居宅介護支援事業所の立ち上げ費用とは?助成金や資金調達方法を解説

2024.03.06

ケアマネージャーとしてキャリアを積み、居宅介護支援事業所の立ち上げを検討する方もいらっしゃるでしょう。
独立を検討するうえで立ちはだかるのが、「立ち上げ費用」です。

「一体、どれほどの費用がかかるのか」、「自己資金でまかなえるのか」など、費用に関する悩みは尽きません。
本記事では、居宅介護支援事業所の立ち上げにかかる費用を、項目別に紹介します。

後半では、資金調達の方法や、事業所を立ち上げる際のポイントも解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

居宅介護支援事業所の立ち上げに必要な条件

居宅介護支援事業所を立ち上げるためには、法人格取得、適切な人員配置、適切な設備基準の三つの要件を満たす必要があります。
3つの条件は以下のとおりです。

条件内容
法人格取得法人としての権利義務を有する
人員基準主任介護支援専門員を常勤で1名以上配置
利用者35人ごと又は、端数が1増すごとに1名追加
設備基準事業運営に必要な専用区画の確保
事務室、相談室、会議室を含む適切なスペース

これらの基準を満たし、新規指定申請を通過すると、居宅介護支援事業所を立ち上げられます。
なお、立ち上げに係る要件や申請の流れについて、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:居宅介護支援事業所を立ち上げるには?条件や立ち上げまでの流れを解説

居宅介護支援事業所の立ち上げにかかる費用

居宅介護支援事業所の立ち上げには、およそ100万~300万円ほど必要と言われています。
立ち上げ費用の内容を一覧表にしました。

法人登記にかかる費用約30万円
物件の費用、駐車場代約5万円~10万円
事業運営に必要な備品約30万円
指定申請、証書代約3万円
人件費約210万円
※従業員1名×6ヶ月分

本章では、立ち上げに必要な費用を項目ごとに詳しく解説します。

法人登記にかかる費用

居宅介護支援事業所を立ち上げるには、法人であることが必須です。
法人を立ち上げる際には、法務局にて設立登記の手続きが必要です。

なお、法人設立にかかる費用は、株式会社と合同会社で異なります。
以下はその概要です。

株式会社合同会社
定款用収入印紙代4万円(電子定款では不要)4万円(電子定款では不要)
定款の印紙手数料3万円なし
定款の謄本手数料約2千円なし
登録免許税15万円もしくは資本金額×0.7%6万円もしくは資本金額×0.7%
合計約24万2千円約11万円

株式会社の場合は、定款を公証人役場で承認してもらう必要があるため、印紙手数料、謄本手数料が発生します。

一方、合同会社の場合は公証人役場での承認が必要ありません。
また、登録免許税の最低金額も6万円のため、株式会社と比べると安価です。

上記に加えて法人印、代表印、銀行印も運営していく上では必要です。
3つの印を購入するには、約3万円かかります。

物件の費用、駐車場代

自宅以外で事業をする場合は、物件の費用、駐車場代が発生します。
事業所は、事務室と相談室を用意できれば大丈夫です。

賃貸で借りる場合は、地域によって費用が異なります。
以下、地域別に見た、1K〜1LDK物件の家賃の目安です。

家賃が高い都道府県家賃が低い都道府県
1位東京都68,345円山形39,379円
2位神奈川県59,914円鳥取37.964円
3位大阪府55,255円愛媛38,477円
参照:全国平均家賃による間取り別賃料の推移|全国賃貸管理ビジネス協会

一番低い都道府県では約4万円、一番高い都道府県では約7万円となっています。
駐車場代も地域によって月5000円〜3万円の幅があります。

支出を抑えたい場合やケースが少ない場合は、自宅での立ち上げもおすすめです。
自宅であれば賃料、駐車場代を抑えられます。

事業運営に必要な備品

居宅介護支援事業所には、明確な設備基準は存在しません。
そのため、事業運営をしていく上で必要な備品をリストアップする必要があります。

以下は、居宅介護支援事業所で必要な備品の一覧表です。

備品名費用
パソコン約8万円/台
事務デスク及びイス約3万円/1セット
相談室用机・椅子約5万円/1セット
書庫(鍵付き)約2万円/台
電話機約1万/台
プリンター・複合機約5万/台

