看護におけるアセスメントの書き方|例文つきで解説!

2024.07.16

アセスメントは看護ケアの開始の第一段階でおこなわれる看護過程の一部です。

しかし、「何を聞けば良いのかわからない」「どのようにまとめるのかわからない」などアセスメントを実施するうえで悩みを抱える看護従事者もいるのではないでしょうか。
アセスメントの目的や記載するポイントを理解できていれば、必要な情報を収集し、整理しやすくなります。

本記事では看護におけるアセスメントの基本的な書き方や手法について紹介します。
効率的で適切なアセスメントのために、ぜひ参考にしてください。

看護におけるアセスメントとは?

看護におけるアセスメントとは患者の状態を把握するために、患者の情報を収集・分析・評価することです。

アセスメント(assessment)とは、もともと客観的な視点で「評価する」「査定する」という意味を持つ英単語です。
評価する対象によって内容は異なりますが、対象の情報を収集し、客観的に評価するといった一連の流れを指します。

例えば、人事アセスメントとは、配属や昇進判断の際に社員の特性や適性、スキルを把握したうえで評価を行います。
看護においてアセスメントを行う目的は、患者の健康上の問題・課題を把握するためです。

患者の状態は患者の発言(訴え)などからわかる主観的な情報と、医療従事者から見た患者の様子や検査結果といった客観的な情報の両方から把握しましょう。
アセスメントで患者の状態を正確に把握できれば、看護介入が必要となる問題・課題の優先順位も明確になります。

アセスメントは看護過程の第一ステップ

アセスメントは看護過程における第一ステップです。
看護過程は以下の5つで構成されます。

  • アセスメント
  • 看護診断
  • 看護計画
  • 看護介入
  • 看護評価

それぞれの段階で実施する内容は以下のとおりです。

看護診断

アセスメントで収集した情報をもとに、看護の介入を必要とする課題や問題、看護介入により改善できる点を考えるのが看護診断です。
看護計画を立案する前に、看護介入する問題・課題を明確化させます。

抽出した問題には、看護師・医師も含めて関係者が共通認識を持てるよう看護診断名を用いて表記します。
表記方法については「NANDA-I看護診断」を使用するケースが多いです。

 看護計画

看護介入する問題・課題の目標を定め、具体的な看護内容を計画します。

目標は、最終的に定めた問題・課題を解決または軽減することを目的とした長期目標と、長期目標を達成するまでの段階を設定した短期目標の2つがあります。
目標設定には、長期目標をはじめに設定し、そのあとで短期目標を設定しましょう。

また、下記の3つの観点から計画を立てます。

  • 観察計画(O-P):バイタルサインなどの記録をおこなう
  • 援助計画(T-P):直接的な看護ケアを提供する
  • 教育計画(E-P):患者・家族への指導や教育、またはその記録をおこなう

看護計画を立案したあとは、患者とその家族に看護計画を共有し、同意を得ましょう。

看護介入

看護介入は、看護計画にもとづいた看護ケアを実施するプロセスです。

基本的には、看護計画に沿った看護ケアを進めますが、患者の状態が変化する可能性を常に考慮しておくことが大切です。
看護ケアが患者の状態に即していない場合には、看護計画の見直しや、必要に応じてアセスメントの実施が必要です。

看護評価

看護介入による成果を分析・評価します。
看護計画の段階で設定した目標に対してどの程度、達成できたかがひとつの評価基準です。

また、成果に影響を与えた要因を、患者要因・看護師要因・そのほかの要因に分けて評価します。
評価によって、今後の看護計画の見直しを行う場合もあります。

「SOAP」を使った基本の書き方

看護のアセスメントの記録には「SOAP」形式が多く用いられています。
SOAPのそれぞれの内容は以下のとおりです。

S(主観的情報)患者が発言した言葉、訴えた症状などの情報
O(客観的情報)診察や検査の結果、患者を観察して得られた情報
A(アセスメント)S・O情報の分析・評価
P(プラン・計画)アセスメントで判明した問題を解決するための計画

