看護分野におけるアセスメントとは?効果的な実施方法、注意点を解説

2024.07.05

アセスメントは、看護ケアを開始する際に、必ず実施されるものです。
患者の状況に合わせた看護ケアを提供するためには、アセスメントによる情報収集が不可欠です。

アセスメントを実施すると、「どのような情報を聞けば良いかわからない」「記録すべき内容がわからない」といった悩みを持つ方も多いのではないでしょうか。

本記事では、看護の現場で実施されるアセスメントについて、収集すべき情報や効果的な実施方法を紹介します。
アセスメントに不安を抱えている方は、ぜひ最後までご覧ください。

看護分野のアセスメントとは?

アセスメント(assessment)とは、「評価」「査定」を指す英単語です。
もともとは看護分野に限らず、人物や物事を第三者の目線で評価したり、分析したりすることを表していました。

例えば、人事の評価を行う際や、製造環境の評価を行う際にも、アセスメントを使用しています。

看護分野におけるアセスメントとは、患者の健康上の問題を把握したり、症状を分析したりすることを指します。
アセスメントで得た患者情報を評価・分析し、今後の看護計画に役立てることが目的です。

症状の把握はもちろん、患者が精神的に抱えている課題など、潜在的な部分の情報収集も必要です。
同じ疾患を抱えている患者であっても、自身の生き方や希望、困りごとが患者によって異なるためです。

アセスメントで収集した情報から、患者が抱える問題と課題を分析し、解決する優先順位や看護ケアの方針を定めます。

アセスメントは看護過程の第一歩

一般的に、患者へ看護サービスを提供する際は、以下の看護過程を繰り返します。

看護過程内容
1.アセスメント患者の情報収集、問題点の分析・評価
2.看護診断問題の原因を特定、看護の介入により解決・軽減できる問題を抽出
3.看護計画問題解決のための目標制定、看護計画の立案
4.看護介入看護計画に基づいた看護ケアの提供
5.看護評価看護介入後の成果を評価

看護過程とは、患者へ看護サービスを提供する際に実施する、問題解決法のことです。
上記のとおり、アセスメントは看護過程のうち第一段階に位置します。

アセスメントで得た患者の情報をもとに看護診断や看護計画、看護介入へとつながっていきます。

「アセスメント」と「看護診断」は、どちらも患者の問題を分析する作業で混同しやすいでしょう。
しかし、双方には明確な違いがあります。

アセスメントは、患者の抱える問題や健康状態を分析して現状を把握する作業です。

一方、看護診断ではアセスメントの結果を受け、看護計画に組み込むべき問題を分析します。
アセスメントのなかで判明した患者の問題点のなかから看護介入によって問題の軽減や解決が可能であるものに限定して分析するという点で、アセスメントとは分析の内容が異なることに注意しましょう。

看護分野におけるアセスメントの基本プロセス

アセスメントは基本的にPDCAのプロセスを踏んで実施します。

  • Plan(計画)
  • Do(実行)
  • Check(評価)
  • Action(改善)

まず、アセスメントをどのように進めるのかについて計画を立てます。
アセスメントの達成目標を具体的に定めることが重要です。

誰がどのように、何を実施するのかといった5W1Hを用いて計画を立てると、より具体的な計画を作成できます。

アセスメント計画ができたら、実行(Do)に移ります。
アセスメントを実行する際には、立案したアセスメント計画に基づいて実施します。
また、計画の有効性についても確認しましょう。

実行した後は、アセスメントの評価・改善に移ります。
評価では、アセスメント計画の進捗度合いのみならず、うまくできなかった場合の要因を分析します。

計画どおりに進めた場合にも、アセスメント自体が有効であったかどうかを確認しましょう。

改善する段階では、今後のアセスメント実施時に向けて改善すべき点や現在の課題を確認します。
これらを今後のアセスメント計画に取り込み、取り組みの精度を高めます。

看護分野のアセスメントで大切なこと

看護分野のアセスメントでは、看護計画に必要な情報を漏れなく収集することが重要です。

例えば訪問看護でアセスメントを実施する場合には、下記のような視点で考えます。

  • 患者が在宅看護を希望しているか否か
  • 医師の診察頻度は適切か

上記のような視点を持ち、今後の看護計画の判断材料となる情報を集めなければなりません。
患者の健康状態についてのみ情報収集してしまうと、患者の希望を聞き逃して、適切な看護計画を作成できません。

アセスメントの実施は、今後の患者の状態をある程度想定したうえで、看護計画を立てる際に必要となるであろう情報を適切に収集しましょう。

看護分野のアセスメントで収集すべき2種類の情報

アセスメントでは、情報を下記のように2つに分けて収集します。

  • 客観的情報
  • 主観的情報

それぞれの情報の具体例について紹介します。

客観的情報

客観的情報とは、検査や診察により数値化・視覚化された情報です。
具体的には以下の情報を指します。

  • 検査結果
  • バイタル
  • 看護師が観察してわかる情報(皮膚の状態など)