これらの備品を購入すると、約30万円が必要です。

指定申請、証書代

居宅介護支援事業所を立ち上げるには、国や市町村の基準を満たし、新規指定を受ける必要があります。
新規指定を受けることで、晴れて居宅介護支援事業所としてサービスを提供できます。

指定申請する場合には、各市町村指定の手数料が発生します。
大阪市を例に上げると、指定申請するには3万円必要です。

参照:大阪市|介護サービス事業者の指定及び更新にかかる申請審査事務手数料について

人件費

居宅介護支援事業所には、管理者と介護支援専門員(ケアマネジャー)の設置が必要です。
人件費は、目安として6カ月の給料を確保しておくと良いでしょう。

ケアマネージャーの平均月収は、以下のとおりです。

ケアマネージャー(常勤)348,030円
ケアマネージャー(非常勤) 243,270円
引用:令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果

例えば、常勤のケアマネージャーを1名雇う場合、6カ月分の給料は約210万円。

居宅介護支援事業所の立ち上げで使える補助金・助成金

居宅介護支援事業所を立ち上げるには、費用の準備が必要です。
自己資金で賄えないもしくは不安な場合は、補助金制度の利用を検討しましょう。

条件を満たし審査に通過すれば、返済不要で資金を調達できます。

  • 地域企業創業補助金
  • IT導入補助金
  • キャリアアップ助成金

本章では、3つの補助金・助成金について解説していきます。

地域企業創業補助金

地域企業創業補助金とは、雇用拡大や地域のニーズを満たすために創業する方が利用できる補助金です。

各地域によって、名前や金額などが違うため、創業予定の地域のホームページで確認するようにしましょう。
東京都の場合は、公益財団法人東京都中小企業振興公社から「創業助成金」が申請できます。

要件都内で創業を予定されている方または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件(※)を満たす方※「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援修了者」「東京都制度融資(創業)利用者」「都内の公的創業支援施設入居者」等
補助上限上限額300万円 下限額100万円
補助額助成対象と認められる経費の2/3以内
参照:|公益財団法人東京都中小企業振興公社

申請が通ると、対象となっている経費の内3分の2までが補助されます。

IT導入補助金

IT導入補助金は、中・小企業がIT技術を導入する際に利用できる国の補助金制度です。
介護事業の課題に合わせた、業務効率化などのツールを導入する際に申請できます。

IT導入補助金には、対象となるツールにより5つの種類に分けられます。
通常枠A類型で申請した場合の補助金の概要は以下のとおりです。

要件通常枠A類型:1プロセス以上を内包するITツール

・顧客対応、販売支援
・決済、債権債務、資金回収管理
・供給、在庫、物流
・会計、財務、経営
・総務、人事、給与、労務、教育訓練、法務、情報システム
・その他業務固有のプロセス
・汎用、自動化、分析ツール(A枠はこの要件単体は申請不可)
補助上限5万~150万円未満
補助額1/2以内
参照:IT導入補助金|IT導入補助金2023 後期事務局

業務効率化や業務負担軽減のためには、介護ソフトの導入は大切です。
IT導入補助金について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

関連記事:【介護ソフト向け】IT導入補助金2023年|スケジュールや概要をわかりやすく解説

キャリアアップ助成金

立ち上げ後に従業員の質の向上を目指すのであれば、キャリアアップ助成金が利用できます。
キャリアアップ助成金とは、雇用環境の向上や長期的なキャリア形成を促進するのが目的です。

キャリアアップ助成金には、さまざまな種類があります。
今回は、正社員化コースについて解説します。

要件・雇用保険適用事業所の事業主であること
・事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置していること
・キャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の認定を受けていること
・対象労働者について、労働条件や勤務状況、賃金支払い状況などがわかる書類(就業規則)を作成・改定 していること
・キャリアアップ計画期間中に、非正規雇用労働者のキャリアアップに関する取り組みを実施していること
補助上限支給申請上限人数は20人
補助額1人あたり57万円
参照:簡易版)令和5年度オレンジポンチ+社保適用時処遇改善コース|厚生労働省

