認知症看護のコツ5選|主な症状や種類・患者の心理状態を徹底解説

2024.07.16

認知症患者をケアするには、症状と心理状態を理解して、適切な対応を行うことが大切です。
認知症のなかには、さまざまな種類があり、各症状の特徴と違いを理解しておくことで実施するケア内容を検討できます。

認知症患者に対する適切なケア方法や対処法を知りたい方は、認知症について理解を深めておきましょう。
本記事では、認知症看護のコツについて、主な症状や種類とあわせて解説します。

患者の好みや嫌がることなど、心理状態についても詳しく解説するため、ぜひ最後までご覧ください。

認知症とは

認知症とは、脳の疾患によって記憶や思考、見当識などの機能が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。
例えば、日常的に行なっていた家事を忘れたり、見当識障がいにより日付や時間を認識できなくなったりします。

認知症患者に適切なケアを提供するには、症状を正しく理解しておく必要があります。
認知症と混合されやすいものとして、以下が挙げられます。

  • もの忘れ
  • うつ病

それぞれの違いを理解して、認知症への理解を深めましょう。

認知症ともの忘れの違い

認知症ともの忘れはともに「過去のできごとを忘れる」特徴があり、双方の違いを理解しておくことが大切です。
認知症は、日常生活に支障が出るほど記憶や見当識が抜け落ちる症状ですが、もの忘れは記憶の一部分を忘れるだけで生活に支障をきたしません。

認知症ともの忘れの違いは、次のとおりです。

項目もの忘れ認知症
記憶障がいの原因・加齢
・ストレス
・睡眠不足
・栄養不足
疾患
特徴行為やできごとの一部を忘れる行為自体を忘れる
再認ヒントがあれば思い出すことも多いヒントがあっても思い出せないことが多い
程度社会生活に支障がない社会生活に支障がある
症状の頻度、進行1~2年間で変化がない1~2年間で変化があり、進行している
主な症状記憶障がいのみ・見当識障がい
・判断力障がい
・実行機能障がい
自覚自覚症状あり自覚症状が乏しい
参照元:認知症を進行させない!認知症ケア|国立精神・神経医療研究センター病院

大きな違いは、もの忘れは自身で症状を自覚できますが、認知症は自覚症状があることです。
他にも、もの忘れは記憶障がいのみで症状がすぐには変化しませんが、認知症は症状が進行します。

認知症は、記憶障がいの他に判断力障がいや実行機能障がいなどさまざまな症状があり、日常生活に支障をきたします。

認知症とうつ病の違い

認知症とうつ病は、どちらももの忘れが多くなったり今までは問題なく過ごせていた社会生活ができなくなったりと、複数の共通点があります。
しかし認知症とうつ病では、記憶障がいの原因や特徴が大きく異なるため、違いを理解しておくことが大切です。

認知症とうつ病の違いは、次のとおりです。

項目うつ病認知症
記憶障がいの原因心の疾患疾患
特徴食欲低下や不眠など、身体の不調が増える記憶障がいにより、行為自体を忘れる
程度社会生活に支障がある社会生活に支障がある
症状の頻度、進行何かしらのきっかけで、発症、進行する1~2年間で変化があり、進行している
主な症状・意欲低下
・コミュニケーション能力の低下
・集中力低下
・見当識障がい
・判断力障がい
・実行機能障がい
自覚自覚症状あり自覚症状が乏しい

