看護の業務改善で人手不足&離職率を改善!手順と事例を紹介

2024.09.18

看護師不足が問題となる中、看護の業務改善は欠かせない取り組みのひとつです。
業務改善で作業効率を高められれば、従業員の負担を軽減できたり、看護サービスの質が向上したりなど、さまざまなメリットが見込めます。
しかし、業務改善に着手しようにも、何から始めれば良いかわからない方も多いのではないでしょうか。

本記事では、看護現場の業務改善の進め方を解説します。
記事の後半では、代表的な業務改善のテーマと事例も紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

看護施設で業務改善が必要な理由

看護施設で業務改善が必要な理由は、以下の2点です。

  • 人手不足を改善するため
  • 看護師の業務負担を軽減するため

それぞれについて説明します。

人手不足を改善するため

近年問題となっている看護師不足は、高齢化に伴う看護需要の高まりによって、いっそう深刻化すると懸念されています。
一方で、人手の供給面は少子化により、将来的になり手が不足する可能性が高いと言われています。

今後の施設運営を見据える上でも、業務改善を行い少ない人員で多くの病床を支えられる体制を整備することが重要です。

看護師の業務負担を軽減するため

人手不足の状態では、看護師1人当たりの負担が大きくなり、状況が悪化すると離職率が上がります。
また、1人当たりの負担が大きくなる負のループに陥ってしまいます。

看護師の業務は範囲が幅広いうえに、イレギュラーや突発的なトラブルが起こりやすく、忙しいと感じる看護師は多いです。

業務改善によって負担を軽減し、看護師が定着する働きやすい環境を目指しましょう。

看護施設で業務改善をするメリット

看護施設で業務改善をするメリットは、以下の4点です。

  • 看護師の負担を軽減できる
  • 人件費を削減できる
  • 働きやすい職場づくりにつながる
  • 看護サービスの質が向上する

それぞれについて説明します。

看護師の負担を軽減できる

業務改善により従来よりも作業効率が向上すると、看護師の負担軽減につながります。

看護師の仕事量は多く、毎日のルーティン業務以外にも患者対応や事務作業などが発生しがちです。
残業も頻発し、疲労やストレスを抱える看護師は多くいます。

突発的に発生する業務にも対応できる余裕を作るためにも、業務改善による負担の軽減が効果的です。

人件費を削減できる

業務改善による作業効率の向上は、残業や休日出勤などの本来不要なはずの人件費の削減にもつながります。
例えば、アナログで行っていた記録をデジタルに変えることで、今まで時間がかかっていた業務を時短できます。

もちろん、単一業務の改善のみでは難しいですが、複数業務を改善できれば、人件費の削減が期待できます。
また、残業を減らすことで看護師のワークライフバランスの向上にもつながります。

働きやすい職場づくりにつながる

業務改善は、働きやすい職場づくりにつながります。

業務が最適化されることで時間にゆとりが生まれ、看護師の疲労やストレスを軽減できます。
職場全体の雰囲気もよくなり、コミュニケーションが円滑になるなどの効果も期待できます。

一連の好循環が生まれると離職率が下がり、人材が定着しやすくなるでしょう。

看護サービスの質が向上する

業務改善が成功し、効率化や従業員の負担軽減を実現できると、最終的には看護サービスの質が向上します。
これは、現場の課題を解決することで、メインとなる看護業務に時間やリソースを割けるようになるためです。

例えば、患者のケアやコミュニケーションに時間を割ければ、これまで気付けなかった小さな変化を察知できるかもしれません。
その結果、容態の変化を早期に把握でき、適切な看護ケアへ切り替えるなどの処置ができる可能性もあります。

看護施設での業務改善の進め方

看護施設での業務改善の進め方は、以下の4点です。

  • 現状を把握する
  • 問題点を抽出する
  • 業務の改善計画を作成して実行する
  • 改善活動の評価をする

それぞれについて説明します。

現状を把握する

まずは現状の把握から始めます。
現状を把握するためには、現場の声を聞くことが有効です。

現場の声を聞くためには、担当者へのヒアリングやアンケートなどの方法があります。
例えば、以下の項目をヒアリングすると、現状の把握に効果的です。

  • 何に対して困っているか・悩んでいるか
  • どの作業に時間がかかっているのか
  • 誰が問題を抱えているか

なお、次の工程となる「問題の抽出」をスムーズに進めるには、業務プロセスの可視化も大切です。
現状の業務の流れを可視化することで、「どこが行き詰まっているのか」「どこがトラブルの温床になっているか」を把握しやすくなります。

業務プロセスを可視化する際は、プロセスマップやフローチャートなどを使うと、いつ・誰が・何を・どのように業務を行っているのかが見えやすいでしょう。
このほかにも多くのテンプレートがあるため、ぜひ活用して見てください。