次節では実際にSOAPを用いたアセスメントの記載例を紹介します。

SOAPを活用した記載例

ここでは、腹痛を主訴とする患者へのアセスメントにおいて、SOAPを活用した記載方法を紹介します。

S・O情報を収集

S情報とは患者が発言した言葉や訴えた症状などの情報を指します。

例えば、以下のような情報がS情報です。

  • 数日前から腹痛がある
  • 普段の食生活はあまり節制しておらず、外食や飲酒の機会が多い

一方で、O情報とは診察や検査の結果といった客観的な情報です。
具体的には以下のようなものです。

  • 血液検査の結果・バイタルサイン
  • 顔色が悪い(医療従事者が観察した内容)
  • 歩行が困難である

A(アセスメント)

S情報とO情報を収集し、分析・評価するのがアセスメントです。

アセスメントでは下記のような記載になります。

数日前から腹痛があった。普段の食生活は外食や飲酒をすることも多い。腹痛の程度は、歩行が困難な場合もあるほどで、疼痛スケールでは8となっている。これまでに鎮痛剤などは服用しておらず、安静にして様子を見ていたとのこと。血液検査では異常数値は確認されていない。痛みのあまり食欲も減退しており、数日は食事や水分を摂取できていないため、水分摂取が必要とされる。

P(プラン・計画)

アセスメントから、問題・課題を抽出し、解決に向けたプランを作成するのがプラン・計画です。
ここでは下記のような記載ができます。

痛みを軽減させるための内服、歩行困難時の介助を行う。また、栄養管理も必要。

【実践編】看護における基本的なアセスメントの書き方

実際のアセスメントでは、下記の4段階に分けて記録します。

  1. 患者の「反応」の解釈
  2. 反応を引き起こした「原因・誘因」
  3. 反応を改善する「強み」
  4. 反応の「なりゆき」を推測

手順1の患者の「反応」について手順2から手順4で分析をする流れです。

それぞれの項目の書き方を紹介します。

手順1. 患者の「反応」の解釈

患者の「反応」について、下記の流れで記載します。

(アセスメント項目)については、(情報①)や(情報②)ということがあった。このことから、(解釈の結果)と考えられる。

下記では具体例を紹介します。

健康管理状況(アセスメント項目:健康知覚ー健康管理)は、2週間ほど前から咳き込むことが続いた(情報①)が、1日に数回だけのため、それほど気にかけていなかった(情報②)。日常的に喫煙をする(情報③)ため、受診時に咎められるのでは、という不安もあり、受診に至らなかった(情報④)。また、多忙のために時間を作って受診することで仕事が後回しになる悪循環を避けたい気持ちもあった。(情報⑤)このことから健康状態が不適切である(解釈の結果)と考えられる。

また、アセスメント項目は記載する内容の方向性が明確になるうえに、第三者が読んだ時に何を伝えようとしているのかがわかりやすくなります。
アセスメント項目についてはのちほど解説するゴードンの「11の健康機能パターン」などを活用しましょう。

解釈の結果とは、患者の反応が適切か、適切でないか、適切でない場合にはどのような問題(実在型問題)が挙げられるかを記載します。
患者の反応が適切か、適切でないかは、患者の状態によって異なるため、患者の状態をあらかじめ把握しておくことも大切です。

手順2. 反応を引き起こした「原因・誘因」

患者の反応を引き起こした原因や誘因を記載します。

この問題の原因には、(情報①)や(情報②)から、(原因)が考えられる。また、(情報①)や(情報②)から、(誘因)がこの問題の誘因となっていると考えられる。

肺炎の診断がくだり、受診までに時間がかかってしまった患者に対して実施するアセスメントを想定した場合の、具体的な記述は下記のとおりです。

この問題の原因には、「喫煙を咎められたくない」という不安や抵抗感があったこと(情報①)や、多忙のために時間を作ることが困難であったこと(情報②)から、受診を遅らせたこと(原因)が考えられる。