どちらも社会生活に支障をきたすレベルで、心身の機能に障がいが生じます。
大きく違う点は、うつ病は心の病であるのに対し、認知症は脳の疾患であることです。

うつ病が焦燥感や憂うつ感、絶望感などネガティブな感情が増えてしまう病気なのに対し、認知症は記憶障がいや実行機能障がいが起きる病気でです。

認知症の症状

認知症は、主に次の2種類に分類されます。

  • 中核症状
  • 周辺症状

患者に適切な対応を施すために、認知症の具体的な症状を確認しておきましょう。

中核症状

中核症状とは、脳が萎縮することで起こる機能障がいを指します。
血の巡りが悪くなり、脳の機能が低下することで、次のような症状が発生します。

中核症状概要
記憶障がい昔の記憶がなくなり、ものごとを思い出せないくなる
見当識障がい場所や時間、人物などを理解できなくなる
実行機能障がいものごとを論理的に考え、計画的に行動できなくなる家事や排泄行為の手順がわからなくなる
注意障がい注意が散漫になり、落ち着いてものごとに取り組めなくなる
失語言葉を理解したり書いたり話したりと、言語機能が損なわれる
失認五感に障がいがあり、感覚情報を正常に認識できなくなる
失行順序を覚えたり一連の動作を行えなくなる着替えや食事の仕方がわからなくなる
参照元:急性期病院に必要な認知症看護について|公益社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院

中核症状は、記憶障がいや見当識障がいなど、記憶や認識に影響が生じる症状です。
言語機能や実行機能に障がいが出ることから、社会生活に支障をきたします。

周辺症状

周辺症状とは、周辺環境や心理状態によって生じる症状です。
周辺症状は感情面の症状が多く、適切なケアを行うことで改善が期待できます。

周辺症状の具体例は、次のとおりです。

  • 乱暴な言葉を言う
  • 夜間の不眠
  • 意欲がなくなる
  • 落ち着きがない
  • 怒りっぽい

参照元:急性期病院に必要な認知症看護について|公益社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院

中核症状の影響で「ものを盗られた」「どうしてご飯を食べさせてくれないの」など、被害妄想に陥ることから、怒りや興奮の感情へとつながります。
そのため周辺症状は行動・心理症状(BPSD)とも呼ばれており、不安や焦燥感、幻覚や妄想、徘徊などの症状が現れるケースもあります。

認知症の主な種類

認知症は、次の4種類に分類されます。

  • アルツハイマー型認知症(AD)
  • 血管性認知症(VaD)
  • レビー小体型認知症(DLB)
  • 前頭側頭型認知症(FTD)

患者の容態や心理状態を理解するために、各認知症の種類を確認しましょう。

アルツハイマー型認知症(AD)は、認知症のなかでもっとも発症率が高い病気です。
脳の神経細胞が破壊され萎縮し、新しいできごとや過去の思い出を記憶できなくなります。

そのため「物を盗られた」と錯覚したり、昼食を食べたが「まだご飯を食べていない」と勘違いしたりと、被害妄想に陥りやすいです。
また時間や場所、人の顔を認識できない見当識障がいが起きるため、家族の顔や思い出の場所すらも忘れてしまいます。

血管性認知症(VaD)

血管性認知症(VaD)は、脳出血や脳梗塞など脳血管障がいが原因で起きる認知症です。
主に注意障がいや抑うつ状態、感情失禁などの症状が現れますが、脳の損傷箇所によっては歩行障がいや構音障がい、嚥下障がいにも発展します。

記憶や人格は残りやすい特徴がありますが、症状の悪化で四肢麻痺が長期間続くと、廃用症候群につながる可能性があります。

レビー小体型認知症(DLB)

レビー小体型認知症(DLB)は、脳の神経細胞にレビー小体というタンパク質がたまることで生じる認知症の一種です。
幻視や妄想、パーキンソン症状などが現れ、アルツハイマー型認知症と見分けにくい特徴があります。

レム睡眠行動障がいや自律神経症状、起立性低血圧に陥りやすいため、早期の治療が求められます。

前頭側頭型認知症(FTD)

前頭側頭型認知症(FTD)は、前頭葉と側頭葉が萎縮することで起きる認知症です。
人格や性格が極端に変わることが多く、怒りっぽくなったり嘘をつきやすくなったりと、社会性が欠如する傾向にあります。

