看護中に発生する転倒・転落事故のリスク|発生要因や予防方法を解説

2024.07.16

看護の現場において、患者の転倒・転落事故は注意すべきリスクのひとつです。

転倒・転落は患者の怪我につながるだけでなく、深刻な事故に発展する可能性があります。
転倒・転落への対策は患者の命を守るうえでも欠かせません。

有効な対策を講じるには、転倒・転落の発生しやすい状況や要因の理解が必要です。
本記事では看護中に発生する転倒・転落事故について解説します。

発生要因や有効な予防方法などについても解説するので、ぜひ参考にしてください。

看護中に発生する転倒・転落事故の現状

本章では、看護中に発生する転倒・転落事故の現状などについて解説します。
転倒・転落の予防策を立てる際の参考になさってください。

転倒・転落とは

転倒・転落とは、文字どおり患者がなんらかの要因で転倒・転落することを指します。

看護の現場において、患者の転倒・転落は避けなければならないリスクです。
患者の多くは病気や怪我によって身体能力が低下しているため、些細なことでも転倒や転落をしてしまう恐れがあります。

そのため、看護の現場では看護師が常に注意を払い、転倒・転落を防止しなければなりません。

患者の転倒・転落事故の発生率

患者の転倒・転落事故は、病院や施設にとって身近なリスクです。

実際、転倒・転落の発生率は決して低くありません。
以下のグラフを見てみましょう。

出典:転倒転落発生率|全日本民医連

2021~2022年の転倒・転落事故の発生率は中央値が4.2~4.57%に達しています。
病院によっては発生率が10%以上を記録しています。

加えて、以下のグラフを見てみましょう。

出典:転倒・転落率|公益社団法人全日本病院協会

上記の表でわかるように、転倒・転落事故は1,000人あたりで1日2件以上発生しています。
看護をするうえで、転倒・転落がそれだけ高い頻度で発生するリスクであることに留意しなければなりません。

転倒・転落の患者へのリスク 

転倒・転落による怪我は骨折のような重傷につながる恐れがあります。

特に、高齢の患者には注意が必要です。
高齢者は身体能力の低下もあって日常的に転倒・転落を起こすリスクが高いうえに、怪我の回復に時間がかかります。

怪我による障がいが残るだけでなく、それによって患者が死にいたるリスクもあります。

そのため、看護の現場では転倒・転落が起こらないように最善を尽くさなければなりません。

転倒・転落が発生しやすい状況4選

転倒・転落が発生しやすい状況は、以下のとおりです。

  • ベッドから起き上がる時
  • 歩行時
  • 検査や処置を終えた後の初回歩行時
  • トイレでの排泄時

適切な対策を実践するためにも、それぞれの状況の注意点を把握しましょう。

ベッドから起き上がる時

患者がベッドから立ち上がる時は、転倒・転落に注意しなければなりません。

高齢の患者の場合、いきなり立ち上がろうとするとふらつくことがあります。
そのため、患者にはゆっくり立ち上がらせたり、ベッドから降りる際に看護師を呼んだりするように指示しましょう。

また、ベッド周辺に物を落とした際に、無理に取ろうとして転落するケースもあります。
事故を防ぐためにも、使用頻度が高い日用品は手の届きやすい安定した場所に置きましょう。

歩行時

患者が歩いているときも注意してください。

身体能力が低下している患者の場合、健常者にとっては問題がない段差でも転倒するリスクがあります。
加えて、イスやコードなど、周囲にあるものにぶつかったり、つまずいたりすることで転倒するケースは珍しくありません。

患者の歩行を妨げないよう、障害物になりそうな物を周辺に置かないようにしましょう。

検査や処置を終えた後の初回歩行時

検査や処置を終えたばかりの患者は、服用した薬の影響や持病の症状などでふらつく場合があります。
患者が検査や処置を受けた後に初めて歩く際は、看護師がサポートに入りましょう。

特に睡眠薬や降圧剤のような薬は、患者の身体能力に影響をおよぼす可能性があります。
看護師は、患者が抱える症状や服用している薬の種類を確認したうえで、適切に対応しましょう。

また、点滴スタンドを使用している場合でも看護師は積極的に介助しましょう。
点滴スタンドのように車輪がついている物は、患者が体重をかけた際にスリップする恐れがあります。

トイレでの排泄時

「座る」「立ち上がる」の動作が発生するトイレも、気をつけなければならないスポットです。

患者によっては用を足した後に気分が悪くなり、うまく立てなくなることがあります。
患者の容態に不安がある場合は、トイレ内で患者が転倒しないよう、看護師は外に控えていましょう。