問題点を抽出する

現状を把握できたら、問題点を抽出します。
具体的には、業務プロセスに以下のように「ムリ・ムダ・ムラ」がないか見ていきます。

  • ムリ:人手や資材がひっ迫している作業はないか
  • ムダ:重複作業や削れる業務がないか
  • ムラ:担当者によって成果が異なる箇所はないか

例えば、以下に該当する場合は、「ムダ」な業務の可能性が高いです。

  • ゴールの決まっていないミーティングを複数回行っている
  • 必要な道具・備品が別々の場所で保管されており、準備に時間がかかる

意外にも、上記のようなケースは、多くの施設で見受けられます。
現場の従業員にヒアリングするなどして、「ムリ・ムダ・ムラ」を見つけましょう。

業務の改善計画を作成して実行する

ムリ・ムダ・ムラを洗い出したら、それぞれの対策について検討しましょう。

「ムリ」な業務に対しては、人員を多く振り分ける、資材を増やす、外部委託などが挙げられます。
「ムダ」な業務は、デジタル化などによる効率化、業務自体の廃止が挙げられます。
「ムラ」のある業務は、マニュアルを作って標準化し、看護師ごとによる成果のバラつきを防ぐなどが挙げられます。

対策を立案した後は、いつまでに・誰が・どのような方法で達成するかを決めます。
課題に取り組む際は人員を確保し、時間も鑑みて現実的に達成可能な目標にしましょう。

課題が複数ある場合は、重要度や緊急度で優先順位をつけるのが効果的です。

改善活動の評価をする

改善計画は実行するだけでなく、評価も平行して行うことが重要です。

目標に対し、どの程度達成できているかを定期的に評価しましょう。
「業務時間を12%削減できた」など、具体的な数値を使うと把握しやすいです。

評価の際は、ミーティングなどで進捗状況を報告し、組織全体で共有するのがおすすめです。
目標を達成できない場合、障がいとなる原因を把握し改善計画に役立てましょう。

看護施設で行うべき業務改善のテーマ

看護施設で行うべき業務改善のテーマで代表的なものを紹介します。

  • 業務手順の効率化
  • ICTの活用
  • ICTの定着化
  • 他業種への業務分担

業務の効率化については、今までの業務方法を見直し、時短や効率化できる方法を考えます。
「今までずっとそういうやり方だったから」と慣習で行ってきた業務も見直す対象です。

ICTの活用については、看護記録やその他の事務作業など、アナログで行ってきた業務をデジタルに移行することで、業務時間の削減や情報共有の効率化などが期待できます。

またICTの定着化も重要です。
すでに多くの施設でシステム等を導入していますが、現場に定着しないケースも少なくありません。

現場の従業員が、急速なICT化についていけていないなどの課題が推測されます。
ICTツールに関する教育や勉強会などで、しっかりとしたフォロー体制を構築すると良いでしょう。

他業種への業務分担については、看護師としての専門性が問われず、なおかつほかの職種でも代行可能な業務を委託することが挙げられます。
患者へのケアなど、看護師の業務のメインとなる業務以外で委託できそうなものはないか考えてみるのがおすすめです。

実際の看護施設で行われた業務改善の事例

ここでは、実際に看護の現場で行われた、以下の業務改善の事例を紹介します。

  • 業務手順の効率化
  • ICTの活用
  • 他業種への業務分担

業務改善の進め方でお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

業務の効率化

ここでは、業務の効率化を実現させた業務改善の事例を2つ紹介します。

持続可能な残業削減への取り組み

熊本地域医療センターで行われた、業務時間削減の取り組みです。

以下の3つの取り組みにより、さまざまな角度から業務改善へのアプローチを試みました。

  • 日勤と夜勤でユニフォームの色を変えることで区別しやすくし、時間外の医師からの指示回数減少や円滑な引継ぎを実現
  • 勤務交替時に、担当者が一緒に患者を診ながら引継ぎを行う「ウォーキングカンファレンス」の実施
  • 複数の部署で活躍できる「ポリバレントナース」の育成

実際に超過勤務時間は、取り組み実施後1年で1人当たり平均約1時間の減少を達成しています。
3つの施策は、費用をかけることなく実現できる点が特徴です。

参照:「ユニフォーム2色制」と「ポリバレントナース育成」による 持続可能な残業削減への取り組み|公益財団法人日本看護協会

看護記録の効率化で時間外勤務を33.7→9.6時間に減少

県立広島病院で行われた、看護記録の時間削減への取り組みです。

看護記録が勤務時間外に行われ、かつ時間外業務の半数が記録の作成に費やされていることが問題でした。
リアルタイムでの記録ができていないことが明らかになり、以下のような対策で、看護記録の効率化を達成しました。