主観的情報

主観的情報とは、患者が自覚しており、ヒアリングなどから得られる情報です。
主観的情報には下記のようなものが挙げられます。

  • 食欲の有無
  • 痛みの感じ方など患者自身が感じる苦痛
  • 症状や治療に関する悩み

症状や治療に関する悩みは「ヘルスアセスメント」とも呼ばれます。
患者の健康状態を身体的のみならず、精神的・社会的な側面から総合的に評価します。

自宅で生活する患者の場合には、生活を送るうえでストレスや不安、孤独を感じていないかなども、ヘルスケアアセスメントに含まれます。

なお、アセスメントで収集する情報には、患者のプライバシーに関わるものも含まれます。
収集した情報は適切に管理し、外部へ漏洩しないよう配慮しましょう。

看護のアセスメントに必要な4つの視点「SOAP(ソープ)」

看護記録の手法として「SOAP(ソープ)」と呼ばれる様式があります。
これは、下記4つの内容を記録する方法です。

  • Subject(主観的情報)
  • Object(客観的情報)
  • Assessment(アセスメント)
  • Plan(看護計画)

Subject(主観的情報)とObject(客観的情報)は、前章で紹介した、アセスメントで収集する2種類の情報を指します。

Assessment(アセスメント)は、患者の状態や今後起こりうる課題・問題の分析です。
患者にとって何が問題か、今後どのようになるのか、収集した情報(S・O)をもとに記録します。

さらに、Plan(看護計画)では、分析した患者の問題(A)に対する看護ケアの方針や内容を記します。
看護計画はアセスメントに基づき、患者の問題を解決・軽減するための計画になっていなければいけません。

SOAPの様式を用いることで、患者の抱える問題とそれを解決するための方針を明確にできます。
それぞれの問題を整理して記録するのがポイントです。

看護アセスメントの書き方・作成手順

ここでは、アセスメントの書き方や作成手順を紹介します。
SOAPに基づいた流れですが、記録する際には、下記の流れに沿うとスムーズにアセスメントの実施や看護記録を作成できます。

  1. 患者の反応を解釈する
  2. 反応を引き起こした原因・誘因を書く
  3. 改善する「強み」を書く
  4. 今後を予測する

それぞれの手順を詳しくみてみましょう。

手順1. 患者の反応を解釈する

まずは、患者の発言や検査結果の情報をもとに、患者の反応を解釈します。
具体的な記載方法は、下記のとおりです。

(アセスメント項目)については、(情報)や(情報)があった。
このことから、(解釈結果)と考えられる。
よって、(実在型問題)を問題に挙げる。

アセスメント項目には、「ゴードンの11の機能的健康パターン」などを用います。
具体的には下記のような項目が挙げられます。

  • 健康知覚ー健康管理
  • 栄養ー代謝
  • 排泄
  • 活動ー運動
  • 睡眠ー休息
  • 認知ー知覚
  • 自己知覚ー自己概念
  • 役割ー関係
  • 性ー生殖
  • コーピングーストレス耐性
  • 価値ー信念

文のはじめにアセスメント項目が入ると、何についての情報かがわかりやすくなります。

手順2. 反応を引き起こした原因・誘因を書く

手順1で記載した「患者の反応」を引き起こした原因や、反応を助長している誘因について書きます。
実在型問題がある場合、原因・誘因への看護介入が必要なケースが多いため、必ず記載しましょう。

書き方としては下記のような流れです。

この問題の原因には、(情報)や(情報)から(原因)が考えられる。
また、(情報)や(情報)から(誘因)が誘因となっていると考えられる。

原因・誘因は一つとは限りません。

また、原因・誘因は必ずしも手順1の情報に含まれているわけではないため、患者の基本情報やこれまでの看護記録などすべての情報から探す必要があります。

手順3. 改善する「強み」を書く

患者の反応を改善・促進・維持できるような「強み」があれば記載しましょう。
強みとは、例えば家族が協力的であることが挙げられます。

具体的な記載方法は下記のとおりです。

(情報)や(情報)から、(強味)が(アセスメント項目)の強みになると考えられる。

強みがあるかどうかは、看護計画を立てる際にも考慮される点です。
アセスメントの段階で、できるだけ多くの強みを把握しておくと良いでしょう。

手順4. 今後を予測する

患者の反応が、今後どのような経過をたどるかを推測して書きます。
危険因子の有無によって多様な推測結果が出てきます。

例えば、すでに実在型問題があって、危険因子がある場合には「今後さらに悪化していく恐れがある」といった記録となるでしょう。

また、患者の反応に対し悪化させる危険因子がない場合には「健康上の問題ではない」と結論づけます。
現状、実在型問題でない場合に危険因子があると判断した場合は「リスク型問題」と位置づけます。

看護現場でアセスメントを作成する際の5つのコツ

アセスメントを作成する際のポイントは以下の5つです。

  • アセスメント=個人情報である意識をもつ
  • 多面的に情報収集する
  • 先入観を持たないようにする
  • 継続的なアセスメントを実施する
  • 身体状況の変化がないか確認する