優しかった人が怒りやすく乱暴な性格になることもあり、人格障がいや常同行動、自発性の低下などが主な症状です。

認知症ケアの手法「パーソン・センタード・ケア」

認知症患者を看護するには、「どのようにものを考え行動しているか」など、思考・行動パターンを把握しておく必要があります。
認知症ケアの手法として、「パーソン・センタード・ケア」が効果的です。

パーソン・センタード・ケアは、自然科学や神学を修め老年心理学教授となったトム・キットウッドによって提唱されました。
パーソン・センタード・ケアは、認知症患者を一人の「人」として尊重し、患者の立場になってケアを行います。

また、認知症患者を理解するために次のポイントを重要視します。

  • 認知症患者を理解する5つの手がかり
  • 認知症患者の5つの心理ニーズ

各ポイントを確認して、認知症患者のケアにパーソン・センタード・ケアを取り入れましょう。

認知症患者を理解する5つの手がかり

認知症患者の言動を理解するためには、認知症の要因となる5つの手がかりを理解しておくことが大切です。
ccでは、次の5つを認知症の症状を左右する要素と定義付けています。

  1. 脳の障がい(認知機能障害など)
  2. 身体の健康状態(筋力や視力、聴力など)
  3. 生活歴(職歴や趣味、過去の経験など)
  4. 性格傾向(得意分野や苦手分野、対処スタイルなど)
  5. 社会心理(周囲の人間、環境など)

認知症の症状を左右する原因は、アルツハイマー病や脳血管障がいなど脳の障がいだけではありません。
身体の健康状態が悪いと不安感や不快感が強くなり、抑うつ感や苛立ちが増し、生活に支障をきたします。

また生活歴や性格、周囲の環境によって認知症患者の心理状態は変化し、現れる症状や進行具合も大きく変わります。
認知症をケアするには、上記の要素を理解して、患者が快適に過ごせるような配慮が必要です。

認知症患者の5つの心理ニーズ

トム・キッドウッドは、認知症患者が潜在的に抱える心理ニーズを次の5要素で構成されていると定義付けました。

  • 自分らしさ(Identity)
  • 結びつき(Attachment)
  • たずさわること(Occupation)
  • ともにあること(Inclusion)
  • くつろぎ(Comfort)

上記の心理ニーズが満たされない場合、認知症の症状が現れ、治療やケアの拒否が起こります。
病気や心理ニーズについて理解されていない状態では、何をされるかがわからず恐怖を感じてしまうため、治療やケアを拒否してしまうのです。

認知症患者の立場になり、心理ニーズを満たすように接し方やケアの方向性を見直しましょう。

認知症患者の好みや嫌がること

認知症ケアを行う際は、患者が嫌がる考え方や行動を避けなければなりません。
認知症患者が好むことと嫌がることを理解して、快適に過ごせるよう配慮しましょう。

好む考え方や行動

認知症患者が好む考え方や行動は、次のとおりです。

  • 安心できる場所や空間で過ごしたい
  • 安心できる人と関わりたい
  • 自分でできることは積極的に行いたい
  • 過去の栄光や得意分野を認めてほしい

認知症患者は、安心できる環境を好み、過去のケアが必要なかったときの自分を認めてほしいと考えています。
そのため他者の手助けなく、「自分でできることはしたい」と考える方が多いです。

また過去の栄光や得意だったことを認めるような、自己肯定感を高める言動を好みます。

嫌がる考え方や行動

認知症患者が嫌がる考え方や行動は、次のとおりです。

  • 知らない場所や空間で過ごす
  • 知らない人に関わる
  • 自分の行動や言動を否定される
  • 新しいことを覚えなくてはならない

認知症患者は安心できる環境を好むため、知らない場所や人を嫌う傾向にあります。
また自分でできることはしたいと考えているため、「できない」と行動や言動を否定されると、自尊心が傷付いてしまいます。