  • 看護記録に必要な項目をテンプレート化し、電子カルテで手軽に記録を入力できるようにした
  • 記録したデータがリアルタイムで共有され、情報のズレを軽減できた

上記の取り組みにより、時間外勤務時間は3年で33.7時間から9.6時間に減少しています。

また、記録時間を削減できたおかげで、勉強会やカンファレンスが開催できるようになりました。
看護サービスの質向上へつながっていることも好ましい変化として見受けられました。

参照:看護記録に要する時間削減の効率化への取り組み―記録内容の標準化とリアルタイム記録に焦点を当てて|公益財団法人日本看護協会

ICT技術の活用

ICT活用によるスムーズな直行直帰の実現

らふえる訪問看護ステーションで行われた、ワークライフバランス向上への取り組みです。

職員の定着を図るために、ワークライフバランス向上の施策として直行直帰に取り組んできましたが、コミュニケーションや報連相の困難などの課題がありました。

課題の解決のために、以下の取り組みを実施しました。

  • セキュリティ強化など職場でのICT環境の整備
  • チームナーシングやSNSでコミュニケーションの円滑化
  • 勤怠管理から業務管理まで行う独自業務アプリの開発

業務時間が数日かかっていたものが2〜3時間で終わるようになったり、時間外労働が約3分の1程度になったりと大幅な業務改善を達成しました。

スタッフの体感としてもワークライフバランスが向上し、業務に対する意欲の増加にもつながっているそうです。

参照:訪問看護における働き方改革ICT活用による直行・直帰制の実現|公益財団法人日本看護協会

他職種への業務分担

病棟薬剤師との業務分担で看護師の時間外勤務を削減

HITO病院で行われた、看護師から薬剤師への役割移譲による時間外労働削減への取り組みです。

夜勤の開始前の配薬に大きく時間がかかり、インシデントも多発していました。

対策として、以下のような薬剤管理業務の中で看護師から薬剤師へ業務を移管できるものを洗い出しました。

  • 薬剤管理庫にて患者別に1週間分の内服薬をセットする
  • 追加処方薬・中止薬を整理する
  • 薬の使用期限や定数などを点検する

看護師の薬剤管理業務時間を半分以上削減させ、薬剤インシデントも減少させられました。
看護師と薬剤師の連携強化にもつながったそうです。

参照:病棟薬剤師との役割委譲・協働による病棟薬剤管理業務の見直し|公益財団法人日本看護協会

ベッドメイキング業務の外部委託により看護業務をスリム化

潤和会記念病院で行われた、ベッドメイキング業務の移譲による人員不足解消への取り組みです。

看護補助者の人員不足により、看護師が看護補助者の業務まで行わなければならない状態となっていました。

看護業務のスリム化を図るために導入したのが、障がい者ベッドメイキングチームです。

ベッドメイキング業務を委託することで、週1回2時間ほどの業務の削減を達成しています。
結果として月の時間外労働時間が、前年比約100時間減少しました。

障がい者の雇用を生み出し、社会進出の促進を図った点でも優れた事例です。

参照:障がい者ベッドメイキングチーム委託業務の導⼊|公益財団法人日本看護協会

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

看護師の有効求人倍率は2倍をゆうに超え慢性的な看護師不足は続いています。一方で看護師の勤務先は国が主導する病床再編により、急性期病院の求人は大幅に減っています。新卒で訪問看護業界の門を叩く看護師もそれほど珍しくない時代となりました。有料老人ホームでも、入所の調整選任の看護師を配置している施設も誕生し始めています。しかし、冒頭の有効求人倍率からもわかるとおり、看護師の絶対数が足らないため、看護師一人あたりの業務量が増えている現状でもあります。こうした現状を解決するにはやはりICTの活用というのがキーワードとなるでしょう。医療・看護業界は介護業界と比較するとICT化が進んでいますが、問題は多くのシステムの互換性に乏しい現状にあります。業務改善のためシステム導入する際は、互換性にも着目しましょう。

看護の業務改善で働きやすい職場を目指す

看護師の業務量は多く、残業も発生しがちで疲労やストレスを抱える看護師も多いです。
人手不足が深刻化していく中で、看護師の定着を図るためにも業務改善に取り組むことはとても重要です。

業務改善により看護師の負担を軽減できると業務時間が減り、コスト削減につながります。
看護師は働きやすさを実感できるようになり、業務にゆとりが出て看護サービスの質が向上する好循環が起こります。

業務改善の手順は、施設の現状の問題点を把握し、業務上でムリ・ムダ・ムラがないかを洗い出します。
洗い出した課題に対し、何を・いつまでに・どのような方法で解決するか改善計画を作り実行します。
定期的な改善計画の評価も並行して行いましょう。

看護施設での業務改善で代表的なテーマとしては、以下のとおりです。

  • 業務の効率化
  • ICT技術の活用
  • 他業種への業務分担

実際の事例も参考にしつつ、業務改善に取り組んでみてください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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