手順1の患者の反応を引き起こした原因や、反応を助長している誘因があれば記載します。
原因・誘因は一つとは限りません。

アセスメントで得たS・O情報の両方から原因・誘因を分析しましょう。

手順3. 反応を改善する「強み」

反応を改善するための「強み」があれば、記載します。

(情報①)や(情報②)から(強み)が(アセスメント項目)の強みになると考えられる。

例えば、食事管理が必要な患者の場合、家族が食事管理をできることや治療に協力的であることも強みとして捉えられます。

手順2までに記載した肺炎患者の例を使って具体的な記載例を確認しましょう。

家族には受診を勧められたこと(情報①)や、会社には休暇を提案されたこと(情報②)から、周囲が患者本人の体調をうかがい、アドバイスや療養できる環境を整備してくれること(強み)が、健康管理状況(アセスメント項目)の強みになると考えられる。

手順4. 反応の「なりゆき」を推測

患者の反応が今後どのような経過をたどるかを推測します。

反応が適切であると判断した場合、反応を悪化させる危険因子がなければ「健康上の問題はない」となりますが、危険因子があれば「リスク型問題」になります。

反応を解釈し、実在型問題がある場合には、憎悪因子があるか、他のアセスメント項目への影響があるかの2点を推測しましょう。
実在型問題があり、憎悪因子がある場合、下記のような記載です。

(実在型問題)は(情報①)や(情報②)にあるように(憎悪因子)が憎悪因子となって、今後悪化すると考えられる。

これまでの例に挙げた患者について、患者自身に治療への意欲がなく、今後悪化すると推測した場合には下記のような記載になります。

咳き込みは禁煙の意思がないことや、通院の意思がないことにあるように、本人の治療への意欲のなさが憎悪因子となって、今後悪化すると考えられる。

また、他の項目への影響があると推測できる場合には、下記のような記載も必要です。

この(実在型問題)は他の(アセスメント項目・実在型問題)を悪化させる憎悪因子である。

憎悪因子とは例えば、食事管理が必要な患者にとって「外食を頻繁に行う(情報)」ことです。

基本となる2つのアセスメント手法

アセスメントでは、収集した情報を整理するのに、下記の2つのモデルを活用すると効率的です。

  • マージョリ・ゴードン「11の健康機能パターン」
  • ヘンダーソン「14の基本的欲求」

情報収集してもどのようにまとめるのかわからない、何についての情報を収集すれば良いのかわからないといった場合には、上記のアセスメント手法に沿って情報を整理しましょう。

マージョリ・ゴードン「11の健康機能パターン」

マージョリ・ゴードンの「11の健康機能パターン」は、下記の11項目(領域)に分けて情報を捉える手法です。

領域ごとに情報を分類するため、どこに問題があるのかを客観的に分析可能です。

パターン情報の範囲
健康知覚ー健康管理・健康状態
・受診行動
・疾患や治療への理解
・生活習慣(運動、飲酒、喫煙)
・身長・体重(BMI)
・既往歴 など
栄養ー代謝・食事内容
・摂取量
・血液データ
・身体の状態(皮膚、義歯、褥瘡の有無など) など
排泄・排泄回数
・量
・排泄行動
・腎機能データ
・下剤使用の有無 など
活動ー運動・ADL状況
・運動機能
・呼吸機能
・運動歴
・移動方法
・住居環境
・バイタルサイン など
睡眠ー休息・睡眠時間
・熟眠度
・日中の過ごし方
・睡眠剤の使用有無 など
認知ー知覚・意識レベル
・視力
・張力
・認知機能
・疼痛レベル
・精神状態
・表情 など
自己知覚ー自己概念・性格
・社会的または家庭内役割
・治療への意思 など
役割ー関係・職業
・家族との面会状況
・経済状況
・キーパーソン など
性ー生殖・年齢
・家族構成
・更年期障がいの有無 など
コーピングストレス耐性・ストレス状況
・ストレス発散方法
・サポート状況 など
価値ー信念・信仰
・価値観
・信念
・目標
出典:『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)

