看護業界の人手不足|現状と有効的な解決策を解説

2024.08.19

近年は高齢化が進んでいることもあり、看護へのニーズがますます高まっています。

あらゆる病院にとって、看護師の確保は需要に応えるうえで重大な課題です。
しかし、昨今は看護業界の人手不足が深刻化しており、なかには業務を回すことすら困難な病院もあります。

この状況を受け、看護業界全体で人手不足を解決すべく、さまざまな対策が実践されるようになりました。
本記事では、看護業界の人手不足の現状と解決策を紹介します。

看護業界の現状と人手不足の深刻化

昨今の看護業界は人手不足が深刻化しており、早急な対応が求められています。
以下は、厚生労働省が発表した職業別有効求人倍率の推移を示したグラフです。

出典:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省

看護師の有効求人倍率は2018年度から2倍以上で推移しています。
つまり、常に募集人数の半分程度しか人手を確保できていない状態です。

看護師を確保できていないのは病院に限りません。
訪問看護ステーションにいたっては、2021年度に有効求人倍率が3倍以上になりました。

この状況は、首都圏や大阪・京都などの都市部で特に顕著です。

出典:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省

一方で、上記のグラフのとおり、高齢化が進行している昨今、今後も看護師の需要は増加します。

しかし、看護業界の人手不足が改善されない限り、供給が追いつくことはありません。
現状のままでは、十分な医療・介護が提供できない状況になります。

そのため、現在では官民問わず、看護業界の人手不足を解消する取り組みが積極的に実践されています。

参照:看護師等(看護職員)の確保を巡る状況|厚生労働省

看護業界が人手不足に陥る4つの原因

看護業界が人手不足に陥る代表的な原因は以下のとおりです。

  • 看護師の業務負担の増大
  • 離職率の高さ
  • 不規則な勤務形態
  • 看護需要の増大

効果的な対策を立てるには、人手不足の原因を正しく理解する必要があります。
それぞれについて、順番に解説します。

看護師の業務負担の増大

業務負担の増大は、看護業界が人手不足に陥る原因のなかでも、特に重大なものです。

看護師は患者のケアに加え、患者の家族への対応・医療記録の作成・医師との連携など、さまざまな業務をこなさなければなりません。
緊急事態への対応が発生する可能性も踏まえると、看護師の業務量は膨大です。

さらに昨今は医療技術の進歩によって、看護師にも高いスキルが求められるようになり、業務がより複雑化しました。

その結果、看護師の業務負担や責任の重さはますます高まっています。
業務負担の増加は、人手不足と密接に関連している点に注意しなければなりません。

人手不足によって業務負担が増加している環境であれば、負担に耐えられない看護師が離職する事態を招きます。
それによって人手不足がより悪化し、業務負担をさらに増加させるでしょう。

離職率の高さ

看護業界の人手不足を論じるうえで、離職率の高さは無視できません。

日本看護協会が公開した病院看護実態調査報告書によると、2023年度の時点で正規雇用された看護師の離職率は1割を超えています。
さらに、「退職者がやや増加した」「とても増加した」と答えた病院は、合計で3割を超えました。

全国的に見ても看護師の離職率の高さは顕著であり、東京都にいたっては正規雇用の看護師の離職率が15%に達しています。
看護師の離職が増加すると、残った看護師の負担が増加し、さらなる離職を招く状況になりかねません。

そのため、看護業界では看護師が継続して働けるような環境作りが推進されています。

参照:2023 年 病院看護実態調査 報告書|日本看護協会

不規則な勤務形態

職務の性質上、看護師は不規則な勤務形態になりがちです。

早朝の出勤・夜勤はもちろん、必要があれば休日に出勤するケースは珍しくありません。
さらに緊急事態が発生すれば残業が長引き、休日を返上して勤務しなければならない状況も想定されます。

不規則な勤務形態を改善できなければ、看護師の心身に多大な負荷がかかります。
職場で適切なケアをしたり、休暇を取得しやすい状況を作ったりしないと、看護師の離職率を引き上げる原因になりかねません。

看護需要の増大

高齢化の影響もあり、昨今は看護需要が急速に増大しています。

現在では、病院に加え、在宅医療のニーズが高まったことで、訪問看護ステーションでも看護師が求められています。
しかし、少子化の影響もあって労働人口が減っている昨今、いくら需要が高くても看護師の担い手がいないため、供給が追いつかない状況になりました。