夜間に患者がトイレに行く際も注意してください。
特に夜間頻尿の患者はトイレに行く頻度が多く、転倒するリスクが上昇します。

転倒・転落が発生する3つの要因

転倒・転落が発生する要因には、大きく分けて以下の3つがあります。

  • 内的要因
  • 外的要因
  • 行動要因

それぞれの要因を知ることで、予防策が立てやすくなります。
現状の問題点を見つけるきっかけにもなるので、ぜひご確認ください。

内的要因

内的要因とは、主に患者の身体的な問題に起因するものを指します。
例えば、加齢による身体能力の衰え・視力や聴力などの低下・認知症などです。

内的要因は細分化すると以下の4つに分けられます。

  • 運動要因:筋力の低下や麻痺など
  • 感覚要因:視力・聴力や固有感覚などの低下
  • 高次要因:認知症による判断の低下やせん妄など
  • その他の要因:発熱や薬物の影響など

内的要因には加齢や持病など、身体的な問題によって歩行能力が低下する事象が該当します。

なかには看護師でも行動を予測できないケースがあるため、患者一人一人に合わせた対策が必要です。
「これくらいはできるだろう」と楽観的に捉えず、患者の状況や症状に合わせて適切にフォローしましょう。

外的要因

外的要因は、転倒・転落の原因が院内環境や設備にあるケースです。
外的要因に該当するものは幅広く、以下のようなものがあります。

  • 柵や手すりのないベッド
  • 動線上にあるイスや家具
  • 脱げやすいスリッパ
  • 濡れている床
  • 小さな段差
  • 届きにくい位置にある日用品
  • 暗い照明

いずれもささいな不注意で転倒・転落につながる要素です。
身体能力が低下している患者であれば、事故につながりかねません。

看護師は、患者の周りに上記の要素がないか必ず確認し、転倒・転落のリスクを最大限排除しましょう。

また、衣服や履物が転倒・転落を招くケースも少なくありません。
脱げやすいスリッパやサイズが合っていない服は歩行を阻害する恐れがあります。

このように、外的要因は身近な事柄に起因するものが多い傾向があります。

行動要因

行動要因とは、患者もしくは看護師の行動が原因となって転倒・転落が発生することを指します。
過去の事例から転倒・転落の行動要因を分析しておけば、対策を立てやすくなります。

行動要因には、患者の行動要因と看護師の行動要因の2種類があります。
患者側の行動要因には、以下のような欲求に基づくものがあります。

  • 物を取りたい
  • 歩きたい
  • 立ち上がりたい
  • トイレに行きたい

対して、看護師側の行動要因には、以下のような希望的観測に基づくものが含まれます。

  • 1人で行かないでほしい
  • このように動いてほしい
  • おそらく1人でもできるだろう

注意すべき点は、患者側の行動要因が主に欲求に基づくものであるのに対し、看護師側の行動要因が患者に対する希望的観測に基づいたものである点です。
立場の違いを踏まえ、それぞれの行動要因を踏まえて対策を立てなければ、転倒・転落が発生するリスクが増大します。

転倒・転落の5つの予防策

転倒・転落を防ぐなら、以下のような予防策を講じましょう。

  • 患者の状況を正確に理解する
  • 看護師を頼ってもらう
  • 患者の自己理解を促す
  • 設備を一新する
  • 転倒・転落防止のためのリスクアセスメントを行う

実際に予防策を検討する際の参考にしてください。

患者の状況を正確に理解する

患者の状況を正確に理解することは、転倒・転落を防ぐ第一歩です。
患者を適切に介助するためにも、以下の情報を把握しましょう。

  • 移動能力や身体能力のレベル
  • 注意力や判断力のレベル
  • 認知症の有無
  • 寝返りの可否
  • 服用している薬の影響
  • 夜間頻尿などによる行動頻度の変動

患者の状況によって、転倒・転落につながる内的要因や行動要因は異なります。
また、患者によっては看護師が予想できない行動をする可能性もあります。

この場合では、通常の予防策では転倒・転落を防げません。
患者の状況を把握し、看護師間で共有すれば、個々の状況に応じて組織的な対応が可能です。

看護師を頼ってもらう

患者に看護師を頼るように教えることも有効な予防策です。

抱えている症状と同じように、患者の人間性も人によって異なります。
なかには看護師に頼らないようにしている患者もいるでしょう。

「看護師に頼ることは恥ずかしい」「1人でまだできる」と考えている患者の場合、ナースコールを使うことすらためらう可能性があります。

しかし、転倒・転落のリスクを避けるうえでも、患者の健康状態に合わせた看護師の介助は欠かせません。
必要があれば無理せず頼ってもらえるように、看護師は患者と信頼関係を構築する必要があります。