患者の発言や観察した情報を領域に当てはめて整理しましょう。

ヘンダーソン「14の基本的欲求」

アセスメント項目の領域についてはヘンダーソンの「14の基本的欲求」を活用する場合もあります。
14項目のうち、上位から満たされていくことでその人の健康回復が進むという考えです。

14の基本的欲求は以下のとおりです。

基本的欲求の要素情報の範囲
正常に呼吸する・呼吸数
・肺雑音
・呼吸機能
・経皮的酸素飽和度
・胸部レントゲン
・息切れ
・咳
・アレルギー
・自宅周辺の大気環境 など
適切に飲食する・自宅、療養環境での食事(水分含む)摂取量摂取方法
・嗜好品
・アレルギー
・身長・体重・BMI
・必要栄養量
・身体活動レベル
・食欲
・口腔内の状態 など
あらゆる排泄経路から排泄する・排泄回数
・性状
・量
・尿意
・便意
・発汗
・食事
・水分摂取状況
・麻痺の有無
・腹部膨満 など
身体の位置を動かし、良い姿勢を保持する・ADL
・麻痺
・骨折の有無
・安静度
・MMT
・ドレーン
・点滴の有無
・生活習慣 など
睡眠と休息をとる・自宅、療養環境での睡眠時間
・パターン
・疼痛
・入眠剤の有無
・疲労の状態
・安静度
・ストレス状況 など
適切な衣類を選び、着脱する・AOL
・運動機能
・認知機能障がいの有無
・麻痺の有無
・活動意欲 など
衣類の調節と環境の調整により体温を保つ・体温を生理的範囲内に維持するバイタルサイン
・療養環境の温度
・湿度
・空調状況
・発熱の有無
・ADL など
身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する・自宅、療養環境での入浴回数
・方法
・ADL
・爪
・鼻腔
・口腔の保清 など
環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を障がいしないようにする・自宅、療養環境での危険個所(段差、ルート類)の理解
・認知機能
・術後せん妄の有無
・感染症予防対策 など
自分の感情、欲求、恐怖あるいは“気分”を表現して他社とコミュニケーションをもつ・表情
・言動
・性格
・家族、医療者との関係性
・言語障がいの有無
・視力
・聴力
・認知機能 など
自分の信仰を実践する・信仰の有無
・価値観
・信念・信仰による食事
・治療法の制限
達成感をもたらすような仕事をする・職業・社会的役割
・入院・疾患が仕事、役割に与える影響
遊び、あるいはさまざまなレクリエーションに参加する・趣味・休日の過ごし方
・入院・療養中の気分転換方法
・運動機能障がい など
“正常”な発達および健康を導くような学習・発見をする。あるいは好奇心を満足させる・発達段階
・疾患
・治療方法の理解
・学習意欲
・学習機会への家族の参加度合い など
出典:『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)
伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

看護業界に限らず、アセスメントが非常に重要なものであることに疑いある方はいないでしょう。しかしながら、法定書類であることばかり着目されてしまい、肝心のアセスメント内容がおざなりになっているケースも多いのではないでしょうか。アセスメント作成の際にはICF(国際生活機能分類)の考え方を取り入れることも重要です。当たり前ですが、人間は病気を治療することを目的に生きているわけではありません。ICFでいうところの『活動』や『参加』のために生きており、病気や障害はそれらの阻害因子に過ぎないのです。阻害因子に対するアプローチは重要ですが、それ自体は目的になり得ないということです。看護師としての専門的知識は利用者のケアにとって非常に貴重なものです。その知識を『活動』『参加』のために活かしていきましょう。

アセスメントの書き方をマスターしよう

アセスメントを正しく書けることで、患者の状態を正確に把握したり、その後の看護計画を適切に立案できたりします。
まずは、アセスメント項目を把握し、S情報とO情報を正しく理解することを心がけましょう。

一度の情報収集で不足してしまう場合には、引き続きアセスメントを実施すれば大丈夫です。
アセスメント力が向上すれば、より良い看護ケアや医師とのスムーズな連携につながります。
ぜひ、アセスメントの書き方をマスターし、より良い看護ケアへ活用しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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