また、看護需要を増大させる要因は高齢化だけではありません。

コロナ禍のように感染症の爆発的な拡大も、看護需要の増大に拍車をかける要因です。
高齢化による需要増大にも対応できていない状況下で、再び感染症の流行が発生すれば、供給の不足はいっそう顕著になるでしょう。

人手不足による看護業務への影響

人手不足は看護業務にさまざまな悪影響をもたらします。
特に、以下のようなケースには注意しなければなりません。

  • 現場の負担がさらに重くなる
  • ミスの発生リスクが高まる
  • 看護の維持・継続が難しくなる
  • 看護のキャリアアップが困難になる

より有効な対策を講じるうえでも、人手不足が及ぼす現場への影響は正確に把握しましょう。

現場の負担がさらに重くなる

人手不足がもたらす悪影響は、現場の負担をさらに増加させる点です。
人手不足が改善されていない状況が続くと、看護師一人一人が受け持つ患者数が増えるため、業務負担はますます増加します。

仮に誰かが離職すると、そのしわ寄せで残された看護師の業務負担が増大します。

加えて、看護需要が高まっている以上、病院を利用する患者数は今後も上昇します。
そのため、人手不足に有効な対策を講じなければ、看護師が背負う負担は増え続けるでしょう。

ミスの発生リスクが高まる

看護現場の人手不足は、ミスの発生リスクを高める原因です。

人手不足によって業務の適切な配分ができない状況が続くと、看護師にかかる負担が増加します。
その結果、看護師が業務に集中できなくなり、失敗するリスクが高くなります。

医療の現場において、看護師のミスは患者の命を危険にさらすリスクを高めます。
実際、厚生労働省は患者対看護師の比率と患者死亡率について以下のようなデータを発表しています。

出典:コメディカル不足に関して~看護師の人数と教育~|厚生労働省

患者に対する看護師の人数が不足していると、それだけ患者の死亡率が向上することがわかります。
患者の命を守るうえでも、一定数以上の看護師を確保することは重要な課題です。

看護の維持・継続が難しくなる

人手不足が改善されない状況が続けば、当然提供する看護の維持・継続が難しくなります。

場合によっては、新たな患者を断ったり、供給が追いつかない部門を閉鎖したりするような事態になります。
医療サービス・福祉サービスの提供に支障が出れば、患者を集められなくなるため、病院・施設の運営にも影響がおよびます。

看護師のキャリアアップが困難になる

人手不足によって業務負担が増えている状況では、看護師のキャリアアップが困難になります。

多忙な状況が続くと、スキルアップのために勉強をする余裕が生まれず、希望の部署への配属を実現させられません。
また、人手不足を補うために、希望しない部署に配属されるリスクが高まります。

場合によっては、新人の看護師がベテランと同等の業務を求められ、処遇が変わらない状態で責任のあるポジションを任せられる事態になりかねません。

適切な処遇を得られないと、現場で働く看護師の士気が低迷し、離職するリスクが高まります。

看護業界の人手不足に有効な5つの解決策

看護業界の人手不足を解消すべく、昨今ではさまざまな解決策が実践されるようになりました。
人手不足に有効な解決策には、以下のようなものがあります。

  • 看護師の待遇・評価制度を見直す
  • 福利厚生を充実させる
  • スキル・キャリアアップをサポートする
  • 働き方改革を実践する
  • DXを推進して業務の効率化を図る

それぞれの有効策を学び、自院や自施設の人手不足解消に役立てましょう。

看護師の待遇・評価制度を見直す

看護師の定着率を向上させるためにも、待遇・評価制度の見直しは重要です。
待遇・評価制度を見直し、働きに合った報酬が手に入る環境になれば、看護師のモチベーションが向上します。

また、優れたスキルを持つ看護師を定着させやすくなります。

昨今は、厚生労働省が看護師の待遇改善を支援するために看護職員等処遇改善事業を立ち上げるなど、国も看護師の待遇改善に積極的に取り組むようになりました。
そのため、民間の病院・施設でも、待遇・評価制度の見直しに着手しやすくなっています。

福利厚生を充実させる

福利厚生の充実も、人手不足に有効な取り組みです。
育児・出産休暇の取得促進や祝い金制度など、福利厚生を拡充させれば、働きやすい環境が実現し、看護師の定着率向上が期待できます。