有期労働者を正社員化した場合、1人あたり57万円が支給されます。
その他にも、短期労働者を社会保険に適用した際に最大50万支給されます。

キャリアアップ助成金にも種類があるので、自施設で適用できる範囲を考えて申請していきましょう。

居宅介護支援事業の開業に向けた資金調達方法

開業資金でお困りの方は、融資を検討すると良いでしょう。
信用状況や事業計画によっては、補助金・助成金よりも多くの資金を調達できる可能性があります。

なお、代表的な融資元は以下の4つです。

  • 日本政策金融公庫
  • 地方自治体
  • 信用金庫・組合
  • 地方銀行

ここでは、開業に利用できる4つの融資制度の概要について解説します。

日本政策金融公庫の融資

日本政策金融公庫とは、民間の金融機関の機能を補完し、事業に取り組む方々を支援する政策金融機関です。
新規創業者への支援に力を入れているため、事業実績の少ない方でも融資審査に通過しやすいと言われています。

日本政策金融金庫で利用できる代表的な融資は、以下の2つです。

新創業融資制度新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)
対象者以下すべてに当てはまる方
・新たに事業を始める方または、事業開始後税務申告を2期終えていない方
・新たに事業を始める方または、事業開始後税務申告を1期終えていない方
女性または、35歳未満か55歳以上の方であって、新たに事業を始める方
事業開始後おおむね7年以内の方
融資金額3,000万円(うち運転資金1,500万円)7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間各融資制度に定めるご返済期間以内設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内)運転資金:7年以内(うち据置期間2年以内)
担保・保証人原則不要希望を伺いながら相談
参照:新創業融資制度|日本政策金融金庫
   新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)|日本政策金融金庫

地方自治体の制度融資

地方自治体の融資制度とは、都道府県や市町村で提供している制度融資です。
比較的低金利で融資が可能なため、新規事業の方でも資金が確保しやすくなっています。

参考例として、東京都の制度融資の概要をまとめています。

ご利用できる方以下3点のいずれかに該当する方
・現在事業を営んでいない個人で、創業しようとする具体的な計画を有している
・創業した日から5年未満である
・中小企業者等分社化しようとする会社又は分社化により設立された日から5年未満の会社
融資金額3500万円
返済期間設備資金10年以内(据置期間1年以内を含む。)
運転資金7年以内(据置期間1年以内を含む。)
担保・保証人既存の保証付融資残高と新規の保証付融資額の合計が8,000万円以下の場合は、原則として無担保
参照:東京都中小企業制度融資『創業』|東京都産業労働局 東京都NET

信用金庫・組合の融資

信用金庫や組合の融資も、居宅介護支援事業所の開業で利用可能です。
信用金庫とは、地域の方々が利用し相互扶助を目的としている金融機関を指します。

また、信用組合とは「中小企業等協同組合法」に基づき、相互扶助を目的としている協同機関です。
埼玉県にある信用金庫、埼玉縣信用金庫を例に解説します。

ご利用できる方当金庫の会員又は会員資格を有し、下記のいずれかに該当する方
・事業を営んでいない個人で、6ヶ月以内に事業を開始する方
・事業を営んでいない個人で、6ヶ月以内に会社を設立する方
・事業を営んでいない個人が事業を開始し、事業開始から5年を経過していない方
・事業を営んでいない個人が設立した会社で、設立から5年を経過していない法人の方
融資金額1,000万円以内
返済期間運転資金5年以内(12ヶ月以内の据置期間)
※ただし、日本政策金融公庫の融資期間が5年を超える場合は、7年までは公庫と同期間の取扱いが可能となります。設備資金10年以内(12ヶ月以内の据置期間)
担保・保証人不要
引用:創業支援融資|埼玉縣信用金庫

地方銀行の融資

地方銀行でも、融資を受けることが可能です
地方銀行とは、各地域を営業基盤としている銀行のことを指します。

千葉県を中心に展開している「千葉銀行」を例に挙げて概要を紹介します。

ご利用できる方対象となる方以下の要件をすべて満たす法人
・千葉県又は千葉県に隣接する地域で創業又は新規事業を行うこと。
・事業計画を提出できること。
融資金額100万円以上
返済期間運転資金10年以内設備資金20年以内(ただし、耐用年数の範囲内)
担保・保証人原則、代表者
参照:ちばぎん地方創生融資制度|ちばぎん

居宅介護支援事業所で立ち上げを成功させるポイントは?

