、より細かく規定している場合があります。
事業を開始する前に管轄の市町村に問い合わせて確認しましょう。
【注意】居宅介護支援事業所の人員・運営基準は運営指導の対象
居宅介護支援事業所は、少なくとも6年に1度、指定権者から運営指導を受けなければいけません。
指定権者である市町村が、事業所を訪問し、人員基準と運営基準について法令を遵守した適切な運営がなされているかを確認・指導を行います。
基準を満たしていないことが判明した場合には、介護報酬の返還や指定の停止、取消し処分などを受けることもあります。
事業所の経営に大きく影響するため、常に人員・運営基準を遵守できる体制づくりが不可欠です。
それぞれの確認項目や必要となる書類について紹介します。
運営指導の目的や対策するポイントなどは、こちらの記事で詳しく解説しています。
関連記事:「居宅介護支援事業所の運営指導に必要な書類と対策するポイント、監査との違いを分かりやすく解説」
人員基準の必要書類
人員基準について確認されるのは、下記のような項目です。
- 利用者に対し従業者の員数は適切であるか
- 必要な資格は有しているか
- 専門員証の有効期限は切れていないか
- 管理者は常勤専従か、他の職務を兼務している場合、兼務体制は適切か
実際に確認される項目は自治体によって異なります。
また、上記の内容の確認文書として以下の文書の提出が必要です。
- 勤務実績表 / タイムカード
- 勤務体制一覧票
- 従業者の資格証
- 管理者の雇用形態がわかる文書
- 管理者の勤務実績表 / タイムカード
運営基準の必要書類
運営基準については「個別サービスの質に関する事項」と「個別サービスの質を確保するための体制に関する事項」の2つに分けて確認されます。
厚生労働省が定める必要文書は以下のとおりです。
「個別サービスの質に関する事項」について
- 重要事項説明書
- 内容及び手続きの説明の理解にかかる利用申込者の署名文書
- 利用契約書
- アセスメントシート
- サービス担当者会議の記録
- 居宅サービス計画
- 支援経過記録等
- モニタリングの記録
- 個別サービス計画
「個別サービスの質を確保するための体制に関する事項」について
- 介護保険番号、有効期限等を確認している記録等
- 運営規定
- 雇用の形態(常勤・非常勤)がわかる文書
- 研修計画、実施記録
- 方針、相談記録
- 業務継続計画
- 研修及び訓練計画、実施記録
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会名簿、委員会の記録
- 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修の記録及び訓練の記録
現行、居宅介護支援事業所の人員配置基準は、「利用者の数が35又はその端数を増すごとに1とする」となっている一方で、基本報酬上はケアマネ1人当たり取扱件数39名(逓減制緩和適用の場合は44名)となっています(2024年1月16日現在)。実際にケアマネ1人あたりの平均担当件数は44.0というデータもあり(令和5年経営実態調査より)、2024年介護保険報酬にて、この「基準」と「報酬」の整合性を図る観点で見直されることになりました。
簡単にまとめると、ケアマネ1人あたり44名まで担当できることになり、さらなる逓減制(ていげんせい)緩和適用の場合は49名まで担当できるようになります。件数を増やすことにより増収が見込まれますが、同時にICT活用などでケアマネの負担を軽減する必要があります。並行して検討していきましょう。
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居宅介護支援事業所のペーパーレスにはワイズマンシステムSPがおすすめ
運営指導時に提出が必要な文書は多岐にわたっています。
また、運営指導が6年に1度となると、それまでの保管も大変な作業となってしまいます。
厚生労働省では、介護分野におけるICT化を推進しており、提出書類についても電子記録を認めています。
居宅介護支援ソフトを導入することで、利用者の記録だけでなく、介護支援専門員(ケアマネジャー)のシフトなども一元管理が可能です。
アセスメント・サービス計画書・モニタリングが一元化
ワイズマンの介護事業所向けソフト「在宅ケアマネジメント支援システムSP」では、アセスメント、サービス計画書、モニタリングの進捗管理を行えます。
頻出する文例を登録しておくことで、作成業務を簡素化でき、履歴の管理機能で業務効率化にもつながります。
運営指導のためだけでなく、日々の業務の効率化も図れるでしょう。
利用者様ごとの進行状況を把握
「在宅ケアマネジメント支援システムSP」では、利用者様ごとの計画や評価の進捗を確認できる仕組みになっています。
業務の漏れがないため、より質の高いケアを提供可能です。
また、サービス計画ごとに関連する業務も進行状況を確認できます。
他事業所・家族と連携可能
同一法人内でワイズマンシステムSPを利用している場合、ケアの記録やサービス計画を共有できます。
これまで、ケアマネジャーの業務では、医師や各介護施設との連携に書類を持ち運ばなければならないなどの非効率的な作業が多く見られていました。
ワイズマンでは電子カルテも提供しているため、医療機関とのデータ連携により、利用者様の現状に即したケアプランの作成が可能なほか、医師への情報伝達もスムーズになります。
また、ケアマネジャーの大きな負担となっていた、利用者家族との連携については「MeLL+family」というオプションで解決できます。
専用アプリで情報のやりとりができるため、報告のたびに電話をする必要がありません。
時間を気にせず、タイムリーなやりとりができるほか、折り返しや行き違いの手間がなくなります。
ケアマネジャーだけでなく、家族の方の負担軽減にもつながるでしょう。
人員基準を遵守し、特定事業所加算も目指そう
居宅介護支援事業所においては人員・運営基準ともに明確な基準が定められています。
違反していれば、介護報酬の返還や指定の停止・取消しといった処分が科されるため、常に遵守していなければいけません。
しかしながら、法令の遵守のために日々の業務に支障が出ていては本末転倒です。
実際に、居宅介護支援事業所では書類作成に時間がかかり、本来の業務に時間を避けないなどの問題が頻発しています。
これから居宅介護支援事業所を開業するのであれば、開業のタイミングで居宅介護支援事業所向けソフトを導入しておくことをおすすめします。
また、現状手作業による書類作成が多い事業所様においては、システム化を一度検討してみてはいかがでしょうか。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。