また、福利厚生は所属するすべての看護師に提供できるため、スケールメリットを活かせる点もメリットです。

スキル・キャリアアップをサポートする

看護師の定着率を向上させるなら、スキル・キャリアアップのサポートも積極的に実践しましょう。

新人に向けた研修の充実や、新たな資格・スキルの取得支援を実施すれば、看護師のモチベーションが向上するきっかけになります。

人材の採用活用においても有利に働くため、人材を確保するうえでも効果的な施策です。
加えて、看護師のスキルアップを実現すれば、サービスの質も向上させられます。

働き方改革を実践する

残業の削減・時短勤務や時差出勤の導入などのような働き方改革の実践は職場環境の改善に直結する施策です。

特に、時短勤務や時差出勤はライフイベントの変化に対応した柔軟な働き方を実現するうえで有効です。
結婚や出産などでライフステージが変化した看護師でも継続して働けるため、看護師の離職を防止できます。

また、働き方改革によって職場環境が改善されると、採用活動が成功する可能性が高まります。

DXを推進して業務の効率化を図る

DXによる業務の効率化は、看護業界全体で積極的に推進されています。
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略称であり、デジタル化によって業務を効率化など、画期的な取り組みを実践する施策を指す用語です。

例えば、電子カルテや施設管理システムで院内のデータを一元管理し、業務効率を高めることなどが該当します。
DXの推進によって業務の効率化を進めれば、看護師の業務負担が軽減され、患者へのケアに集中しやすい環境を構築できます。

加えて、煩雑な作業の削減により無駄な残業を減らし、浮いた時間を看護に回せるようになります。
DXによる業務の効率化は、業務を自動化し、必要な人員を減らすうえでも有効です。

そのため、少ない人員で業務を回せる体制作りにも貢献します。

訪問看護の人手不足に対応するなら訪問看護ステーション管理システムSPを活用しよう

人手不足に対応するなら、ぜひ弊社「株式会社ワイズマン」の訪問看護ステーション管理システムSPをご検討ください。
業務の効率化など、さまざまな効果が期待できます。

煩雑な事務作業を効率化

訪問看護ステーション管理システムSPは、医療保険療養費明細書や訪問看護計画書など、さまざまな書類の作成に加え、効率的な管理ができるシステムです。

事務作業を電子化することで、業務を効率化できるうえに、人手の作業を減らせるため、ヒューマンエラーの防止につながります。
また、必要な各種集計帳票も簡単に出力できるため、経営状況や利用状況のスムーズな確認も可能です。

ケア記録オプションでスムーズな情報共有を実現

訪問看護ステーション管理システムSPは、記録支援オプションとして、ケア記録オプションを追加できる点も特徴です。

ケア記録オプションでは患者のバイタル・食事摂取量などがグラフで可視化されるため、短時間で患者の状態を確認することができます。
適切に活用すれば、適切なサービスの提供やトラブルの発生防止に役立ちます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

2025年問題というキーワードを目にする機会が増えました。いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、社会保障費の急増や医療・介護分野での人手不足になる可能性を示唆しているものが2025年問題です。一方で、2025年問題で看護師が余るという話を見聞きされた方もおられると思います。これはある医療コンサルティング会社が発表した「2025年に14万人の看護師が余る」という試算の基づいた見解です。これは厚労省が高度急性期病棟(7対1病床)大幅に減らす方針を打ち出したことに端を発しています。現状としては、病床再編が進むなかで、高度急性期病床以外での看護師需要が増しており、結果として看護師は不足しています。看護師が多様な働き方ができるようになってきたという側面で好ましい方向性ではないでしょうか。

看護業界の人手不足には早急に対策を立てよう

看護業界の人手不足は深刻化しており、看護需要の増大に対して供給が追いついていない状況です。

現状のままでは看護師の業務負担が重くなるだけでなく、サービスの質の低下や医療ミスの増加を招きます。
そのため、看護業界全体で人手不足の原因を正しく理解し、効果的な対策を講じなければなりません。

人手不足の対策には処遇改善や福利厚生の充実だけでなく、DXも有効です。
デジタル化による業務の効率化や煩雑な作業の削減は、看護師の負担を減らし、少ない人数でも業務をカバーできる環境作りに役立ちます。

訪問看護ステーションSPのような優れたソフトを導入し、人手不足に対応できる体制を目指しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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