居宅介護支援事業所は、開業後の安定した施設運営が大切です。
開業する際に、施設運営を成功させるためのポイントを把握することが必要です。

  • 加算要件を満たす施設にする
  • 補助金・助成金の利用
  • ICTの利用を検討する

本章では、立ち上げを成功させる3つのポイントについて解説します。

加算要件を満たす施設にする

居宅介護支援事業所で成功させるには、特定事業所加算を取得できる環境整備が大切です。
特定事業所加算が取得できれば、介護報酬が増加します。

安定した施設運営が可能なため、ぜひ申請を目指しましょう。
特定事業所加算には、従業員の資格や研修などの加算要件を満たす必要があります。

事業計画から加算要件を把握して、要件を満たせるように立ち上げましょう。

補助金・助成金の利用

補助金・助成金の活用も、立ち上げを成功させるために大切です。
居宅介護支援事業所の立ち上げは、介護事業所の中では立ち上げ費用は少ない部類です。

しかし、資金調達が難航すると、居宅介護支援事業所をスムーズに立ち上げることが難しくなります。
そのため、前述した補助金や助成金を活用して、資金調達の目途が立つことが大切です。

各制度を活用して、資金を確保できるようにしましょう。

ICTの利用を検討する

ICTを導入するのは、立ち上げと同時に導入するのが効果的です。
ICTを活用すると、業務負担の軽減・効率化に役立ちます。

立ち上げ前は、業務プロセスやデータ管理の環境が整備される前のため、ICTの導入が容易です。

仮に、立ち上げ後にICTを導入すると、業務プロセスの変更が必要になる恐れがあります。
多くの手間がかかるうえに、従業員からの反発が起こる可能性があるため、立ち上げ時の導入を検討してみてください。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

居宅介護支援事業所数(以下居宅)は2018年の40,065件をピークに年々減少しており、2023年には37,197件まで減少しています。超高齢化社会を迎える日本では、高齢者が増え続け、介護保険利用者も増え続けているのに、介護保険制度の要でもある居宅は何故減少しているのでしょうか。簡単にまとめてお答えすると、“規模(ケアマネ数)を大きくしないと収益化しづらい構造”となっているためです。上述のとおり、事業所数は減少していますが、これは居宅の統廃合により、大規模化が進んでいることが主な要因なのです。大規模化が進んだ結果、居宅の収支差率は4.9%(令和4年度)となっており、前年度と比較して1.2%プラスとなっています。居宅を開業する際には、最初から大規模化を見据えて計画を練ることをお勧めいたします。

居宅介護支援事業所を立ち上げる方に|在宅ケアマネジメントSP支援システムがおすすめ

居宅介護支援事業所の立ち上げに伴い、ICTの導入をお考えの方は、ワイズマンの「在宅ケアマネジメントSP支援システム」をご検討ください。
「在宅ケアマネジメントSP支援システム」は、アセスメントからモニタリング・評価までの一連の業務を一元管理できます。
その他にも居宅サービス計画作成費の請求、総括票作成もできるため、事務業務の負担も軽減されます。

居宅介護支援事業所の運営を見越して、立ち上げの準備をしよう

居宅介護支援事業所の立ち上げにかかる費用についてまとめました。
居宅介護支援事業所の立ち上げには、約100万~300万の費用が必要です。

助成金や補助金を活用して、費用を抑える方法を考えましょう。
また、立ちあげる際には安定した施設運営を目標にすると効果的です。

ICTの導入も考えて、余裕のある施設運営ができるように心がけましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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