患者の自己理解を促す

患者の自己理解を促すことで、内的要因による転倒・転落の防止につながります。

一般的に、自身の状況を客観的かつ正確に把握している人は稀です。
例えば、長期に渡って入院している患者だと、本人が思っている以上に筋力が低下していることがあります。

こうした認識と実態とのズレから、転倒・転落が発生する可能性もあります。
そのため、看護師がサポートに入り、客観的な視点から患者の自己理解を促すことが大切です。

患者本人への説得が難しい場合、家族を経由して注意を促しましょう。

ただし、看護師や家族が一方的に注意するだけでは、患者に精神的な負担を与えることになりかねません。
患者のパーソナリティを見ながら、適切なフォローを行いましょう。

設備を一新する

転倒・転落のリスクを最大限排除できるよう、病室を含めた設備を一新することは重要な予防策です。
設備を一新する際は以下のようなポイントをチェックしましょう。

  • 病衣(患者衣)・スリッパ
  • ベッドの高さや柵の有無
  • トイレや廊下の手すり
  • 車椅子や歩行器の状態
  • 床に這っている電源コードやネットワークケーブルなど

転倒・転落のリスクを回避するなら、家具や調度品だけでなく、衣服などにも配慮しなければなりません。

加えて、濡れている床や不具合がある車椅子・歩行器なども転倒・転落のリスクを高めるので注意しましょう。
なお、転倒・転落を予防するために、ベッドセンサーやピローセンサーのような離床センサーを導入する方法も有効です。

離床センサーはナースコールに連動し、患者が置き上がったり、ベッドから離れたりした際に知らせてくれるものです。
認知症や夜間頻尿などの患者に効果が期待できるうえに、看護師が見守れない場面をカバーしてくれます。

転倒・転落防止のためのリスクアセスメントを行う 

リスクアセスメントとは、現場のリスクを洗い出し、対策を立てる一連の流れを指す言葉です。

看護の場合、先述した3つの要因を踏まえ、患者の心身の状態や病室の設備など、多角的な観点からリスクアセスメントを実行しましょう。
リスクを洗い出す際は、定期ミーティングの際に看護師同士で患者や環境に関する「ヒヤリハット」を積極的に共有する方法が有効です。

日々の看護で気づいたことを共有すれば、対応がスムーズになるため、リスクの抑制が可能です。

また、転倒・転落の対策を立てる際は中長期的な視点を持ちましょう。
患者によっては症状の変化で実施すべき対策が変わる場合があります。

看護師による直接的な介助だけでなく、患者の容態や受けている治療の変化などに応じた対策を立てれば、より効果的に転倒・転落を予防できます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

疾患や怪我を加療している入院中の転倒・転落事故に関しては、どうしても病院に対する風当たりは強いものになってしまいます。しかしながら、極論ですが患者全ての自由を奪い、身体拘束でもしなければ、転倒・転落事故を0にすることは不可能でしょう。そして、そのように無差別に患者の自由を奪うことは倫理的にも、患者の心身機能的にも好ましくありません。転倒・転落事故を防ぐ対策は最大限講じる必要がありますが、重要なのは患者やその家族とその対策を共有し、対策実施後もリスクがあることを伝え、理解してもらうことです。
『病院=安全』と妄信している患者やその家族は多いと考えられます。もちろん安全ではあるのですが、限界があることを如何に説明し、理解を得ておくかということが事故発生後のトラブル防止策として非常に重要なのです。

看護において転倒・転落を予防は不可欠

看護の現場において、患者の健康と安全を守るためにも転倒・転落のリスクは徹底的に予防しなければなりません。
転倒・転落は患者に怪我を負わせるだけでなく、最悪の場合、死にいたるリスクを持つものです。

リスクを防ぐためにも、転倒・転落にいたるさまざまな要因を把握し、適切な対策を講じましょう。

転倒・転落の予防方法は直接的な介助だけでなく、患者の状況把握や設備の一新など、さまざまなものがあります。
患者の症状やパーソナリティに合わせ、適切なリスクアセスメントを実行しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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