ポイントを意識して実践できればよりスムーズに、適切なアセスメントを実施できます。
それぞれのポイントについて解説します。

アセスメント=個人情報である意識をもつ

アセスメントで収集した情報は、患者のプライバシーにかかわる個人情報です。
看護記録に記載は必要ですが、守秘義務を守り、適切に取り扱いましょう。

雑談の流れで患者の悩みを吐露した場合でも、他の患者や家族へ勝手に共有するといった行為は許されません。
看護にかかわる従事者全員が、「アセスメントの内容、看護記録は個人情報である」という意識を持って対応に臨みましょう。

多面的に情報収集する

アセスメントでは、できるだけ多くの情報を収集することを心がけましょう。
適切な看護診断を行うには、多面的な情報の分析・診断が必要なためです。

抜け漏れのないアセスメントを実施するためには、アセスメントシートなどのテンプレートが有効です。
例えば、日本看護協会が作成している「多職種共有シート」では20項目のアセスメント項目を設けており、患者情報を網羅できます。

参照:在宅・介護領域における「多職種情報共有シート」 |日本看護協会

アセスメントシートをあらかじめ作成し、収集すべき情報を網羅できるアセスメントの実施を目指しましょう。

先入観を持たないようにする

アセスメントで得られた情報以外から推測や解釈をしてしまうと、正確なアセスメントが実施できない点に注意が必要です。
アセスメントに不慣れなうちは、得られた2種類の情報と患者の疾患をすぐに結びつけようとしてしまいがちです。

収集できる主観的情報と客観的情報がどういったものかを正確に把握し、疾患との因果関係を明らかにできるようにしましょう。

例えば、患者が痛みを訴えたとして、それが疾患によるものか、別の原因が引き起こしているのかは、アセスメントでは判断が難しいでしょう。
先入観を持ってしまうと「疾患によるものだ」(=仕方ないもの、対処できないもの)と捉え、別の原因があった場合に見落としてしまいかねません。

アセスメントでは、あくまで患者が痛みを訴えているという情報を記録するだけにとどめましょう。

継続的なアセスメントを実施する

アセスメントは継続的に実施する必要があります。
看護計画どおりにケアを提供していたとしても、患者の状態が変化したり、計画した看護ケアが患者に適していなかったりする場合があるためです。

看護ケアを提供している間は常に、看護計画が適しているか、見直しの必要がないかという意識を持ちましょう。
継続的にアセスメントを実施すれば、看護ケアが適しているのかを判断でき、より良い看護ケアの提供につながります。

また、何度もアセスメントを実施するうちに、患者の情報をより正確に収集できるようになるなど、看護師自身のアセスメント力の向上にもつながります。

特に、主観的情報は、患者と看護師の信頼関係が構築されていない場合、把握しにくい情報です。
アセスメントとして形式的でなくても、看護ケアの提供時に雑談として進めていくなかで、主観的情報を収集しやすくなります。

身体状況の変化がないか確認する

アセスメントでは「異常がないか」という点に注意が向いてしまい、患者の正常な状態を把握できていないケースもあります。
患者の正常な状態を正確に把握できていれば、体調の変化や予兆にも気付きやすくなります。

看護ケアを提供している間や患者との会話のなかでも、患者の状態を観察することが大切です。
特に、フィジカルアセスメントを実施しておくと、患者の状態を客観的に把握できるため、正常な状態を見分けやすくなります。

フィジカルアセスメントとは、問診や視診、聴診、触診・打診を使っておこないます。
フィジカルアセスメントをスムーズに実施できれば、より正確に患者の状態を把握可能です。

客観的情報をより多く医師へ提供できるため、診察時にもスムーズなコミュニケーションができるでしょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

アセスメントの際には、ICF(国際生活機能分類)の考え方を取り入れることが大切です。今ではほぼ無くなりましたが、昔は回復期病棟のリハビリも平行棒歩行のみというところが多く存在していました。私自身の経験としても、転倒され、大腿骨頸部骨折で入院となった入居者(元々独歩)が、病院で平行棒歩行のリハビリを実施したが、車椅子移動がゴールという形で施設に戻ってくることは数多くありました。そして、施設に戻り、トイレ誘導や居室内移動を歩行でおこなうことで、自然と以前のように歩けるようになるケースが頻回でした。今ではきちんとアセスメントし、ICFにおける「活動」や「参加」に繋げるためのリハビリをしてくれる病院が殆どでしょう。利用者に提供するサービスに命を通わせるためにも、アセスメントに力をいれていきましょう。

適切なアセスメントを実施し、看護計画に活用しよう

看護の現場でのアセスメントは、看護計画や看護ケアにつながる大事な看護過程のひとつです。
適切なアセスメントを実施して、患者情報をより多く、正確に収集することが大切です。

また、継続的にアセスメントを実施する場合には、事前に患者情報を確認し、担当者が代わっても、偏りのない情報収集ができる仕組みづくりも必要でしょう。
電子カルテの活用も、関係者へ漏れなく患者情報を共有できる有効な手段です。

使い勝手の良い電子カルテシステムを活用すれば、アセスメント内容を漏れなく記録できるほか、スムーズな記録も可能になり、看護師の負担軽減にもつながります。

適切なアセスメントと看護記録をおこない、看護ケアの向上を目指しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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