記憶障がいにより新しいことを覚えるのは苦手なため、できるだけ新しいものごとと関わる事態は避けましょう。

認知症看護のコツ5選

認知症患者を看護する際には、次のコツを押さえましょう。

  • 本人のペースに合わせる
  • 信頼関係を構築する
  • 孤独を感じさせない
  • リラックスできる環境を整える
  • 自尊心を守る

上記のコツを押さえれば、認知症患者に負担をかけず、リラックスした気持ちでケアを受けてもらえます。
認知症ケアをスムーズに行うため、各コツを実践してください。

本人のペースに合わせる

認知症看護のコツとして、本人のペースに合わせることが大切です。
認知症患者は、急かされたり自分のペースを乱されたりするとリラックスできません。

ゆっくりとした声かけで急かさないように、本人のペースに合わせたケアを実施しましょう。
ただし、声かけが多すぎても情報の処理が難しいため、本人の負担にならないよう配慮してください。

信頼関係を構築する

認知症看護のコツは、信頼関係の構築です。
認知症患者は、知らない人や場所を嫌います。

そのため覚えていないようであれば、会うたびに自己紹介をして、ゆっくりと信頼関係を築きましょう。
優しく接して「安心できる人だ」と認めてもらえれば、スムーズにケアを受けてもらえます。

孤独を感じさせない

認知症看護では、患者に孤独を感じさせないよう配慮してください。
知らない人ばかりの環境は、大きなストレスを感じてしまうため、不安感が強まります。

孤独を感じさせないよう、心を開いている看護師が積極的に接して、ケアの方法を工夫することが大切です。

リラックスできる環境を整える

認知症ケアをスムーズに行うコツは、リラックスできる環境を整えることです。
好きなものや音楽、景色や場所など、本人がリラックスできる環境を整えることで、安心してケアを受けてもらえます。

認知症患者に安心してケアを受けられるよう配慮が、認知症看護のコツです。

自尊心を守る

認知症看護の際は、患者の自尊心を守るよう注意してください。
認知症患者は、怒られることや「できない」と自分を否定されることを嫌います。

また怒られた内容を覚えていなくても、「怒られて悲しい」などのネガティブな感情が記憶に残っているケースもあります。
患者の自尊心を損なった場合は、信頼関係を構築できずケアを拒否される可能性が高いです。

認知症看護では、患者の自尊心を守り「本人ができることは積極的にやらせる」気遣いが大切です。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

認知症という言葉自体はだいぶ普及しましたが、認知症になると『何もできない』と誤解している方もまだまだ多い印象です。少なくとも専門職である看護・介護職の方はキチンと認知症について学ぶ必要があるでしょう。認知症の主な症状は記憶障害です。記憶の主な過程は、記銘(インプット)・保持・想起(アウトプット)です。いわゆる物忘れと認知症の決定的な違いは、物忘れは想起障害であり、認知症は記銘障害であるということです。新たな情報の記銘(インプット)が難しいことが認知症の特徴です。逆に言えば、想起は全く問題ないので、これまで培ってきた知識やスキルを活かすことも十分できるということになります。できないことに目を向けるのではなく、できることをどのように活かすかを考えることが認知症ケアの基本ではないでしょうか。

認知症の症状や心理状態を理解して適切な看護ケアを実施しよう

認知症看護をスムーズに行うには、患者の症状や心理状態を理解しておきましょう。
認知症は、もの忘れやうつ病と混合されやすいですが、本人も自覚しにくく症状が進行していく病気です。

自分の家族や思い出の場所であっても忘れてしまうため、周囲の配慮と適切な対応が求められます。
認知症を理解するためには「パーソン・センタード・ケア」と呼ばれる手法を取り入れて、病気を構築する5つの要素と患者の心理ニーズを把握しておくことが大切です。

認知症患者との信頼関係を築いて本人がリラックスできる環境を整えれば、スムーズに看護ケアを実施できます。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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